

無許可で工事を進めると6ヶ月以下の懲役が科される可能性があります。
特別緑地保全地区とは、都市緑地法(昭和48年法律第72号)第12条および都市計画法第8条に基づく「地域地区」の一つです。都市内に残された樹林地・草地・水辺地・岩石地などの良好な自然的環境を現状凍結的に保全することを目的に指定されます。屋敷林、神社の鎮守の森、歴史的遺跡と一体となった緑地なども対象になる点が特徴です。
制度の根拠となる法令は複数あります。都市緑地法第12条のほか、首都圏では「首都圏近郊緑地保全法」第5条、近畿圏では「近畿圏の保全区域の整備に関する法律」第6条がそれぞれ根拠となります。つまり、同じ「特別緑地保全地区」という名称でも、地域によって根拠法令が異なるため、担当窓口が変わる場合があります。
指定主体は原則として市町村です。ただし10ha以上かつ2以上の区域にわたるものは都道府県が計画決定を行います。この規模要件は実務上の重要なポイントで、大規模な案件では都道府県の都市計画審議会を経る手続きが必要になります。
なお、2004年の法改正により、従来の「緑地保全地区」が「特別緑地保全地区」に名称変更されています。名称は変わりましたが、制度の性格・行為規制の内容に変更はありません。古い図面や資料には「緑地保全地区」と記載されている場合がありますが、実質的に同一制度です。これは把握しておくべき点ですね。
さらに2024年(令和6年)5月に都市緑地法等が改正され、機能維持増進事業の手続き簡素化や都市緑化支援機構による土地買入代行制度(国指定法人制度)が新設されました。最新の法令改正にも常にアンテナを張っておくことが大切です。
参考リンク:特別緑地保全地区制度の概要・指定要件・土地の買入れ制度について(国土交通省公式)
公園とみどり:特別緑地保全地区制度 – 国土交通省
令和6年(2024年)3月31日時点で、全国の特別緑地保全地区の指定数は657地区、総面積は約2,943haに達しています。東京ドームの面積が約4.7haであることを踏まえると、東京ドーム約625個分の緑地が全国で保全されている計算です。指定数・面積ともに右肩上がりで増加しており、1973年(昭和48年)の制度創設から約50年で大きく拡大しました。
都道府県・政令市別の指定状況では、神奈川県が地区数284・面積826.7haと断トツの全国最多です。横浜市だけで188地区・約564ha(令和7年9月現在)を占め、日本最大の特別緑地保全地区集積都市となっています。次いで福岡県が90地区・501.6ha(うち北九州市71地区)、東京都が53地区・321.0ha(うち東京特別区11地区・87.07ha)と続きます。
主要都市の最新指定状況を以下の表にまとめます。
| 都道府県・政令市 | 地区数 | 面積(ha) |
|---|---|---|
| 神奈川県(横浜市含む) | 284 | 826.7 |
| 福岡県(北九州市・福岡市含む) | 90 | 501.6 |
| 東京都(特別区・市部含む) | 53 | 321.0 |
| 愛知県(名古屋市含む) | 74 | 213.7 |
| 北海道(札幌市含む) | 27 | 239.8 |
| 兵庫県(神戸市含む) | 25 | 204.6 |
| 大阪府(大阪市・堺市含む) | 5 | 180.0 |
東京都内で見ると、区部では代々木(渋谷区・69.9ha)、上野(台東区・6.5ha)など20地区、多摩地区では八王子市上川の里(50.9ha)、青梅の森(91.7ha)など36地区が指定されています。地区の規模には大きな幅があり、東京23区内では0.06ha(成城三丁目崖の林)という非常に小さな地区も存在します。
現場で確認する際は各自治体の都市計画課または緑地担当課に問い合わせるほか、国土交通省が公開している指定地区一覧(Excelファイル)で網羅的に把握することができます。
参考リンク:全国の特別緑地保全地区指定地区一覧(Excelファイル)(国土交通省公式)
特別緑地保全地区 指定地区一覧 – 国土交通省(Excel)
参考リンク:東京都内の特別緑地保全地区一覧(区部・市部ごとに詳細な地区名・面積・告示日を確認可能)
特別緑地保全地区 各種緑の情報 – 東京の緑(東京都)
特別緑地保全地区内で最も重要なのが「行為制限」の内容です。制度の基本的な性格は「現状凍結」であり、緑地の状態をそのまま維持することが原則です。これが「許可制」を採用している理由で、緑地保全地域(届出制)よりも規制が格段に厳しくなっています。
都市緑地法第14条に基づき、以下の行為を行う場合には都道府県知事または市長の許可が必要です。
許可を得るためには、まず事前相談(行為地の規制内容・申請書の記入方法等の確認)から始め、申請書と必要図面を作成して提出します。標準的な審査期間は約21日(休日・補正に要する期間を除く)です。審査では書類審査だけでなく現地調査も実施されます。余裕を持った申請が原則です。
許可申請に必要な主な書類は以下のとおりです。
許可後も手続きは続きます。行為期間中は「行為許可標識」を現地の見やすい場所に掲出し、工事中は中間検査を受け、完了後14日以内に「行為完了届出書」を提出して完了検査を受けることが求められます。許可後に売買等で許可に基づく地位を承継した場合は「許可承継届出書」の提出も必要です。これは現場担当者が見落としがちなポイントです。
なお、許可が不要な行為もあります。面積10m²以下の土地の形質変更、枯損・危険木竹の伐採、仮設工作物の設置などが代表的な許可不要行為です。ただし「10m²以下だから大丈夫」と決めつけず、1.5mを超える法を生じる切土・盛土を伴う場合は許可が必要になるなど、条件によって変わるため個別に確認することが大切です。
参考リンク:神戸市が公開する行為許可申請の詳細手続き・基準・必要書類・許可不要行為の一覧
特別緑地保全地区内における行為許可申請のあらまし – 神戸市(PDF)
都市緑地法の罰則は、建築業従事者にとって直接のリスクになります。罰則は違反の種類によって3段階に分かれています。
最も重い罰則は「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」で、行政の原状回復命令に従わなかった場合に適用されます。次に「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」があり、これが特別緑地保全地区内で都道府県知事等の許可を受けずに建築行為等を行った場合に科されます。さらに「30万円以下の罰金」として、標識の無断移転・汚損・損壊、緑地保全地域での無届行為・虚偽申告などが対象です。
刑事罰のリスクは実際どの程度深刻か。最初から逮捕・送検されるわけではありません。通常は是正勧告→立入検査→是正命令という流れで行政指導が先行します。しかし命令に従わなければ刑事罰の対象となります。工期の遅延や原状回復費用の発生も覚悟しなければなりません。
建築業従事者が特に注意すべきなのは、「施主(土地所有者)から依頼を受けたから大丈夫」と思い込んでしまうケースです。都市緑地法の違反責任は実際に行為を行った者にも及びます。法人の代表者や従業者が業務に関して違反行為を行った場合、その法人に対しても罰金刑が適用される両罰規定(都市緑地法第68条)があるため注意が必要です。
着工前に以下の確認を行うことでリスクを回避できます。
実務ではGIS(地理情報システム)を活用する自治体が増えており、各市区町村の都市計画情報システムで特別緑地保全地区の位置を地図上で確認できるケースもあります。国土交通省の「都市計画情報提供サービス(都市計画WebGIS)」も参考になります。これは使えそうですね。
参考リンク:施工管理技士が押さえるべき都市緑地法の罰則・違反行為の種類と刑罰の内容
施工管理技士なら知っておきたい!罰則や違反行為:都市緑地法編 – 施工管理求人サーチ
「緑地保全地域」と「特別緑地保全地区」は名称が似ているため混同されがちですが、建築実務上の取り扱いは大きく異なります。最大の違いは規制の仕組みです。緑地保全地域は届出制(保全に著しい支障がなければ認められる)、特別緑地保全地区は許可制(原則として変更行為は認められない現状凍結型)です。
もう一つの重要な違いは指定主体と規模感です。緑地保全地域は都道府県(または政令市)が指定し、対象は都市近郊の比較的大規模な緑地です。一方、特別緑地保全地区は市町村が指定し、市街地内に残る屋敷林・神社林・寺院林・歴史的遺跡周辺の緑地など、都市の中心部に点在する比較的小さな緑地も対象になります。東京都内では0.06haという小規模な地区も指定されており、住宅密集地の小さな緑地でも制限がかかります。意外ですね。
実務で間違いやすいもう一つのポイントが「生産緑地地区との混同」です。生産緑地地区は農地の保全を目的とし、農業を営むために必要な施設(農業資材保管施設等)は市長の許可を得て建築できる場合があります。しかし特別緑地保全地区では農業施設であっても原則として許可が必要で、より厳格な基準が適用されます。「農地だから農業用倉庫を建てればいいはず」という判断は危険です。
以下に主な地域地区の比較をまとめます。
| 制度 | 規制の強さ | 指定主体 | 主な対象緑地 |
|---|---|---|---|
| 緑地保全地域 | 届出制(緩やか) | 都道府県・政令市 | 都市近郊の大規模緑地 |
| 特別緑地保全地区 | 許可制(厳格) | 市町村(10ha以上は都道府県) | 市街地内の樹林地・神社林等 |
| 生産緑地地区 | 許可制(農業目的は一部可) | 市町村 | 市街化区域内の農地 |
不動産取引においては、売買対象の土地が特別緑地保全地区内にある場合、宅地建物取引業者は重要事項説明書に都市緑地法に基づく制限として明記する義務があります(宅建業法第35条)。建築業従事者としても、工事依頼を受けた土地について重要事項説明書の法令制限欄を確認する習慣をつけることが、リスク回避の基本です。
なお、特別緑地保全地区内の土地でも建替えが全くできないわけではありません。たとえば神戸市の基準によれば、指定前から普通建築物の敷地だった土地については、現存建物の建替えのための建築が一定条件下で許可される場合があります。条件は「改築前の建物の高さを超えない」「緑地の状況と著しく不調和でない形態・意匠」などです。判断は個別事案ごとになるため、必ず事前相談が必要です。
参考リンク:緑地保全地域と特別緑地保全地区の違い・規制内容・実務上の注意点(不動産実務向け解説)
土地が緑地保全地域だとどんな制限がある?特別地区についても解説 – 株式会社日本アイディアル不動産
建築業従事者が見落としがちな独自の視点として、特別緑地保全地区が土地所有者の相続・固定資産税に与える影響があります。この知識を持つことで、土地オーナーとの交渉や関係構築において差別化できます。
特別緑地保全地区の指定には、土地所有者にとって無視できない税制上の優遇措置があります。相続税については、山林および原野が対象の場合、通常の評価額から最大8割の評価減が認められます(財産評価基本通達50-2、58-5、123-2)。仮に相続税評価額が5,000万円の山林があるとすれば、特別緑地保全地区の指定によって評価額が1,000万円まで圧縮される可能性があります。これは大きなメリットです。
固定資産税についても、現地の状況(現況地目)によりますが最大1/2(50%)まで評価減されます。さらに都市計画税も同様に減免の対象です。毎年かかる税負担が半減するのは、緑地を持つ地権者にとって非常に大きな恩恵です。
さらに、建築行為等の許可申請が不許可となった場合、土地所有者は都道府県知事または市長に対して「土地の買入れ申出」を行うことができます(都市緑地法第17条)。この場合、市町村・都道府県・都市緑化支援機構がその土地を買い入れ、譲渡所得から2,000万円の特別控除が適用されます(租税特別措置法第34条)。建設業従事者として、「不許可になったら終わり」ではなく、土地オーナーにとって別の選択肢があることを知っておくと、相談対応に深みが出ます。
建築業従事者が特別緑地保全地区の知識を活かせる場面は次のとおりです。
2024年(令和6年)5月の都市緑地法改正で創設された「機能維持増進事業の手続き簡素化」は、特別緑地保全地区内での緑地の再生・整備工事が行いやすくなる可能性を含んでいます。今後、公共事業や自治体との連携によって、特別緑地保全地区に関わる工事案件は増加していく可能性があります。早い段階で制度を深く理解しておくことが実務上の優位性につながります。
参考リンク:特別緑地保全地区に関わる相続税・固定資産税の優遇措置と公園緑地税制の全体像
公園緑地関係の主な税制 – 国土交通省
参考リンク:令和6年度新設の東京都による特別緑地保全地区買取等補助事業の詳細(補助対象・手続き方法)
特別緑地保全地区・買取等補助事業 – 東京の緑(東京都)