
ニトリルゴム(NBR)は、ブタジエンとアクリロニトリルの共重合体からなる合成ゴムです。アクリロニトリルの含有量によってゴムの特性が大きく変わり、含有量が増えるほど耐油性が向上しますが、耐寒性は低下する傾向があります。一般的に24%以下の低ニトリルから43%以上の極高ニトリルまで、用途に応じて使い分けられています。
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ニトリルゴムの最大の特徴は、優れた耐油性です。ニトリル基の極性により、鉱物油、潤滑油、ガソリンなどに対して高い耐性を示します。また、耐摩耗性や引き裂き強度にも優れており、工業用途において最も重要な材料の一つとされています。使用温度範囲は一般的に-40℃から+120℃程度で、100℃以下の油環境であれば安定して使用可能です。
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一方で、ニトリルゴムは主鎖に二重結合を持つため、耐熱性や耐候性に劣るという弱点があります。直射日光やオゾンに晒されると亀裂が生じやすく、屋外での長期使用には適していません。また、耐寒性も天然ゴムより劣り、-10℃前後から硬化が始まるため、寒冷地での使用には注意が必要です。
参考)ゴムの材料特性 各種類ごとの特徴紹介と検討事例
天然ゴム(NR)は、ゴムの木から採取される樹液(ラテックス)を加工して得られるバイオマス由来のゴムです。イソプレンの重合体で、そのほとんどがシス-1,4結合で構成されており、分子構造の規則性が高く結晶性があります。この特殊な分子構造により、天然ゴムは他の合成ゴムにはない優れた特性を発揮します。
参考)https://www.shinoda-gomu.co.jp/create/introduction_of_materials/
天然ゴムの最大の特徴は、非常に高い機械的強度です。反発弾性、引き裂き強さ、圧縮永久歪、耐摩耗性、耐屈曲亀裂性など、機械的強度に関する多くの項目で優れた性能を示します。引張強さは28.0~30.0MPaに達し、伸び率は440~600%と非常に高い値を示します。使用温度範囲は-40℃から80℃程度です。
参考)天然ゴム(NR) とは?特性と使用用途について
しかし、天然ゴムは主鎖に二重結合があるため、耐熱性や耐候性が劣り、軟化劣化しやすいという欠点があります。また、耐油性にも劣るため、オイルや燃料に接触する用途には適していません。さらに、天然ゴムに含まれるタンパク質がラテックスアレルギーの原因となることがあり、医療現場や食品加工現場では使用に注意が必要です。
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以下の表は、ニトリルゴムと天然ゴムの主要な性能を比較したものです。
項目 | ニトリルゴム(NBR) | 天然ゴム(NR) |
---|---|---|
耐油性 | ◎ 優れる | × 劣る |
機械的強度 | ○ 良好 | ◎ 非常に優れる |
耐摩耗性 | ◎ 優れる | ◎ 優れる |
耐熱性(連続使用) | 約80~120℃ | 約80℃ |
耐寒性 | △ やや劣る(-10℃~) | ○ 良好(-40℃~) |
耐候性 | × 劣る | ○ 普通 |
耐オゾン性 | × 劣る | × 劣る |
反発弾性 | ○ 普通 | ◎ 非常に優れる |
圧縮永久歪 | ○ 良好 | ◎ 非常に優れる |
アレルギー性 | ○ 低い | × タンパク質アレルギーあり |
価格 | 安価 | 安価 |
この表から分かるように、耐油性が必要な場合はニトリルゴム、機械的強度や弾性が重要な場合は天然ゴムが適していることが明確です。
参考)【徹底解説】ニトリルゴムの耐熱性とは?その特性と活用方法を紹…
ニトリルゴムは、合成ゴムの中で最も耐油性に優れた材料です。アクリロニトリル含有量が31~35%の中高ニトリルは、パッキング、オイルシール、Oリング、ガスケット、オイルホースなど、自動車用品や工業用品に広範囲に使用されています。特に、油圧系統や圧力系統における油、燃料、水、薬品などのシール材として重要な役割を果たしています。
参考)ニトリルゴム、NBR - パッキンランド
建築現場では、ニトリルゴムは主に空調ダクトのシール材として利用されています。国土交通省機械設備工事共通仕様書に記載されたニトリルゴム系のシール材は、ダクトのコーナー部、ハゼ折り及びスパイラルダクト等のジョイント部に使用され、トルエンなどの有害物質を含まないシックハウス対策品として認定されています。亜鉛鉄板、冷間圧延剛板、アルミニウムなどに優れた接着性を示し、硬化後も柔軟性を保つため、施工時や取り付け後のひび割れを防ぎます。
参考)ニトリルシーラー・シール剤
また、ニトリルゴムシートは防振ゴムや現場養生材としても使用され、カットしてパッキン材や滑り止めなど多用途に活用できます。耐油性と耐摩耗性に優れているため、建築機械のメンテナンスや油を扱う作業場での使用にも適しています。さらに、近年ではCOVID-19で大量廃棄されたニトリル手袋を細断してコンクリートに混入する研究も進められており、環境配慮の観点からも注目されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8568329/
耐油性能の具体的な数値としては、ニトリルゴムは鉱油に対する体積変化率が小さく、長期間の使用でも形状を維持します。これにより、建築設備の長寿命化とメンテナンスコストの削減に貢献しています。
参考)【徹底解説】NBRゴムの耐用年数はどのくらい?使用条件別ガイ…
天然ゴムは、ゴム材料の中で最も優れた機械的強度を持つ素材です。高分子成分が多く分子構造の規則性が高いため、引張強さ、耐摩耗性、引裂強さなどの機械的性能が卓越しています。この特性を活かして、トラック、バス、航空機などの大型タイヤに使用されるほか、コンベヤベルト、ホース、防振ゴム、輪ゴム、風船など幅広い用途で利用されています。
建築分野では、天然ゴムの優れた反発弾性と圧縮永久歪の小ささを活かした防振ゴムとして、建物の免震装置や振動吸収材に使用されています。地震などの外力に対して効果的にエネルギーを吸収し、建物の構造を保護する重要な役割を担っています。また、ゴムマットとしても使用され、床面の保護や滑り止めとして機能します。
天然ゴムの耐久性については、適切な使用条件下では長期間性能を維持できます。ただし、直射日光や高温環境では劣化が進みやすいため、屋内での使用や保護コーティングが推奨されます。耐老化性を向上させるために、配合剤として老化防止剤を添加することも一般的です。
参考)各種ゴムの劣化機構(Ⅱ)
天然ゴムのもう一つの重要な特徴は、電気絶縁性に優れていることです。体積抵抗が1010~1015Ω・cmと高く、電気的な用途にも適しています。さらに、バイオマス由来の素材であるため、環境負荷が低く持続可能性の観点からも評価されています。
建築現場でニトリルゴムと天然ゴムを使い分ける際は、使用環境と求められる性能を明確にすることが重要です。まず、油や薬品に接触する可能性がある箇所では、ニトリルゴムを選択すべきです。具体的には、空調ダクトのシール材、油圧機器のパッキン、建設機械のオイルシール、燃料系統のホースなどが該当します。
参考)【耐油性】ニトリルゴム(NBR)の特性と選定ポイント【密封性…
一方、高い機械的強度や弾性が求められる用途では天然ゴムが適しています。免震装置、防振ゴム、高荷重を支えるゴムパッドなどは、天然ゴムの優れた反発弾性と圧縮永久歪の小ささが活かされます。また、電気絶縁性が必要な場合も天然ゴムが優先されます。
屋外使用については、両素材とも耐候性に課題があるため注意が必要です。ただし、天然ゴムの方がやや耐候性が高いため、直射日光下での使用が避けられない場合は天然ゴムを選び、適切な保護対策を施すことが推奨されます。逆に、屋内で油やグリースを扱う現場ではニトリルゴムが長持ちします。
参考)NBR(ニトリルゴ厶)とは?|用途・特徴について解説
コスト面では、天然ゴムとニトリルゴムは共に比較的安価なゴム材料に分類され、どちらも経済的な選択肢です。ニトリルゴムは1枚あたり5~6円程度から入手可能で、大量使用する現場でもコストパフォーマンスに優れています。一般的に、特殊な性能を必要としない限り、これら2つの素材が最もコスト効率が良い選択となります。
参考)ゴム材料の種類と選定ポイントを徹底比較【コスト・特徴】 href="https://mecha-basic.com/gomu/" target="_blank">https://mecha-basic.com/gomu/amp;#…
NBRゴムの平均的な耐用年数は約10年とされていますが、使用環境によって大きく変動します。適切な保管と取り扱いを行うことで、長期間性能を維持することが可能です。天然ゴムも同様に、適切な管理下では長寿命を実現できますが、油との接触は避ける必要があります。アレルギーの観点では、医療従事者や食品関連の建築現場ではニトリルゴムを選択することで、ラテックスアレルギーのリスクを回避できます。
参考)「どれを選べばいいか分からない…」を解決!現場に最適なニトリ…