熱機械分析 TMAで建築材料の線膨張係数と軟化点を徹底解説

熱機械分析 TMAで建築材料の線膨張係数と軟化点を徹底解説

記事内に広告を含む場合があります。

熱機械分析 TMAが建築材料の品質管理と設計に欠かせない理由

異なる材料を組み合わせた部位でも、線膨張係数が7倍以上違うと夏冬の気温差だけで目地が破断し、100万円超の補修工事になります。


この記事の3つのポイント
🔬
TMAとは何か

熱機械分析(TMA)は、材料に荷重をかけながら温度を変化させ、ミクロン単位で寸法変化を測定する分析手法です。建築材料の膨張・収縮・軟化挙動を定量的に把握できます。

🏗️
建築現場との関係

コンクリート・シーリング材・防水シートなど、建物で使われる素材ごとに線膨張係数は大きく異なります。TMAでその差を事前に把握することが、亀裂や剥離の防止に直結します。

📊
測定でわかること

線膨張係数(CTE)・ガラス転移温度(Tg)・軟化点の3つが主な測定対象です。これらのデータは材料選定・設計仕様の根拠として、品質管理や不具合原因の特定に役立ちます。


熱機械分析 TMAの基本原理:試料に荷重をかけながら温度変化を測定する仕組み

熱機械分析(TMA:Thermomechanical Analysis)は、JISの定義では「試料の温度を一定のプログラムによって変化させながら、圧縮・引張り・曲げなどの非振動的荷重を加えて、その物質の変形を温度又は時間の関数として測定する方法」とされています。簡単に言えば、材料が熱によってどのように寸法変化を起こすかを、ミクロン単位の精度で評価できる手法です。


装置の構造はシンプルです。試料を石英またはアルミナ製のホルダーにセットし、プローブと呼ばれる細い棒を材料に当てた状態で加熱炉の中で昇温・冷却を行います。試料が膨張・収縮・軟化すると、プローブの位置がわずかに動きます。この動きを高感度の変位センサー(LVDT)が電気信号として捉え、温度との対応グラフを自動作成する仕組みです。


測定の感度は非常に高く、通常はナノメートル〜ミクロンオーダーの変位を連続的に記録できます。つまり、「髪の毛1本(約80μm)」よりはるかに小さな変形量を検出できます。この感度の高さが、建築材料の品質評価においても重要な意味を持ちます。


測定できる温度範囲は機種によって異なりますが、一般的なTMA装置では-130℃〜600℃程度の広い範囲に対応しています。冬季に-10℃以下になる地域の建築材料の挙動も、夏季に60℃を超える屋根材の表面温度変化も、同じ装置で再現・評価できます。これは建築用途において大きなメリットです。




以下の表にTMA装置の代表的な仕様をまとめます。










項目 代表的な仕様
温度範囲 -130℃〜600℃
変位検出精度 0.02μm(ミクロン単位以下)
測定モード 膨張・圧縮/針入/引張/曲げ
荷重制御 一定荷重・定速・周期荷重に対応
試料サイズ(圧縮) 最大 直径10mm × 長さ20mm程度




参考:TMA装置の詳細な装置仕様と測定事例については、日鉄テクノロジーによる解説が詳しく記載されています。


熱機械分析法(TMA) | 日鉄テクノロジー(日本製鉄グループ)


熱機械分析 TMAで測定できる3つの指標:線膨張係数・ガラス転移温度・軟化点

TMAで得られる主要な情報は、①線膨張係数(CTE)、②ガラス転移温度(Tg)、③軟化点の3つです。これらは建築材料の選定・設計・品質管理に直結するデータで、数値だけでなく「現場でどう使うか」まで理解することが重要です。


① 線膨張係数(CTE)とは何か


線膨張係数は、1℃温度が上がるとある材料が長さ方向にどれだけ伸びるかを示す係数です。単位はμm/(m・℃)、またはppm/℃と表記されます。具体的に言うと、線膨張係数が10 × 10⁻⁶/Kのコンクリートは、1mの長さが1℃上昇するごとに0.01mm(10ミクロン)伸びます。東京の外気温が冬季0℃から夏季40℃まで変動するとすると、1mのコンクリートは約0.4mm伸び縮みすることになります。


| 建築材料 | 線膨張係数(×10⁻⁶/K) |
|---------|----------------------|
| コンクリート | 約10 |
| 鉄鋼(鉄筋) | 約12 |
| アルミニウム | 約23 |
| 塩ビ(PVC) | 約70 |
| シリコーン系シーリング材 | 約200〜250 |


この表を見ると、塩ビとコンクリートでは線膨張係数が約7倍、シリコーン系シーリングとコンクリートでは約20〜25倍もの差があります。これは建築的に見ると非常に大きな差で、温度変化のたびに接合部に繰り返し応力が集中することを意味します。


つまり、材料の組み合わせが問題です。TMAでCTEを事前に把握することで、接合部の設計や目地幅の設定を適正に行い、亀裂や剥離のリスクを下げることができます。


② ガラス転移温度(Tg)とは何か


ガラス転移温度は、樹脂系材料が「硬くてもろいガラス状」から「やわらかく弾性があるゴム状」へと変化する温度を指します。TMAの測定グラフでは、熱膨張曲線の傾きが急変する点として現れます。この温度を境に、材料の弾性率熱膨張率・柔軟性がガラっと変わります。


建築用途でTgが重要なのは、防水シートや目地用シーリング材、接着剤などの樹脂系材料に特に関係するためです。例えば、Tgが-30℃のシーリング材であれば、冬季に-10℃になっても柔軟性を保ちますが、Tgが+10℃の製品では真冬に硬化してひびが入るリスクがあります。材料のTgを知らずに寒冷地の目地に採用すると、数年でシーリングが割れるという事態になりかねません。これは使えそうな情報ですね。


③ 軟化点とは何か


軟化点は、材料が熱によって形状保持ができなくなり、流動性を持ち始める温度です。TMAでは針入モードで測定し、針状プローブが試料に徐々に沈み込んでいく挙動から判定します。防水シートや熱可塑性樹脂製品の施工温度上限の確認に不可欠なデータです。軟化点が必須です。


参考:線膨張係数・軟化点の受託測定に関する実務情報は、日本ゴム・プラスチック材料試験所の解説が参考になります。


線膨張係数・軟化点の受託測定:熱機械分析(TMA)| 日本ゴム・プラスチック材料試験所


熱機械分析 TMAの3種類の測定モードと建築材料への応用

TMAには目的に応じて3つの主要な測定モードがあり、それぞれ異なる挙動を捉えることができます。建築材料の種類と確認したい特性に応じて、適切なモードを選ぶことが精度の高いデータ取得の前提です。


① 膨張・圧縮モード:線膨張係数とガラス転移点の評価


最も基本的なモードです。試料に圧縮方向の軽い荷重をかけながら昇温し、試料が熱で伸び縮みする量を高精度で測定します。この測定から線膨張係数(CTE)とガラス転移温度(Tg)を算出できます。コンクリート、モルタル、タイル、金属パネルなど、剛体に近い建築材料の評価に向いています。


② 針入モード:軟化点測定


針状の先端を持つプローブで試料表面を局所的に押しながら昇温するモードです。試料が軟化すると針が沈み込んでいく挙動を捉え、軟化点(軟化温度)を特定します。防水シートや熱可塑性樹脂製目地材、接着剤などのシート・フィルム状材料の耐熱評価に使われます。施工可能温度域の上限確認に役立ちます。


③ 引張モード:フィルム・薄膜の熱伸びと相転移の評価


試料を上下に引っ張りながら加熱し、温度変化に対する伸びや相変化を測定するモードです。防水フィルム、コーティング材、繊維補強シートなど、細長いシート状・フィルム状の材料に向いています。延伸方向と垂直方向で別々に測定することで、素材の異方性(方向によって変形量が異なる性質)も評価できます。これは意外ですね。




以下に、建築材料ごとの推奨測定モードを整理します。










建築材料の種類 推奨モード 把握できる特性
コンクリート・モルタル・タイル 膨張・圧縮 線膨張係数、Tg
シーリング材・接着剤 膨張・圧縮 / 針入 Tg、軟化点、CTEの比較
防水シート・フィルム材 引張 / 針入 熱伸び、異方性、軟化点
断熱材(発泡系) 膨張・圧縮 / 針入 耐熱性、変形温度
金属パネル・アルミカーテンウォール 膨張・圧縮 線膨張係数(設計値との比較)




建築材料の多くは異種材料を組み合わせて使われます。例えば、アルミカーテンウォール(CTE:約23 × 10⁻⁶/K)とガラス(CTE:約8〜9 × 10⁻⁶/K)を組み合わせる場合、TMAで双方のCTEを実測し、その差に見合ったムーブメント(目地の動き代)を設計に反映することが、長期的な建物の品質維持に欠かせません。「設計値との差を確認する」という視点でTMAを活用することが条件です。


参考:アルミカーテンウォールの目地ムーブメント設計に関する実務情報は、日本建設連合会の技術資料に詳しく記載されています。


建具・カーテンウォールの品質管理のポイント | 日本建設連合会(PDF)


熱機械分析 TMAとDSC・TGAとの違い:建築材料評価で組み合わせるべき分析手法

熱分析には複数の手法があり、TMAはその一つです。建築材料を適切に評価するためには、各手法の違いと得意・不得意を正確に把握しておくことが大切です。DSCやTGAは名前をよく聞くものの、TMAと混同されがちです。


TMAは「物理的な寸法変化」に特化した分析手法です。一方、DSC(示差走査熱量測定)は材料が熱を吸収または放出する量の変化を測定し、融点・ガラス転移温度・反応熱などを評価します。TGA(熱重量分析)は加熱による試料の質量変化を測定し、分解温度・含水率・燃焼挙動などを把握できます。3つの手法はそれぞれ異なる物理量を測定しており、目的に応じて使い分けが必要です。








分析手法 測定対象 主な出力データ 建築材料への主な適用
TMA(熱機械分析) 寸法変化 CTE・Tg・軟化点・膨張率 線膨張係数の実測、軟化評価、目地設計
DSC(示差走査熱量測定) 熱流量変化 融点・Tg・反応熱・結晶化温度 接着剤硬化挙動、樹脂の熱的安定性評価
TGA(熱重量分析) 質量変化 分解温度・含水率・残灰量 防水材・断熱材の耐熱・耐燃性評価




注意が必要な点があります。DSCでもガラス転移温度(Tg)を測定できますが、DSCとTMAではTgの測定原理が異なるため、数値が一致しない場合があります。DSCは熱容量の変化点として、TMAは熱膨張曲線の傾き変化点としてTgを捉えます。厳密な材料評価では、両方の手法でTgを確認することが推奨されています。これだけ覚えておけばOKです。


建築材料の評価で最も実務的なのは、TMAで変形特性(CTE・Tg・軟化点)を把握し、TGAで耐熱・耐燃性を確認し、DSCで硬化反応や相転移を確認するという組み合わせです。3つを適切に使い分けることで、材料の全体像を把握でき、設計ミスや施工不具合の原因特定が格段に早くなります。


参考:TMA・DSC・TGAの各手法の原理と違いについては、日立ハイテクの技術解説が体系的にまとめられています。


熱機械分析(TMA)の定義と解説 | 日立ハイテク


熱機械分析 TMAの独自視点:建築現場で「受託分析」を活用するための実践的な流れ

ここまでTMAの原理や測定内容を解説してきましたが、建築業に携わる多くの方にとって「実際にどこでどう使うのか」が一番気になるところではないでしょうか。実は、TMA装置を自社で所有しなくても、受託分析サービスを利用することで、必要なデータをスポットで入手できます。厳しいところですね。


受託分析サービスとは、試料を専門機関に送ると、測定・解析・レポートを行ってくれるサービスです。日鉄テクノロジーや東芝ナノアナリシス、日本ゴム・プラスチック材料試験所など、TMA受託測定に対応する機関が複数存在します。費用は機関や測定数によって異なりますが、1試料あたり数万円程度から利用できるケースが多いです。


建築業で受託分析が特に有効な場面は以下の通りです。



  • 🏗️ 新規材料の採用検討時:カタログ値では読み取れない実際のCTEやTgを確認し、採用リスクを事前評価できます。

  • 🔍 不具合発生後の原因特定:現場で剥離や亀裂が生じた部位から試料を採取し、材料特性のズレを特定する根拠データとして活用できます。

  • 📋 長期保証を伴う仕様選定:設計者や施工管理者が材料の熱特性データを根拠として仕様書に記載でき、責任の所在を明確にできます。

  • 🌡️ 寒冷地・高温環境の建物設計:北海道や沖縄など、年間温度差が大きい地域の建物に使用する素材の適性評価に直結します。


受託分析を依頼する際の手順は、①試料の準備(切り出しサイズや形状は機関により異なるため事前確認が必要)、②依頼書への測定条件の記載(温度範囲・雰囲気・昇温速度など)、③測定・解析・レポート受け取り、という流れです。作業自体は依頼機関が行うため、建築業の現場担当者は「何を知りたいか」を明確にして依頼するだけで済みます。


また、JIS規格に準拠した測定(JIS K 7197:プラスチックの線膨張係数試験方法、JIS K 7196:熱可塑性プラスチックの軟化温度試験方法など)を指定することで、公的な品質管理書類や仕様書に活用できるレポートが得られます。JIS規格対応測定は必須です。


参考:TMA受託分析サービスの概要については、各測定機関のウェブサイトから詳細を確認できます。


熱機械分析(TMA)受託分析サービス | 東芝ナノアナリシス株式会社