酸価の測定方法JISの中和滴定と計算式や油の劣化基準

酸価の測定方法JISの中和滴定と計算式や油の劣化基準

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酸価測定のポイント
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JIS規格の選定

石油製品はJIS K 2501、化学製品はJIS K 0070を使用します。

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測定方法の使い分け

色の薄い油は指示薬滴定法、暗い油は電位差滴定法を選びます。

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劣化管理の重要性

建設機械の作動油は酸価上昇によるスラッジ発生を防ぐ管理が必要です。

酸価の測定方法とJIS規格

建設現場や工場で使用される燃料、潤滑油、作動油などの品質管理において、「酸価」の測定は極めて重要です。酸価とは、試料1g中に含まれる遊離脂肪酸や酸性成分を中和するために必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム数(mgKOH/g)を指します。この数値が高くなることは、油が酸化劣化しているか、酸性物質が混入していることを示唆しており、機械の故障や性能低下を未然に防ぐための重要な指標となります。
参考)https://www.jalos.jp/jalos/qa/articles/009-224.htm

酸価の測定方法は、日本産業規格(JIS)によって厳密に定められています。対象となる試料の種類によって適用される規格が異なるため、正しい規格を選定することが測定の第一歩です。主に以下の2つの規格が現場で頻出します。


  • JIS K 2501(石油製品及び潤滑油-中和価試験方法)
    エンジンオイル、作動油、絶縁油などの石油製品に適用されます。建設機械のメンテナンスで扱う油の多くはこちらに該当します。この規格では、指示薬光度滴定法や電位差滴定法などが規定されています。
    参考)https://webdesk.jsa.or.jp/preview/pre_jis_k_02501_000_000_2003_j_ed12_ch.pdf


  • JIS K 0070(化学製品の酸価,けん化価,エステル価...試験方法)
    動植物油脂やその誘導体など、一般的な化学製品に適用されます。塗料や一部のバイオ燃料などの原料検査ではこちらが使われることがあります。
    参考)JISK0070:1992 化学製品の酸価,けん化価,エステ…

測定の基本原理は、試料中の酸性成分をアルカリ性試薬(通常は水酸化カリウム溶液)で中和し、その消費量から酸価を算出するというものです。しかし、使用済みの油(廃油や劣化油)は黒く濁っていることが多く、色の変化を目視で確認する「指示薬滴定法」が困難な場合があります。そのため、電気的な変化を読み取る「電位差滴定法」が推奨されるケースが増えています。
参考)https://ahc-bact.co.jp/faq/1752-2/

以下では、特に建設業界や機械メンテナンスで重要となる JIS K 2501 を中心に、具体的な手順や計算方法、現場での管理ポイントについて深掘りしていきます。

酸価の測定方法JIS K 2501の中和滴定と指示薬の選び方

 

最も基本的かつ広く行われているのが、指示薬を用いた中和滴定法です。この方法は特別な分析機器(電位差滴定装置など)がなくても、ビュレットと三角フラスコがあれば実施できるため、現場に近い簡易ラボでも採用されています。
中和滴定の原理
試料(油)を有機溶剤に溶かし、指示薬を加えた後、濃度が既知の水酸化カリウム(KOH)標準液を滴下していきます。試料中の酸性成分がKOHと反応して中和点に達すると、指示薬の色が変化します。この変色点を終点とし、滴下したKOHの量から酸価を求めます。
参考リンク:JIS K 0070 化学製品の酸価試験方法の概要
※化学製品向けの規格ですが、中和滴定の基礎原理は共通しており、指示薬の反応機構を理解するのに役立ちます。
溶剤と指示薬の選定
JIS K 2501では、試料を溶解させるための溶剤と、終点を判定する指示薬の組み合わせが重要です。


  • 滴定溶剤:
    通常、トルエンとイソプロピルアルコール(IPA)と少量の水を混合したものが使用されます。これは、油性成分(トルエンによく溶ける)と、アルカリ標準液(アルコールに溶けている)の両方を均一に混ぜ合わせ、反応をスムーズにするためです。JIS K 0070ではエタノール・エーテル混液が使われることもありますが、石油製品ではトルエン・IPA系が一般的です。
    参考)https://www.ffcr.or.jp/tsuuchi/upload/%E5%88%A5%E6%B7%BB%EF%BC%92.pdf


  • 指示薬:


    • パラナフトールベンゼイン: 石油製品の測定でよく使われます。酸性側ではオレンジ色、塩基性(アルカリ性)側では緑褐色〜深緑色に変色します。変色が明瞭で見やすいのが特徴です。

    • フェノールフタレイン: 一般的な中和滴定で有名ですが、石油製品の酸価測定(JIS K 2501)では、アルカリブルー6Bなどが用いられることもあります。フェノールフタレインは無色から赤紫色へ変化します。​

測定の手順(概要)


  1. 試料の採取: 予想される酸価に応じて、適切な量の試料(数g〜数十g)をビーカーやフラスコに精密に秤量します。酸価が低い(新しい油)場合は多めに、酸価が高い(劣化した油)場合は少なめに採ります。

  2. 溶解: 滴定溶剤を加え、必要であれば軽く加熱して試料を完全に溶かします。

  3. 滴定: 指示薬を数滴加え、標準液(通常0.1mol/L KOHアルコール溶液)をビュレットから滴下します。

  4. 終点判定: 溶液全体の色が変わり、一定時間(通常15秒〜30秒)色が戻らなくなった点を終点とします。

注意点
この方法は「色の変化を目視で確認する」ため、試料自体が黒く着色している場合(劣化したエンジンオイルやギヤオイルなど)は、終点の判定が極めて困難です。無理に測定しようとすると個人差が大きく出てしまい、正確な管理ができません。そのような場合は、次のセクションで解説する「電位差滴定法」を選択する必要があります。
参考)https://www.n-analytech.co.jp/archives/001/202209/009_%E7%9F%B3%E6%B2%B9%E8%A3%BD%E5%93%81%E3%81%AE%E9%85%B8%E4%BE%A1%E5%88%86%E6%9E%90%20JISK2501_final.pdf

酸価の測定方法における電位差滴定法のメリット

建設機械から採取される使用済み作動油やエンジンオイルは、酸化や微粒子の混入により、黒色や濃い褐色になっていることが一般的です。このような試料に対しては、JIS K 2501で規定されている「電位差滴定法」が推奨されます。
電位差滴定法の原理
この方法は、指示薬による色の変化を見るのではなく、溶液に浸した電極間の「電位差(電圧)」の変化を読み取って終点を決定します。酸とアルカリが反応している間は電位が緩やかに変化しますが、中和点付近では電位が急激に変化(ジャンプ)します。この変曲点(インフレクションポイント)を終点として検出します。
参考)https://www.hiranuma.com/product/titr/app/pdf/L01_2210.pdf

参考リンク:平沼産業株式会社 潤滑油の酸価測定アプリケーション
※実際の滴定曲線や、電位差滴定装置を用いた具体的な測定データ、パラメータ設定の例が記載されており、実務導入の参考になります。
メリットと特徴


  1. 色の影響を受けない:
    これが最大のメリットです。廃油のように真っ黒な液体であっても、電気的な信号は色に邪魔されないため、正確に中和点を検出できます。​

  2. 高精度・高再現性:
    目視判定のような「人によるバラつき」がありません。自動滴定装置(オートタイトレーター)を使用すれば、滴下速度や終点検出が自動化され、誰が測定しても同じ結果が得やすくなります。​

  3. データの記録:
    滴定曲線(滴下量と電位のグラフ)を記録として残せるため、品質管理のトレーサビリティ(追跡可能性)が確保できます。

使用する電極
一般的には、ガラス電極と比較電極(または複合ガラス電極)を使用します。内部液には塩化カリウム溶液などが使われますが、非水溶媒(油と有機溶剤の混合液)中での測定となるため、電極の応答速度が水溶液よりも遅くなる傾向があります。そのため、滴定装置の設定では、滴下ごとの待ち時間を長めに設定したり、平衡待ち制御を行ったりする工夫が必要です。​
測定時のポイント
もし滴定曲線に変曲点が明確に現れない場合(非常に酸価が低い、あるいは特殊な添加剤の影響など)は、JIS規格に基づき、予備試験で求めた「緩衝液の電位」を終点とみなす方法などがとられます。

酸価の測定方法と計算式の詳細な求め方

測定によって得られた滴定量を、最終的な「酸価(mgKOH/g)」に変換するためには、JISで定められた計算式を使用する必要があります。この計算式は単なる掛け算割り算ですが、各項目の意味を正しく理解していないと、計算ミスや係数の取り違えによる重大な誤差につながります。
基本の計算式
JIS K 2501における酸価の計算式は以下の通りです。
A=56.11×(VV0)×FMA = \frac{56.11 \times (V - V_0) \times F}{M}A=M56.11×(V−V0)×F
各変数の意味は以下の通りです。



  • A: 酸価 (mgKOH/g)


  • V: 試料の滴定に要した水酸化カリウム標準液の使用量 (mL)


  • V0: 空試験(ブランクテスト)に要した水酸化カリウム標準液の使用量 (mL)


    • 解説: 溶剤自体に含まれる微量な酸性成分を補正するための値です。試料を入れずに溶剤だけで滴定を行い、その分を差し引きます。




  • F: 使用した水酸化カリウム標準液のファクター(力価)


    • 解説: 「0.1mol/L」として市販されている試薬でも、実際の濃度は微妙に異なります(例: 1.002倍など)。この正確な濃度比を表す係数です。標定という作業で事前に求めておくか、購入した試薬のラベルに記載された値を使用します。​




  • 56.11: 水酸化カリウム(KOH)の式量(1molあたりの質量 mg換算)


    • 解説: 酸価の定義が「1gの試料を中和するのに必要なKOHのmg数」であるため、滴定量(体積)を質量に換算するためにこの係数を掛けます。0.1mol/Lの試薬を使う場合は、式の形が若干変わるように見えることがありますが、基本はこの56.11が由来です。




  • M: 試料採取量 (g)


参考リンク:日東精工アナリテック 石油製品の酸価分析(JIS K 2501)

※具体的な計算例や、自動滴定装置でのパラメータ設定における計算式の設定方法が詳しく解説されています。
計算における注意点


  • 単位の確認: 試料採取量 $M$ は必ず「グラム(g)」で入力します。

  • ブランクテストの重要性: 使用する溶剤のロットが変わったり、新しい溶剤を開封したりした際は、必ず $V_0$ を再測定してください。溶剤が古くなると空気中の二酸化炭素などを吸収して酸性度が上がり、ブランク値が大きくなることがあります。これを無視すると、酸価が実際より高く算出されてしまいます。

  • 有効数字: JIS規格では、結果の丸め方(JIS Z 8401準拠)も指定されています。通常は小数点以下1桁または2桁まで報告しますが、要求される精度に従ってください。​

酸価の測定方法と建設機械用作動油の劣化管理

建築・土木現場において、酸価の測定結果をどう活かすかは、機械の寿命を左右する重要な問題です。ここでは、単なる化学分析の枠を超え、建設機械のメンテナンスという視点から酸価の管理基準と劣化判断について解説します。
なぜ作動油の酸価が上がるのか?
建設機械の油圧システムで使用される作動油は、高圧・高温という過酷な環境にさらされています。使用に伴い、以下のプロセスで酸価が上昇します。


  1. 酸化: 空気中の酸素と油が反応(酸化)し、カルボン酸などの有機酸が生成されます。

  2. 添加剤の消耗: 酸化防止剤として添加されている成分(ZnDTPなど)が消費され、分解生成物が発生します。特に亜鉛系作動油では、初期値から酸価がある程度高い場合がありますが、そこからの「増加分」が重要になります。
    参考)https://www.jfps.jp/non_Jfps/jfps47_4all.pdf

管理基準値の目安
一般的な鉱物油系作動油の管理基準として、以下のような目安が多くの建機メーカーやオイルメーカーで採用されています。


  • 絶対値基準: 酸価が 1.0 mgKOH/g を超えた場合、更油(オイル交換)を推奨。​

  • 増加分基準: 新油(未使用時の値)と比較して、+0.5 mgKOH/g 以上増加した場合、要注意または更油。
    参考)https://bunseki.jsac.jp/wp-content/uploads/2023/1/p026.pdf

参考リンク:JCMAS P 045 建設機械用油圧作動油-酸化安定性試験方法
※日本建設機械施工協会による規格で、建設機械特有の高圧条件下での作動油の劣化判定や寿命評価について記述があります。
酸価上昇を放置するとどうなるか?
酸価の上昇は、油中に酸性物質が増えている証拠です。これを放置すると以下のようなトラブルが発生します。


  • スラッジ(汚泥)の生成: 酸化生成物が重合して不溶性のスラッジとなり、タンクの底に溜まったり、精密な油圧バルブ(コントロールバルブ)の隙間に固着したりします。これが「バルブスティック」と呼ばれる動作不良を引き起こし、重機が動かなくなる原因となります。

  • 金属腐食: 酸性成分が金属部品(ポンプの摺動部や配管)を腐食させ、摩耗を加速させます。

  • シールの劣化: ゴム製のパッキンやシール材を硬化・収縮させ、油漏れの原因となります。

現場での運用ポイント
酸価は急激に上昇するものではなく、ある時点から加速度的に上昇します(酸化の誘導期間が終わるため)。したがって、定期的なオイル分析(例えば500時間ごとや1年ごと)を行い、グラフにしてトレンドを監視することが重要です。単発の値だけでなく、「前回より急に上がっていないか?」を見ることが、突発的な故障を防ぐ鍵となります。
参考)https://www.jsme.or.jp/conference/joutai/doc/kaisai/20181012/10th_Kudo.pdf

酸価の測定方法と試料の下処理[トピック]のコツ

正確な酸価測定を行うためには、JIS規格の手順だけでなく、試料(サンプル油)の取り扱いや下処理に独自のノウハウが必要です。特に建設現場から持ち込まれた試料は、実験室のきれいな試薬とは状態が異なります。
1. 水分と異物の除去(ろ過・遠心分離)
建設機械から抜いた廃油には、金属粉、砂塵、そして結露による水分が混入していることがよくあります。


  • 問題点: 大きな固形物はピペットを詰まらせたり、重量測定の誤差になります。また、多量の水分は滴定溶剤と混ざり合わず、白濁して終点判定(特に電位差法での電極応答)を妨害することがあります。

  • 下処理: 目に見える異物が多い場合は、測定値に影響を与えない粗さのフィルターでろ過するか、遠心分離機にかけて沈殿物を取り除いてから上澄みを試料として使用します。ただし、JIS規格では「試料全体の状態」を知る必要がある場合もあるため、ろ過を行うかどうかは管理目的(油そのものの劣化を見たいのか、汚染度を見たいのか)に合わせて決定します。

2. 試料の加熱と均一化
粘度の高いギヤオイルや、低温で保管されていた作動油は、容器の中で添加剤や劣化生成物が分離していることがあります。


  • コツ: 測定前に試料容器ごと60℃程度のお湯で湯煎し、軽く振って全体を均一にします。これにより、採取する場所によるばらつき(サンプリング誤差)を減らすことができます。特にワックス分を含む油では必須の工程です。

3. 電極の洗浄とコンディション維持(電位差法の場合)
電位差滴定を行う場合、最も重要なのはガラス電極の状態です。

参考リンク:昭和科学株式会社 酸価分析サービス概要
※専門の分析機関がどのような点に注意して測定を行っているか、また外部委託する場合のメリットなどが参考になります。
これらの下処理やメンテナンスはJIS規格の「備考」や「解説」に小さく書かれていることが多いですが、現場の測定実務ではメインの手順以上に結果を左右する要素となります。

 

 


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