

処分費を直接工事費に含めたまま計算すると、共通仮設費率がズレて数十万円単位で損失が出ます。
公共工事の積算では、工事費全体を「直接工事費」と「共通費」の2つに大きく分けます。共通費はさらに「共通仮設費」「現場管理費」「一般管理費等」の3つで構成されており、共通仮設費はその最初の費目に当たります。
共通仮設費とは、工事現場を運営するために現場全体で共通して必要となる仮設的な費用のことです。建物本体の施工に直接は紐づかないものの、工事を前に進めるためには欠かせない経費です。
たとえば以下のようなものが該当します。
これらの費用は工事の種類に関係なく一定程度発生するため、共通仮設費としてまとめて計上されます。
共通仮設費が原則です。現場管理費や直接仮設費と混同しないよう、整理しておきましょう。「直接仮設費」は特定の工種の施工に直接必要となる費用(外壁工事用の足場など)であり、あくまで工事ごとの直接工事費に含まれます。現場管理費は、現場監督の人件費や施工図作成費・通信交通費など、管理業務に関わる人的・事務的な経費です。共通仮設費は「物(仮設設備)」、現場管理費は「人と管理業務」という区分が基本です。
共通仮設費率は一律ではなく、工事規模(直接工事費の金額)が大きくなるほど低下する傾向があります。これは規模の経済性が働くためで、仮設事務所や安全設備などの固定的な費用は工事規模に比例して増加しないからです。
国土交通省の積算基準をもとにした、工事規模別の標準的な共通仮設費率の目安は以下のとおりです。
| 工事規模 | 直接工事費の目安 | 標準的な共通仮設費率 | 共通仮設費の概算額 |
|---|---|---|---|
| 小規模工事 | 1,000万円 | 8.5〜12.0% | 85〜120万円 |
| 中規模工事 | 5,000万円 | 6.0〜9.0% | 300〜450万円 |
| 大規模工事 | 1億円 | 4.5〜7.0% | 450〜700万円 |
| 超大規模工事 | 5億円 | 3.0〜5.0% | 1,500〜2,500万円 |
つまり、「共通仮設費は何パーセントか?」という問いに対して、「一律〇〇%」という答えは存在しません。直接工事費が1,000万円の小規模工事なら最大12%を超えることもあり、5億円超の大型工事なら3%台まで下がります。
「3〜12%の幅がある」が基本です。どちらの極端な値が適用されるかは、工事規模だけでなく工種や工期にも依存します。次のセクションで詳しく解説します。
国土交通省|公共建築工事共通費積算基準(令和7年改定)PDF
国土交通省が定める共通仮設費率の標準算定式は次のとおりです。
| 変数 | 内容 |
|---|---|
| Kr | 共通仮設費率(%) |
| P | 直接工事費(千円単位)※処分費を除く |
| T | 工期(ヶ月単位) |
| a, b, c | 工種ごとに決まる係数 |
算式は Kr = Exp(a + b × LogeP + c × LogeT) となり、各係数は工種によって異なります。
| 工種 | a | b | c |
|---|---|---|---|
| 建築新営 | 3.346 | −0.282 | 0.625 |
| 建築改修 | 3.962 | −0.315 | 0.531 |
| 電気設備新営 | 3.086 | −0.283 | 0.673 |
| 電気設備改修 | 1.751 | −0.119 | 0.393 |
| 機械設備新営 | 2.173 | −0.178 | 0.481 |
| 機械設備改修 | 2.478 | −0.173 | 0.383 |
| 昇降機設備 | 4.577 | −0.323 | (工期係数なし) |
たとえば、建築新営工事で直接工事費が2,000万円(P=20,000千円)、工期12ヶ月の場合の共通仮設費率は 8.22% となります(国土交通省の基準に基づく計算値)。同じ直接工事費でも工期が18ヶ月に延びれば共通仮設費率は上昇します。これは、現場を維持するコストが工期の延長とともに増えるためです。
工種によって率が大きく変わるということですね。たとえば電気設備改修は係数が低め(a=1.751)に設定されており、同じ工事規模でも建築新営より率が低くなるケースがあります。
上限値・下限値の計算式も別途定められており、「工期によらず工事規模だけで設定できる」という特徴があります。積算の検証や競合比較を行う際には、上限・下限値の把握も非常に重要です。
国土交通省|公共建築工事の工事費積算における共通費の算定方法及び算定例
共通仮設費率を正しく算出するうえで、多くの積算担当者が見落としがちなポイントが2点あります。まずはこの2つを確認しましょう。
① 処分費は直接工事費から必ず除外する
公共建築工事の積算基準では、共通仮設費率の算定に使う直接工事費に「建設発生土処分費」と「発生材処分費」を含めてはならないことが明確に規定されています(国土交通省「公共建築工事共通費積算基準」)。
ところが実務では、これらの処分費をそのまま直接工事費に含めて率計算してしまうケースが少なくありません。処分費は廃棄物の適正処理に直接かかるコストであり、「工事本体の費用」とは性質が異なるため除外する運用がすべての発注機関で徹底されています。
処分費が直接工事費の対象に含まれると、共通仮設費率の算定ベースが膨らみ、共通仮設費・現場管理費・一般管理費等が連鎖的に増加します。過大積算として発注者から指摘されるリスクがある、ということです。
② 補正係数を忘れない
標準的な共通仮設費率はあくまでも「一般的な市街地」を前提とした値です。現場条件に応じた補正係数を掛け合わせないと、実態に合わない金額になります。
| 補正の種類 | 補正係数の目安 | 適用される条件の例 |
|---|---|---|
| 市街地補正 | 1.3〜1.5倍 | 交通量の多い幹線道路沿い、住宅密集地での工事 |
| 山間部補正 | 1.2〜1.4倍 | アクセス道路が狭い山間部・離島での工事 |
| 冬期補正 | 1.1〜1.3倍 | 積雪地域での冬期施工 |
| 夜間工事補正 | 1.2〜1.5倍 | 交通規制等により夜間施工が必要な工事 |
| 工期短縮補正 | 1.1〜1.2倍 | 標準工期の80%以下での施工 |
たとえば、都心部の幹線道路で夜間施工が必要な工事(直接工事費1億円)の場合、基本率5.78%に市街地係数1.5と夜間補正係数1.3をかけると最終的な共通仮設費率は 約11.3% となり、金額にして約1,130万円が計上されます。補正前(5.78%、578万円)と比較すると差額は約550万円にもなります。
これは使えそうです。補正の漏れは単なる計算ミスにとどまらず、工事着手後に追加費用が発生して利益を直撃します。標準的な条件で施工できることは稀で、何らかの補正が必要と考えるのが原則です。
船井総合研究所|公共工事 積算ミスの代表例:処分費が共通仮設費に入らないワケ
「公共建築工事共通費積算基準」は社会情勢の変化に合わせて定期的に改定されており、古い基準のまま積算を続けることが積算ミスにつながります。令和7年の改定では特に以下の点が重要です。
① 週休2日制に対応した補正係数の適用
令和6年4月から建設業にも時間外労働の上限規制(いわゆる「2024年問題」)が適用されたことを受け、週休2日制の推進を前提とした共通仮設費率の補正が制度として確立されています。4週8休以上を確保する工事では、共通仮設費率に対して補正係数を乗じて算出します。これにより現場の休暇確保コストが適正に評価されるようになりました。
② 情報システム費の明確な計上
令和7年改定では「情報システム費」が共通仮設費の独立した費目として明確に位置づけられました。遠隔臨場・BIM・電子納品対応など、現場のDX化に伴う費用が積算上きちんと計上できるようになっています。現場にタブレットやカメラを設置する費用、通信回線の使用料なども対象です。
これは積算担当者にとって重要な変更点です。従来は「その他」に混在していたデジタル関連費用が独立費目になったことで、積算の透明性が高まりました。
③ CCUSコストの積算への反映
建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用が広がるなかで、カードリーダー設置費用・現場利用料(就業履歴1件あたり10円)・システム登録料など、CCUS関連コストも積算上で適切に計上できる根拠が整っています。工事規模に応じて概ね0.3〜0.5%程度の加算が認められるケースがあります。
④ 熱中症対策費の計上
夏期施工時の休憩所へのエアコン設置費、給水設備の充実、塩飴・スポーツドリンク等の支給費用が共通仮設費の「環境安全費」に含まれます。近年の気温上昇を受けて計上根拠が明確化されており、見積に含めることが求められます。
令和7年改定への対応が条件です。古い基準書を使い続けている事務所では、これらの加算項目が丸ごと抜け落ちるリスクがあります。常に最新の積算基準を参照する習慣が必要です。
国土交通省 官庁営繕|公共建築工事共通費積算基準(改定情報ページ)
多くの積算では、共通仮設費率による算定(率方式)が標準的に使われます。しかし、積み上げ方式の方が実態に近い金額になり、結果として積算精度が高まるケースがあります。この視点は他のサイトではあまり取り上げられていません。
積み上げ方式とは、準備費・仮設建物費・工事施設費・環境安全費・動力用水光熱費・屋外整理清掃費・機械器具費・情報システム費・その他を個別に見積もり、合計する方法です。
率方式は計算が簡便で多くの標準工事に対応できる一方、以下のような現場では実際のコストを過小評価してしまうリスクがあります。
国土交通省の基準(令和7年改定)でも「共通仮設費率に含まれない内容については、必要に応じ別途積み上げにより算定して加算する」と明記されています。率方式と積み上げ方式は排他的ではなく、組み合わせて使うことも認められています。
つまり、率方式を基礎として使いつつ、特殊条件の費用を積み上げで別途加算する、というハイブリッド型が現場実態に最も即した算定方法といえます。
積算を行う際には、現場の特殊条件をリスト化したうえで「率方式で拾えているか、積み上げで補足すべき項目はないか」という視点を持つことが、利益確保の第一歩です。積算ソフトやExcelテンプレートを活用すると、このチェック作業を効率化できます。
国土交通省|共通費の算定方法及び算定例(積み上げ・率方式の解説つき)