

アルミペーストが燃えたとき、水をかけると爆発的に水素ガスが発生し、消火どころか大火災になります。
旭化成アルミペーストは、アルミニウムを微細な鱗片状(うろこ状)の粒子に加工し、石油系有機溶剤でペースト状に練り上げた金属顔料です。アルミ粒子は厚さ0.1〜2μm程度(髪の毛の太さの約50分の1以下)の極薄フレーク状で、これが塗膜に光学的なきらめきを生み出します。
この製品が国内の金属顔料(メタリック系塗料用顔料)市場において約60%のシェアを占めているという事実は、建築業界においても無視できません。自動車ボディの塗装で使われるメタリック感と同じ原理の材料が、建造物の外装や鋼構造物の防食塗料にも使われているわけです。
旭化成アルミペーストを製造・販売しているのは、グループ会社の旭化成メタルズ株式会社(茨城県笠間市の友部工場)です。旭化成グループの総合化学技術力を背景に、用途別に多数のグレードを展開しており、その品番数はシルバー系だけでも数百種に上ります。
建築分野で関係するのは主に以下の用途です。
- PCM・フッ素系外装塗料:外壁パネル(プレコートメタル)に使われ、意匠性・耐候性・耐薬品性・密着性が求められます。
- 耐熱・重防食塗料:鉄骨・鋼構造物の防食や工場設備の耐熱コーティングに使われ、反射性・防食性・リーフィング安定性が要求されます。
つまり外壁の見た目を美しくするためだけでなく、建物の寿命を左右する防食・遮熱機能にも直結した材料ということですね。
パウダー状のアルミニウム粉と比較すると、ペースト状にすることで粉塵爆発のリスクが大幅に低下します。しかし「ペーストだから安全」と思い込むのは危険です。引火性有機溶剤を含んでいるため、消防法上の危険物として適切な管理が必要になります。
旭化成アルミペーストにはいくつかのシリーズがあり、用途に応じた使い分けが必要です。まずは大きな分類として「スタンダードグレード」「デザイングレード」「樹脂コートグレード」の3カテゴリーを理解しておきましょう。
スタンダードグレードは汎用的な塗料・インキ用途に対応した基本品で、Mシリーズ(汎用型)などが代表例です。建築現場で「アルミペーストを使う」という場合、多くはこのシリーズが起点になります。Mグレードをベースに、白度を高めたMC・AMグレード、輝度を高めたMGグレード、高白度・高輝度・高フロップ性を兼ね備えたMHグレードへとラインアップが広がっています。
デザイングレードはさらに上位の意匠性を追求したシリーズで、FD・GX・BSの3系統があります。
- FDシリーズ:高フロップ性(見る角度によって明暗が変化する効果)が特徴
- GXシリーズ:GX-4100が特に高輝度感を発揮し、外装塗料での金属感演出に有効
- BSシリーズ:緻密感と白度を追求したグレードで、外装パネルの高品位仕上げに適用
建築で注目したいのが、樹脂コートグレード(PV・TR・LR・THR・HR・CRシリーズ)です。これはデザイングレードのアルミ粒子に表面樹脂処理を施したもので、耐薬品性・耐電圧性・耐候性・密着性が大きく向上します。
特に屋外長期使用が前提の外装塗料では、無処理のアルミペーストより樹脂コートグレードを使うことで塗膜の耐久性が改善されます。これは意外と見落とされがちなポイントです。
もう一つ重要な分類が「リーフィングタイプ」と「ノンリーフィングタイプ」の違いです。
| 種類 | アルミ粒子の挙動 | 主な建築用途 |
|------|----------------|-------------|
| リーフィング | 塗膜表面に浮き上がり、連続した金属膜を形成 | 重防食塗料・耐熱塗料・遮熱塗料 |
| ノンリーフィング | 塗膜中に均一分散し着色メタリックが出やすい | 外装意匠塗料・カラーメタリック仕上げ |
防食・遮熱目的なら原則リーフィングタイプです。アルミ粒子が塗膜表面に層状に整列することで、紫外線・水・ガスの浸入を物理的にブロックする「バリア効果」が最大化されるからです。一方で外装の意匠性(カラーメタリック)が目的ならノンリーフィングタイプ、と覚えておけばOKです。
旭化成アルミペーストグレード一覧(デザイングレード・樹脂コート)
アルミペーストが建築分野で特に評価される理由は、「光と熱を反射する」というアルミニウム本来の物理特性にあります。これが塗膜に組み込まれることで、単なる見た目の金属感だけでなく、実用的な断熱・防食効果を発揮します。
遮熱・断熱効果について
鱗片状のアルミ粒子が塗膜中に積層することで、太陽光(特に近赤外線)を効率よく反射します。一般的な遮熱塗料を屋根や外壁に塗布した場合、塗装面の表面温度を通常比で最大15〜20℃程度低下させる効果が報告されています。室内温度への影響は条件によりますが、小屋裏温度を3〜5℃程度下げる効果が期待でき、空調負荷の軽減につながります。
夏場の工場・倉庫屋根への施工では、屋根表面温度が16℃以上低下したというデータもあります。これは建物の快適性向上だけでなく、冷房費の削減にも直結します。この効果を活用しているのが建築用アルミニウム塗料(アルミニウムペイント)で、旭化成アルミペーストはその主要顔料として使われています。
重防食・防食効果について
鉄骨造の建物にとって、腐食(錆)は構造物の寿命を縮める最大の敵です。リーフィングタイプのアルミペーストを含む防食塗料を施工すると、アルミ粒子が塗膜表面で連続的な金属層を形成し、水・酸素・塩分の侵入を物理的に遮断します。これを「バリア防食」と呼び、重防食塗装仕様の中塗り・上塗り工程でよく採用されます。
国土交通省が定める「機械工事塗装要領(案)」でも、ダクト・排気管・建設機械の塗装においてアルミペーストを配合した耐熱アルミニウム塗料が仕様に盛り込まれています。これは建築設備の耐久性確保に国が認めた工法ということですね。
2025年10月の値上げ情報と現場コストへの影響
旭化成は2025年9月に、アルミペースト全品種について2025年10月1日出荷分からキロ当たり43円の値上げを発表しました。主な理由はアルミ地金・アルミ粉などの主原料価格の上昇です。
これは塗料メーカーへの直接影響が大きく、アルミペーストを使用した建築用塗料製品の価格にも波及する可能性があります。見積もり時期や発注タイミングによってコストが変わるケースがあります。受注先への価格変動の説明が必要な局面では、この値上げ情報を把握しておくと説明に説得力が増します。
化学工業日報:旭化成アルミペースト値上げ(2025年10月出荷分)の報道記事
旭化成アルミペーストは、消防法上「第四類危険物」または「第二類危険物(引火性固体)」に分類されます(グレードの溶剤種や含有量によって区分が異なります)。これが意味するのは、現場での保管・取扱いに法的ルールが適用されるということです。
保管ルール
消防法に適合した貯蔵が義務です。具体的には以下の点が要求されます。
- 直射日光・雨水・過度の湿気を避けた屋内に保管
- 保管温度は40℃以下(望ましくは15〜25℃)
- 密封状態での保存
- 指定数量以上を保管する場合は、許可を得た危険物倉庫での保管が必要
指定数量を超えた保管を無許可で行うと、消防法違反として行政指導や改善命令の対象になります。厳しいところですね。
取扱い時の注意
現場での使用時には次の点が原則です。
- 🔥 火気厳禁:有機溶剤(ミネラルスピリット、ソルベントナフサ等)を含むため、溶接作業や火花が飛ぶ作業との同時進行は絶対に避ける
- 💨 換気必須:有機則対象の有機溶剤を使用しているため、局所排気装置の設置が必要
- 🧤 保護具の着用:有機溶剤用マスク・手袋・保護眼鏡の着用が義務
- 💧 水との接触厳禁:アルミが水・酸・アルカリ・酸化剤と反応し、水素ガスが発生する危険がある
万一の火災時の注意事項(特に重要)
ここが冒頭の「驚きの一文」につながる核心部分です。もしアルミペーストに火がついた場合、水による消火は絶対に禁止です。水をかけると、アルミニウムが水と反応して大量の水素ガスが発生し、爆発的な燃焼拡大を招きます。
正しい消火手順は以下のとおりです。
1. まず溶剤火災の初期消火に炭酸ガス消火器または粉末消火器を使用
2. アルミ粉末が燃焼している段階では乾燥砂や不燃性繊維布で窒息消火
3. 泡消火器・ハロゲン系消火器は使用厳禁(アルミニウムと化学反応するため)
建築現場の消火器が粉末消火器であれば初期対応は可能ですが、泡消火器しかない場合は使えません。現場の消火設備の種類を事前に確認することが肝心です。これが条件です。
旭化成は製品ごとに製品安全データシート(SDS)を発行しており、取扱い前に必ずSDSを入手・確認するよう強く推奨しています。建築業界ではSDSを後回しにする慣習があるとも言われますが、法的義務(化学物質管理の観点から)でもあります。
旭化成公式:アルミペーストの取扱いおよび貯蔵上の注意(消火方法・保管条件を詳細記載)
旭化成アルミペーストについて調べると、自動車や家電の話題ばかりが目につきます。しかし建築分野独自の視点からは、まだ知られていない活用ポイントがいくつか存在します。
農業用ビニールや繊維への応用と建築への転用可能性
旭化成の公式用途表には「農業用ビニール」「繊維」「磁気カード」という記載があります。これは建築とは関係ないように見えますが、農業用ビニールへの適用技術(太陽光反射・遮熱)は、建築用防水シートや屋根養生シートの遮熱化にも応用できる考え方です。実際、アルミ蒸着を施した建築用断熱材や防水シートはすでに市販されており、その遮熱原理はアルミペーストと同じです。
ステアリン酸析出問題への対処
リーフィングタイプのアルミペーストは、保管中に白い粉状または粒状の析出物(ステアリン酸)が出ることがあります。これを「製品不良」と判断して廃棄してしまうケースが現場では発生しています。しかしこれは正常な現象であり、30〜45℃に温めて均一になるよう混合すれば問題なく使用できます。直火厳禁ですが、容器ごと湯煎する形で温めればOKです。
このステアリン酸析出に気づかず使用した場合、塗膜中のアルミ粒子分布が不均一になり、防食性・意匠性の低下につながります。開缶後に均一になっているかを目視確認する習慣が品質管理の基本です。
輸送中の分離現象への注意
アルミペーストは輸送中の振動により、アルミ分と溶剤分が分離することがあります。これも品質上は問題なく、使用前によく混合すれば正常に戻ります。しかし混合不十分のまま施工すると、上面と下面でアルミ濃度に偏りが生じ、塗膜の光学特性や防食性にバラつきが出ます。これは使えそうです。
特に夏場の長距離輸送品や、倉庫で長期保管されていた製品を使う際には、必ず開缶前にドラム缶を転がすか、缶を反転させてから開ける動作を徹底することが大切です。
水性塗料対応グレードと環境規制対応
近年、VOC(揮発性有機化合物)規制の強化やグリーン建築への対応から、建築塗料の水性化が進んでいます。ここで問題になるのが、従来の溶剤系アルミペーストは水性系塗料に混合できないという点です。
旭化成の樹脂コートグレード(特にHR・CRシリーズ)は、このような水性系・水分散系塗料への適合性を向上させた特殊グレードです。設計時に「水性化対応の外装メタリック塗料を採用したい」という要件がある場合、塗料メーカーへの発注仕様に樹脂コートグレードの使用指定を盛り込むことで、塗膜品質を担保できます。
環境対応と品質確保を両立したい現場では、「溶剤系か水性系か」という塗料の区分を確認し、対応するアルミペーストグレードが使われているかを確認するひと手間が後々のトラブル防止になります。
旭化成:樹脂コートグレード紹介(PV・TR・LR・THR・HR・CRシリーズの詳細)