水酸化カリウム化学式と性質や水酸化ナトリウムとの違い

水酸化カリウム化学式と性質や水酸化ナトリウムとの違い

記事内に広告を含む場合があります。

水酸化カリウムの化学式

水酸化カリウム化学式の基礎知識
🧪
化学式はKOH

カリウム(K)と酸素(O)と水素(H)が結合した強アルカリ性の物質です。

⚠️
劇物に指定

皮膚を溶かす性質があり、取り扱いには保護具が必須です。

🏗️
現場での用途

強力な油汚れ洗浄や、塗装の剥離剤、コンクリート改質剤として活躍します。

水酸化カリウム化学式と水酸化ナトリウムとの違い

 

建設現場や工場メンテナンスの現場では、「苛性カリ(水酸化カリウム)」と「苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)」のどちらを使うべきか判断に迷う場面があります。化学式で見ると、水酸化カリウムは KOH、水酸化ナトリウムは NaOH となり、どちらもアルカリ金属の水酸化物で「強塩基(強アルカリ)」に分類される兄弟のような物質です。しかし、その性質には現場作業の効率を左右する明確な違いが存在します。
最も大きな違いは「溶解度」と「反応速度」です。
水酸化カリウム(KOH)は、水酸化ナトリウム(NaOH)に比べて水への溶解度が圧倒的に高いという特徴があります。これは、同じ量の水に対して溶かすことができる薬剤の量がKOHの方が多いことを意味し、より高濃度のアルカリ洗浄液を作ることが可能です。


  • 溶解性の違い: KOHは冷水でも容易に溶けますが、NaOHは溶解度がやや低く、高濃度溶液を作ろうとすると結晶化しやすい傾向があります。

  • 反応性: KOHのカリウムイオン(K+)はナトリウムイオン(Na+)よりもイオン半径が大きいため、動きやすく、汚れや塗膜への浸透力が高いとされています。

  • 生成物の性状: 油分(脂肪酸)と反応した際、NaOHは固形の石鹸カスを作りやすいのに対し、KOHは液状の石鹸成分(カリ石鹸)を生成します。

この「生成物が液状になりやすい」という性質は、配管洗浄や塗装剥離において非常に重要です。NaOHを使って配管を洗浄すると、剥がれた油汚れが固まって逆に詰まりの原因になることがありますが、KOHであれば溶けた汚れが液状を保つため、スムーズに排出されます。
また、コスト面での違いも無視できません。一般的にカリウム資源はナトリウム資源よりも希少であるため、水酸化カリウムの方が価格が高くなる傾向にあります。そのため、大量に使用する中和処理などでは安価な水酸化ナトリウムが選ばれ、洗浄力や溶解性が求められる高付加価値な用途では水酸化カリウムが選ばれるという使い分けがなされています。
溶解性や反応性の違いについて、産業用化学物質の観点から詳細に解説されています。
参考)https://www.anasco-global.com/ja/blog/potassium-hydroxide-vs-sodium-hydroxide-key-differences

水酸化カリウム対水酸化ナトリウム:主な違い - QINGDAO ANASCO

水酸化カリウム化学式の性質と毒性や危険性

建築現場で水酸化カリウム(化学式KOH)を取り扱う際、最も注意しなければならないのがその毒性危険性です。水酸化カリウムは「毒物及び劇物取締法」において「劇物」に指定されており、その取り扱いには厳重な管理が求められます。
水酸化カリウムの最大の特徴である「タンパク質変性作用」は、人体にとって極めて危険です。酸による火傷は皮膚の表面が焼けて固まることで酸の浸透が止まることがありますが、アルカリによる火傷(化学熱傷)は皮膚のタンパク質を溶かしながら(鹸化反応)、深部へと浸透し続けます。
「指先に少しついただけだから大丈夫」と放置すると、気づかないうちに皮膚の奥深くまで組織が破壊され、重篤な潰瘍や視力障害を引き起こす可能性があります。特に目に入った場合は、角膜のタンパク質が瞬時に破壊され、失明するリスクが非常に高いため、保護メガネの着用は絶対条件です。
現場での具体的な危険回避策:


  • 保護具の徹底: 耐アルカリ性のゴム手袋、保護メガネ、長袖・長ズボンの作業着を着用し、肌の露出を極力減らします。

  • 潮解性への対策: 水酸化カリウムには、空気中の水分を吸って勝手に溶け出す「潮解性」という性質があります。固形のペレットであっても、蓋を開けっ放しにしておくとドロドロの強アルカリ溶液に変化し、容器から漏れ出して周囲を腐食させる危険があります。保管時は必ず密閉容器を使用してください。

  • 溶解熱への注意: 水に溶かす際、急激に発熱します。大量のKOHを一気に水に投入すると、突沸(とっぷつ)して熱湯のようなアルカリ液が周囲に飛び散る恐れがあります。「水に薬剤を少しずつ加える」のが鉄則であり、「薬剤に水をかける」のは厳禁です。

また、アルミニウムや亜鉛などの金属と反応すると、可燃性の水素ガスを発生させるという危険性もあります。アルミ製の脚立やバケツ、建材の近くで使用する際は、予期せぬガス発生や金属腐食に十分な注意が必要です。
厚生労働省による職場のあんぜんサイトで、SDS(安全データシート)に基づいた詳細な危険有害性情報が確認できます。
参考)https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0598.html

職場のあんぜんサイト:水酸化カリウム - 化学物質

水酸化カリウム化学式の用途と建築現場での活用

水酸化カリウム(化学式KOH)は、その強力な化学的特性から、建築・建設業界においても特殊かつ重要な用途で活用されています。単なる「掃除道具」以上の役割を果たしており、特にリフォームや改修工事の現場では欠かせない薬剤の一つです。
主な建築関連用途一覧:


  1. 強力塗装剥離剤(リムーバー):
    外壁改修や鉄骨の塗り替え工事において、古い塗膜を剥がすために使用される剥離剤の主成分としてKOHが使われます。有機溶剤系の剥離剤に比べ、アルカリ系の剥離剤は木材やコンクリートへのダメージ調整がしやすく、厚い塗膜を軟化・膨潤させる力が強力です。特に、環境対応型の水性剥離剤にはKOHベースのものが多く見られます。

  2. コンクリート表面の油汚れ洗浄:
    駐車場やガレージ、厨房の床コンクリートに染み込んだ頑固な油汚れは、中性洗剤では落ちません。KOHの高濃度アルカリ液は、油脂分を加水分解(鹸化)して水に溶けやすい形に変えるため、コンクリートの細孔に入り込んだ油汚れを強力に引き剥がすことができます。

  3. カビ取り・漂白剤の助剤:
    次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)と併用、あるいは配合されることで、カビの細胞壁(タンパク質)を破壊し、漂白成分の浸透を助ける役割を果たします。外壁の黒ずみや藻の除去において、市販の家庭用カビ取り剤よりも遥かに高い洗浄力を発揮する業務用洗浄剤に含まれています。

  4. アルカリ性電解水の生成:
    現場事務所や内装クリーニングで使用される「強アルカリ電解水」の生成において、電気分解の効率を上げるための電解質として微量のKOHが添加されることがあります。これにより、界面活性剤を使わずに汚れを落とす環境配慮型の清掃が可能になります。

これらの用途で使用する際は、対象となる建材への影響を考慮する必要があります。例えば、木材に高濃度のKOHを使用すると、木材中のリグニンが分解されて変色(アルカリ焼け)を起こしたり、繊維が毛羽立ったりすることがあります。使用後は、酸性の中和剤(酢酸やクエン酸など)でpHバランスを戻し、十分な水洗いを行う「リンス作業」が施工品質を保つための鍵となります。
ケイ酸カリウム(KOH由来)を利用したコンクリート止水材・改質剤についての技術情報です。
参考)https://silica-pota.com/wp-content/uploads/2025/01/3cc3c82c1927f83811ca4f7b686f5305.pdf

コンクリート防水の新常識 - シリカテックとは

水酸化カリウム化学式の分子量と濃度の計算

現場で水酸化カリウム(化学式KOH)を使用する場合、市販の原液や固形物をそのまま使うことは稀で、用途に合わせて適切な濃度に希釈する必要があります。このとき、正確な計算を行わないと、「濃度が低すぎて効果がない」あるいは「濃度が高すぎて建材を傷める」といったトラブルに繋がります。ここでは、実務で役立つ基礎的な計算知識と分子量について解説します。
まず、水酸化カリウムの分子量を確認しましょう。
化学式は KOH ですので、原子量を足し合わせることで算出できます。


  • カリウム (K): 約 39.10

  • 酸素 (O): 約 16.00

  • 水素 (H): 約 1.01

  • 分子量: 39.10 + 16.00 + 1.01 = 56.11

この「56.11」という数字は、化学反応を厳密に制御する際(中和滴定など)には必須ですが、現場での洗浄液作りでは「約56」と覚えておけば十分です。一方、比較対象となる水酸化ナトリウム(NaOH)の分子量は約40です。
これは、同じモル濃度(粒子の数)の溶液を作る場合、KOHの方がNaOHよりも約1.4倍の重量(グラム数)が必要になることを意味します。「苛性ソーダと同じグラム数を入れれば同じ強さになる」と勘違いしていると、KOHの場合はアルカリ成分の粒子数が少なくなり、期待した効果が得られない可能性があります。
現場でよく使う「重量パーセント濃度」の計算:
現場ではモル濃度よりも、重量パーセント濃度(wt%)が一般的です。
作りたい濃度(%)と量(g)から、必要なKOHの量を割り出します。
必要なKOHの質量(g)=作りたい溶液の全質量(g)×目標濃度(%)100\text{必要なKOHの質量(g)} = \frac{\text{作りたい溶液の全質量(g)} \times \text{目標濃度(\%)}}{100}必要なKOHの質量(g)=100作りたい溶液の全質量(g)×目標濃度(%)
例えば、5%の水酸化カリウム洗浄液を10kg(10,000g)作りたい場合
10,000×5100=500g10,000 \times \frac{5}{100} = 500\text{g}10,000×1005=500g
つまり、500gの水酸化カリウム固形物を計り取り、それを9,500g(9.5リットル)の水に溶かせば、合計10kgの5%溶液が完成します。
注意点:市販品の純度
工業用の水酸化カリウムは、純度85%程度のフレーク状で販売されていることが一般的です(残りは水分や炭酸カリウム)。上記の計算で求めた500gをそのまま投入すると、不純物の分だけ実際のKOH成分は少なくなってしまいます。
厳密な5%溶液が必要な場合は、純度補正を行う必要があります。
実投入量=500g0.85(純度)588g\text{実投入量} = \frac{500\text{g}}{0.85(\text{純度})} \approx 588\text{g}実投入量=0.85(純度)500g≈588g
このように、現場での配合設計では、化学式に基づく分子量の理解と、市販品の純度を考慮した計算が、品質のばらつきを防ぐために不可欠です。
国立環境研究所のデータベースで、分子量や比重などの物理化学的性質の正確な数値を確認できます。
参考)化学物質DB/Webkis-Plus 化学物質詳細情報

化学物質DB/Webkis-Plus - 水酸化カリウム

水酸化カリウム化学式とジオポリマーコンクリートの独自性

最後に、一般的な「洗浄」や「剥離」といった用途とは異なる、建設業界で注目されつつある独自視点の技術を紹介します。それは、次世代の環境配慮型コンクリートとして研究が進む「ジオポリマー(Geopolymer)」における水酸化カリウムの重要な役割です。
通常、コンクリートはセメントと水を反応(水和反応)させて固めますが、ジオポリマーはセメントを全く使いません。代わりに、フライアッシュ(石炭灰)や高炉スラグなどの産業副産物を、「アルカリ刺激剤」と呼ばれる強アルカリ溶液で反応(重合反応)させて硬化させます。このアルカリ刺激剤の主役の一つが、水酸化カリウム(化学式KOH)なのです。
なぜ水酸化ナトリウムではなく、水酸化カリウムなのか?
ジオポリマーの研究において、刺激剤としてNaOHよりもKOHを使用した方が、圧縮強度が発現しやすいという報告が多くなされています。これは、以下の化学的なメカニズムによるものです。


  • 溶解・重合の促進: ジオポリマーの反応プロセスでは、まずフライアッシュ中のシリコン(Si)やアルミニウム(Al)がアルカリによって溶け出す必要があります。カリウムイオン(K+)はナトリウムイオン(Na+)よりもアルカリ溶液中でのイオン対の形成が緩やかである等の理由から、SiやAlの溶出後の重縮合反応において、より緻密で強固なポリマーネットワーク(-Si-O-Al-O-の鎖)を形成しやすいと考えられています。

  • 収縮の低減: KOHベースのジオポリマーは、NaOHベースのものに比べて乾燥収縮が小さいという特性も報告されています。コンクリートの大敵である「ひび割れ」を抑制する上で、この性質は極めて有利です。

  • 耐熱性・耐酸性: カリウムベースのジオポリマーは、酸性環境下や高温環境下での劣化抵抗性が高いことが確認されており、化学プラントの床や耐熱ライニング材としての活用が期待されています。

このように、水酸化カリウムは単なる「汚れ落とし」ではなく、セメントに代わる新しい建設材料の「命」を吹き込む重要な化学物質としても機能しています。化学式KOHが持つポテンシャルは、既存の枠を超えて、建設技術の最先端領域である脱炭素コンクリートの開発にも深く関わっているのです。
ジオポリマーにおける水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの強度発現の違いについて学術的な比較がなされています。
参考)http://www.arch.ce.nihon-u.ac.jp/~pareek/pdf/PDF11.pdf

ジオポリマーコンクリートによる環境的利点と物性

 

 


Cimacil (シマシル)4% 水酸化ナトリウム 苛性ソーダ 500g 工業用 中和 実験 洗浄 油汚れ