公共建築数量積算基準令和5年改定のポイント解説

公共建築数量積算基準令和5年改定のポイント解説

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公共建築数量積算基準改定内容と実務影響

公共建築数量積算基準の重要ポイント
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令和5年改定の背景

脱炭素社会への対応と木構造基準の新規追加により、積算精度が向上

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適用範囲の拡大

鉄筋コンクリート造から木造軸組構法まで幅広い構造に対応

実務への影響

計測・計算方法の統一化により積算業務の効率化と精度向上を実現

公共建築数量積算基準令和5年改定の主要変更点

令和5年3月8日に官庁営繕関係基準類等の統一化に関する関係省庁連絡会議において決定された公共建築数量積算基準の改定は、建設業界にとって重要な転換点となりました。今回の改定では、従来の鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造、壁式鉄筋コンクリート造に加えて、新たに木造(軸組構法)が追加されたことが最大の特徴です。

 

この変更の背景には、脱炭素社会実現に向けた国の政策があります。木材の使用拡大は、CO2の固定化や森林資源の有効活用につながるため、公共建築物においても積極的に木造を採用する流れが加速しています。これに対応するため、木造建築物の積算に必要な詳細な基準が整備されました。

 

改定された基準では、数量の計測・計算における有効桁の取扱いについても見直しが行われています。具体的には、長さは小数点以下第1位、面積・体積・質量は小数点以下第2位とし、端数処理は四捨五入を原則としています。ただし、工事費内訳書の数量については、100以上の場合は整数とする規定が追加されました。

 

さらに、設計数量、計画数量、所要数量の定義がより明確化されました。設計数量は設計図書に記載されている寸法から求める数量、計画数量は施工計画に基づく数量、所要数量は実際の施工に必要な数量として区別されています。

 

公共建築数量積算基準における木造軸組構法の新規追加

今回の改定で最も注目すべき点は、木造(軸組構法)の計測・計算方法が新たに基準に組み込まれたことです。これまで公共建築では主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造が中心でしたが、環境配慮と地域材の活用促進の観点から、木造建築の需要が高まっています。

 

木造軸組構法の積算においては、従来の構造とは異なる特殊な考慮事項があります。例えば、木材の樹種による強度の違い、接合金物の種類と数量、防腐・防蟻処理の範囲などが重要な要素となります。新基準では、これらの要素を適切に数量化するための詳細な計測方法が規定されています。

 

特に注目すべきは、木材の計量方法です。従来の体積計算に加えて、構造材と造作材の区分、集成材無垢材の区別、さらには含水率による収縮を考慮した計算方法が導入されています。これにより、より精確な積算が可能となり、工事費の予測精度が向上しています。

 

また、木造特有の施工方法に対応するため、仮設工事の計算方法も見直されました。例えば、クレーンによる建方作業の効率性を考慮した揚重計画や、雨養生のための仮設屋根の設置期間なども基準に盛り込まれています。

 

公共建築数量積算基準の計測・計算方法と有効桁処理

公共建築数量積算基準における計測・計算方法は、積算業務の標準化と効率化を目的として詳細に規定されています。基本的な考え方として、計測における寸法の単位は原則としてメートル(m)を使用し、長さ・面積・体積・質量の単位はそれぞれm、㎡、㎥、kg、tとしています。

 

有効桁数の処理については、計測・計算過程での精度を保ちながら、実用性を考慮したルールが設定されています。長さの計測では小数点以下第1位まで、面積・体積・質量では小数点以下第2位までを標準としていますが、電子データを活用する場合は、計算過程でより高精度の数値を使用することも認められています。

 

端数処理は四捨五入を基本としており、最終的な工事費内訳書では、100未満の数量は小数点以下第1位、100以上の数量は整数で表示することが規定されています。この統一されたルールにより、発注者と受注者の間での数量認識の齟齬を防ぐことができます。

 

計測方法については、各工種ごとに詳細な基準が設けられています。例えば、根切り工事では、基礎の形状に応じた計測方法や山留め壁との余幅(標準1.0m)の考慮方法が規定されています。また、躯体工事においては、型枠面積の計算方法や鉄筋の重量計算における歩掛まりなども詳細に定められています。

 

公共建築工事標準単価積算基準との対応も重要なポイントです。数量積算基準で算出された数量は、単価積算基準で定められた単価と対応するよう調整されており、積算システム全体の整合性が保たれています。

 

公共建築数量積算基準と設備数量積算基準の連携

公共建築工事では、建築工事と設備工事の積算が密接に関連しており、公共建築設備数量積算基準との連携が不可欠です。令和5年の改定では、建築設備数量の算出において、直接仮設の取扱いが明確化されました。

 

設備工事の数量積算では、建築工事とは異なる特殊な考慮事項があります。例えば、ダクト工事における数量の計測では、ダクト幅の中心線長さを基準とし、曲がり部や分岐部では中心線上の延長直線の交点までの長さで計算します。長方形ダクトは表面積で、スパイラルダクトは口径ごとの長さで数量を算出するなど、形状に応じた詳細な規定があります。

 

機械設備工事においては、配管の材質や口径、保温仕様などによる区分が重要です。また、機器の設置に伴う建築工事への影響、例えば床・壁の開口部補強や防水処理なども適切に数量化する必要があります。

 

電気設備工事では、幹線ケーブルの長さ計算や分電盤の設置数量、照明器具の取付方法による工数の違いなどが考慮されます。特に公共建築では、防災設備や情報通信設備が複雑になる傾向があり、これらの数量積算には専門的な知識が必要です。

 

建築工事と設備工事の境界領域では、責任分担を明確にするための基準も整備されています。例えば、設備機器の搬入経路確保のための建築工事や、配管・配線のための躯体貫通孔の処理などは、両工事にまたがる重要な項目です。

 

公共建築数量積算基準活用による積算業務の効率化

公共建築数量積算基準の適切な活用は、積算業務の効率化と精度向上に大きく貢献します。国土交通省では、基準の運用を支援するため「公共建築工事積算基準等資料」や「営繕工事積算チェックマニュアル」も整備しており、実務での活用を促進しています。

 

デジタル化の進展により、BIM(Building Information Modeling)データから自動的に数量を抽出する技術も普及しています。公共建築数量積算基準に準拠したBIMライブラリを活用することで、設計段階から精確な数量データを取得でき、積算作業の大幅な効率化が可能となります。

 

積算チェックシステムの導入により、基準に適合しない計算や入力ミスを自動的に検出することも可能です。これにより、人的ミスの削減と品質の向上を同時に実現できます。特に複雑な公共建築工事では、このようなシステム活用の効果が顕著に現れます。

 

また、過去の工事データの蓄積と分析により、類似工事の積算精度向上も期待できます。公共建築数量積算基準に準拠したデータベースを構築することで、工種別・規模別の標準的な数量パターンを把握でき、初期段階での概算精度を高めることができます。

 

営繕積算方式の活用マニュアルでは、これらの効率化手法を体系的に解説しており、積算担当者のスキル向上にも寄与しています。継続的な研修と基準の理解深化により、組織全体の積算能力向上が実現できます。

 

横浜市などの地方自治体でも、国の基準を参考とした独自の積算マニュアルを整備しており、地域特性を考慮した運用が行われています。このような取り組みにより、全国的な積算技術の標準化と向上が推進されています。

 

国土交通省 公共建築数量積算基準ページ
https://www.mlit.go.jp/gobuild/kijun_touitukijyun_s_a_suuryou_sekisan_kijyun.htm
建設物価調査会 公共建築工事積算基準類の解説記事
https://www.kensetu-bukka.or.jp/article/15186/