

三相3線式と単相3線式は、建築現場で最も重要な配電方式の違いです。両者は電線の本数が同じ3本であるため混同されがちですが、根本的な仕組みと用途が全く異なります。単相3線式は、3本の電線(電圧線2本と中性線1本)のうち2本を選んで使用することで、100Vと200Vの両方の電圧を取り出せる方式です。一方、三相3線式は3本の電線すべてを同時に使用する必要があり、線間電圧はすべて200Vとなります。この根本的な違いが、それぞれの配電方式の特徴や用途を決定づけています。
三相3線式は、R相・S相・T相と呼ばれる3本の電線を使用し、各線間の電圧は200Vです。この方式では、3つの位相が120度ずつずれた交流電流が流れており、電気を使用する際には必ず3本すべての電線を同時に配線しなければなりません。三相3線式で200Vと400Vが取れるという誤解がありますが、これは間違いです。三相3線式はあくまでモーターの使用に特化した方式であり、単相より高い電圧が取れる方式ではありません。
三相3線式の大きな特徴は、回転磁界を自然に発生させることができる点です。3つの波形が協調して働くため、三相モーターは始動用の余計な回路が不要で、トルクが一定で振動が少なく、効率的かつスムーズに動作します。工場やエレベーターで使われる大型モーターはほとんどが三相式です。また、同じ断面積の電線を使って送れる電力は、単相よりも三相の方が約1.73倍大きくなるため、送電効率が高いという利点があります。
電気工事の観点では、三相3線式200Vの対地電圧は200Vとなります。これは1相を接地しているためで、接地相と対地間の電圧は0ボルトですが、他の2相は接地に対して200Vの電圧がかかっています。そのため、金属管などの電気設備には適切な接地工事が必要となります。
単相3線式は、2本の電圧線(赤線と黒線)と1本の中性線(白線)で構成されています。変圧器の二次側中性点を直接接地(B種接地工事)して、中性線は電圧の基準となる線で、地面に接続されており電圧を常にほぼ0Vに保つ役割を担っています。電圧線と中性線の間では100Vが、2本の電圧線の間では200Vが取り出せます。これは2本の電圧線が逆位相になっているためで、電圧線Aが+100Vのとき電圧線Bは-100Vとなり、両者の電位差が200Vになる仕組みです。
単相3線式の最大のメリットは、対地電圧が100Vであるため安全性が高い点です。一般住宅や公共施設など幅広い場所で使われており、最近の住宅ではほぼ単相3線式で配電されています。同じ電力に対して単相2線式より細い電線が使えるため、無駄な電力を消費することが少なく経済的です。また、100V負荷が平衡していれば中性線電流は相殺して零となり、電圧降下や線路損失の面で有利となります。
ただし、単相3線式には注意点もあります。中性線が断線すると異常電圧が生じ、負荷電圧が極端に不平衡になり機器を損傷するおそれがあります。そのため電気設備技術基準の解釈第39条では「多線式電路の中性線には過電流遮断器を施設してはならない」と規定されています。また、R相側とT相側の負荷のバランスを取らないと、どちらかの相の電流が大きくなって分電盤内の主幹ブレーカーがトリップする可能性があります。
東京電力パワーグリッド公式サイト - 単相3線式の詳細な仕組みと配線図の説明
電力伝送効率の面では、三相3線式が優れています。同じ断面積の電線を使用した場合、三相システムは単相システムに比べて約1.73倍のエネルギーを運ぶことができます。これは3つの波形が協調して働くため、ピークの重なりや無駄が少ないことに由来します。また、三相電力では3本の電線で大容量の電力を安定して供給できるため、大型機器や重工業用途に適しています。
配線コストの面でも三相には利点があります。同じ電力を伝送する場合、三相では必要な導体の断面積が小さくて済むため、ケーブルや配線のコストが抑えられます。線路損失は単相電力のわずか50%程度となり、長距離送電や大容量送電において経済的です。
一方、単相3線式のメリットは安全性と汎用性です。対地電圧が100Vであるため電気の危険性が少なく、三相3線式200Vよりも安全です。また、100Vと200Vの両方が使えるため、照明やコンセントなどの一般的な電気機器から、IHクッキングヒーターや大型エアコンなどの200V機器まで幅広く対応できます。契約容量を50Aや60A以上に引き上げることが可能で、電力供給の安定性を高めることができます。
モーター駆動の観点では、三相モーターは同じ出力の単相モーターよりも小型、軽量、低コストです。始動が容易になり、トルクがスムーズになるため機械の摩耗が少なく、機器の寿命が長くなり長期的なメンテナンスコストが削減されます。
配電方式の選定は、契約電力、負荷の種類、建物の用途によって決定されます。契約電力が50kW未満の場合は一般的に低圧受電となり、建物の用途や負荷特性に応じて単相3線式または三相3線式を選択します。
一般住宅や小規模店舗では、単相3線式100V/200Vが標準です。この方式は照明、コンセント、家電製品など多様な負荷に対応でき、配線工事も比較的簡単です。契約電力は通常50A以上で設定され、分電盤の主幹ブレーカーは中性線欠相保護付きにすることが推奨されます。
工場や大型施設では、三相3線式200Vが主流です。特に大型モーターや産業機械を使用する場合、三相電源が必須となります。ただし、照明やコンセント用には別途単相3線式の配電系統を設ける必要があります。三相3線式では、R・S・T各相の負荷バランスを考慮する必要があり、設備不平衡率は30%以下とすることが求められます。
受電方式の決定においては、一般電気事業者との技術的協議が重要です。T分岐方式の1回線受電方式が経済的ですが、重要な施設では予備発電設備や無停電電源設備を考慮します。配電方式は、電源と負荷群の距離、負荷群の容量、負荷の重要性等を考慮して選定する必要があります。
三相3線式を採用する際の重要な注意点として、負荷バランスの管理があります。三相3線式の各線間に単相負荷を接続することは可能ですが、R-T間、S-T間、R-S間の負荷容量がバラバラになると不平衡負荷となります。低圧及び高圧受電の三相3線式における不平衡負荷の限度は、設備不平衡率30%以下とすることが内線規程で定められています。
設備不平衡率は「各線間に接続される単相負荷総設備容量の最大最小の差÷総負荷設備容量の1/3×100」で計算されます。例えば、150kVA単相変圧器をR-T間だけに接続すると、S相は全く使用しないことになり大きな不平衡となります。各相の電流バランスが不一致になると、変圧器の過熱、電圧不平衡による機器の故障、配電線の損失増加などの問題が発生します。
接地工事も重要な要素です。三相3線式では通常1相を接地しますが、この接地相と対地間の電圧は0Vとなります。しかし他の2相は対地電圧が200Vとなるため、金属管などの電気設備には適切なD種接地工事が必要です。三相3線式200Vの対地電圧は200Vであり、対地電圧150V以下の条件に該当しないため、長さ4m以下の金属管であっても接地工事が必要となります。
実際の建築現場では、三相動力盤から単相電源を取り出す際に特に注意が必要です。三相200Vから単相200Vを取ることは配線上可能ですが、不平衡の原因となるため計画的な負荷配分が求められます。各相に均等に負荷を振り分けることで、電力系統全体の安定性を高めることができます。
日本電気技術者協会 - 三相交流電圧不平衡率の計算方法と影響に関する技術資料
発電機AVR5-3B3A AVR三相7線式自動電圧と互換性あり