
JIS B 2220-2012「鋼製管フランジ」は、建築・設備工事において配管システムの接続に欠かせない重要な規格です。この規格は2012年2月20日に改正され、前回の2004年版から製品範囲の拡大と関連規格の改正に対応した内容となっています。
適用範囲は、蒸気、空気、ガス、水、油などの一般配管、圧力配管、高圧配管、高温配管、合金鋼配管及びステンレス配管に使用する鋼管とバルブなどの配管部品を接続するフランジに限定されています。呼び圧力は5K、10K、10K薄形、16K、20K、30K、40K、63Kの8段階で、呼び径は10A~1500Aまでの広範囲をカバーしています。
この規格の特徴的な点は、従来のJIS規格と比較してより詳細な材質区分と圧力-温度基準を設けていることです。炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼の材料を5つの材料区分(A、B、C、D、E)に分類し、それぞれに対応する材料グループ番号を設定しています。
また、この規格は日本金属継手協会が原案を作成し、現時点では対応する国際規格が制定されていない日本独自の規格となっています。建築設備においては、フランジ接続が配管の保守性や施工性に直結するため、正確な規格理解が不可欠です。
JIS B 2220-2012では、接続方法と用途に応じて6種類のフランジ形式を規定しています。各フランジの特徴を理解することで、適切な選定と施工が可能になります。
**ソケット溶接式フランジ(SW)**は、小径配管(50A以下)に最適化された形式で、配管をフランジに差し込んで隅肉溶接する構造です。施工性に優れ、漏れリスクが小さいため、精密な配管システムでよく使用されます。
**突合せ溶接式フランジ(WN)**は、配管と完全溶け込み溶接で接続する高強度タイプです。高圧配管での使用頻度が高く、配管との一体性が最も優れているため、重要な配管箇所に採用されます。
**遊合形フランジ(LJ)**は、配管端部にルーズに取り付けるタイプで、配管の熱膨張や振動に対応できる柔軟性を持っています。メンテナンス性に優れ、頻繁に分解する必要がある箇所に適用されます。
**ねじ込み式フランジ(TR)**は、配管にねじ込んで接続する簡易的な形式で、小径配管や仮設配管に使用されることが多いです。溶接作業が不要なため、現場での施工が容易です。
**板フランジ(IT)とブラインドフランジ(BL)**は、それぞれ特殊用途に対応する形式で、配管の端封や点検口として機能します。
フランジの密封性は、ガスケット座面の形状によって大きく左右されます。JIS B 2220-2012では、4種類のガスケット座面を規定し、使用条件に応じた最適な密封方法を提供しています。
**平面座(FF:Flat Face)**は、最も一般的な座面形状で、全面にわたって平面を形成します。JIS 10K FFフランジには全面形ガスケットの使用が推奨されており、低圧から中圧の配管に適用されます。ガスケット全面で圧力を受けるため、安定した密封性を確保できます。
**凸面座(RF:Raised Face)**は、座面が凸状に盛り上がった形状で、高い面圧によって優れた密封性を実現します。接触面積が限定されるため、同じ締付力でもより高い面圧が得られ、中高圧配管に適用されます。
**メタルファーシング座(MF:Metal Facing)**は、金属同士の接触による密封を図る高温・高圧用の座面形状です。ガスケットを使用せずに金属接触面で密封するため、特殊な加工精度が要求されます。
**タング・アンド・グルーブ座(TG:Tongue and Groove)**は、凹凸形状による機械的な嵌合で密封性を確保する形式で、振動の多い箇所や高圧配管に採用されます。
これらの座面形状の選定は、使用流体の性質、圧力、温度、振動条件を総合的に判断して決定する必要があります。間違った選定は重大な漏洩事故につながる可能性があるため、設計段階での慎重な検討が不可欠です。
フランジの材質選定は、使用環境の温度と圧力条件に基づいて決定されます。JIS B 2220-2012では、**材質を5つの区分(A、B、C、D、E)**に分類し、それぞれに材料グループ番号を割り当てています。
**炭素鋼(材料区分A)**は最も一般的な材質で、材料グループ番号001に分類されます。一般的な建築設備の給水、排水、空調配管に広く使用され、コストパフォーマンスに優れています。使用温度範囲は-29℃~425℃程度で、通常の建築用途には十分な性能を発揮します。
**低合金鋼(材料区分B、C)**は、より高い温度や腐食環境での使用を想定した材質です。材料グループ番号002、003aに分類され、化学プラントや高温配管システムで採用されます。炭素鋼と比較して耐熱性と強度が向上していますが、コストは高くなります。
**ステンレス鋼(材料区分D、E)**は、材料グループ番号013a、015a、021a、021b、022a、022bに細分化されています。耐食性と耐熱性に優れ、食品工場、医薬品工場、化学プラントなどの特殊環境で使用されます。
各材質区分には、圧力-温度基準表が設定されており、使用温度に応じた許容圧力が規定されています。例えば、炭素鋼の場合、常温での10K圧力等級フランジは1.0MPaの圧力に対応しますが、温度が上昇すると許容圧力は段階的に低下します。
この基準を正しく適用することで、安全で信頼性の高い配管システムを構築できます。材質選定の際は、初期コストだけでなく、維持管理費用や交換頻度も考慮した総合的な評価が重要です。
建築設備工事における配管フランジの詳細寸法表については、以下のリンクで確認できます。
JIS B 2220-2012規格の公式詳細情報
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JIS+B+2220%3A2012
フランジ接続の品質は、配管システム全体の信頼性を左右するため、施工段階での細心の注意が必要です。JIS B 2220-2012に準拠した施工を行うためには、複数の重要なチェックポイントを理解しておく必要があります。
ボルト締付け作業では、対角線上に均等な力で段階的に締付けを行います。一度に規定トルクまで締付けるのではなく、初回は規定トルクの1/3程度で全ボルトを仮締めし、その後2回目で2/3程度、最終的に規定トルクまで締付けます。この手順により、フランジ面の平行度を保ちながら均等な面圧を確保できます。
ガスケットの選定と取り付けも重要な要素です。フランジの座面形状に適したガスケット材質を選定し、取り付け時はガスケットの中心とフランジの中心を正確に合わせます。ガスケットに損傷がないことを確認し、古いガスケットの残渣が座面に付着していないことをチェックします。
意外に見落とされがちなのが、フランジ面の表面粗さ管理です。JIS B 2220-2012では、座面形状ごとに表面粗さの基準を規定しており、この基準を満たさない場合は適切な密封性が得られません。施工前にはフランジ面の清掃と表面状態の点検を必ず実施します。
配管の熱膨張対策として、フランジ接続部には適切な支持間隔を設け、熱膨張による応力がフランジ部に集中しないよう配慮します。特に高温配管では、運転時と停止時の温度差による材料の伸縮を考慮した設計が不可欠です。
現場での品質管理では、施工記録の作成が重要です。使用したフランジの規格、材質、ガスケット種類、締付けトルク値、施工者、検査結果などを詳細に記録し、将来のメンテナンス時に参照できるよう保管します。これらの記録は、トラブル発生時の原因究明や改善対策検討の基礎資料となります。