

建築現場や金具の選定において、亜鉛めっきの「色」は単なる見た目の違いではなく、その製品が持つ**耐食性(錆びにくさ)**を決定づける極めて重要なスペック情報です。一般的に「ユニクロ」や「クロメート」と呼ばれるこれらの処理は、正しくは「クロム酸塩処理(化成処理)」と呼ばれ、亜鉛めっきの表面に薄い皮膜を作ることで、錆びやすい亜鉛を守る役割を果たしています。
参考)https://business.atengineer.com/meisei/crom4.htm
この皮膜の色は、処理液の成分や浸漬時間、そして皮膜の厚さによって変化し、基本的には皮膜が厚くなるほど色が濃くなり、耐食性も向上するという法則があります。現場でよく見かける代表的な色と、その耐食性の序列を正しく理解しておくことは、適切な資材管理を行う上で必須の知識と言えるでしょう。
このように、色は「性能のランク」を表しています。もし設計図書で「高耐食」が指定されている箇所に、青白い「ユニクロ」のボルトが使われていたら、それは施工ミスの可能性が高いと即座に判断できるのです。
J-STAGE: 亜鉛めっきクロメート処理の基礎と応用(クロメート処理の化学的メカニズムについて詳細に解説されています)
近年、建設業界でも環境対応への意識が高まり、従来の「六価クロム」から「三価クロム」への切り替えが急速に進んでいます。かつて主流だった六価クロムは、極めて高い耐食性と、皮膜に傷がついても溶け出したクロム成分が再び皮膜を形成する**「自己修復作用」**を持っていました。しかし、人体や環境への有害性が問題視され、RoHS指令などの国際的な規制により使用が制限されるようになりました。
参考)【いまさら聞けない】3価クロムと6価クロムの違い
現場で問題になるのが、この「六価」と「三価」の色の違いと見分け方です。以前は、「黄色=六価」「銀色=三価」という大まかな区別が可能でしたが、技術の進歩によりその境界線は曖昧になっています。
では、現場ではどうすればよいのでしょうか。確実な方法は、製品に添付されている**「ミルシート(鋼材検査証明書)」や「SDS(安全データシート)」**を確認することです。「Cr6+フリー」「三価クロメート対応」といった記載がなければ、見た目がきれいな銀色でも六価クロムが含まれている可能性があります。
特に公共工事や環境配慮型建築(LEED認証など)を目指す現場では、六価クロムの使用が厳禁とされるケースが増えています。「色が似ているから大丈夫」という安易な判断は、後の検査で不適合となり、全交換という莫大な損失を招くリスクがあるため、必ず書類での裏付けを行う習慣が必要です。
三価クロメートの基礎知識と六価との色調比較(最新の三価クロメート技術による色のバリエーションが写真付きで解説されています)
なぜクロム酸塩処理された亜鉛めっきは、あのような独特の「虹色」や「光沢」を放つのでしょうか。実は、あの色は塗料のように顔料を塗っているわけではありません(※一部の着色処理を除く)。あの色は、シャボン玉や水面に浮いた油が虹色に見えるのと同じ、**「光の干渉(Interference)」**という物理現象によって生み出されています。
参考)https://orist.jp/technicalsheet/99007.PDF
このメカニズムを理解することは、めっきの品質管理において非常に「使える」知識となります。
現場で資材を受け入れた際、同じロットの製品なのに極端に色が薄かったり、逆に黒ずんでいたりする場合は、処理液の管理不良や浸漬時間のばらつきによる「膜厚不足」の可能性があります。特に、本来「虹色」であるはずのものが全体的に「青白い」場合は、皮膜が薄すぎて所定の耐食性能が出ていない危険性があるため、受入検査での重要なチェックポイントとなります。
クロメート皮膜の特徴と膜厚・干渉色の関係(技術資料PDF:皮膜厚さと色の物理的な関係が図解されています)
数あるクロム酸塩の色の中で、なぜ「オリーブ色(緑色)」が最強の耐食性を誇るのでしょうか。見た目は地味で、時には「汚れている」とさえ誤解されがちなこの色には、他の色にはない化学的な強度が隠されています。この事実はあまり知られていませんが、土木・建築の基礎部分を支える上では知っておくべき「意外な真実」です。
オリーブクロメートの強さの秘密は、その**「皮膜の組成」と「有機酸の働き」**にあります。
しかし、三価クロム化への移行に伴い、この「オリーブ色」の立ち位置も変化しています。三価クロム処理でオリーブ色を出すためには、黒色化剤や緑色染料を混ぜて「色を似せている」場合があり、必ずしも「オリーブ色=最強」の図式が成り立たない製品も出てきています。
それでも、伝統的なスペック指定で「JIS H 8610 2種(緑色)」などの記載がある場合は、この最強クラスの耐食性が求められていることを意味します。現場判断で「色が似ているから」と安価な黒色や有色に変更することは、構造物の寿命を縮める重大なコンプライアンス違反になりかねません。
最後に、施工後のメンテナンスや点検で最も重要となる「変色」と「寿命」のサインについて解説します。クロム酸塩処理された亜鉛めっきは、永遠に錆びないわけではありません。その終わりは、色によって明確なサインとして現れます。
最も注意すべき現象が**「白錆(しろさび)」**です。
通常、鉄が錆びると「赤錆」が発生しますが、亜鉛めっきが施された製品は、まず表面の亜鉛が犠牲となって錆びることで鉄を守ります。この亜鉛の錆が「酸化亜鉛」や「水酸化亜鉛」であり、白いチョークの粉のような見た目をしています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/69/6/69_240/_pdf/-char/ja
現場での管理ポイント:
建築従事者が特に注意すべきは、「加工部」の変色です。寸切りボルトの切断面や、ナットを締め付けた際の座面付近は、クロム酸塩皮膜が物理的に破壊されています。六価クロムであれば自己修復作用である程度持ちこたえますが、現在の主流である三価クロム製品の場合、傷口からの白錆発生が早まる傾向にあります。
施工完了検査や定期点検の際、ボルトの頭や切断面が局所的に白くなっている(白錆)のを発見した場合は、速やかにジンクリッチペイント(高濃度亜鉛末塗料)などでタッチアップ補修を行う必要があります。
参考)https://www.nissin-industry.jp/column/1675841049-928508
「まだ赤い錆じゃないから大丈夫」と放置せず、「色が白く濁り始めたら防錆力が落ちている」と認識し、早期に対処することが、建物の長寿命化に貢献するプロの仕事と言えるでしょう。
めっきの腐食メカニズムと補修(白錆から赤錆への進行プロセスと、適切な補修材の選び方が解説されています)