

a種1を「とりあえず吹けば大丈夫」と思っていると、竣工後に壁内結露で構造材が腐朽し、補修費用が100万円を超えるケースがあります。
現場発泡断熱材は、JIS A 9526「建築物断熱用吹付け硬質ウレタンフォーム」で規格化されており、建築現場では複数の種類が使い分けられています。まず全体の分類を整理しておくと、現場発泡ウレタン系は大きく「軟質(連続気泡)」と「硬質(独立気泡)」に分かれます。
軟質タイプに相当するのがA種3(いわゆる100倍発泡)です。原液を1mm吹き付けると約100mmまで膨張するほど低密度で、スポンジのように気泡がつながった連続気泡構造を持ちます。一方、A種1・A種1Hは発泡倍率が30〜40倍程度の硬質タイプで、気泡が独立した独立気泡構造です。これは浮き輪の気泡に似ており、湿気や水を通しにくい特性があります。
| 種類 | 発泡倍率 | 気泡構造 | 熱伝導率(JIS規格値) | 防湿層の要否 |
|------|----------|----------|------------------------|--------------|
| A種3 | 約100倍 | 連続気泡 | 0.040W/(m·K)以下 | 原則必要 |
| A種1 | 30〜40倍 | 独立気泡 | 0.034W/(m·K)以下 | 条件付き省略可 |
| A種1H | 30〜40倍 | 独立気泡 | 0.026W/(m·K)以下 | 省略可 |
ここで見落とされがちなのが、A種1とA種1Hの違いです。発泡倍率こそ似ていますが、熱伝導率に最大0.008W/(m·K)の開きがあります。数字だけ見ると小さく感じますが、実際の施工厚みに換算すると、同じ断熱性能(熱抵抗値)を得るためにA種1Hならば必要な厚みがA種1よりも約2割薄くなります。つまり省スペースで高い性能を確保できるということですね。
A種1Hの大きな特徴は、発泡剤にHFO(ハイドロフルオロオレフィン)を使用している点です。HFOはオゾン層破壊係数(ODP)が0、かつ地球温暖化係数(GWP)が50未満という環境配慮型の発泡剤です。一方、A種1は発泡剤として二酸化炭素(CO2・水)を使用するいわゆる「水発泡タイプ」です。断熱性能の高さと環境性能の両立を求める場合はA種1Hが選択肢になりますが、製品コストはA種1より高めになる点も現実として把握しておく必要があります。
準建材トップランナー制度(資源エネルギー庁、2017年告示)では、吹付け硬質ウレタンフォームについて熱伝導率の目標値として0.026W/(m·K)が2023年度目標として設定されました。この目標値を達成できるのはA種1Hのみであり、業界全体としてA種1からA種1Hへの移行が求められてきた背景があります。
日本ウレタン工業協会:新発泡剤製品のご紹介(JIS改正・HFO対応の詳細)
a種1を選ぶ大きな理由の一つに「防湿層が不要(または省略可能)」という点を挙げる施工者は多いです。ただし、この理解には条件があることを正確に押さえておく必要があります。
独立気泡を持つA種1・A種1Hは、連続気泡のA種3と比較して透湿抵抗が格段に高いです。A種3は原則として防湿層の設置が必要ですが、A種1の場合は省エネ基準上の「透湿抵抗比」の要件を満たすことで防湿層を省略できる条件が整います。特にA種1Hは透湿抵抗がさらに大きく、省エネルギー基準において防湿層の設置が求められないケースが多いです。
これが原則です。
しかしここで重要なのが「スキン層(表面皮膜)の扱い」です。発泡ウレタンを吹き付けると、表面に薄い樹脂膜ができます。これをスキン層と呼びます。まるで蒸しパンの表面のような薄膜で、これが湿気の侵入を抑える役割を果たしています。
問題が発生するのは、吹き付け後に断熱材が柱からはみ出した部分をカット(トリミング)するときです。カットした断面はスキン層が失われ、気泡が露出した状態になります。A種3のような連続気泡タイプでは、スキン層を失うことで湿気がより通りやすくなるため、壁体内結露のリスクが大きく高まります。このリスクを踏まえると、A種3でスキンカットが行われる現場では室内側の防湿シートが「必須」といってよい対策になります。
A種1・A種1Hは独立気泡構造なので、スキン層がカットされても内部の気泡がそれぞれ独立しているため、A種3ほどの影響はありません。これがa種1系の大きなアドバンテージです。とはいえ、スキン層が存在する状態の方が透湿抵抗は高く保たれることも事実であり、スキンカットをなるべく最小限にする施工意識は品質向上に直結します。
壁の断面構成として湿気の移動を正確に把握したい場面では、国土交通省の設計・施工編(省エネ基準関連マニュアル)が実務上の参考になります。
国土交通省:住宅省エネ設計・施工編(全国4〜7地域版)第2版 — 断熱材種別による防湿層の要否判断に関する記述あり
a種1の施工で見落とされやすい管理ポイントのひとつが「厚み管理」です。吹き付けウレタンは流動性のある原液が発泡しながら広がるため、厚みの均一性をコントロールするには経験と技術が求められます。
日本ウレタン工業協会の品質自主管理基準(第6版)では、吹き付け厚さについて以下のルールが定められています。
- 🟦 1層あたりの吹き付け厚さ:30mm以下
- 🟦 1日の総施工厚さ:80mm以下
- 🟦 総厚さが30mmを超える場合は多層吹きとする
つまり、仕様上75mmの充填断熱が求められる壁の場合、一度に75mm吹くことはできません。30mm以下ずつ、複数層に分けて吹き重ねる必要があります。1日80mm以内というのも上限であり、より厚い断熱仕様(たとえば屋根断熱で100mmを超える場合)は2日以上に分けて施工することになります。
これは必須の管理項目です。
なぜこのルールがあるのかというと、一度に大量の原液を吹き付けると発泡反応による発熱が過大となり、フォームの品質(密度・強度・断熱性能)が不安定になるリスクがあるためです。厚さが過剰になると中心部の硬化が不十分になり、長期的な変形や性能低下につながりかねません。
施工後の確認方法として実務で使われるのが厚みゲージ(ピン法)による測定です。発泡ウレタンにピンを差し込み、施工厚みを計測します。この計測を施工箇所ごとに記録として残しておくと、万一クレームや調査が発生した際に証明資料になります。許容範囲は目標値の0〜+10mmが目安とされており、薄い方向への不足は認められません。痛いですね。
施工後に厚みが不足していることが判明した場合は、追加吹きで修正することになります。一方、過剰に吹き付けてはみ出した部分は専用のカッターでトリミングしますが、前述のようにスキン層を失う点を念頭に置いた処置が求められます。
日本ウレタン工業協会Q&A:スプレー発泡による施工の1層厚さと多層吹きのルール解説
断熱材の種類を正しく選んでも、壁体全体の「湿気の動き」を設計段階で把握しないと、内部結露を起こす構成になってしまうことがあります。これが実は現場発泡断熱材を扱ううえで最も見落としが多い領域です。
内部結露は、室内の暖かく湿った空気が壁内部に侵入し、外気に近い冷たい面で冷やされて結露する現象です。冬季に顕著で、発生すると木材の腐朽・カビ・断熱性能の低下といった深刻な問題につながります。
a種1(独立気泡)は透湿抵抗が高いという性質から、室内側からの湿気移動を自ら遮断する効果があります。これが防湿層を省略できる根拠のひとつです。ただし、外壁側の仕上げ材・合板・透湿防水シートとの組み合わせによっては、湿気が「壁の中に閉じ込められる」構成になることもあります。
具体的には、外壁側に構造用合板(透湿抵抗が比較的高い)を用いている場合、室内側にa種1を充填すると、断熱層の内側も外側も湿気が抜けにくい構成になります。理論上は内部に湿気が入りにくければ問題は少ないですが、施工精度や長年の経年変化で僅かな湿気が侵入した場合の「逃げ道」がない点はリスクとして認識すべきです。
こういった壁体設計の湿気評価には、定常結露計算(グラフ法や数値計算)が活用されます。地域の温湿度条件(1〜8地域の各気候区分)をもとに、壁断面ごとに冬季・夏季の露点温度を確認するアプローチです。これは設計者だけでなく、施工者も基礎的な知識として持っておくと現場での判断力が高まります。
また、屋根断熱でa種1を使う場合は特に注意が必要です。野地板の上部に通気層を設けず、直接a種1を吹き付けてしまうと、夏型結露の原因になることが知られています。屋根断熱では通気層の確保が原則です。通気層がない場合は、伏せ材側から湿気が入り込み屋根合板が腐朽するリスクがあります。
つまり壁体構成と通気設計がセットです。
子育て世代の家設計室:発泡ウレタンに防湿シートが必要な理由と内部結露のしくみ解説
2022年の建築基準法改正・省エネ法強化を受けて、住宅の断熱等性能等級が改訂され、等級6・等級7という上位区分が新設されました。これは建築業従事者にとって、使用する断熱材の選定基準が実質的に変わることを意味しています。
等級4(従来の最高基準)と等級5・6・7では、必要な断熱材の熱抵抗値が大きく異なります。たとえば6地域(温暖地)の壁充填断熱において、等級4の熱抵抗基準は2.2m²·K/Wですが、等級6では4.0m²·K/Wを超える仕様が求められます。
A種1(熱伝導率0.034W/(m·K))を壁の充填断熱に使用する場合、熱抵抗4.0m²·K/Wを確保するには。
$$厚み = 熱抵抗 \times 熱伝導率 = 4.0 \times 0.034 = 0.136m = 136mm$$
つまり136mm以上の充填断熱厚みが必要です。一般的な木造軸組の柱寸法(105mm角)では1回の充填だけでは足りず、付加断熱との組み合わせが現実的になります。
一方、A種1H(熱伝導率0.026W/(m·K))で同じ熱抵抗を確保するには。
$$厚み = 4.0 \times 0.026 = 0.104m = 104mm$$
104mmで達成できます。柱105mmの充填断熱のみで等級6水準に近い性能が取れることになります。これは設計自由度の面でも大きな差です。
この計算は設計担当者だけでなく、施工管理者がどの種類のウレタンを使っているかを現場で確認する重要性を示しています。発注書に「a種1系」と記載されていても、a種1なのかa種1Hなのかで必要施工厚みが変わります。仕様書と現場で使われている原液の種類が一致しているかを確認する習慣は、品質確保に直結します。
実務上の確認ポイントを整理すると次の通りです。
- ✅ 原液ドラム缶のラベルに記載されたJIS種類(A種1/A種1H)を確認する
- ✅ 設計図書の断熱仕様(熱抵抗値・断熱等級)と照合する
- ✅ 施工厚み計測値を記録・保管する(各施工部位につき複数点)
- ✅ 熱橋部(柱・梁・土台)への対応方法を確認する
断熱等級の向上と省エネ義務化の流れのなかで、現場での材料管理と施工記録の精度が問われる時代になっています。記録として残す、それだけで大丈夫です。
日本ウレタン断熱協会(JUA)が公開している品質管理基準は、施工現場での自主管理シートとしても活用できます。
日本ウレタン断熱協会:協会品質管理基準(第2版)— A種1・A種1H・A種2・A種2Hの施工管理基準の詳細

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