

補償導線を普通の電線に替えると、800℃の現場で80℃も低く表示されて品質トラブルになります。
温度計(熱電対式)とは、2種類の異なる金属線の先端を接合し、その接合点に生じる温度差から微細な電圧(熱起電力)を発生させ、その電圧値を温度に換算して表示する仕組みの温度センサです。この原理は1821年にドイツの科学者ゼーベックが発見したことから「ゼーベック効果」と呼ばれています。
建築現場では、コンクリートの養生温度管理、アスファルト舗装時の温度確認、各種設備配管の熱管理など、幅広い場面で使われています。なぜ熱電対式が選ばれるかというと、水銀温度計やサーミスタと比較して「測定範囲が非常に広い(-200℃〜+1700℃)」「応答が早い」「安価で入手しやすい」「小さなスペースの温度も測れる」といった特長があるためです。これは使えそうです。
また、温度情報が電気信号として出力されるため、データロガーやパソコンへの記録・集計が簡単に行えます。複数箇所を同時に計測できるマルチチャンネル型も普及しており、大規模な構造物の養生管理にも対応できます。
特に注目すべきは、接触式という特性上、コンクリートの内部温度や表面直下の温度を直接計測できる点です。非接触式の放射温度計では内部温度の把握が難しいため、建築現場の品質管理においては熱電対式が不可欠な選択肢となっています。
参考:コンクリート構造物の品質管理試験での熱電対センサ活用について
株式会社 土木管理総合試験所 – コンクリート構造物の品質管理試験
熱電対式温度計には、使用する金属の組み合わせによってB・R・S・N・K・E・J・Tの8種類があります。建築・土木現場で実際に使われる主な種類を整理しておきましょう。
| 種類 | 測定範囲(常用) | 主な特長 | 建築現場での用途例 |
|---|---|---|---|
| K型 | -200〜+1,000℃ | 最も流通量が多く安価。熱起電力の直線性が良い | コンクリート養生、アスファルト温度測定 |
| J型 | -40〜+600℃ | K型に次ぐ起電力の大きさ。低コスト。錆びやすい | 炉・加熱設備の温度確認 |
| T型 | -200〜+300℃ | 低温領域の精度が高い | 冷却工程・冬季の低温環境確認 |
| E型 | -200〜+700℃ | 1℃あたりの起電力が最も大きく高分解能 | 精密な温度差計測が必要な場面 |
K型が原則です。建築現場では測定温度の範囲が広く、安価で入手しやすいK型熱電対が実質的な標準となっています。K型はニッケル-クロム合金(+側)とニッケル-アルミニウム合金(-側)で構成されており、コンクリート養生(0℃〜+90℃程度)からアスファルト施工(最大160℃前後)まで1本でカバーできます。
ただし、J型はK型より少し安価であるものの、鉄を使用しているため錆びやすいという欠点があります。湿気の多い地下工事や雨天作業では特に注意が必要です。T型は低温に強いため、冬季の寒中コンクリート管理など0℃を下回る環境で精度よく計測したい場合に有効です。
計測精度の観点からは、K型のJISクラス2(0.75級)の許容差は「-40℃以上333℃未満で±2.5℃」と規定されています。コンクリート養生の温度管理基準(寒中で5℃以上維持)を考えると、±2.5℃の誤差は現場判断に影響を与えるため、校正済みのセンサを使うことが重要です。
参考:熱電対の種類と選定ポイントの詳細(キーエンス 計測器ラボ)
キーエンス – 熱電対の基礎|温度計測|計測器ラボ
熱電対式温度計を使う上で、建築現場の担当者が最も見落としやすいのが「補償導線」の扱いです。補償導線とは、熱電対センサと計測器本体をつなぐための専用ケーブルのことで、熱電対と同等の熱起電力特性を持つように設計されています。
問題はここです。現場でよくある「手元に補償導線がないから、普通の電線で代用する」という判断は、測定値を大きく狂わせます。
JEMIMAの技術資料によると、測温部が800℃の環境で、補償導線の代わりに銅導線(普通の電線)を接続した場合、受信計には720℃と表示されます。実際の温度より80℃も低く表示されるのです。これだけの誤差が出ると、「適温」と判断して作業を進めた結果、品質基準を下回っていた、という事態が起きます。
さらに怖いのが、補償導線の極性(+と-)を逆に接続した場合です。同じ800℃の環境で逆接続すると、表示は642℃になります。なんと実際より158℃も低い表示です。見た目の配線ミスなので気づきにくく、現場での温度管理に深刻な影響を与えます。
種類の違う補償導線を混用した場合(K型熱電対にE用補償導線を接続)でも、表示は845℃となり、逆に45℃高く表示されます。どの誤配線パターンも、正確な温度管理を根本から崩します。
補償導線の選定・接続に関する3つのルールを押さえておけば大丈夫です。
なお、熱電対本体は1km以上の延長も可能ですが、計測器側には入力信号抵抗の上限値があります。総抵抗値がその上限を超えると誤差が出るため、長距離配線の際はメーカー仕様書の確認が条件です。
参考:補償導線の接続違いによる誤差の実例(JEMIMA 温度計測委員会)
JEMIMA – 熱電対 補償導線の接続違いによる誤差(PDF)
建築現場における熱電対式温度計の最重要用途の一つが、コンクリートの養生温度管理です。コンクリートは打設後の温度環境によって強度と耐久性が大きく左右されるため、建設業者にとって温度の「計り方」は品質管理の中核となります。
寒中コンクリートの施工指針では、打設後24時間はコンクリート温度を5℃以上に保つことが推奨されています。外気温が0℃以下になると内部の水分が凍結し、強度発現が阻害されるためです。この「5℃ライン」を確実に管理するには、コンクリート内部に熱電対センサを埋設し、連続的に温度をロギングする方法が現場では標準的です。
一方、暑中コンクリートでは、荷下ろし時点でのコンクリート温度が35℃以下(品質確保できる場合は38℃まで許容)を守る必要があります。温度が高すぎると水和反応が急進し、ひび割れや強度低下の原因になります。これは外気温の計測だけでは管理できません。コンクリート内部の温度を直接測れる熱電対式が必要です。
現場でよく使われるのが「K熱電対センサ付きのハンディデータロガー(4ch対応)」です。複数点の温度を同時記録でき、SDカードへのデータ保存も可能なため、施主や監理者への報告書作成がスムーズに行えます。温度センサ自体は消耗品として硬化後に切り捨てできるタイプもあり、本体だけを繰り返し活用してコストを抑える運用が普及しています。
アスファルト舗装の場面では、敷き均し時の混合物温度が110℃以上、転圧は110〜140℃の範囲が適正とされています。また交通開放は表面温度が50℃以下になってから行うルールです。いずれも目視では判断できないため、熱電対式温度計による実測が不可欠です。
参考:アスファルト舗装時の温度管理基準について
A&D BLOG – 放射温度計やサーモグラフィカメラによるアスファルト舗装時の温度管理
熱電対式温度計は「使い続けていると少しずつ特性が変化する」という性質があります。断線していなくても、長期使用によって起電力特性がズレてくるため、定期的な校正(キャリブレーション)が品質管理の基本です。
校正の頻度は年1〜2回が推奨されています。校正方法は大きく2種類あります。1つ目は「定点法」で、水の氷点(0℃)や沸点(99.974℃)など物理的に決まった温度を使って確認する方法です。2つ目は「比較法」で、校正済みの基準熱電対と同じ恒温槽に入れて比較する方法です。建築現場での簡易チェックには、氷水(0℃)と沸騰水(約100℃)を使った定点法が手軽で信頼性も高く実用的です。
熱電対の寿命については、意外と知られていない事実があります。キーエンスの技術資料によると、建築現場でよく使われる卑金属熱電対(K型・J型など)の標準寿命は、酸化雰囲気中で常用温度以下の使用で約10,000時間とされています。8時間稼働換算で1,250日分、約3年半です。ただし上限温度に近い高温で使用すると寿命は50〜250時間まで一気に短くなります。1週間から1ヶ月程度しか持たない計算になります。
熱電対の劣化は気づきにくいのが問題です。断線すれば計測器のアラームで気づけますが、起電力特性の微妙なズレは測定値が表示され続けるため、「ちゃんと計れている」と思い込みやすい状況が生まれます。結論は定期交換と校正の組み合わせです。
交換の目安として、製造業や計装の現場では「3年に1度程度のスパンで交換」が推奨されています。建設現場においても、長期の施工プロジェクトや繰り返し使用する計測器については、この基準を参考にしてください。
交換・校正のタイミングを管理するには、センサの初回使用日・使用時間・校正実施日を記録しておく台帳管理が効果的です。施工記録と合わせて保管しておくと、品質管理上のトレーサビリティ(記録の追跡可能性)を確保でき、万が一のトラブル時にも対応しやすくなります。
参考:熱電対の寿命と校正頻度の目安について
西林電機製作所 – 熱電対定期交換の必要性
熱電対式温度計の性能を最大限に引き出すには、センサの設置方法と取り扱いにも細心の注意が必要です。どれほど高性能なセンサも、設置が不適切では正確な計測値は得られません。
まず設置の基本として、センサ先端(測温接点)は必ず計測対象に密着させます。コンクリート養生の場合は、センサを打設前に所定位置に固定して埋設します。このとき、センサが浮いていたり、空隙があったりすると周囲の気温を拾ってしまい、コンクリート内部温度を正確に反映しません。センサの先端が対象物の「中心」に位置するように設置するのが原則です。
次に、周囲の熱源や直射日光の影響を避けることが重要です。特に表面温度の計測では、日光の当たり方や風速によって測定値が数℃変化することがあります。必要に応じて断熱材や遮熱カバーを使い、センサを外部環境から保護してください。
シース型熱電対(外側を金属管で保護したタイプ)を使用する場合は、接点形式の選択も計測精度に影響します。「接地型」は応答が最も速いですが、ノイズの多い環境や危険な場所では「非接地型」を選ぶのが適切です。建設現場では電動機械や大型重機からのノイズが大きいため、非接地型の方が安定した計測値を得やすい場面があります。
また、センサの持ち運びや設置時に曲げ・衝撃を加えると断線の原因になります。補償導線も同様で、繰り返しの屈曲・ねじれ・引っ張りに弱く、絶縁体の損傷や劣化が起きやすいです。現場での取り回しには丁寧な扱いが必要です。厳しいところですね。
水や多湿環境も補償導線には大敵です。漏電や短絡の原因となるため、防水仕様のケーブルを選ぶか、防湿処理を施すことが求められます。雨天作業の多い土木現場や地下工事では、ケーブルの絶縁抵抗チェックを定期的に行うことも信頼性維持につながります。
最後に、計測後のデータ管理も見落とせません。現場でのリアルタイム表示だけでなく、データロガーによる連続記録を行うことで、温度変化の推移を時系列で確認できます。これにより「いつ、どこで、何度だったか」の証跡が残り、コンクリート強度の推定計算や施主への品質報告書作成にも活用できます。データは条件です。
参考:熱電対の設置方法と使用時のポイント(ノビテック)
株式会社ノビテック – 熱電対の種類から使い方、注意点まで徹底解説