

ガンデルシート(Gundle Sheet)は、主に産業廃棄物の最終処分場や管理型処分場において、汚染水(浸出水)が地下水や土壌へ流出するのを防ぐために使用される高密度ポリエチレン(HDPE)製の遮水シートです。建設業界において「ガンデル」という名称は、単なる製品名を超え、信頼性の高いHDPE遮水シートの代名詞として広く浸透しています。その最大の特長は、物理的な強度と化学的な安定性にあります。
一般的な塩化ビニル(PVC)やゴム製のシートと比較して、HDPEは結晶化度が高く、分子構造が緻密であるため、酸やアルカリ、重金属を含む過酷な化学物質に対して極めて高い耐性を持っています。これは、埋立処分場のように、長期間にわたってどのような成分が溶出するかわからない環境下において、絶対的な遮水性能を維持するために不可欠な要素です。また、ガンデルシートは突き刺し強度や引張強度にも優れており、埋立作業中に重機が走行したり、廃棄物の鋭利な突起が接触したりした場合でも、容易に破損しないタフさを備えています。
参考)高密度ポリエチレン遮水シート「ガンデル®シートHDシリーズ」…
最終処分場の構造において、ガンデルシートは単なる「防水」以上の役割を果たします。それは環境汚染を防ぐ「最後の砦」です。シートが破損すれば、有害物質が地下水脈に達し、周辺環境に甚大な被害を及ぼす可能性があります。そのため、材料の選定においては、単に水を通さないだけでなく、地盤の不同沈下に追随する柔軟性(伸び率)と、長期的なクリープ変形に対する抵抗力が求められます。ガンデルシートHDシリーズは、高弾性タイプとして分類され、特に引張強さと伸び率のバランスが最適化されています。これにより、地盤が多少変形してもシートが破断することなく、遮水機能を維持し続けることが可能です。現場技術者にとって、この「破断しない」という信頼感こそが、ガンデルシートが選ばれ続ける最大の理由と言えるでしょう。
ガンデルシートの施工において最も技術力を要し、かつ品質を左右するのが「溶着(接合)」の工程です。どんなにシート自体の性能が高くても、接合部に隙間があれば遮水システムとしては機能しません。HDPEは接着剤による接合が困難な素材であるため、熱によって材料自体を溶かし込み、一体化させる「熱融着」が行われます。
主な接合方法として、広範囲の直線部分には「自走式熱風融着機」や「自走式ホットウェッジ融着機」が使用されます。これは、重ね合わせたシートの間に高温の熱源(くさび型の熱板など)を挿入し、表面を溶融させた直後に加圧ローラーで圧着する方式です。この際、重要なのが「ダブルシーム(二重線)溶着」です。接合部を2列の溶着線で密閉し、その間に空間(エアチャンネル)を設ける構造にします。この中空部分が、後の品質検査において決定的な役割を果たします。
参考)https://jgschugoku.jp/asset/00032/GE/Vol25/ge_vol25_18.pdf
施工後の検査プロセスは、建築基準法レベルの厳密さが求められます。
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これらの検査は、すべて記録として残され、トレーサビリティが確保されます。特に自走式融着機の設定温度や速度は、当日の気温や湿度、風速によって微調整が必要です。熟練した職人は、試し焼き(テストウェルド)を行い、溶着ビードのはみ出し具合や、剥離試験での破断モード(界面剥離ではなく母材破断すること)を確認してから本施工に入ります。この徹底したプロセス管理こそが、漏水事故を防ぐ鍵となります。
「プラスチックは腐らない」というイメージがありますが、HDPE製のガンデルシートといえども、永久に劣化しないわけではありません。現場管理者が知っておくべき主な劣化要因は、「紫外線(UV)」と「熱酸化」、そして「環境応力亀裂(ESCR)」です。
参考)低密度ポリエチレンと建築の柔軟性と耐久性
紫外線はポリマーの分子鎖を切断し、シートを脆化させます。これを防ぐために、ガンデルシートにはカーボンブラックが添加されており、これが紫外線を吸収して樹脂を守る役割を果たしています。しかし、カーボンブラック自体も経年で表面から失われていくため、最も確実な保護対策は「土被り(覆土)」や「保護マット」の設置です。施工後、速やかに遮光性の保護マット(不織布など)を敷設し、その上に土砂を被せることで、紫外線による劣化をほぼ完全に遮断できます。適切に遮光された地中環境であれば、HDPEシートは半永久的とも言える50年以上の耐久性を維持できるとされています。
また、意外と見落とされがちなのが、保護マットの選定です。単に紫外線を防ぐだけでなく、埋立廃棄物や砕石の尖った角からシートを守る「クッション材」としての機能も重要です。処分場では、埋立重機の走行や廃棄物の投入衝撃がシートに伝わります。厚手の長繊維不織布などの保護マットを介在させることで、点荷重を面荷重に分散させ、物理的な損傷リスクを低減します。
高密度ポリエチレン遮水シート「ガンデルシートHDシリーズ」 - 太陽工業株式会社
このリンクには、ガンデルシートの各シリーズ(HD, HDW, HDCW)の詳細なスペックや、JIS規格に基づいた試験データが掲載されています。
さらに、化学的な劣化対策として、埋立廃棄物の種類に応じたシート厚の選定も重要です。一般的には1.5mm厚が標準ですが、より高い信頼性が求められる管理型処分場では2.0mm厚が推奨されることもあります。厚みが増すことで、薬液浸透に対する物理的な距離(バリア)が稼げるだけでなく、溶着時の熱容量にも余裕が生まれ、施工品質が安定するというメリットもあります。
これは検索上位の記事ではあまり強調されていない、現場特有の「独自視点」かつ極めて重要な技術的トピックです。それは、シートの色による「熱膨張・収縮(サーマルムーブメント)」の問題です。
通常のガンデルシートは、対候性を高めるカーボンブラックを含んでいるため「黒色」をしています。黒色は太陽光を吸収しやすく、夏場の炎天下ではシート表面温度が70℃~80℃に達することも珍しくありません。HDPEは熱膨張係数が比較的大きい素材であるため、高温になると大きく伸び、夜間冷え込むと縮みます。この激しい温度変化の繰り返しにより、施工中に「ウェーブ(波打ち)」や「リンクル(しわ)」と呼ばれる現象が発生します。
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温度上昇を抑えることで、熱膨張によるしわの発生を劇的に減らすことができ、シートが平滑な状態で地盤に密着します。これは、「土被りをするまでの露出期間」におけるリスク管理として非常に有効です。また、白色の表面は、傷や亀裂が入った際に下地の黒色が露出するため、目視検査での損傷発見が容易になるという副次的なメリットもあります。コストは標準品より若干上がりますが、補修の手間や将来的なリスク低減を考慮すると、トータルコストでは有利になるケースが多いのです。特に広大な面積を施工する処分場では、この「色の違い」が施工品質と工期短縮に大きく貢献します。
最後に、ガンデルシート(HDPEシート工法)を、他の遮水工法と比較した際のコストパフォーマンスと寿命について検討します。比較対象としてよく挙げられるのは、「ベントナイト混合土工法」や「アスファルト表面遮水壁」です。
| 比較項目 | ガンデルシート (HDPE) | ベントナイト混合土 | アスファルト遮水壁 |
|---|---|---|---|
| 初期コスト | 中 (材料費は変動するが施工は早い) | 低~中 (現地土発生土を利用できれば安価) | 高 (専用プラントや重機が必要) |
| 施工速度 | 速い (広幅ロールで展開が早い) | 遅い (層状転圧が必要) | 中 (天候に左右されやすい) |
| 遮水信頼性 | 極めて高い (完全不透水) | 高い (自己修復性あるが透水係数はゼロではない) | 高い (実績豊富だがクラック懸念あり) |
| 化学的耐久性 | 優 (酸・アルカリに強い) | 良 (イオン交換により劣化の可能性あり) | 良 (有機溶剤には弱い) |
| 耐用年数 | 50年以上 (保護工ありの場合) | 半永久的 (土質材料のため) | 30年~50年 (酸化劣化あり) |
ガンデルシートの最大の強みは、「品質の均一性」と「施工スピード」にあります。工場生産されたシートを現地で広げて接合するため、現地の土質条件に左右されやすいベントナイト工法に比べて、品質管理が容易です。特に、近年の処分場建設は工期短縮が求められる傾向にあり、広幅(5m~7mなど)のシートを一気に敷設できるガンデルシートは、人件費削減の観点からも合理的です。
参考)https://gw.doc.kyushu-u.ac.jp/pdf/results-202403.pdf
また、ライフサイクルコスト(LCC)の観点でも優位性があります。アスファルト遮水は紫外線による酸化劣化や温度変化によるクラック発生のリスクがあり、定期的なオーバーレイ(再舗装)などのメンテナンスコストが発生します。一方、ガンデルシートは一度地中に埋設されれば、物理的な破損がない限りメンテナンスフリーに近い状態で機能を維持します。
ただし、ガンデルシートにも弱点はあります。それは「鋭利な突起物による物理的損傷」です。これを防ぐためには、下地処理(サブグレード)の平滑性確保と、前述した保護マットの併用が前提条件となります。初期導入コストだけを見れば他の簡易的なシートの方が安い場合もありますが、万が一漏水事故が起きた場合の改修費用(廃棄物の掘り起こしなど)は天文学的な数字になります。そのリスクヘッジ費用を含めて考えれば、世界標準であるHDPE製ガンデルシートを採用することは、事業者にとって最も経済合理性の高い選択肢となるのです。

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