

銀ろうで慣れている現場ほど、ニッケルろう付けで手痛いクレームを受けやすいです。
ニッケルろう付けとは、ニッケル(Ni)をベースとしたろう材を使って金属同士を接合する技術です。ろう付け自体は「母材を溶かさずにろう材だけを溶かして接合する」という点で溶接と大きく異なりますが、ニッケルろう付けはその中でも特殊な位置づけにあります。
まず最もよく比較される銀ろうとの違いについて整理しておきましょう。銀ろうのろう付け温度は概ね700〜800℃程度であるのに対し、ニッケルろうは825〜1,205℃という高温域でろう付けを行います。この温度差はおよそ400℃以上にもなり、設備選定から工程設計まで根本的に異なるアプローチが求められます。
つまりニッケルろう付けは「高温用途の専用技術」が基本です。
さらに強度・耐熱性・耐食性においても、ニッケルろうは銀ろうを大きく上回ります。ニッケルろう接合部は1,000℃近い高温環境下でも強度を維持できるため、給湯器の二次熱交換器やEGRクーラー(排気再循環装置)の製造に使われています。建築設備の分野でも、高温・高圧・腐食性流体にさらされる箇所に採用される場面が増えています。
一方で、銀ろうに比べて「じゃじゃ馬」と業界内で例えられるほど扱いが難しいのも事実です。東京ブレイズ株式会社の技術資料によれば、ニッケルろうは本来硬く脆い性質を持つため、長年にわたって様々な改良が重ねられてきた経緯があります。扱いやすさと性能の高さのバランスを理解して使うことが重要ですね。
東京ブレイズ株式会社「ニッケルろうによるろう付とその最新動向」(ニッケルろうの種類・特性・歴史についての詳細な技術資料)
ニッケルろうはJIS Z 3265により8種類が規格化されています。規格品の選定を誤ると、接合強度不足や酸化トラブルに直結するため、それぞれの特性を把握しておくことが不可欠です。
以下に代表的な規格とその特徴を整理します。
| 記号 | ろう付温度(℃) | 主な特徴 |
|---|---|---|
| BNi-1 | 1,065〜1,205 | 標準型。高強度・耐熱性に優れる |
| BNi-2 | 1,010〜1,175 | BNi-1より低温でろう付可能。鉄基合金に適する |
| BNi-3 | 1,010〜1,175 | Crフリー型。雰囲気の影響を受けにくい |
| BNi-5 | 1,150〜1,205 | Bフリー型。耐食性・耐酸化性に優れる。原子力用途にも |
| BNi-6 | 825〜1,025 | ニッケルろう中最低融点。ろう流れが極めて良好 |
| BNi-7 | 925〜1,010 | 耐食性に優れる。薄肉・ハニカム構造のろう付に使用 |
建築設備の現場でよく出てくるのは、給湯器や熱交換器向けのステンレス部品に使われるBNi-2やBNi-7です。この2つが条件です。
BNi-5は原子力関係でホウ素(B)の使用が制限される場合に採用されますが、ろう付温度が最大1,205℃と非常に高く、専用設備が必要になるため採用できる業者が限られます。これは知っておくべき例外です。
一方、BNi-6はニッケルろうの中で最も融点が低く(固相線・液相線ともに約875〜890℃)、ろう流れが良いため、ろう付性に優れています。しかし、融点が低いからといって「銀ろう感覚」で大気中でトーチ加熱するのは間違いです。ニッケルろうは種類を問わず炉中でのろう付けが原則であることを忘れないでください。
近年ではJIS規格外のNi-Cr-Si-P系ニッケルろうも高温・高耐食用途で多用されており、比較的低温でろう付けができながら十分な強度と耐食性を兼ね備えた製品が拡大しています。規格表だけで判断せず、メーカーに最新動向を確認することも有効な選択肢です。
ニッケルろう付けで最も知っておきたいのが「フラックスを使わない」という原則です。
銀ろう付けでは、金属表面の酸化膜を除去するために白色や茶色のペースト状フラックスを塗布するのが一般的です。しかしニッケルろう付けでは、通常はフラックスを使用しません。これが「フラックスレスろう付け」と呼ばれるアプローチです。
なぜフラックスを使わないのでしょうか?
理由は2つあります。1つ目は、ニッケルろうのろう付け温度(825〜1,205℃)が高すぎるため、一般的なフラックスが熱分解してしまい機能しないこと。2つ目は、ニッケルろうに含まれるCr(クロム)が加熱中に酸化しやすく、フラックスと干渉して接合不良を起こすリスクがあることです。
そのためニッケルろう付けは、強還元性の水素ガス雰囲気炉か、真空炉の中で行うのが基本原則となっています。真空炉では炉内の気圧を10⁻³Pa以下に下げることで酸素濃度をゼロに近づけ、金属表面の酸化を完全に防ぎます。水素ガス雰囲気炉では水素の還元作用によって酸化膜を化学的に分解しながらろう付けを進めます。この設備が条件です。
フラックスレスろう付けには以下のメリットがあります。
ただし設備コストは高く、連続式水素炉の導入には数千万円規模の投資が必要な場合もあります。中小規模の施工業者がこの設備を自前で持つことは現実的ではないため、実際には外部の専門ろう付け業者に委託する形が多くなっています。自社で全工程を抱えようとすると、設備投資だけで予算を大きく圧迫するリスクがあります。
日本溶接協会「ろう付雰囲気の特徴と選択基準」(真空・水素・不活性ガス雰囲気の使い分けと選定基準の詳細解説)
ニッケルろう付けで失敗が起きやすい工程は、大きく「下処理(前処理)」と「温度管理」の2つです。どちらも銀ろう付けより厳密な対応が求められます。
まず下処理について説明します。ニッケルろう付けでは、母材表面に油脂・水分・酸化膜・異物が少しでも残っていると、ろう材が正しく濡れ広がりません(ろう回り不足)。対策は「脱脂→研磨→洗浄→乾燥」の4ステップを省略しないことです。
この4ステップが原則です。
次に温度管理について。ニッケルろう付けはろう付温度の幅が非常に狭く、規格によっては「設定温度±10℃以内」での管理が求められます。過加熱(オーバーヒート)が起きると、ろうが不要な部分に流れ出る「ろう流出」が発生したり、母材とろうが過度に反応して母材が溶け込む「エロージョン(食われ)」が発生したりします。
エロージョンが起きると、配管継手や熱交換器の薄肉部が溶け落ちて気密性が失われ、最悪の場合は現場での液漏れ事故につながります。痛いですね。
反対に、温度が低すぎると「ロウ回り不足」という状態になります。これはろう材が接合面全体に行き渡らないまま固まってしまう不良で、外観からは正常に見えても内部に空洞(ボイド)が存在するため、振動や熱サイクルで接合部が破断するリスクを抱えます。
建築設備の現場でニッケルろう付けの品質確認を行う際には、非破壊検査(X線透過検査や超音波検査)の活用が有効です。目視だけで品質を判断する習慣がある現場ほど、後からボイドによる不具合が発覚するケースがあります。検査方法の選定は外注先と事前に確認しておくことをおすすめします。
小池製作所「ロウ付け不良の原因と対策を解説」(ロウ回り不足・エロージョン・ボイドなど各不良の原因と具体的対策が体系的にまとめられている)
ニッケルろう付けが建築設備の分野で注目されるようになったのは、比較的最近のことです。結論は「環境規制への対応が最大の契機」です。
日本国内では2000年代に自動車の排ガス規制が強化され、EGR(排気再循環)クーラーの搭載が義務化されました。このEGRクーラーは排気ガスを冷却・再循環させる部品で、高温腐食環境への耐性が必要なためニッケルろう付けされたステンレス製熱交換器が採用されました。これによりニッケルろうの需要は爆発的に増加しています。
建築設備の文脈では、給湯器の二次熱交換器が代表的な用途です。潜熱回収型(エコジョーズ・エコワン等)の高効率給湯器では、廃熱を回収する二次熱交換器がSUS316などのステンレス材で構成されており、その接合にニッケルろう付けが使われています。この熱交換器は150〜200℃の高温蒸気と弱酸性の凝縮水に同時にさらされるため、銀ろうでは耐久性が不足するのです。
独自視点として注目したいのが「ニッケルろう付けとコスト管理」の問題です。
ニッケルろうはその成分の大半をNi(ニッケル地金)が占めるため、ニッケルの市場価格変動がろう材コストに直接影響します。ニッケル地金は1トンあたり数万ドル前後で推移し、2022年にはロシアのウクライナ侵攻を背景に一時的に価格が急騰した経緯があります。
こうした価格リスクに対応するため、業界ではFe-Cr合金をベースとした「アイアンブレイズ」と呼ばれる代替ろう材の開発が進んでいます。東京ブレイズ株式会社が開発したこのろう材は、ニッケルろうと同等の耐熱・耐食性能を持ちながら、ニッケル地金への依存度を大幅に下げることができます。これは使えそうです。
建築設備の施工管理者として発注する立場なら、委託先のろう付け業者が使用しているろう材の種類・グレードを事前に確認することが品質管理の第一歩です。「ニッケルろう付けで対応可能」という言葉だけでは不十分で、具体的にBNi-何番を使用するか、炉の種類(真空炉か水素炉か)と雰囲気管理の記録が提供されるかを確認することが重要です。
これらを確認する習慣が、長期的なトラブル回避につながります。
日本溶接協会「ろう付の基礎と製造業へ適用するためのコツ」(ニッケルろうの特性・用途・選定の総合的な技術解説。JIS規格との対応も記載)

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