腹起し材の規格と種類・サイズの選び方完全ガイド

腹起し材の規格と種類・サイズの選び方完全ガイド

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腹起し材の規格・種類・サイズを正しく選ぶための基礎知識

規格通りのH形鋼を使っても、継手位置が1か所でも支点にかかると山留め壁が崩壊した事例があります。


📋 この記事の3つのポイント
📐
腹起し材の規格はJIS規格準拠が基本

H形鋼や軽量形鋼など主要部材はJIS G 3101・G 3192に基づく規格品が使われ、サイズ選定の根拠となっています。

⚠️
継手位置と断面寸法の選定ミスが最大リスク

設計値通りの規格品でも、継手位置・スパン・断面二次モーメントの確認を怠ると現場崩壊につながる危険があります。

規格品の転用・再使用には細かい確認が必要

腹起し材は繰り返し転用される部材ですが、曲がり・断面欠損・腐食の有無を確認しないと安全率が著しく低下します。


腹起し材の規格の基本:JIS規格とH形鋼の標準サイズ一覧

腹起し材は、山留め工事において土圧や水圧を切梁や火打ちへ伝達するための水平方向の支持部材です。この役割の重要性から、使用する材料の規格が厳密に定められています。


一般的に腹起し材として使用されるのはH形鋼であり、JIS G 3101(一般構造用圧延鋼材)またはJIS G 3136(建築構造用圧延鋼材)に準拠した材料が使われます。断面形状については、JIS G 3192(熱間圧延H形鋼)が基準となります。つまり規格品の選定が原則です。


現場でよく使われる腹起し材のH形鋼サイズを以下にまとめます。


呼称(H×B) 高さ(mm) フランジ幅(mm) ウェブ厚(mm) フランジ厚(mm) 単位重量(kg/m)
H-200×200 200 200 8 12 49.9
H-250×250 250 250 9 14 72.4
H-300×300 300 300 10 15 94.0
H-350×350 350 350 12 19 137.0
H-400×400 400 400 13 21 172.0


H形鋼の標準長さは通常12m単位で流通しています。これはトレーラー輸送の制約や現場での取り回しを考慮した流通規格によるものです。ちなみに12mという長さは、大型乗用車2台分を並べたよりもわずかに長いイメージです。


腹起し材の選定では、単に「H-300を使う」という判断だけでは不十分です。断面二次モーメント(I値)や断面係数(Z値)を用いた構造計算に基づいてサイズを決定する必要があります。これが条件です。


設計者や現場管理者は、JIS規格の最新版を確認しながら使用材料の選定を行うことが求められます。規格の改定は定期的に行われており、古い規格を参照したまま施工すると設計上の齟齬が生まれるリスクがあります。


日本産業標準調査会(JISC)JIS規格検索 – 最新のJIS G 3192やG 3101の内容確認に活用できます


腹起し材の種類と断面形状:H形鋼・軽量形鋼・溝形鋼の違い

腹起し材に使用される断面形状は複数存在します。代表的なのはH形鋼ですが、現場の規模や土圧の大きさによって軽量形鋼(リップ溝形鋼)や溝形鋼(C形鋼)が採用されるケースもあります。意外ですね。


H形鋼が最も多く使われる理由は、上下フランジと垂直ウェブの構造により、曲げ剛性(断面二次モーメント)が高く、大きなスパンでも変形が少ないからです。山留め工事では通常、腹起し材の変形量を20mm以下に管理することが求められており、これを満たすにはH形鋼が最も効率的です。


溝形鋼(チャンネル)は、比較的浅い掘削(GL-3m程度まで)や小規模現場で用いられることがあります。2本の溝形鋼を背中合わせにして「ボックス断面」として使う方法も実務では知られています。この方法はH形鋼に比べてコストを抑えられる場合があり、予算が限られた小規模工事では検討の余地があります。


断面形状 主な用途 特徴 注意点
H形鋼 中・大規模山留め 曲げ剛性が高い 重量があり搬入コスト増
溝形鋼(2本組) 小規模・浅い掘削 軽量・低コスト 大土圧には不向き
軽量形鋼 仮設・超小規模 取扱いやすい 剛性が低く転用限界が早い


建築工事標準仕様書(JASS)や「仮設構造物の設計・施工マニュアル」では、腹起し材の断面性能について最低基準が示されています。これは必須の参考資料です。


断面形状を選ぶ際は、土圧係数・掘削深さ・切梁スパンの3つを整理してから判断するのが実務上の鉄則です。この3点が条件です。


全国仮設安全事業協同組合 – 仮設工事の安全基準・設計指針の情報が掲載されています


腹起し材のサイズ選定:スパン・土圧・切梁間隔との関係

腹起し材のサイズを現場で「なんとなく前回と同じH-300にした」という経験はないでしょうか。これは実は設計上のリスクにつながる判断です。


腹起し材に作用する荷重は、土圧・水圧・上載荷重などを合計した「側圧」として計算されます。側圧は掘削深さが1m増えるごとに大きく変化するため、たとえ隣の現場と同じ地盤条件に見えても、深さが2m違えば作用荷重は大幅に変わります。


腹起し材の設計では、以下の2つの照査が基本です。


- 曲げ応力度の照査:作用曲げモーメントMに対して、断面係数Zから求まる曲げ応力度σbが許容曲げ応力度以下であること
- たわみの照査:腹起し材のたわみ量δが許容変形量(通常20mm)以下であること


切梁の水平間隔(スパン)が広いほど腹起し材に作用する曲げモーメントは急増します。スパンが2倍になると、曲げモーメントは4倍になります。これは重要な数字です。たとえばスパン3mの現場と6mの現場では、同じ土圧でも腹起し材に求められる断面性能がまったく異なります。


具体的な計算例を示すと、水平方向の切梁間隔L=5m、作用側圧p=30kN/m²のとき、単純梁モデルでの最大曲げモーメントは以下のとおりです。


$$M = \frac{p \cdot L^2}{8} = \frac{30 \times 5^2}{8} = 93.75 \text{ kN·m}$$


この曲げモーメントに対して必要な断面係数Zは、許容曲げ応力度fb=156N/mm²(SS400の場合)とすると、


$$Z = \frac{M}{f_b} = \frac{93.75 \times 10^6}{156} \approx 600 \text{ cm}^3$$


H-300×300のZx値は約1,350cm³ですので、このケースでは対応可能です。ただし、スパンが6mに広がると必要断面係数は約864cm³になり、より大きなサイズへの変更を検討する必要が出てきます。つまり数字で確認が基本です。


腹起し材の継手位置と施工上の注意点:規格品でも油断は禁物

腹起し材で見落とされやすいのが「継手位置」の問題です。規格品のH形鋼を使っていても、継手の位置が誤っていると構造上の弱点になります。


腹起し材の継手は、原則として切梁や火打ち材との交点(支点)付近に設けてはいけません。支点付近は剪断力が最大になる箇所であるため、継手の引張・圧縮耐力が不足するリスクがあります。継手は曲げモーメントが小さくなる支点から25%程度の位置(1/4スパン付近)に設けるのが原則です。


現場では「12mの規格品を使い回しているうちに継手がどこに来るかわからなくなる」という声を聞くことがあります。これは施工計画の段階で継手位置をあらかじめ割り付けておくことで防ぐことができます。施工前の継手割り付け図の作成が条件です。


また、腹起し材と山留め壁の密着性も重要です。腹起し材と壁面の間に隙間が生じると、土圧を均等に伝達できず局所的な応力集中が発生します。隙間が10mmを超える場合は、裏込めモルタルや鉄板を挿入して密着させることが必要です。


継手部のボルト・溶接施工においては、JIS規格品の高力ボルト(F10T)を使用し、設計で指定されたトルク値で締め付けることが不可欠です。現場で「手ごたえで締めた」という施工は許容されません。厳しいところですね。


確認項目 基準・目安 見落とした場合のリスク
継手位置 支点から1/4スパン付近 継手部破断・山留め崩壊
腹起し材と壁の隙間 10mm以下を目安に裏込め 局所応力集中・変形増大
ボルト締付けトルク 設計指定トルク値(F10T等) 継手滑り・耐力不足
継手のスプライスプレート 規格品・設計図通りのサイズ 断面欠損・安全率低下


国土交通省 土木工事共通仕様書 – 山留め工事に関する施工基準・継手規定の参考になります


腹起し材の転用・再使用時の規格確認:見落としがちな断面欠損チェック

腹起し材は仮設部材として分類されるため、複数の現場を渡り歩いて転用されることが多い部材です。しかしその「転用」という運用が、安全上の大きな落とし穴になることがあります。


転用材の場合、目視で問題がなさそうに見えても内部に微細な曲がり(キャンバー)や断面の腐食減肉が蓄積しているケースがあります。フランジ厚が設計値より1mm減肉しただけでも、断面係数は数%低下し、安全率が設計値を下回る可能性があります。これは意外な落とし穴です。


転用材を使用する際は、以下の点を必ず確認してください。


- 🔍 曲がりの確認:全長にわたって水糸を張り、中央部の最大たわみが長さの1/1000以下(12m材であれば12mm以下)であること
- 📏 断面寸法の実測:フランジ幅・ウェブ厚・フランジ厚をノギスで測定し、設計断面と±10%以内に収まることを確認
- 🦠 腐食・孔食の確認:錆による断面欠損、特にウェブの孔食は強度低下を招くため、直径10mmを超える孔食がある場合は使用不可
- 🔧 過去の溶接・切断痕の確認:溶接補修跡は熱影響による材質変化が生じている場合があり、その部位の耐力低下を考慮する必要がある


仮設材だからといって検査を省略することは許されません。「建設工事公衆災害防止対策要綱(土木工事編)」でも、仮設構造物の安全性確認義務が明記されています。これが原則です。


転用材の状態管理には、一部の建設会社でデジタル管理(QRコード・タブレット検査記録)を導入するケースも出てきています。転用のたびに紙の台帳に記録するよりも確実性が高く、後から状態履歴を追跡できるメリットがあります。現場管理の効率化を検討している担当者には、仮設材管理に特化したアプリやシステムの導入を調べてみることをおすすめします。


建設工事公衆災害防止対策要綱(国土交通省)– 仮設構造物の安全確認義務に関する公式資料です


腹起し材は「なんとなく使える」で判断せず、毎回の転用時に記録と確認を徹底することが、大きな事故を防ぐための最も確実な方法です。それだけ覚えておけばOKです。