

シリコーンアルキド塗料は、アルキド樹脂よりも耐候性がむしろ「下がる」場合がある。
シリコーンアルキド塗料は、アルキド樹脂にシリコーン樹脂を変性剤として加えた塗料です。純粋なシリコーン樹脂をそのまま塗料化することは技術的に難しく、アルキド・アクリル・エポキシといった有機樹脂で変性させて使うのが業界の標準です。シリコーン変性によって、元のアルキド樹脂単体では期待できなかった耐熱性や耐候性が加わります。
アルキド樹脂の単独使用では耐久年数は3〜5年程度にとどまります。シリコーン樹脂の主骨格はシロキサン結合(Si-O-Si)で構成されており、この結合の強さが高温でも安定した塗膜を維持する理由です。純シリコーン樹脂塗料の耐熱性は200〜250℃ですが、アルキドで変性したシリコーンアルキド塗料は150〜200℃の耐熱性を持ちます。これは多くの鋼構造物の使用環境で十分な性能です。
つまり変性率が高いほど、性能が変わります。
シリコーン変性率(全樹脂固形分に占めるシリコーン成分の割合)が30%未満の場合と、30%以上の場合では塗膜の耐候性・保色性に大きな差が出ます。変性率が低いとアルキド樹脂の特性が優位に立ち、逆に高すぎると塗膜の柔軟性(可とう性)が低下し、ひび割れのリスクが上がります。これが冒頭で紹介した「変性率次第で耐候性が下がる」現象の正体です。
建築業従事者にとって重要なのは、同じ「シリコーンアルキド塗料」という名称でも、メーカーや製品によって変性率が大きく異なる点です。製品のカタログ値には変性率が明記されていないことも多いため、技術データシートや仕様書を確認する習慣が欠かせません。
| 樹脂の種類 | 耐熱温度の目安 | 耐久年数の目安 |
|---|---|---|
| アルキド樹脂単独 | 〜80℃ | 3〜5年 |
| シリコーンアルキド変性 | 150〜200℃ | 8〜12年 |
| 純シリコーン樹脂 | 200〜250℃ | 15年以上 |
| 無機フィラー添加シリコーン | 300〜650℃ | 用途限定 |
参考:シリコーン樹脂塗料の特性区分については、ミスミの技術解説が詳しく整理されています。
建築業の現場ではよく「シリコン塗料は何でも長持ちする」と一括りにされますが、シリコーンアルキド系に限定すると話は変わります。アクリルシリコン系やフッ素系と比べたときの位置づけを正確に理解しておくと、適材適所の選定ができます。
耐候性の目安で言うと、JIS K5659(鋼構造物用耐候性塗料)の格付けでは、1級が常温硬化形フッ素樹脂塗料、2級がアクリルシリコン樹脂塗料となっています。シリコーンアルキド系は、この分類では主に中上塗りとして、期待耐用年数10年前後のシステムに組み込まれることが多い塗料です。これは条件次第ということですね。
一方で「耐熱性」に着目すると、シリコーンアルキド塗料の強みが光ります。一般的な塗料の耐熱温度が80〜100℃程度であるのに対し、シリコーンアルキド塗料は150〜200℃の温度域で安定した塗膜を維持します。鉄骨造の建屋の鉄骨部位や、プラント設備の配管架台など「定常的に高温にはならないが、局所的に高温になりうる」場所に向いています。
これが選択のカギです。
鋼構造物の塗装を検討するとき、単に「シリコン系だから耐久性が高い」と判断するのは早計です。使用環境の温度、腐食リスク(塩害・産業排気など)、補修頻度のスパンを整理した上で、シリコーンアルキドが「最適解」かどうかを確認しましょう。たとえば沿岸部など塩害リスクが高い環境では、重防食塗装系(エポキシ下塗り+上塗りシリコーン系)の方が長期的なコストパフォーマンスに優れる場合があります。
参考:大日本塗料が整理しているシリコーン樹脂塗料の特性と用途分類が参考になります。
シリコーンアルキド塗料が建築・土木現場で特に活躍するのは、鋼構造物の上塗り用途です。重防食塗料のガイドブック(塗料工業協会)では、シリコンアルキド樹脂塗料の用途として「鉄骨・橋梁・タンク外壁・配管架台・鋼製煙突」が明記されています。現場では汎用的に使える中上塗り材という位置づけです。
鉄骨の建屋や橋梁では、素地調整の後にエポキシ系下塗り→シリコーンアルキド系上塗りという塗装系が採用されることがあります。これはシリコーンアルキド塗料が、下塗り材との密着性・光沢保持性・耐候性のバランスで評価されているためです。光沢の保色性が高いことは意外ですね。
鋼製煙突への適用は特筆すべき用途です。煙突の外面は煤や熱、雨水にさらされる苛酷な環境下にあります。シリコーンアルキド塗料の150〜200℃という耐熱温度は、外面温度が高くなりやすい煙突外壁をカバーできます。内面の場合はさらに高温になるため、無機フィラー添加の純シリコーン系耐熱塗料が選ばれますが、外面仕上げとしてシリコーンアルキド系は十分な選択肢です。
タンク外壁・プラント設備の配管架台への適用では、定期的な塗替えスパンを10年前後で設定する際にシリコーンアルキド塗料が組み込まれます。一般的なアルキド(フタル酸)系の塗替えサイクルが約5年であるのに対し、シリコーン変性によって約2倍の耐久性が期待できます。これは大きなコスト差です。
なお、JIS K5659の塗装系(A4塗装系)にも「シリコンアルキド樹脂塗料」が上塗り材として組み込まれており、公共工事・インフラ整備の仕様書に記載されることがあります。現場で仕様確認する際は、製品がJIS適合品かどうかを必ず確認しましょう。
参考:関西ペイントの塗装仕様ガイドに橋梁・鋼製煙突向けのシリコンアルキド系採用例が掲載されています。
施工品質の7割は素地調整で決まります。これは塗装の原則です。
シリコーンアルキド塗料を鋼構造物に塗装する場合、最大の前提条件は「素地調整の徹底」です。特に鉄鋼面には黒皮(ミルスケール)が残っていることがありますが、この黒皮を除去しないと長期的に塗膜下でのさび成長・塗膜剥離を招きます。ブラスト処理によって黒皮を確実に除去することが、塗膜寿命を大きく左右します。重防食塗料のガイドブック(塗料工業協会)でも、ジンクリッチ系を用いる長期防食塗装では黒皮残存が致命的になると明記されています。
塗り重ねの相性も重要な確認事項です。
シリコーン系の塗膜は表面エネルギーが低く、他の塗料との密着性が問題になることがあります。シリコーンアルキド塗料の上に別の塗料を重ね塗りする場合、あるいはシリコーンアルキド塗料を既存塗膜の上に塗る場合は、塗料メーカーの「塗り重ね適否表」を確認することが必須です。業界の標準資料として、塗料工業協会の重防食塗料ガイドブック(第5章・技術データ)にも「各種塗料間の塗り重ねの適否」一覧が掲載されており、現場でのチェックリストとして活用できます。
乾燥時間と気温にも注意が必要です。シリコーンアルキド塗料は気温が低くなると乾燥時間が著しく延びます。5℃以下では塗装が推奨されないことが多く、10℃を下回る環境では施工時間を余分に確保するか、施工自体を翌日以降に延期する判断が必要です。乾燥不十分のまま次工程に進んだ場合、塗膜の密着不良や膨れの原因になります。
乾燥後の膜厚確認も欠かせません。設計膜厚に対して実際の塗付量が不足している場合、耐候性・耐熱性は期待値を大幅に下回ります。特に複雑な形状の鉄骨では端部・溶接部・ボルト周辺で膜厚が薄くなりやすく、補修塗装のポイントになります。膜厚計(電磁式)を使って各部位の実測値を記録に残すことが、後工程のトラブル防止と品質証明につながります。
参考:塗装工業協会発行の重防食塗料ガイドブックには、塗り重ね適否表・気温と乾燥時間の相関図など施工の実務資料が網羅されています。
初期費用だけで塗料を選ぶのは、建築業の現場では危険な判断になります。これは意外ですね。
シリコーンアルキド塗料は、アルキド単体の塗料よりも単価が高くなります。しかし、塗替えサイクルで比較すると話が逆転することがあります。アルキド単独系で5年ごとに塗替える場合と、シリコーンアルキド系で10年サイクルで塗替える場合を比較すると、20年間のトータルコスト(材料費+足場費+施工費)はシリコーンアルキド系の方が安くなるケースが多くあります。足場費用は1回の施工で数十万〜数百万円規模になることがあり、塗替え回数を1回でも減らせるインパクトは非常に大きいです。
LCC(ライフサイクルコスト)の視点が条件です。
鋼橋の塗装LCC試算では、重防食塗装系(Rc-IV)で一般腐食環境における耐用年数を50年と設定した場合でも、初期コストは高いが長期的には割安になるとの計算結果が塗料工業協会の資料に示されています。同じ発想がシリコーンアルキド系の選定にも適用できます。
また、塗料のグレード選定では「1回の塗替えコスト」だけでなく「施設の供用年数」や「塗替え時のアクセスの難しさ」も加味する必要があります。高所や複雑な鉄骨形状の場合、足場組立・解体コストが塗料代の数倍になることも珍しくありません。そうした環境では、耐久性の高い塗料を選ぶことが結果的に最もコスト効率の良い選択です。
現場での塗料選定に迷った場合は、メーカーの技術営業担当者にLCC試算を依頼するのが最短ルートです。施工環境・使用年数・塗替えコストを入力することで、複数の塗装系を定量的に比較した提案を受けられることが多くあります。
参考:建築士向けの耐候性塗料の選定基準と耐用年数の目安が整理されているページです。
【建築士向け】耐候性塗料(DP)とは、特徴や適用下地は?|建材知識