

第二種電気工事士を持っていても、現場によっては無資格扱いになります。
アース設置、正式には「接地工事(せっちこうじ)」は、漏電した電気を安全に大地へ逃がすための重要な施工です。冷蔵庫・洗濯機・エアコンなどの家電製品、さらには建築現場の仮設電源や制御盤にも施工が求められます。
この接地工事は、電気工事士法および電気設備技術基準省令によって、電気工事士の有資格者でなければ施工できないと明確に定められています。根拠となる法律は電気工事士法第3条で、「電気工事士免状の交付を受けている者でなければ、電気工事に従事してはならない」と規定されています。これが原則です。
建築業に携わる人のなかには、「アース線を機器にねじ止めするだけなら問題ないだろう」と考えている方も少なくありません。しかし実際には、アース棒(接地銅棒)を地中に埋め込む作業や、接地線(アース線)を配線する作業はすべて「電気工事」に該当します。つまり電気工事士の免状なしに施工してはいけません。
唯一の例外が「軽微な工事」に分類されるねじ止め作業です。経済産業省の資料では、「汎用モーターや農業用ポンプなどの端子箱内のねじ止め作業」が資格不要の軽微な作業として挙げられています。ただし、これは既設の接地設備に対して機器を接続するだけの行為であり、接地工事そのものには該当しません。アースターミナルの設置や接地棒の打ち込みは、たとえ短時間の作業であっても資格が必要だということです。
経済産業省:電気工事士等資格が不要な「軽微な工事」とは(PDF)
無資格でアース工事を行った場合の罰則についても確認しておきましょう。電気工事士法第14条(第3条第1項・第2項違反)により、3ヶ月以下の懲役または3万円以下の罰金が科される可能性があります。また、無資格者に工事をさせた雇用主側も罰則の対象となります。現場監督や施工管理担当者は、作業員の資格保有状況を必ず確認することが法令上の義務です。罰則は小さいと感じるかもしれませんが、前科が付くという点は非常に深刻です。
アース設置に必要な資格は、施工する電気工作物の種類によって異なります。ここが建築業従事者が最も誤解しやすいポイントです。
まず電気工作物には大きく「一般電気工作物」と「自家用電気工作物」の2種類があります。一般住宅や小規模な店舗(低圧で受電する施設)は一般電気工作物に分類され、最もよく見かけるパターンです。一方、高圧で受電しているビルや工場、大型商業施設などは自家用電気工作物に分類されます。
🔑 工事場所別・必要資格の対応表
| 工事場所 | 電気工作物の区分 | 必要な資格 |
|---|---|---|
| 一般住宅・小規模店舗 | 一般電気工作物 | 第二種電気工事士 |
| 高圧受電ビル・工場の低圧部分 | 自家用電気工作物 | 第一種電気工事士 または 認定電気工事従事者 |
| 高圧設備(A・B種接地含む) | 自家用電気工作物 | 第一種電気工事士 |
第二種電気工事士は、一般電気工作物の範囲でのみD種接地工事(アース設置)が可能です。これは基本中の基本です。しかし注意すべきは、高圧受電しているビルの低圧部分であっても、それは「自家用電気工作物」に該当するため、第二種電気工事士では施工できないという点です。外見上は普通の100V/200V回路であっても、受電形態によって必要な資格が変わるのです。
建築現場でよく行われるD種接地工事は、300V以下の低圧電気機械器具の金属製外箱や金属管などに施す接地工事です。接地抵抗値の基準は100Ω以下(漏電遮断器が0.5秒以内に遮断できる装置がある場合は500Ω以下)と定められており、施工後には必ず接地抵抗計による測定と確認が必要です。
認定電気工事従事者という資格も重要です。第二種電気工事士免状の交付後、3年以上の実務経験があれば取得申請ができ、600V以下で使用する自家用電気工作物の工事が可能になります。自家用電気工作物でのC種・D種接地工事が施工範囲に含まれるため、ビルや工場現場でアース工事を担当する機会が多い方には、取得する価値がある資格です。
一般財団法人 電気技術者試験センター:認定電気工事従事者認定講習について
アース設置を含む電気工事に適法に従事するための第一歩は、第二種電気工事士の取得です。この資格は受験資格の制限がなく、年齢・学歴・実務経験を問わず誰でも挑戦できます。これは使えそうです。
試験は年2回(上期・下期)実施されており、学科試験と技能試験の2段階構成です。学科試験の合格率は例年60%前後、技能試験は70%前後で推移しており、国家資格の中では比較的取得しやすい資格に分類されます。勉強時間の目安は100〜200時間程度で、1日2時間の学習を継続すれば、約2〜3ヶ月で合格ラインに達することができます。ちょうど週5日フルで働きながらでも、通勤時間や休憩時間の活用で十分に対応できるレベルです。
受験にかかる費用は、学科試験と技能試験の受験料として合計で9,300円程度(令和7年度実績)、免状の交付手数料として5,300円程度が必要です。参考書代や工具・練習用部材のコストを含めると、トータルで3〜5万円程度の出費を見込んでおくと良いでしょう。
🛠️ 第二種電気工事士でできる主なアース関連作業
- アース棒(接地銅棒)を地中に埋め込む接地極の施工
- 接地線(IV線、緑色被覆、1.6mm以上)の配線
- コンセントのアース端子への接地線接続(アース端子付き設備の施工)
- 接地抵抗計を用いた施工後の接地抵抗値測定と記録
- 分電盤への接地バーの取り付けと配線
資格取得後は、施工範囲の管理も重要になります。「自分が第二種電気工事士だから大丈夫」と思っていても、工事する施設が高圧受電のビルであれば施工できません。施工前に必ず施設の受電形態を確認することを習慣にしましょう。これが原則です。
一般財団法人 電気技術者試験センター:電気工作物の概要(資格との関係)
「D種接地工事は必ずしも施工しなければならない」と思っている建築業従事者は多いですが、一定の条件を満たせば省略が認められるケースがあります。ただし省略できる条件は非常に限定的で、誤った判断が重大な安全リスクを招くことも忘れてはなりません。
電気設備技術基準の解釈(内線規程)では、以下の条件のいずれかに該当する場合にD種接地工事を省略できると定めています。
📋 D種接地工事を省略できる主な条件
- 対地電圧150V以下の機器を乾燥した場所に設置する場合
- 絶縁性の台・床(木製フローリングなど)の上に設置する場合(コンクリート床は省略不可)
- 二重絶縁構造の機器(電動工具など)に使用する場合
- 絶縁変圧器(線間電圧300V以下、容量3kVA以下)の2次側非接地回路に接続する場合
- 定格感度電流15mA以下・動作時間0.1秒以下の漏電遮断器を設置している場合
特に現場で実務的に関係するのは、漏電遮断器による省略条件です。建築現場の仮設電源では、漏電遮断器の設置が標準的に行われていますが、感度電流が30mAのものを使用しているケースも多く見られます。この場合、省略条件(15mA以下)を満たさないため、D種接地工事を省略することはできません。ここは注意が必要です。
また、コンクリート床の上で作業する場合は絶縁性が確保されないため、「乾燥した場所」の省略条件が適用されません。建築現場では土間コンクリートの上に電動工具を置いて作業することが多く、この状況では接地工事が原則として必要になります。省略条件が適用されるかどうかは、環境と使用する機器の仕様を慎重に照合することが条件です。
経済産業省:電気設備の技術基準の解釈(D種接地工事の省略条件を含む)(PDF)
接地抵抗が基準値(100Ω以下)を超えているにも関わらず放置することは、施工不良として竣工検査で指摘されるだけでなく、入居後に機器の故障や感電事故の原因になりかねません。接地抵抗測定は施工後に必ず行い、測定記録を書類として残しておくことが実務上の必須事項です。
資格と法律の知識を整理したうえで、実際の現場でアース設置を適切に行うための実務的なポイントを押さえておきましょう。
まず施工前に確認すべき点として、「施設の受電形態」と「自分の資格で施工可能な範囲かどうか」を照合することが大前提です。低圧の工事でも、自家用電気工作物であれば第二種電気工事士では対応できません。この確認を怠ると、法令違反リスクが生じます。
🔧 アース設置の施工チェックリスト(D種接地工事)
- 施設が一般電気工作物か自家用電気工作物かを確認する
- 担当者が施工範囲に対応した資格免状を保有しているか確認する
- 接地銅棒は地下75cm以上の深さに埋設されているか
- 接地線はIV線(緑色被覆)、直径1.6mm以上を使用しているか
- 接地線の地下75cmから地表上2mの部分を合成樹脂管で保護しているか
- 接地抵抗計で測定し、100Ω以下(またはD種省略条件に基づく基準値)を確認したか
- 測定記録を書面で保存したか
接地棒を打ち込んだ後に接地抵抗が100Ωをなかなか下回らない場合、土壌の岩盤質や乾燥によって抵抗が高くなっていることがあります。この場合は、接地棒を複数本並列打ちにする(棒と棒の間隔は棒の長さ以上が目安)か、水を周囲に注入して土壌の導電性を高める方法が有効です。現場で接地抵抗計(アース・テスター)を常備しておくと、こうした状況に迅速に対処できます。
資格のステップアップについても考えておくと良いでしょう。第二種電気工事士を取得した後、3年以上の実務経験を積むことで「認定電気工事従事者」の認定講習(受講料12,500円+認定証交付手数料4,700円)を受け、自家用電気工作物への施工範囲を広げることができます。さらにキャリアを積んで第一種電気工事士(試験合格後、3年の実務経験で免状取得)を取得すれば、A種・B種を含む全種類の接地工事に対応でき、1級電気工事施工管理技士の受講資格も得られます。これは大きなメリットです。
建築業のなかでも電気設備に関わる仕事を長く続けるなら、こうした資格の体系を理解したうえで計画的に取得することが、将来の仕事の幅と収入に直結します。アース設置の資格要件を正しく理解することは、法令遵守の観点だけでなく、自身のキャリア設計においても重要な出発点になります。
D種接地工事とは?どんな資格が必要か・電気工事士との関係を徹底解説(外部参考記事)