プルオフ試験JISで塗膜付着強度を正しく管理する方法

プルオフ試験JISで塗膜付着強度を正しく管理する方法

記事内に広告を含む場合があります。

プルオフ試験とJIS規格で学ぶ塗膜付着強度の管理

クロスカット法で「合格」の判定が出ていても、塗膜が後から剥落するケースがあります。


この記事でわかること
🔬
プルオフ試験の基本とJIS規格

JIS K5600-5-7に基づく試験の仕組み・装置・手順を解説。なぜ建築現場でプルオフ法が重視されるのかがわかります。

⚖️
クロスカット法との決定的な違い

定性評価と定量評価の差が現場管理に与える影響を具体的な数値とともに整理します。

⚠️
現場で失敗しないための注意点

接着剤の選び方・試験回数の規定・破壊形態の判定など、見落とされがちな実務上のポイントを整理します。


プルオフ試験とはJIS K5600-5-7で定められた付着性評価の方法


プルオフ試験(プルオフ法)とは、塗膜の付着性を数値として定量的に評価するための試験方法です。正式にはJIS K5600-5-7「塗料一般試験方法 第5部:塗膜の機械的性質 第7節:付着性(プルオフ法)」に規定されており、国際規格であるISO 4624とも対応しています。


試験の基本的な仕組みはシンプルです。直径20mmの円柱形金属治具(試験円筒、またはドリーとも呼ばれます)を接着剤で塗膜面に貼り付け、硬化後に垂直方向へ引っ張り、塗膜や素地との界面が破壊された際の最小引張力(MPa単位)を測定します。この数値が「付着強度」であり、塗装品質を客観的に証明するものになります。


つまり付着力の数値化が目的です。


建築現場での重要性は高く、外壁・橋梁・コンクリート構造物など、塗膜の長期耐久性が求められる箇所で幅広く活用されています。一般的に、建築塗装における付着強度の目安として「1.0N/mm²以上」が合格ラインとして設定されることが多く、国土交通省告示第1372号2項でも基準値として1.0N/mm²以上が示されています。なお、用途や施工仕様によってはさらに高い基準値(例:3N/mm²以上や4N/mm²以上)が要求されるケースもあります。


JIS規格は2014年に改正されており、旧規格のJIS K5600-5-7:1999から技術的内容が更新されています。また、2019年7月1日の法改正により、それまでの「日本工業規格」という名称は「日本産業規格(JIS)」へと変更されました。現在の現場での業務や書類作成においては、この名称変更にも注意が必要です。


試験の概要をまとめると以下のとおりです。


| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 規格番号 | JIS K5600-5-7:2014(ISO 4624対応) |
| 試験対象 | 単一塗膜・多層塗膜 |
| 試験円筒の標準径 | φ20mm |
| 最低試験回数 | 6回以上 |
| 張力増加速度 | 1MPa/s以下、破壊は90秒以内 |
| 合否の目安(建築塗装) | 1.0N/mm²以上が一般的な基準 |


参考として、JIS K5600-5-7の規格原文はJIS規格の公式サイトから確認できます。


JIS K5600-5-7:2014「塗料一般試験方法 付着性(プルオフ法)」全文(kikakurui.com)


プルオフ試験の手順と装置の基本を確認する

プルオフ試験を正確に実施するには、装置の構成と手順の理解が不可欠です。これが基本です。


まず、必要な装置・材料を整理します。


- 引張試験機(またはプルオフ接着試験機):塗装面に対して垂直方向に張力を加えられるもの。機械式・気圧式・水圧式・手動式があります。ただし水圧式・手動式は結果がばらつきやすいとの報告もあるため、試験報告書への記録が必要です。


- 試験円筒(ドリー):標準は直径20mmの鋼製またはアルミ製。接着面は試験前に平滑に加工し、長さは直径の半分以上であることが推奨されています。


- 芯出しジグ:試験円筒を正確に塗面の軸方向に位置合わせするための治具。


- 切込み用具:試験円筒周囲を素地まで切り込むナイフ等(膜厚150μm以下の場合は、当事者間の協定があれば切込みを省略することも可能です)。


- 接着剤:JISでは「シアノアクリレート、無溶剤二液形エポキシ接着剤、パーオキサイド触媒形ポリエステル接着剤が適している」とされています。


次に、試験の手順です。


1. 試験円筒の接着面を清浄にし、接着剤を均一かつ最小限の量で塗布します。


2. 芯出しジグを使って試験円筒を塗膜面に垂直に固定し、接着剤が十分に硬化するまで安定した状態で養生します(常温硬化型エポキシ系接着剤の場合、一般に24時間程度の養生が目安)。


3. 硬化後、試験円筒周囲の塗膜と接着剤を切込み用具で素地まで丸く切り込みます。


4. 引張試験機を試験円筒に接続し、1MPa/s以下の一定速度で張力を加えます。破壊は90秒以内に発生するよう速度を調整します。


5. 破壊が生じた際の最大引張力(N)を記録し、試験円筒の断面積(π×10²=約314mm²)で割って付着強度(MPa)を算出します。


これを意外に思う方も多いですが、JIS規格では「少なくとも6回試験を行う」と明確に規定されており、単発の1〜2回の測定で合否を判定することは規格の要件を満たしません。試験報告書には6回の平均値・最大値・最小値をすべて記載することが求められます。


また、張力は必ず塗装面に対して正確に垂直方向に加えることが重要です。軸方向のアライメントがずれていると再現性のある結果が得られません。現場での測定では、試験機のぶれや急激な張力変化が誤った測定値につながるため、ゆっくり一定速度でハンドルを操作するよう注意が必要です。


コーテック社のプルオフ法解説ページには、試験手順・接着方法・破壊形態の判定についてわかりやすくまとめられています。


付着性プルオフ法 どんな試験?(コーテック株式会社)


プルオフ試験とクロスカット法の違いと使い分けの判断基準

建築塗装の現場では、付着性の確認方法としてクロスカット法(JIS K5600-5-6)が今も広く使われています。しかし、JIS規格文には「クロスカット法は定性的試験であるため、密着性の指標にはプルオフ法を勧める」と明記されています。これは重要な記述です。


クロスカット法は、塗膜にカッターで格子状の切り込みを入れ、テープを貼って剥がし、塗膜の残存状態を0〜5の6段階で目視判定する方法です。「0=剥がれなし」が最良の評価ですが、この判定はあくまでも目視による定性的なものであり、数値として付着強度を表すことができません。


対してプルオフ法は、MPa(N/mm²)という明確な数値で付着強度を定量的に示すことができます。たとえばクロスカット法では「分類0」(はがれなし)と判定された塗膜でも、プルオフ試験で計測すると0.5N/mm²しかない場合があります。この場合、一般的な基準値1.0N/mm²を下回っており、後々の剥落リスクが残ることになります。


定量評価が強みです。


また、クロスカット法は膜厚が250μm以下の塗膜にしか対応できません。それを超える厚膜系塗料(例:エポキシ厚膜塗料など)に対しては、プルオフ法を用いることが適切とされています。


使い分けの目安を整理すると以下のとおりです。


| 比較項目 | クロスカット法 | プルオフ法(プルオフ試験) |
|---|---|---|
| 評価の種類 | 定性的(0〜5の段階評価) | 定量的(MPa数値) |
| 対応膜厚 | 250μm以下 | 制限なし(広範な素地に適用可) |
| 試験コスト | 低い(テープ等の消耗品のみ) | やや高い(試験機・ドリーが必要) |
| JISの推奨 | 密着性の指標としては非推奨 | 密着性の指標として推奨 |
| 数値での記録 | 不可 | 可能(契約書・報告書に活用) |


現場での品質管理書類に「数値として付着強度を記録・証明したい」という場面、たとえば発注者への報告書提出、補修工事の前後比較、竣工検査などでは、プルオフ試験の活用が実務上も合理的です。


三和鍍金のコラムには、クロスカット法とプルオフ法の違いについて用語解説とともにわかりやすくまとめられています。


【JIS】プルオフ法とクロスカット法の違い(株式会社三和鍍金)


破壊形態の判定がプルオフ試験で最も重要な理由

プルオフ試験では、測定された付着強度の数値だけを見て「合格・不合格」を判断しがちですが、実はそれだけでは不十分です。数値と同じくらい重要なのが、「破壊がどこで、どのような形で起きたか」=破壊形態の判定です。


JIS K5600-5-7では、破壊の形態を以下の2種類で分類するよう定めています。


- 付着破壊(界面破壊):塗膜と素地の界面、または多層塗膜の層間の界面で剥離が起きた状態。試験後のドリー接着面に塗膜が残り、サンプル側には素地または別の塗膜層が露出します。


- 凝集破壊:塗膜層の内部(層の途中)で破壊が起きた状態。試験後のドリーにも試験サンプル側にも、同じ塗膜が残っているのが特徴です。


さらに、試験後にドリーの接着面に何も残っておらず、接着剤そのものが剥がれている場合は「接着剤破壊」となります。この場合は付着強度の測定値が無効となり、試験をやり直す必要があります。意外なことに、接着剤の選択ミスや養生不足によってこのパターンが発生するケースが少なくありません。


破壊形態の読み取り方で施工の問題点が変わります。


たとえば、数値が1.5N/mm²と基準をクリアしていても、破壊が「素地と下塗り塗膜の界面」で起きていた場合は、素地調整の不足(ケレン不足、含水率過多など)が原因として疑われます。一方、上塗りと中塗りの界面で破壊が起きている場合は、塗装インターバルや塗り重ね適性の問題が背景にある可能性があります。


つまり、破壊形態を記録することで、単なる数値管理を超えた施工品質の原因分析が可能になるのです。これは現場管理担当者にとって大きなメリットです。


試験報告書には、破壊強さ(MPa)の数値とあわせて「どの層間で、どのような形態の破壊が何パーセント発生したか」を記録することがJIS規格で求められています。現場で簡易的にプルオフ試験を行う際にも、この記録を省略せずに残しておくことが後のトラブル対応に役立ちます。


建築現場でプルオフ試験を実施する際の注意点と使えるツール

建築現場でプルオフ試験を実際に運用する上では、いくつかの見落としやすいポイントがあります。ここで整理しておきましょう。


① 接着剤の選択に注意する


JIS規格では接着剤の種類を明確に指定しておらず、「試験者側で選択する」こととされています。選定の条件は「塗膜の付着力よりも接着剤の接着力・凝集力が上回ること」と「塗膜に可視的な変化を起こさないこと」の2点です。接着剤の強度が不足していると、塗膜が破壊する前に接着剤側が破壊して測定無効になります。一般に、二液形エポキシ系接着剤が汎用的に使われますが、高湿度環境下では速乾タイプを選ぶ必要があります。接着剤の選択が試験精度を左右します。


② 試験温湿度条件の管理


JIS規格では、試験は「23±2℃、相対湿度(50±5)%」の環境で行うことが規定されています。夏場の炎天下や雨天後の湿潤状態の下では、この条件を満たすことが難しくなります。現場での試験の場合、測定時の温湿度を試験報告書に必ず記録し、条件が規格範囲から外れている場合はその旨を明記しておくことが重要です。


③ 試験回数は最低6回


前述のとおり、JISでは少なくとも6個の試験体(6回の試験)が必要です。1〜2点の測定だけで品質を証明することは規格上の要件を満たしません。「場所を変えながら6か所測定する」ことを現場のルールとして定着させることが管理精度の向上につながります。


④ 現場向けポータブル機器の活用


実験室外の現場でプルオフ試験を実施する場合は、ポータブル型の付着力測定器(プルオフ接着試験機)が使われています。代表的な機器としてPosiTest AT(DeFelsko社)シリーズや、コーテック社のプルオフテスターなどがあります。これらは自動または手動で張力を加えるタイプがあり、測定値をデジタルで記録できるものもあります。現場での品質管理記録の効率化に役立つため、継続的な塗装管理が必要な物件では導入を検討する価値があります。


また、「試験体の素地が薄い金属板やプラスチックなど変形しやすい場合」と「コンクリートや厚鋼板など変形しにくい場合」では、試験体の作製方法(サンドイッチ法か片面法か)が異なります。これも規格上の重要な取り決めです。


注意事項は記録に残すことが原則です。


現場塗装における付着性試験の注意点について、より詳しい解説が以下のPDFに収録されています。


付着性試験(プルオフ法)について(コーテック株式会社 技術資料PDF)




GOYOJO デジタルフォースゲージ 引張荷重・圧縮荷重測定 プッシュプルゲージ 3モード・4単位 (N, kg, lb, oz) 高精度±1% 上下限値、重⼒加速度、バックライト、オートパワーオフ 試験 消防 建築 軽工業など(0.001-5N.m)