

ステンレス管は鉄管より伸縮量が約1.5倍あるのに、鉄管と同じ間隔で膨張継手を設置してしまっている。
配管は温度変化によって必ず伸び縮みします。これは材質に関係なく起きる物理現象です。鋼管・ステンレス管・塩ビ管のどれを使っていても、熱を受けた瞬間から微細な変位が始まっています。
膨張継手(正式名称:伸縮管継手)とは、この熱膨張による配管の伸縮を吸収するために配管の途中に組み込む部材です。配管を固定したままにすると、熱で伸びた分の力が継手・曲がり部・支持金物・機器ノズルへ集中します。その力が蓄積すると、接合部の変形・継手の疲労破損・最悪の場合は躯体の損傷につながります。
膨張継手が必要になるのは、主に以下の条件に当てはまる配管です。
つまり「動く要因がある配管」に対して、意図的に逃げ場を設けるのが膨張継手の役割です。
「配管が伸びるのは分かっていても、短い区間だから大丈夫だろう」と省略してしまいがちですが、温度差と配管長さから伸縮量を計算すると、意外に大きな数値になることがあります。たとえばステンレス管20mで温度差60℃あれば、伸縮量は約20.8mmです。はがきの短辺(約100mm)の約1/5に相当するわずかな数値ですが、これが金属の力として配管系統に作用し続けると、機器や継手には深刻なダメージを与えます。
膨張継手は必須です。
参考:配管の熱膨張と熱伸縮処理(ベンカン)―ステンレス管の温度差別伸縮量の計算式と施工方法が掲載されています。
https://www.benkan.co.jp/value/construction/737.html
膨張継手にはいくつかの形式があります。現場でよく使われるのはベローズ形とスリーブ形の2種類です。どちらも軸方向の伸縮を吸収しますが、構造と得意領域が異なります。これが条件です。
ベローズ形伸縮管継手は、蛇腹(ベローズ)構造によって伸縮を吸収します。JIS B 2352に規格化されており、建築設備では最も一般的な形式です。反力が小さく、機器ノズル付近でも配管への負荷をかけにくいのが特長で、振動吸収にも有効です。
ただし構造上、ベローズの疲労破壊による漏水のリスクがある点には注意が必要です。設置にあたっては単式と複式の2形式があり、単式は約20mに1個、複式は約40mに1個が目安の設置間隔です。
スリーブ形伸縮管継手は、内管が外管の中を摺動することで伸縮を吸収する構造です。ベローズ形より伸縮吸収量が大きく、変位量が明確な直線長距離配管に向いています。ただし摺動部のシール管理や施工精度が重要で、芯ずれが生じると漏水リスクが高まります。
表にまとめると次のように整理できます。
| 形式 | 伸縮吸収方法 | 主な特長 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ベローズ形(単式) | 蛇腹の変形 | 反力小・振動対応可 | 疲労破壊リスクあり |
| ベローズ形(複式) | 蛇腹2か所の変形 | 固定点荷重を軽減 | コスト・施工手間増 |
| スリーブ形 | 内管の摺動 | 大きな伸縮量に対応 | 施工精度・シール管理が重要 |
また、フレキシブルジョイントと伸縮継手を混同するケースがあります。意外ですね。フレキシブルジョイントは振動・芯ずれ・角変位に対応しますが、軸方向の計画的な伸縮量を管理する目的ではベローズ形伸縮管継手のほうが適しています。ポンプ周辺では振動対策としてフレキを使いつつ、長い直管部には伸縮継手を設けるという組み合わせが基本です。
選定の判断軸は「どこで動きを吸収するか」を先に決めること。製品名から選ぶのではなく、配管が動く量・方向・条件を整理してから形式を決めるのが合理的な手順です。
参考:4-5 伸縮管継手と変位吸収管継手(モノタロウ)―各形式の構造と特徴、選定時の考え方が解説されています。
https://www.monotaro.com/note/readingseries/haikankoujikisokouza/0405/
膨張継手の設置判断で最もよく見落とされるのが、配管材質による線膨張係数の差です。鉄管と同じ感覚でステンレス管や塩ビ管を扱うと、計算上は膨張継手が足りないことになります。これは使えそうです。
主な管種の線膨張係数は以下の通りです。
| 管種 | 線膨張係数(/℃) | 10℃変化・1mあたりの伸縮量 |
|---|---|---|
| 炭素鋼鋼管 | 約11.6×10⁻⁶ | 約0.12mm |
| ステンレス鋼鋼管 | 約17.3×10⁻⁶ | 約0.17mm |
| 銅管 | 約17.6×10⁻⁶ | 約0.18mm |
| 硬質塩化ビニル管(塩ビ管) | 約70×10⁻⁶ | 約0.70mm |
ここで注目してほしいのがステンレス管です。炭素鋼管と比較すると伸縮量が約1.5倍になります。ベンカンが公開している技術資料でも「設計・施工する際には十分に注意する必要があります」と明記されています。給水・給湯配管でステンレス管が広く使われている現在、この差は無視できません。
塩ビ管はさらに極端で、鋼管の約4〜6倍の線膨張係数を持ちます。温度差10℃で1mあたり0.7mmも伸縮します。たとえば5mの塩ビ排水縦管が夏冬40℃の温度差にさらされると、単純計算で14mm伸縮します。これはボールペンのキャップ1個分程度の動きです。1本の管でそれだけ動くなら、多層階の縦管では各階ごとに伸縮継手の設置が基本となります。
クボタケミックスが公表したメーカー9社の調査では、排水継手(DVおよびVUDV継手)の疲労破壊クレームが数年間で55件報告されており、そのほとんどが伸縮継手の未設置・不適切設置によるものでした。伸縮継手の位置が問題です。
さらに見落としやすいポイントがあります。伸縮継手を設置しても、排水継手の上流側に近い位置に設置しないと効果が発揮できません。継手と継手の中間に設置すると、熱応力の緩和効果が下がり、割れ事故の原因になります。
参考:塩ビ排水配管における伸縮処理のための伸縮継手設置基準(クボタケミックス)―各管径・温度差別の伸縮受持ち長さ計算結果が掲載されています。
https://www.kubota-chemix.co.jp/dcms_media/other/sinsyuku-kizyun.pdf
膨張継手を設置しさえすれば安心、というわけではありません。固定点とガイドが正しく設計・施工されていないと、継手が機能しないどころか、かえってトラブルの原因になります。痛いですね。
固定点は、配管の基準となる位置を物理的に動かないよう固定する箇所です。膨張継手はこの固定点を起点として、一方向に伸縮を吸収します。固定点がないか、弱い状態だと配管が想定外の方向へ動き、継手に偏荷重がかかります。
蒸気配管では特にリスクが高く、スチームトラップの不具合などでドレンが滞留した状態から急激に蒸気が流れると、スチームハンマが発生することがあります。そのハンマ力が固定点に集中し、固定点ごと破損・移動することで伸縮継手本体を壊してしまった事故事例も報告されています。固定点の溶接の徹底と、スチームトラップの定期点検が不可欠です。
ガイドは、配管の横方向のズレを抑えながら軸方向だけに動くよう誘導する部材です。ガイドが近すぎると伸縮を妨げ、遠すぎると横振れが生じます。一般的には膨張継手の近傍と、一定ピッチで配置するのが基本です。
施工時に多いミスとして以下が挙げられます。
国土交通省の「公共建築設備工事標準仕様書(機械設備工事編)」でも、伸縮管継手を備える配管には伸縮の起点として有効な箇所に固定およびガイドを設けることが明記されています。これを守れば問題ありません。
固定が少数で明確であること、ガイドが適切なピッチで配置されていること、この2つが膨張継手を正しく機能させる条件です。
参考:伸縮管継手の破損トラブル事例(フシマン)―固定点破損とスチームハンマによる継手破損の具体的な原因と対策が記載されています。
https://fushiman.co.jp/data/202409/hasontoraburu1.pdf
「短い配管だから膨張継手は不要」と判断するケースは少なくありません。しかし実際には、配管長さだけで判断するのは危険です。これが盲点になっています。
たとえば塩ビ管の場合、クボタケミックスの計算基準によると、差込ソケット(呼び径75)1個が受け持てる伸縮量は±10mm、温度差40℃では受持ち長さは3.5mになります。つまり、4m未満の短い区間でも温度差が大きければ継手1個分の受け持ち範囲を超える可能性があります。短い配管でも条件次第で膨張継手は必要です。
一方で、「タコベンド(コの字型迂回配管)」と呼ばれる手法もあります。これは配管をあえて曲げて迂回させ、配管自体のたわみで伸縮を逃がす方法です。ベンカンの技術資料でも「配管の可とう性を利用した方法」として紹介されており、主管から分岐する枝管ではスイベルジョイント方式と組み合わせた施工が一般的とされています。
ただし注意点があります。タコベンドで伸縮を吸収できる量は、曲がり部の配管長さと許容曲げ角度によって決まります。BKジョイントⅡを使う場合は回転角度・曲げ角度2°以下の範囲で計算し、配管長さを決定する必要があります。また、タコベンドと膨張継手を併用する場合は、どこで伸縮を吸収するかの「主役」を明確にしないと、ガイドや支持金物に想定外の力がかかります。
独自の視点として強調したいのは、「タコベンドだけで完結すると思って膨張継手を省略した配管」で後から漏水が起きるパターンが存在するという点です。これは設計の意図が施工側に正確に引き継がれていないことが原因になることが多く、設計図への明示と施工前の打ち合わせが重要です。結論は共有不足が事故の温床です。
このような施工後のリスクを防ぐには、設計段階で固定点・ガイド・膨張継手の位置を示した「配管伸縮処理施工要領図」を作成し、施工者と共有する運用が効果的です。国土交通省の「公共建築設備工事標準図(機械設備工事編)」では、この施工要領の標準図が整備されているため、参考資料として活用できます。
参考:公共建築設備工事標準図(機械設備工事編)(国土交通省)―伸縮管継手の固定・ガイド・座屈防止用形鋼振れ止め支持の施工要領図が掲載されています。
https://www.mlit.go.jp/gobuild/content/001888832.pdf

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