スチームトレース銅管の選定と施工で失敗しない方法

スチームトレース銅管の選定と施工で失敗しない方法

記事内に広告を含む場合があります。

スチームトレース銅管の選定・施工・設計の基本

銅管トレースで普通のスチームトラップを使うと、蒸気を過剰に消費して年間数十万円の損失になります。


この記事のポイント
🔧
銅管を使う理由と材質の使い分け

スチームトレースに銅管が選ばれる理由は「施工性の高さ」にあります。曲げ加工が容易で、複雑な配管ルートにも柔軟に対応できます。ただし、材質選定を誤ると腐食・詰まりのリスクが生じます。

🌡️
温調トラップの必要性

100℃以下の低温トレースでは、汎用スチームトラップでなく「温調トラップ」が必須です。ドレンの顕熱まで利用できるため、蒸気消費量を大幅に削減できます。

⚠️
蒸気漏れによるコスト損失

スチームトラップ1台から蒸気が漏れ続けると、年間24万円以上の損失になるケースもあります。定期点検と早期交換が最大の省エネ対策です。


スチームトレース銅管とは何か:基本的な仕組みと役割

スチームトレース(Steam Trace)とは、オイルや粘性の高い化学物質などを輸送するプロセス配管の外面に、小径の蒸気管(トレース管)を沿わせて敷設し、流体の凝固や粘度上昇を防ぐ加熱保温システムです。石油化学プラント・食品工場・製薬工場など、幅広い産業施設で使われています。


スパイラックス・サーコの解説によれば、トレーサーは「通常大きい口径のプロセス配管の外面に沿って設置される小径の蒸気管」であり、熱伝導性の高い接着剤でプロセス配管と密着させた後、2本まとめて保温材で覆います。蒸気から伝わった熱がプロセス配管の内容物の温度を維持し、ポンプ輸送できる状態を保つわけです。


トレース管の材質として、銅管と鋼管SGP)の2種類が主に使われます。どちらを選ぶかは用途と環境によって判断が異なります。これが最初の重要な分岐点です。


銅管が選ばれる最大の理由は「施工性の高さ」です。


銅は柔軟性に富んだ金属であり、曲げ加工・引き回しが非常に容易です。複雑な形状の配管ルートや、バルブ・フランジ周辺のような入り組んだ箇所でも、銅管であれば手曲げで対応できます。鋼管はこうした施工性では銅管に大きく劣ります。一般的な現場では、銅管の口径はφ10mm〜φ15A(15mm)程度が標準で、SGP 15Aの鋼管と比較しても細くて取り回しやすいのが特徴です。


一方、銅管には「口径が小さく詰まりやすい」というリスクもあります。スケールや腐食生成物が堆積すると流路が塞がれ、加熱不足につながります。このため、スチームトレース専用として設計されたスチームトラップには、スケール除去のクリーニング機能が求められます。TLVのトラップ選定資料でも、スチームトレース用途では「銅管で発生する堆積物の影響を受けない」ことが必要要件として明記されています。


スパイラックス・サーコ|用語解説 トレース/トレーシングとは(蒸気トレースの基本概念と適用分野を解説)


スチームトレース銅管の材質と口径の選び方

銅管を使うのが「標準」とはいえ、すべての現場で銅管が正解というわけではありません。鋼管を選ぶべきケースも存在します。


銅管が適しているのは、配管ルートが複雑で現場での曲げ加工が多く必要な場合や、比較的低圧・低温の加熱トレースの場合です。凍結防止や低粘度オイルの保温といった用途では、銅管が圧倒的に使いやすいです。一般的にはこちらがほとんどです。


鋼管(SGP)が選ばれるのは、高温・高圧の蒸気を使う高温トレースや、爆発性雰囲気のある危険区域など銅管の使用に制約がある場合です。つまり鋼管を使うのは、銅管では危険性や強度的な問題がある特殊ケースに限られます。


口径については、銅管トレースでは一般的にφ10×1.0mm(外径10mm、肉厚1.0mm)またはφ12.7×1.0mm程度の軟質銅管が多く採用されます。大径のプロセス配管に対して複数本のトレース管を並走させる設計もあります。


| 比較項目 | 銅管 | 鋼管(SGP) |
|---|---|---|
| 施工性 | ◎ 曲げ加工が容易 | △ 硬く引き回しが難しい |
| 詰まりリスク | △ 小径のため詰まりやすい | ○ 比較的詰まりにくい |
| コスト | △ 材料費が高め | ○ 材料費は安価 |
| 使用圧力 | ○ 低〜中圧向き | ◎ 高圧にも対応 |
| 一般的な用途 | 凍結防止・低温保温 | 高温トレース・危険区域 |


保温材についても施工品質が重要です。トレース管とプロセス配管をまとめて保温材で覆う際、隙間ができると熱効率が大幅に落ちます。熱伝導性コンパウンドをトレース管とプロセス配管の接触部分に塗布することで、熱伝達率を高める方法も現場では採られています。意外ですね。


TLV|トラップ選定の手順 前編(スチームトレース用の必要要件と用途別比較を解説)


スチームトレース銅管に使うスチームトラップの選定ポイント

スチームトレースで最もよくある設計ミスが、スチームトラップの誤選定です。


一般的な蒸気設備には汎用のスチームトラップを使いますが、スチームトレース、特に100℃以下の低温加熱を行う「低温トレース」では、専用の温調トラップ(バイメタル式またはサーモエレメント式)を使わなければなりません。これが原則です。


なぜ専用品が必要なのかを理解するには、低温トレースの特殊性を知る必要があります。


通常のスチームトラップは「ドレンをすぐに排出し、蒸気は通さない」という動作が基本です。しかし低温トレースでは、凝縮したドレン(復水)がまだ熱を持っている間にそのドレンをプロセス配管に当て続けることで、顕熱(感熱)まで有効利用します。これはいわばドレンを意図的にトレース管内に留まらせる設計です。


TLVの技術資料では「凝縮したドレンをすぐに排出せず、被加熱物に熱を与えて所定の温度に下がるまでトラップ手前に滞留させておく必要がある」と明記されています。つまり、低温トレースでは「ドレンを意図的に滞留させる」という、通常のスチームトラップ設計とは真逆の思想が必要なわけです。


この特殊な目的に対応するのが温調トラップです。温調トラップはドレンが排出され始める温度を任意に設定でき、例えば「80℃以下になったらドレンを排出する」といった制御が可能です。アジャストボルトの回転で設定温度を変えられるタイプも多く、ミヤワキのTBシリーズのように、推奨用途がスチームトレースに特化した製品もあります。


温調トラップを使うことで得られるメリットは大きく2つです。


- 過加熱防止:流体を必要以上に加熱することがなくなり、品質劣化や事故リスクを抑えられます。


- 蒸気使用量の削減:顕熱まで使い切るため、蒸気の消費量が大幅に下がり、ランニングコストの削減につながります。


逆に言えば、低温トレースに汎用トラップを使い続けると、顕熱が全く利用されずにドレンとして捨てられ、蒸気のエネルギーをムダにしていることになります。これは時間コストです。


TLV|スチームトラップの用途別選定(低温トレース用途における温調トラップの必要性を解説)


ミヤワキ|バイメタル式温調トラップ TBシリーズ(銅管トレース推奨の温調トラップ製品情報)


スチームトレース銅管の施工における注意点と設計基準

現場での施工品質がトレースシステムの効果を大きく左右します。施工段階でのよくある失敗を理解しておくことが重要です。


回路長(トレース管の最大延長)の管理


スチームトレース回路の長さ、つまり1系統のトレース管が入口から出口までに延びる距離には、適切な設計上限があります。回路が長くなるほど途中での熱損失が大きくなり、末端では必要な温度を維持できなくなります。TLVの設計資料では、銅管を用いた低温トレースの場合、1回路あたり50〜100mを目安とすることが推奨されています(プロセス条件により異なります)。例えば50mは、コンビニの店舗の奥行き分を往復した長さ程度です。


これ以上に長い回路を設計すると、末端部での温度が設計温度を大幅に下回り、凍結や流体固化が発生するリスクが出てきます。複数回路に分けて設計するのが基本です。


スチームトラップの設置方向と位置


銅管トレース用の温調トラップには、取付け姿勢に制約がないタイプがあります。ミヤワキのTB1N型のような製品は「取付け姿勢に制約を受けない」という特長を持ち、現場での自由度が高くなっています。


一方、ディスク式など一部のスチームトラップは設置方向に制限があります。誤った方向に設置するとドレンが滞留したり、空打ちが発生したりして正常に機能しません。これは注意が必要な点です。


保温材の巻き方と保護


銅管トレースの施工では、トレース管とプロセス配管を合わせて保温材で覆う際の施工品質が重要です。特に以下の点に注意します。


- 保温材の継ぎ目部分の隙間をなくすこと(テープで確実に押さえる)
- フランジやバルブ周辺は脱着可能な保温カバー(ジャケット)を使うと、点検時の再施工が不要になる
- 屋外の露出箇所では保温材の外装(ラッキング)を施して雨水の侵入を防ぐ


屋外環境下では、雨水が保温材内部に入ると保温性能が著しく低下するだけでなく、銅管表面が湿潤状態になり腐食を促進させます。特にスチームトレース管のような小径配管は、腐食による肉厚減少がピンホールの原因になりやすいです。長さ1m、肉厚1mmの銅管が腐食で半分になると、蒸気圧に耐えられなくなるリスクが生じます。


高圧ガス保安法との関係


工場のプラント設備でスチームトレースを施工する場合、高圧ガス保安法の適用を受けることがあります。特に冷媒配管や危険物配管の凍結防止トレースなどでは、施工方法・材質・溶接方法について法令に基づいた対応が求められます。施工前に管轄の都道府県に確認することが推奨されます。これが条件です。


ミヤワキ|復水排出容量の把握(スチームトレース管の復水発生量計算式を詳解)


スチームトレース銅管の蒸気漏れ:コスト損失と点検の重要性

スチームトレースを施工した後、日常の運用管理が不十分だとどれほどの損失が生じるのか。具体的な数字で見ていきます。


スチームトラップ不良による損失額


TLVの試算によれば、スチームトラップ1台が「吹き放し(全開故障)」状態になると、蒸気漏洩量は約15kg/hになります。年間4,000時間稼働、蒸気単価4,000円/tと仮定した場合の損失額は以下のとおりです。


$$\text{年間損失} = 15 \text{(kg/h)} \times 4000 \text{(h/年)} \div 1000 \times 4000 \text{(円/t)} = 240,000 \text{円/年}$$


たった1台で年間24万円です。


ミヤワキの事例では、工場内のスチームトラップを診断したところ、蒸気漏れしているトラップの年間蒸気損失額が約181万円に達していたケースも報告されています。さらに、初回診断時のスチームトラップの平均不良率は20〜25%とされており、5台のうち1台が何らかの不良状態にある計算になります。痛いですね。


スチームトラップの寿命と交換サイクル


一般的な工場でのスチームトラップの寿命は、種類によって2〜8年程度です。設置から5年以上が経過していて、かつメンテナンスが行われていない場合、故障している可能性が高いとされています。建設から5年以上でノーメンテナンスなら、すでに損失が出ている可能性があります。


この事実を踏まえると、年に1回程度の定期的なスチームトラップ診断は、点検コストをはるかに上回るリターンをもたらします。


蒸気漏れを発見するための現場チェック


蒸気漏れの確認方法としては、超音波検査器や温度計(放射温度計)を使った非接触点検が一般的です。また、冬季など外気温が低いときに、トラップ周辺から不自然な湯気が立ち続けているようであれば、蒸気が抜け続けているサインです。ただし、湯気があっても正常なドレン排出の場合もあるため、診断には専門知識が必要です。


スチームトレース用の銅管配管自体に小穴が開いた場合も同様です。蒸気漏洩量の近似式(TLV方式)では「穴径(mm)の2乗 × 絶対圧(MPa) × 4.0 = 漏洩量(kg/h)」で概算できます。直径2mmの小穴が0.4MPaの配管に開いた場合、6.4kg/hの蒸気が漏れ続けることになります。


省エネ対策として蒸気漏れ改善を実施したい場合は、スチームトラップの専門診断サービス(ミヤワキやTLVなど)を活用することで、客観的なデータに基づいた優先順位での改善が可能になります。まず診断してみることをおすすめします。


TLV|小穴からの蒸気漏れ損失(蒸気漏洩量・損失コストの計算ツール付き)


ミヤワキ|スチームトラップ診断で蒸気ロスを削減(実際の工場での年間181万円損失発見の事例)


スチームトレース銅管の電気トレースとの比較:独自視点での選択基準

スチームトレースの代替手段として「電気トレース(電熱トレース)」があります。現場では「どちらにするか」で迷うことも多いでしょう。一般的な比較に加え、あまり語られない判断基準も含めて整理します。


一般的な比較項目


| 比較項目 | スチームトレース(銅管) | 電気トレース |
|---|---|---|
| 初期コスト | △ やや高い(配管工事費) | ○ 比較的安価 |
| ランニングコスト | ○ 蒸気源があれば安い | △ 電気代が継続的に発生 |
| 温度調整 | △ 圧力調整で対応 | ◎ 細かく自動制御可能 |
| 防爆対応 | ◎ 電気不使用で本質安全 | △ 防爆型の特別仕様が必要 |
| 配管延長 | △ 長距離は熱損失大 | ◎ 長距離にも対応しやすい |
| 蒸気設備の有無 | ◎ 既設蒸気が使える | ○ 蒸気設備が不要 |


現場でほとんど語られない視点:「蒸気源の信頼性」


スチームトレースを選ぶ際に注意すべき点として、蒸気供給の信頼性があります。ボイラーが停止すると蒸気トレースも機能しなくなります。厳冬期の夜間や連休中にボイラーが緊急停止した場合、プロセス配管内の流体が冷えて固化・凍結するリスクがあります。


一方、電気トレースは電源さえ確保できれば独立して機能します。このため、凍結防止が最優先で蒸気源の信頼性に不安がある小規模施設・独立配管では、電気トレースのほうが安全な選択になることがあります。これは使えそうです。


短配管・単独ポイントは電気トレースが有利


配管が短い場合(例:計装機器の凍結防止など数メートル規模)や、蒸気が利用できない箇所では、電気トレースが圧倒的に合理的です。スチームトレースは配管工事費・スチームトラップ費・保温工事費のセットで投資が必要なため、短距離の単独ポイントには割高になります。


逆に、広範囲に配管が巡らされた大規模製造施設で既に蒸気インフラが整っている場合は、スチームトレース銅管が圧倒的にコストパフォーマンスが高くなります。1系統あたり数百メートルの規模になるほど、蒸気トレースの優位性が際立ちます。


「どちらが優れているか」ではなく「自分の現場のどの条件が優先されるか」で判断するのが最善です。


スパイラックス・サーコ|蒸気トレースと電気トレースの比較表(両者のメリットを整理)