
防火扉は、火災発生時に炎や煙の拡散を防ぎ、建物内の人々の安全な避難を確保するための重要な防火設備です。建築基準法では「防火戸(ぼうかど)」という名称が正式に使用されていますが、一般的には防火扉や防火ドアとも呼ばれています。
防火扉は単なる「燃えにくい扉」ではなく、科学的な検証に基づいて定義された性能を持つ設備です。火災時に一定時間、炎や熱を遮断する能力(遮炎性能)を持ち、建物の防火区画を形成する重要な役割を担っています。
防火設備(旧乙種防火戸)は、2000年の建築基準法改正前は「乙種防火戸」と呼ばれていました。この種類の防火扉は、火災発生時に20分間の遮炎性能を持つことが特徴です。建築基準法では「閉鎖時に通常の火災時における火炎を有効に遮るもの」と定義されています。
防火設備として認められる主な製品には以下のようなものがあります。
意外なことに、建築基準法では網入りガラスや袖壁も「防火戸」として分類されています。一般的に「ドア」や「扉」と認識できないものでも、法律上は防火戸として認められているのです。
防火設備は主に以下のような場所に設置されます。
防火設備は、周辺で火災が発生した場合に延焼を防ぐために外壁に使用されることが多く、比較的小規模な建物や一般住宅でよく使用されます。
特定防火設備(旧甲種防火戸)は、2000年の建築基準法改正前は「甲種防火戸」と呼ばれていました。この種類の防火扉は、火災発生時に60分間(1時間)の遮炎性能を持つことが特徴です。建築基準法では「通常の火災の火炎を受けても1時間以上火炎が貫通しない構造を有するもの」と定義されています。
特定防火設備として認められる主な製品には以下のようなものがあります。
特定防火設備は主に以下のような場所に設置されます。
特定防火設備は、防火設備よりも厳しい認定基準が設けられており、より高い防火性能が求められる場所に使用されます。例えば、建物の密集地や幹線道路沿いなど、防火地域に指定されている場所では、1時間耐火できる特定防火設備を使用することが義務付けられています。
特定防火設備は、防火設備と比較して価格が高くなる傾向がありますが、より高い安全性を確保できるため、重要な防火区画や避難経路には不可欠な設備です。
防火扉の構造は、閉鎖方式によって「常時閉鎖型」と「随時閉鎖型」の2種類に分類されます。それぞれの特徴と違いについて詳しく見ていきましょう。
【常時閉鎖型防火戸】
常時閉鎖型防火戸は、普段は常に閉まっており、人が通過する際にのみ開放される防火扉です。以下の特徴があります。
常時閉鎖型防火戸は、常に閉じた状態を保つことで、火災発生時にすぐに防火区画としての機能を発揮できるメリットがあります。一方で、人の出入りが多い場所では使い勝手が悪くなる可能性があります。
【随時閉鎖型防火戸】
随時閉鎖型防火戸は、普段は開放状態で保持されており、火災を感知した場合にのみ自動的に閉鎖される防火扉です。以下の特徴があります。
随時閉鎖型防火戸は、人の往来が多い場所や、常に開放状態にしておきたい場所に適しています。ただし、感知器や閉鎖機構などの機械的な部分が多いため、定期的な点検・メンテナンスが重要です。
特定防火設備として認められる防火戸は、この「常時閉鎖型」と「随時閉鎖型」の2種類のみとなっています。どちらの構造を選ぶかは、設置場所の特性や使用頻度、避難計画などを考慮して決定する必要があります。
防火扉は形状や開閉方式によっても分類され、それぞれに特徴があります。設置場所や用途に応じて最適な形状を選ぶことが重要です。
【開き戸タイプ】
一般的なドアのように、蝶番を軸にして開閉するタイプの防火扉です。
【引き戸タイプ】
横方向にスライドして開閉するタイプの防火扉です。
【シャッタータイプ】
上から下に降りてくるタイプの防火設備です。
【折れ戸タイプ】
折りたたんで開閉する防火扉です。
防火扉の選定ポイントとしては、以下の要素を考慮することが重要です。
また、近年では防火性能を維持しながらもデザイン性の高い防火扉も増えてきています。防火ガラスを組み込んだおしゃれなデザインの防火扉や、外観と調和するデザインの製品も選べるようになっています。
防火扉は、火災時に人命を守る重要な設備であるため、適切なメンテナンスと定期的な点検が欠かせません。特に随時閉鎖型の防火扉は、火災感知器と連動して作動する機構を持つため、定期的な点検が法律で義務付けられています。
【法定点検の要件】
【日常的なメンテナンスのポイント】
【よくあるトラブルと対処法】
防火扉のメンテナンスを怠ると、火災時に正常に機能せず、人命に関わる重大な事態を招く可能性があります。また、消防点検で指摘を受けると、改善命令や罰則の対象となることもあります。
建築物の所有者や管理者は、防火扉の重要性を理解し、適切なメンテナンスと点検を実施することが責任として求められます。特に、多くの人が利用する商業施設や公共施設では、より一層の注意が必要です。
防火扉の設置は、建築基準法や消防法などの法律によって厳格に定められています。特に重要なのが「防火区画」との関係です。防火区画とは、火災の拡大を防ぐために建物を区切るための区画であり、防火扉はその区画を形成する重要な要素となります。
【防火区画の種類と防火扉の設置基準】
【設置が必要な主な場所】
防火扉の設置基準は、建物の用途や規模、地域の防火指定などによっても異なります。特に防火地域や準防火地域に指定されている場所では、より厳しい基準が適用されます。
建物を建てる際には、その土地が防火地域や準防火地域に該当するかを事前に確認し、適切な防火対策を講じることが重要です。各都道府県の公式サイトの都市計画情報などで調べることができます。
また、防火扉の設置については、建築基準法および所轄の官公庁の指示に従うことが必要です。不明点がある場合は、自治体(市町村等)または管轄の消防署に確認することをおすすめします。
東京消防庁:防火設備に関する指導基準
防火扉は、単に法律で定められているから設置するというだけでなく、火災時に人命を守り、被害を最小限に抑えるための重要な設備です。適切な種類の防火扉を正しく設置し、定期的なメンテナンスを行うことで、その機能を最大限に発揮させることができます。
建築施工に携わる方々は、防火扉の種類や設置基準について正確な知識を持ち、安全な建築物の実現に貢献することが求められています。