
ルーズフランジは通常のフランジとは根本的に異なる構造を持つ配管継手です。最大の特徴は、フランジ本体がパイプに直接溶接されない点にあります。代わりに「スタブエンド」または「ラップジョイント」と呼ばれるつば状の配管継手と組み合わせて使用されます。
スタブエンドはシルクハットのような形状をしており、つばの無い側をパイプに突合せ溶接し、つば部分をルーズフランジに差し込んで使用します。この構造により、パイプとフランジが直接接続されていないため、ルーズフランジを自由に回転させることができます。「遊びがある」という意味で「遊合型フランジ」とも呼ばれる所以です。
構成要素は以下の通りです。
この構造により、ボルト穴の位置を自由に調整できるため、配管施工時の位置合わせが格段に容易になります。従来のフランジでは配管の向きとフランジの向きを同時に調整する必要がありましたが、ルーズフランジではフランジのみを回転させて調整できます。
ルーズフランジの最大のメリットは接合作業の大幅な効率化です。従来の配管接合作業では、重いフランジやパイプを一人が支え、もう一人がボルトを締め付ける必要がありました。これは人手の確保が困難で、重労働による労働災害のリスクも高い作業でした。
ルーズフランジを使用することで得られる効率化効果。
さらに、TOK社が開発した着脱機構SRXのような専用工具を使用することで、より一層の作業効率化が図れます。SRXは配管を仮支えする役割を担い、作業員一人分の労働力を代替します。
ルーズフランジは多様な産業分野で活用されています。主な適用分野は以下の通りです。
製造業での用途
輸送・インフラ分野
特殊環境での使用
ルーズフランジが選ばれる理由は、これらの環境では配管のわずかな角度や軸方向のずれに対応できる柔軟性が重要だからです。また、定期的な清掃や点検が必要な配管システムでは、取り外しの容易さが大きなメリットになります。
呼び径は使用するパイプと同じ呼び径を選定し、JISの鋼製管フランジでは10A(3/8B)から600A(24B)まで対応しています。
ルーズフランジの施工は従来のフランジとは異なる手順で行います。正しい施工方法を理解することで、その性能を最大限に発揮できます。
基本的な施工手順
フレア加工による施工方法
スタブエンドを使用しない方法として、パイプの先端を専用加工機でフレア加工(刀の鍔状に加工)する方法もあります。この方法では溶接工程を省略でき、さらなる工数削減が可能です。
施工時の注意点
施工後の検査では、漏れ試験や外観検査を実施し、規定の性能が確保されていることを確認します。特に腐食性流体を扱う場合は、定期的な点検スケジュールの策定も重要です。
ルーズフランジ選定における最大の利点は材質選択の自由度です。従来のフランジでは全体を同一材質で製作する必要がありましたが、ルーズフランジでは接液部とフランジ部で異なる材質を選択できます。
材質選択の戦略
接液部(スタブエンド・パイプ)。
フランジ部。
コスト削減効果の実例
化学プラントでの腐食性流体配管において、従来は全体をSUS316で製作していたフランジを、ルーズフランジ方式に変更することで約30~40%のコスト削減を実現した事例があります。接液部のみSUS316を使用し、フランジ部はSS400を使用することで、性能を維持しながら大幅なコスト削減が可能になりました。
長期運用でのメリット
ただし、高温高圧環境では接合部の密封性能に限界があるため、使用条件の十分な検討が必要です。一般的には10K以下の低圧用途での使用が推奨されています。
材質選定時は、流体の性質、使用温度・圧力、メンテナンス頻度、初期コストと運用コストのバランスを総合的に評価することが重要です。適切な選定により、ルーズフランジは配管システムの効率化と経済性向上に大きく貢献します。