突入電流とブレーカー選定の安全率と対策

突入電流とブレーカー選定の安全率と対策

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突入電流とブレーカーの関係

この記事で分かること
突入電流の基礎知識

電源投入時に流れる大電流の発生メカニズムと影響を理解できます

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ブレーカー選定方法

定格電流と安全率を考慮した適切な遮断器の選び方が分かります

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建物設備での実践対策

変圧器や電動機での具体的なトラブル防止策を学べます

突入電流とは何か

 

突入電流とは、電気機器の電源を入れた際に、瞬間的に定格電流よりも大きな電流が流れる現象です。英語ではInrush currentと表記され、電源を入れた直後から回路に定格値を超える大きな電流が流れ、ピーク電流値に達した後、徐々に定格電流値に収束します。スイッチング電源においては、入力電圧の位相が90°/270°の時に最も大きな突入電流が流れ、その継続時間は最大5msです。
参考)https://www.cosel.co.jp/technical/qanda/a0048.html

突入電流が発生すると、回路に過負荷やショートが起こっていると誤認識される可能性があります。それによりブレーカーが落ちたり、電圧が降下して接続されている機器が停止する場合もあります。発生する理由はさまざまですが、コンデンサを含む機器の場合、まずコンデンサを充電する必要があるため大電流が流れます。またフィラメントを持つ機器においては、フィラメントが加熱する前は抵抗が小さい状態となるため、大きな電流が流れやすくなります。
参考)https://www.matsusada.co.jp/support/terms/ps/inrush-current.html

突入電流がブレーカーに与える影響

ブレーカーには反時限特性と瞬時特性という2つの動作領域があります。30A以下のブレーカーは定格電流値の125%の場合約60分で、200%の場合で約2分で遮断しますが、500%を超える電流では0.1秒以下で遮断します。突入電流は定格電流の数十倍に達することがあるため、適切なブレーカー選定を行わないと誤動作を引き起こします。
参考)https://question.realestate.yahoo.co.jp/knowledge/chiebukuro/detail/1314647673/

大きな突入電流が流れると、電源側のインピーダンスとの関係で電圧が一時的に低下します。これにより隣接する機器や他の需要家の電圧が瞬間的に下がり、照明のちらつき(フリッカ)や機器の誤動作を招く可能性があります。特に高圧配電系統で大型設備を投入する場面が問題になります。日本の配電規程では高圧での電圧変動は±10%以内に収めるよう定められており、変圧器投入に伴う瞬時電圧低下が10%を超える場合には発電事業者側で何らかの抑制対策を講じる必要があります。
参考)https://www.enegaeru.com/whatisinrushcurrent

突入電流に対応するブレーカーの選定方法

ブレーカーを選定する際は、まず負荷の定格電流を確認し、安全率を考慮します。内線規定(省令第14条)では、回路の負荷がその回路を保護する過電流遮断器の定格電流の1.1倍に耐えることと定められています。一般的には定格電流に125%の安全率を乗じた値がブレーカーに求められる定格遮断電流となります。
参考)https://taroimo-lifestyle.com/inrush-current/10878/

例えば100%負荷時の定格電流値が78.5Aの電動機の場合、78.5A×1.25=98.125Aとなり、100ATのブレーカーが適切です。次に始動電流(突入電流)に対する瞬時引きはずし能力を確認します。ブレーカーの遮断特性グラフで0.01秒時の遮断電流と突入電流を比較し、これを満足するものを選定します。JIS C 8480「キャビネット形分電盤」では、安全に連続通電できる負荷電流をブレーカの定格電流の80%以下と規定しています。
参考)https://www.fukudadenki.co.jp/document/data02/

定格電流 定格の1.25倍での動作時間 定格の2倍での動作時間
30A以下 60分以下 2分以下
30A~50A 60分以下 4分以下
50A~100A 120分以下 6分以下

変圧器における突入電流の特性と対策

変圧器を電源に接続する場合、遮断器投入時の電圧位相によって著しく大きな励磁電流が流入する場合があり、この変圧器励磁開始時の大きな電流を励磁突入電流といいます。励磁突入電流は定格電流の数倍~数十倍に達する場合があり、変圧器の保護リレーやヒューズの誤動作の原因になります。
参考)https://www.daihen.co.jp/products/electric/faq/basic/q15.html

励磁突入電流は、電源の電圧波形の最大位置で遮断器が投入された場合は発生しませんが、電圧波形が0位置で投入された場合、最大値に達します。発生原因は、変圧器に電源を投入するとき電源電圧が零の位置にあるか、あるいは変圧器鉄心に大きな残留磁気があるときに再投入した時、及びこれら2つの条件が重なった時です。変圧器(鉄心内)に残留磁束が残っている場合、再投入した電圧+残留磁束が上乗せされるため再投入時の電流が大きくなります。
参考)https://harita2021.com/%E5%8F%97%E5%A4%89%E9%9B%BB%E8%A8%AD%E5%82%99%E3%81%AE%E8%A8%AD%E8%A8%88%EF%BD%9C%E5%A4%89%E5%9C%A7%E5%99%A8%E3%81%AE%E5%8A%B1%E7%A3%81%E7%AA%81%E5%85%A5%E9%9B%BB%E6%B5%81%E3%81%A8%E5%AF%BE%E7%AD%96/

トランス一次側にブレーカーを接続する場合、通電開始時に突入電流と呼ばれる短時間の大電流が流れます。突入電流とは、変圧器に電源印加時、定格一次電流の約30倍前後の瞬時に流れる大電流のことで、0.01秒時の電流値(実効値)で表し、ほぼ1秒で減衰します。ブレーカー選定時は、ブレーカーの遮断特性グラフを確認し、0.01秒時の遮断電流と突入電流を比較し、これを満足するものを選定します。​
単相複巻変圧器の一次側にブレーカーを設置する場合、トランスの定格電流と励磁突入電流の突入倍率を確認し、使用予定のブレーカーモデルを選定して動作特性(0.01秒)を調べ、突入電流と瞬時引きはずし特性を比較します。ブレーカーには変圧器用という0.01秒時の遮断電流値が特に大きい種類もあり、この変圧器用ブレーカーを用いると小さいブレーカー電流にすることができます。
参考)https://taroimo-lifestyle.com/breaker/11148/

建物設備における突入電流管理の実務

不動産従事者が知っておくべき突入電流管理の実務として、分電盤の容量確認が重要です。電力会社から供給される電気は、電力量計を経由して住宅内に引き込まれ、分電盤内の契約ブレーカー(リミッター)を通過し、漏電遮断器(主幹ブレーカ)に流れます。契約ブレーカーは契約以上の電気が流れると自動的に電気が止まる仕組みになっており、契約電流は15、20、30、40、50、60Aがあります。
参考)https://denzai-bank.com/blog/%E5%88%86%E9%9B%BB%E7%9B%A4%E3%81%A8%E3%81%AF%E5%BD%B9%E5%89%B2%E3%82%84%E6%A7%8B%E6%88%90%E9%81%B8%E3%81%B3%E6%96%B9%E3%81%AE%E3%83%9D%E3%82%A4/

オフィスや商業施設では、電気の容量(契約アンペア数)は内見や内覧時に分電盤のブレーカーに記載された数字で確認することが可能です。「100AMP」と記載されていた場合、黒と白、赤と白で各100Aが流れるため、合計最大200A利用できます。分電盤から各部屋へ電気を送る分岐回路のそれぞれに取り付けられた分岐ブレーカーの許容電流は一般的に20Aで、電気器具やコードの故障でショートした時や、使いすぎて過電流が流れた時に作動します。
参考)https://www.chuden.co.jp/energy/ene_about/electric/chishiki/mame_bundenban/

大規模な電力を使用する商業施設、工場、オフィスビルなどでは、電力会社から高圧電力を受電し、建物内で使用可能な低圧電力に変換する必要があります。この変換を担う重要な設備がキュービクル式高圧受電設備で、その心臓部とも言えるのが変圧器(トランス)です。キュービクルは高圧受電設備を金属製の箱にまとめた装置のことで、受電した高圧電力を低圧に変換し、建物全体に電力を供給する仕組みを持っています。
参考)https://cubicle-solutions.co.jp/knowledge/uncategorized/roles-and-types-of-transformers-in-cubicle-equipment/

電源は建物の動力分電盤から分岐しますが、ここから制御盤迄を一次電源と呼びます。この電流容量は制御盤と同じか大きくする必要があり、元の分電盤の方が小さいと問題が発生します。高経年マンションにおいて、マンション全体の電気容量を増やすための幹線改修工事を行う際には、分電盤の交換も必要なため、居住者の同意が必要になります。
参考)https://www.kikou.gr.jp/files/mdnews112/mdn112_10.pdf

電動機の突入電流とブレーカー選定の実例

電動機の始動時には始動電流(突入電流)が流れ、始動電流が大きすぎると電圧降下を引き起こし、他の機器に影響を与えます。モーターブレーカーは、ブレーカー1台につきモータ1台の保護ができ、複合負荷(2台以上の負荷)の場合、モータの保護のためには各々のモータ回路にモータ保護機器が必要です。
参考)https://www2.panasonic.biz/jp/basics/electric/breakers/motor-breaker/

実際の選定例として、出力22kW、極数4P、電圧200V、周波数60Hz、100%負荷時定格電流78.5A、始動電流574Aの東芝製電動機の場合を考えます。始動方法は直入れで、ブレーカーは三菱電機製の配線用遮断器(WS-V)から選定します。定格電流78.5Aに安全率125%を乗じた98.125Aが必要な定格遮断電流となり、100ATのブレーカーが適切です。​
次に始動電流574Aに対する瞬時引きはずし能力を確認します。三菱電機製の配線用遮断器で定格電流100Aの場合、標準品の瞬時引きはずし電流値は1000Aで、製作可能最小値は機種により300~400Aです。この電動機の始動電流が574Aなので、どのブレーカーでも始動電流でトリップすることはありません。​

  • 定格トルク、定格回転速度で回転しているときの電流値が定格電流です
  • サーマルリレーの整定電流はこの電流値で設定します
  • モーター起動時に流れる電流が突入電流です

参考情報:電動機の始動電流とブレーカー保護の詳細
https://taroimo-lifestyle.com/inrush-current/10878/

突入電流の抑制対策技術

突入電流による影響を抑えるための対策方法として、いくつかの技術があります。最も簡単な方法は、突入電流の流れる回路に抵抗を入れ電流を制限することですが、抵抗による余分な損失が常に発生するため、基本的には採用されません。突入電流が小さい場合や損失を無視できるような簡単な用途においてのみ使われています。
参考)https://freelance-aid.com/articles/electrical-and-electronic-design/3514.html

抵抗の代わりに、温度が上がるほど抵抗値が下がるNTCサーミスタを使う対策方法もあります。NTCサーミスタなら突入電流を高い抵抗で抑制しつつ、定常時は発熱により抵抗値が下がるため電流を妨げません。ただし始動後ある程度電流が流れるまでは抵抗値が高いため起動に時間がかかるデメリットがあり、一度高温になった後に電源が再投入されて突入電流が流れた場合は対策にならないため注意が必要です。​
半導体スイッチを組み込んで突入電流を抑える方法では、電源を入れた直後は電流が抵抗へ流れ、ある程度時間が経過したらスイッチをオンにすることで突入電流を制限します。リレーと抵抗を組み合わせた突入電流防止回路では、現状回路の直列経路インピーダンスを逆算し、目標突入電流量を決定して、突入電流制限抵抗値を算出します。また、ソフトスタート回路やタイムラグヒューズを使用する方法もあります。
参考)https://www.asia-ele.jp/column/inrush-current/

トランスの突入電流を抑える技術として、コイルの巻き線の構造を変える方法があります。通常は入力側から先に巻いて出力側を後に巻きますが、出力側を内側にして巻くことで突入電流が抑制できます。トランスの突入電流値は、任意の電流値より低く設定し製作することも可能ですが、形状が大きくなります。
参考)http://www.n-musashino.co.jp/solution/rush-current/

  • 抵抗による電流制限:簡単だが常に損失が発生
  • NTCサーミスタ:温度上昇で抵抗低下、起動時間が長い
  • 半導体スイッチ:タイミング制御で抑制、複雑な回路
  • ソフトスタート回路:段階的に電圧上昇、効果的

参考情報:突入電流防止回路の設計方法
https://rozipen-blog.com/突入電流防止回路の設計方法まとめ/
参考情報:突入電流の基礎知識と対策(松定プレシジョン)
https://www.matsusada.co.jp/support/terms/ps/inrush-current.html