
メゾネット住戸とは、1つの住戸内に階段があり、複数階にまたがる住居形態のことを指します。建築基準法では、このメゾネット住戸も「竪穴部分」として認識されています。竪穴区画とは、建築基準法施行令第112条に規定された防火区画の一種で、火災時に煙や炎が建物内を垂直方向に拡散するのを防ぐための区画です。
竪穴部分としては以下のものが定義されています。
竪穴区画の本質的な目的は、火災発生時に煙が急速に上階へ広がることを防止することにあります。煙は水平方向よりも垂直方向へ速く移動するため、階段室や吹き抜けなどの竪穴部分は防火上の弱点となりやすいのです。
このため建築基準法では、「竪穴部分」と「その他の部分」を区画し、煙をその発生階に留めることを求めています。この区画が竪穴区画であり、建物の安全性を確保するための重要な要素なのです。
メゾネット住戸における竪穴区画の必要性は、火災安全性の観点から非常に高いと言えます。メゾネット住戸内には階段や吹き抜けが存在するため、火災発生時には煙や炎が上階へと急速に広がりやすい構造となっています。
竪穴区画が必要となる建築物は主に3つのパターンがあります。
これらのパターンに該当する場合、原則として竪穴区画が必要となります。メゾネット住戸においても、住戸全体が竪穴部分として扱われるため、住戸と他の部分との間に適切な区画が求められます。
ただし、住戸内部(メゾネット住戸内の階段部分など)については、後述する緩和規定が適用される場合があります。この緩和規定を適切に理解することが、メゾネット住戸の設計において重要なポイントとなります。
共同住宅や長屋におけるメゾネット住戸については、一定の条件下で竪穴区画の免除が認められています。この免除条件を正確に理解することは、設計の自由度と安全性を両立させるために重要です。
建築基準法施行令第112条第十九項のただし書きの第二号には、以下のような免除条件が定められています。
住戸の竪穴区画免除条件。
この条件を満たすメゾネット住戸内部の階段や吹き抜けについては、竪穴区画が不要となります。これは、住戸内の竪穴部分(階段・吹き抜け)についての緩和規定です。
ただし、重要な点として、この緩和はあくまでも住戸内部の階段や吹き抜けに関するものであり、メゾネット住戸と共用部分(廊下など)との間には依然として竪穴区画が必要となります。
例えば、共同住宅の場合。
この免除条件により、共同住宅や長屋におけるメゾネット住戸の設計の自由度が高まりますが、あくまでも住戸の階数や面積に制限があることを忘れてはなりません。
ホテルや寄宿舎などの住宅以外の用途におけるメゾネット形式の区画については、共同住宅や長屋と異なり、原則として竪穴区画が必要となります。これは建築基準法施行令第112条の規定によるものです。
ホテルや寄宿舎でメゾネット形式を採用する場合、法文上では共同住宅と長屋に限定した緩和規定が適用できないため、竪穴区画の設置が求められます。このため、設計上の制約が大きくなる点に注意が必要です。
ただし、以下の2つの条件を満たす場合には、例外的に竪穴区画を免除することが可能です。
これらの条件は非常に厳しく、特に2つ目の条件(下地の不燃材料化)は木造建築では実現が困難です。そのため、ホテルや寄宿舎などでメゾネット形式を採用する場合は、原則として竪穴区画が必要と考えるべきでしょう。
ホテルでのメゾネット形式における竪穴区画の詳細については、こちらの専門サイトも参考になります
メゾネット住戸の階段設計においては、適切な竪穴区画対策を考慮することが重要です。以下では、実際の設計におけるポイントをご紹介します。
1. 住戸のゾーニングと階段配置
メゾネット住戸内の階段配置は、火災時の避難経路を考慮して計画することが重要です。できるだけ住戸の出入口に近い位置に階段を配置することで、避難経路を短くすることができます。
2. 防火区画と遮煙対策
共同住宅や長屋のメゾネット住戸で免除条件(階数3以下かつ床面積200㎡以下)を満たさない場合は、住戸内の階段にも竪穴区画が必要となります。この場合、階段室の壁や扉に適切な防火性能を持たせる必要があります。
3. 共用部との境界部分の処理
メゾネット住戸と共用廊下などの境界部分は、必ず竪穴区画が必要となります。この部分の扉は防火設備(遮煙性能付き)とする必要があり、常時閉鎖式または煙感知器と連動した自動閉鎖式とすることが求められます。
4. 設備貫通部の処理
住戸内と共用部を貫通する設備配管(給排水管やダクトなど)がある場合、これらの貫通部も防火区画の弱点となる可能性があります。適切な防火材料によるふさぎ処理を行い、火災時に煙や炎が貫通部を通じて拡散しないように対策することが重要です。
5. 外気に開放された部分の取り扱い
外気に開放されたバルコニーや廊下は、竪穴区画の対象外となります。これを活用して、メゾネット住戸の各階をバルコニーで接続する設計とすることで、竪穴区画の制約を軽減できる場合もあります。この場合、バルコニーが十分に外気に開放された状態である必要があります。
以上のポイントを考慮することで、法的要件を満たしつつ、居住性の高いメゾネット住戸を設計することが可能となります。特に共同住宅や長屋では、免除規定を適切に活用することで、設計の自由度を高めることができるでしょう。
メゾネット住戸の防火安全性を向上させるためには、竪穴区画の基準を満たすだけでなく、様々な設計アプローチが考えられます。ここでは、法的要件を超えた安全設計のポイントを紹介します。
1. 早期警報システムの導入
メゾネット住戸は複数階にわたるため、火災の早期発見が重要です。各階に煙感知器を設置し、相互に連動させることで、どの階で火災が発生しても全体に警報が伝わるようにします。特に階段部分や寝室付近への設置が効果的です。
2. 避難経路の複数確保
メゾネット住戸では、上階からの避難が課題となります。主階段とは別に、バルコニーを介した避難経路や、隣接住戸への避難経路を確保することが理想的です。各階にバルコニーを設け、そこから避難できる計画とすることで安全性が向上します。
3. 防火材料の積極的活用
壁や天井の内装材には、法定の基準を超える防火性能を持つ材料を使用することも有効です。特に階段周りや寝室周りには、不燃材料や準不燃材料を使用することで、火災の拡大を抑制できます。
4. 階段室の防煙対策
メゾネット住戸内の階段は、煙が上階に伝わる主要な経路となります。階段室に防煙垂れ壁を設けたり、天井部分に自然排煙口や機械排煙設備を設けることで、煙の上階への拡散を抑制できます。
5. スプリンクラー設備の検討
法的に要求されない場合でも、住戸内にスプリンクラー設備を設置することは、火災の初期消火に非常に効果的です。特に台所など火災発生リスクの高い場所への設置を検討することをお勧めします。
6. 防火区画の視覚的明示
避難経路や防火区画の位置を住戸内に視覚的に明示することで、居住者の防火意識を高め、緊急時の迅速な避難につながります。
これらのアプローチを組み合わせることで、法的要件を満たすだけでなく、より高い防火安全性を持つメゾネット住戸を実現することができます。特に、子どもや高齢者が居住する住戸では、法定基準を超える安全対策を検討することが望ましいでしょう。
総務省消防庁の防火安全対策に関するデータベースも参考になります
メゾネット住戸の設計においては、竪穴区画の法的要件を理解したうえで、住戸の特性や居住者のニーズに合わせた安全対策を講じることが重要です。法的基準はあくまでも最低限の要件であり、より高い安全性を目指した設計アプローチを心がけましょう。