

フラックス洗浄をサボると、配管が内側から腐食して数年後に冷媒漏れで設備停止します。
銀ろう付け(英語ではSilver Brazing)は、母材そのものを溶かさずに、銀を主成分とする「ろう材」を接合部に流し込んで固定する金属接合技術です。木工用ボンドで2枚の板を貼り合わせるイメージに近く、接合したい2つの部材の隙間にろう材が染み込むことで強固に固定されます。
この技術はAWS(アメリカ溶接協会)の定義では「液相線温度が450℃以上のろう材を使用するもの」と規定されており、銀ろうの場合はおよそ600〜800℃の範囲で溶けます。はんだ付けは450℃以下のろう材を使う点が唯一の違いで、原理的には同じ接合方法です。
溶接との違いは、より本質的なところにあります。
溶接は母材自体を溶かして融合させるため、高強度ですが母材に大きな熱ダメージを与え、銅や真鍮などの非鉄金属には不向きです。一方、銀ろう付けは母材を溶かさないため、銅配管・真鍮継手・ステンレス配管など、建築設備で多用される素材に幅広く対応できます。つまり異種金属同士の接合が得意というわけです。
現場でよく使われるアセチレンガスバーナーによるトーチろう付けは、設備が比較的シンプルで携帯性にも優れ、建築設備工事・空調配管・冷凍設備工事の現場で定番の施工方法となっています。
| 接合方法 | 母材を溶かすか | 使用温度目安 | 得意な素材 |
|---|---|---|---|
| 溶接 | 溶かす | 1,500℃以上 | 鉄・ステンレス・アルミ |
| 銀ろう付け | 溶かさない | 600〜800℃ | 銅・真鍮・ステンレス・鉄 |
| はんだ付け | 溶かさない | 200〜400℃ | 銅・電子部品 |
銀ろう付けが溶接の「代わり」ではなく、用途に応じた使い分けが基本です。
参考:銀ろう付けの基本原理と溶接との違いについて詳しくはこちら
ろう付け基礎知識 | 銀ロウ付け・温度・方法・強度・フラックス – 佐藤製作所
「ろう付けは溶接より弱い」という認識は、現場でよく聞かれますが、実は条件次第で話が変わります。
銀ろうの引張強度は30〜60kgf/mm²(約300〜600MPa)にも達することがあり、適切な施工が行われていれば、十分な構造強度を持ちます。重要なのは「ろう付けの強度は接合部の隙間(クリアランス)によって大きく変わる」という事実です。これは見落とされやすいポイントです。
銀ろう付けでは毛細管現象を利用してろう材を接合面に引き込みます。この毛細管現象が最もよく働くのが、隙間が0.05〜0.2mm程度のときです。ちょうどコピー用紙1〜2枚分の薄さをイメージすると分かりやすいでしょう。
隙間が大きすぎると毛細管現象が機能しなくなり、ろう材が流れ込まず接合不良になります。逆に隙間が狭すぎると、ろう材が浸透できないうえ、フラックスが残ってしまいやすくなります。どちらに外れても強度が落ちます。
- 隙間が0.05mm未満 → ろう材が浸透しにくく、接合不良・ボイドが発生しやすい
- 隙間が0.05〜0.2mm → 毛細管現象が最大限に働き、高強度接合が実現
- 隙間が0.5mm以上 → ろう材が垂れ落ちて気密性・強度が大幅に低下
隙間の管理が基本です。
冷凍空調設備の銅配管施工では、JIS B 8607に基づく継手寸法が採用されており、適切なクリアランスが確保されるよう設計されています。現場で使うソケットや継手がJIS規格品であれば、設計上のクリアランスは担保されていることがほとんどです。ただし、現場カットした配管の切断面の真円度・面取りが不十分な場合はクリアランスが崩れやすいため、切断後の処理が接合品質を左右します。
参考:ろう付けのクリアランスと毛細管現象の関係はこちら
ロウ付箇所のクリアランスはどれくらいにすればよいですか? – トーヨーメタル
銀ろう付けの失敗の大半は、施工前の「下処理」と「フラックス管理」に起因します。これが条件です。
まず下処理の目的を整理すると、接合部表面の油脂・酸化膜・汚れを完全に取り除くことです。金属表面には目に見えない酸化膜が常に形成されており、これが残っているとろう材がはじかれて「濡れ不良」が起きます。現場では、サンドペーパー(#120〜#240程度)またはワイヤーブラシで研磨したうえで、アセトンやアルコールで脱脂するのが基本手順です。
次にフラックスの役割ですが、加熱中に母材表面に再形成される酸化膜を溶かして除去し、ろう材の流れを助ける「潤滑剤」のような働きをします。フラックスには使用温度範囲があり、銀ろう付け(600〜800℃)に対応した中温用フラックス(JIS Z 3283 FB3A・FB3C相当)を選ぶことが重要です。はんだ用の低温フラックスを流用すると、加熱中に焦げて炭化し、逆にろう材の流れを阻害します。
加熱のポイントは「ろうを直接加熱しない」ことです。
バーナーの炎は、ろう材ではなく母材に向けて当てます。母材が適温に達すると、ろう材が自然に溶けて毛細管現象で接合部に引き込まれます。この「母材を先に温める」という手順を逆にしてしまうと、ろう材だけが溶けて流れてしまい、接合部に浸透しない「ウィッキング不良」になります。
施工の流れをまとめると、以下のとおりです。
特に「冷却・洗浄」を省略してしまう現場がありますが、これは深刻なリスクにつながります。詳しくは次の項目で解説します。
多くの現場技術者が「ろう付け後の水洗いは省略しても問題ない」と思っていますが、これは大きな誤解です。
ろう付けに使われるフラックスの多くはホウ酸・フッ化物系の化合物で、冷却後も配管表面に固着した状態で残ります。この残渣が水分と反応すると弱酸性の液体となり、銅管内壁を徐々に腐食させていきます。腐食が内側から進むため、外観では全く異常がわからないまま数年が経過し、突然ピンホールが開いて冷媒漏れが起きます。
経済産業省や高圧ガス保安協会が公表している事故事例によると、2016年に発生した冷凍設備からの冷媒ガス漏えい事故の一例では、「ろう付け施工時のフラックス残渣による腐食」が漏えい孔の直接原因と記録されています。配管竣工後、数年以上が経過してから発覚するケースも少なくなく、施工不良との因果関係が証明されると施工業者への損害賠償リスクにも直結します。
三菱電機などエアコンメーカーの据付工事説明書では「ろう付け後はフラックスを完全に除去すること。フラックスに含まれる塩素が配管内に残留すると冷凍機油が劣化する」と明記されています。これは守るべき基準です。
フラックス残渣の除去方法は、ろう付け直後(部材がまだ温かいうち)に50℃以上のお湯に浸けるか、布を濡らして拭き取ることが基本です。凝固してから時間が経つほど除去しにくくなるため、施工のたびに必ず実施する習慣をつけることが品質管理の第一歩といえます。
参考:フラックス残渣による腐食の原理と対策
ろう付け欠陥(腐食)の原理と対策は?熱交換器の事例で解説 – エンジニア教育
参考:2016年の冷凍設備ろう付け施工不良事例
平成28年に発生した冷凍空調施設における事故について – 高圧ガス保安協会(PDF)
銀ろう付けに使うろう材は「全部同じ銀ろう」ではありません。JIS規格(Z 3261)で多数の品番に分かれており、施工対象や目的に応じた選定が必要です。
代表的な品番の特徴を整理すると以下のとおりです。
| 品番 | 銀含有率 | 融点範囲(℃) | 特徴と主な用途 |
|---|---|---|---|
| BAg-1 | 45% | 607〜618 | 流動性が高く低温作業向き。ただしカドミウム含有 |
| BAg-2 | 50% | 627〜635 | 高強度・高信頼性。カドミウム含有 |
| BAg-5 | 45% | 663〜743 | カドミウムフリー。食品・建築設備向き |
| BAg-7 | 56% | 618〜630 | 高銀含有でカドミウムフリー。冷凍空調・医療向き |
注意が必要なのが、BAg-1・BAg-1A・BAg-2・BAg-3はカドミウム(Cd)を含有しているという点です。カドミウムはろう材の融点を下げて流動性を改善するために添加されていましたが、発がん性が確認されており、国際的なRoHS指令でも使用制限の対象となっています。
カドミウムを含む銀ろうを使用してバーナーで加熱すると、700〜800℃の熱でカドミウムヒュームが発生します。このヒュームを吸い込むと、急性中毒では吸入後4〜10時間で胸部圧迫感・咳・悪寒が発症し、長期的には腎障害・肺機能障害・発がんリスクが高まることが日本溶接協会の資料でも確認されています。意外ですね。
現在の建築設備現場では、カドミウムフリーのBAg-5やBAg-7が推奨されており、主要メーカーもカドミウムフリー製品にシフトしています。特に業務用冷凍空調機器の冷媒配管においては、メーカー据付仕様書で「Cdフリーろう材の使用」が明記されているケースも増えています。
古い在庫ろう材を長年使い続けている現場では、品番の確認が必要です。「安いから」「慣れているから」で選び続けると、健康リスクと法的責任の両方を抱えることになります。
参考:カドミウム含有銀ろうの危険性
銀ろう使用時において発生するCdについて – 日本溶接協会 Q&A
参考:ろう付け作業時の健康リスクと安全対策
ろう付け作業時の安全対策と注意点 – 北東技研工業株式会社
銀ろう付けの最大の特長として「気密性の高さ」がよく挙げられますが、実はこの気密性は「ろう付けそのものの性能」だけに依存しているわけではありません。
建築設備の冷凍空調工事や衛生設備工事では、「ろう付け完了=気密確認完了」と思っている施工者が少なくありませんが、それは大きな落とし穴です。
冷凍空調設備の冷媒配管では、ろう付け完了後に必ず窒素ガスによる加圧気密試験(一般的に4.15MPa)を行うことが、JIS B 8607および各メーカーの施工マニュアルで義務づけられています。目視でろう材がきれいに回っているように見えても、内部にボイド(空洞)やピンホールが存在するケースがあるためです。特に過加熱や急冷によって発生したボイドは、外観から判断できません。
また、三菱電機の据付工事説明書には「ろう付け作業は、冷凍空気調和機器施工技能士(1級および2級に限る)または同等の技量評価を受けた者が実施すること」と記載されており、資格保有者でない施工は保証対象外とするメーカーも存在します。これは知らないと損します。
現場での実用ポイントとして、以下の点を覚えておくと品質トラブルを未然に防げます。
特に「配管内への窒素ガス封入」は、外観には現れない内面酸化の防止に非常に効果的で、冷凍機油の劣化や圧縮機故障を防ぐ意味でも重要な工程です。これが条件です。
国土交通省の公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)でも「冷媒管のろう付け及び溶接作業は、配管内に不活性ガスを通しながら行うこと」と規定されています。民間工事であっても、同等の品質基準を適用することが後々のトラブルを防ぐ上で有効です。
参考:冷媒配管施工における標準仕様と気密試験の規定
公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)– 国土交通省(PDF)
参考:銅管ろう付け施工技術と技量評価
銅管ろう付施工技術講習会 – 日本冷凍空調設備工業連合会