二酸化炭素吸収源と建設業:森林・コンクリート・ブルーカーボン

二酸化炭素吸収源と建設業:森林・コンクリート・ブルーカーボン

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二酸化炭素吸収源の基礎知識

記事のポイント
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森林と木材

「伐って、使って、植える」循環による炭素固定効果

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CO2吸収コンクリート

製造時にCO2を吸い込み内部に閉じ込める新技術

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ブルーカーボン

港湾工事と連携した海藻などの海洋吸収源の活用

二酸化炭素吸収源としての木材活用と森林循環

 

建設業界において、最も伝統的かつ効果的な二酸化炭素吸収源(CO2吸収源)対策の一つが「木材の積極的な利用」です。木材は、成長過程で大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素として内部に固定する機能を持っています。この機能は、木材が建材として加工され、建物の一部として利用されている間も持続します。これを専門用語で「HWP(Harvested Wood Products:伐採木材製品)」の炭素貯蔵効果と呼びます。
参考リンク:【林野庁】森林・林業・木材産業によるグリーン成長(木材利用による炭素貯蔵の仕組みについて解説されています)
建設現場で木材を利用することには、以下の3つの大きな環境メリットがあります。


  • 炭素の長期貯蔵庫としての機能: 木造建築物は「都市の森林」とも呼ばれます。コンクリートや鉄に比べて製造時のエネルギー消費が少ないだけでなく、木材内部に炭素を長期間留め置くことで、大気中へのCO2放出を抑制します。

  • 森林の新陳代謝の促進: 「森林は放置すればよい」というのは誤解です。高齢化した樹木はCO2の吸収能力が低下します。適切な時期に伐採し(主伐)、建材として利用し、跡地に若い苗木を植える(再造林)というサイクルを回すことで、森林全体のCO2吸収能力を若返らせることができます。

  • 省エネ効果: 木材は断熱性が高く、建物の運用段階での冷暖房エネルギー削減にも寄与します。

特に近年では、CLT(直交集成板)などの技術革新により、中高層建築物でも木造化が可能になりました。これにより、従来は鉄筋コンクリート造RC造)や鉄骨造(S造)が主流だったビル建築の分野でも、二酸化炭素吸収源としての木材活用が進んでいます。建設業者が地産地消の木材を選ぶことは、輸送にかかるCO2(ウッドマイレージ)を削減するだけでなく、地域の林業再生と森林保全に直結する重要なアクションとなります。

二酸化炭素吸収源となる環境配慮型コンクリート

これまで建設業界において、コンクリートは「CO2排出の主要因」として見られることが多くありました。セメントの製造工程(石灰石の焼成)で大量のCO2が発生するためです。しかし、近年の技術革新により、コンクリートそのものを「二酸化炭素吸収源」に変える画期的な技術が登場し、実用化が進んでいます。これが「カーボンネガティブコンクリート」や「CO2吸収型コンクリート」と呼ばれるものです。
参考リンク:【鹿島建設】CO2-SUICOM(スイコム)(製造過程でCO2を大量に吸収・固定するコンクリート技術の詳細です)
この技術の核となるのは、「炭酸化」という化学反応の利用です。具体的なメカニズムや特徴は以下の通りです。


  1. 製造時におけるCO2の吸収・固定: 特殊な混和材を使用し、コンクリートの硬化過程で高濃度のCO2と接触させます。すると、化学反応によりCO2が炭酸カルシウムなどの形でコンクリート内部に固定されます。

  2. 産業副産物の有効利用: 火力発電所などから排出される排ガス中のCO2を直接利用したり、高炉スラグなどの産業副産物を骨材として活用したりすることで、廃棄物の削減と脱炭素を同時に実現します。

  3. 排出量実質ゼロ以下: 製造時の排出量よりも、吸収・固定するCO2量の方が多くなるよう設計された製品もあり、これらは実質的に「空気中のCO2を減らすコンクリート」として機能します。

施工管理の現場では、これらの環境配慮型コンクリートを採用することが、発注者への強力なアピールポイントになります。特に公共工事や大手企業のプロジェクトでは、環境性能評価(LEEDやCASBEEなど)の加点対象となるため、採用事例が急増しています。コスト面での課題は残されていますが、炭素税の導入や排出権取引の活発化を見据えれば、長期的には標準的な建材になっていく可能性が高い技術分野です。現場技術者としても、通常のコンクリートとの施工性の違い(流動性や硬化速度など)を理解しておくことが求められます。

二酸化炭素吸収源に貢献するブルーカーボン技術

「ブルーカーボン」とは、海草(アマモなど)や海藻(コンブ・ワカメなど)、湿地・干潟などの海洋生態系によって吸収・固定される炭素のことです。これに対し、森林などの陸上生態系による吸収は「グリーンカーボン」と呼ばれます。日本は四方を海に囲まれた海洋国家であり、このブルーカーボンのポテンシャルが極めて高く、建設業界、特に港湾土木や海洋工事の分野での貢献が期待されています。
参考リンク:【国土交通省】港湾におけるブルーカーボンの取組(港湾・海洋建設における具体的な施策がまとめられています)
建設業が関わるブルーカーボン事業には、以下のような独自のアプローチがあります。


  • 藻場(もば)の造成・再生工事: 埋め立てや護岸工事の際に、単にコンクリートで固めるのではなく、海藻が着生しやすい「環境共生型ブロック」を使用したり、浅場を人工的に造成したりする工事です。鉄鋼スラグと腐植土を混ぜた資材を海底に設置し、鉄分を供給して磯焼け(海藻がなくなる現象)を防ぐ技術も開発されています。

  • 港湾施設のグリーンインフラ化: 防波堤や岸壁の壁面を、生物が棲みやすい形状に加工することで、海藻の定着を促します。これにより、インフラとしての機能を維持しながら、CO2吸収源としての機能を付加することができます。

  • 浚渫(しゅんせつ)土砂の活用: 航路維持のために海底から掘り出した土砂(浚渫土)を活用して、干潟や浅場を造成します。干潟はCO2吸収だけでなく、水質浄化や生物多様性の保全にも大きな役割を果たします。

ブルーカーボンの大きな特徴は、海草などが枯れて海底に堆積することで、数千年にわたって炭素を貯留できる可能性がある点です。建設業者は、こうした「海の森づくり」を通じて、カーボンオフセット(排出埋め合わせ)のクレジット創出に貢献できる新たなビジネスチャンスを迎えています。海洋土木の現場では、単なる施工だけでなく、施工後のモニタリング(ドローンや水中カメラを活用した海藻の生育調査)まで含めたパッケージ提案が求められるようになってきています。

二酸化炭素吸収源の価値を可視化するJ-クレジット

「技術的に二酸化炭素を減らした・吸収した」という事実を、経済的な価値に変換する仕組みが「J-クレジット制度」です。建設業者が二酸化炭素吸収源対策を行う上で、この制度の理解は不可欠です。J-クレジットとは、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの利用、そして森林管理などによるCO2などの排出削減量・吸収量を、国が「クレジット」として認証する制度です。
参考リンク:【J-クレジット制度事務局】J-クレジット制度公式サイト(制度の概要や認証プロセス、売買方法が詳細に記載されています)
建設業にとって、J-クレジットは主に「創る側」と「使う側」の2つの側面があります。


  1. クレジットを「創る」:


    • 森林由来クレジット: 自社で保有する山林の間伐や植林を行うことで、その吸収量をクレジット化し、他社に売却して収益を得ることができます。建設残土の埋立地に植林を行うプロジェクトなども対象になり得ます。

    • コンクリート由来: 先述のCO2吸収型コンクリートの使用により削減されたCO2量を方法論に基づいて算定し、クレジット化する動きも始まっています。


  2. クレジットを「使う」:


    • カーボンオフセット: 工事現場で重機や発電機を使用する際にどうしても排出されてしまうCO2を、購入したJ-クレジットで相殺(オフセット)します。「CO2ゼロ工事」として発注者にアピールでき、入札時の評価向上や企業のCSR(社会的責任)活動として活用されます。

J-クレジットの認証を受けるには、「ベースライン(対策をしなかった場合の排出量)」と「プロジェクト実施後の排出量」を厳密に計算し、第三者機関の検証を受ける必要があります。手続きは複雑ですが、最近では申請支援を行うコンサルタントや、ブロックチェーン技術を用いて簡素化するプラットフォームも登場しています。中小建設業者であっても、地域単位でまとまって申請する「プログラム型」を活用することで、参入障壁が下がっています。これは単なる環境活動ではなく、新たな収益源および企業ブランディングの核となる戦略です。

二酸化炭素吸収源としてのバイオ炭の土木利用

最後に、まだ広く知られていないものの、建設・土木分野で急速に注目を集めている独自視点の技術「バイオ炭(Biochar)」について解説します。バイオ炭とは、木材や竹、もみがらなどの生物資源(バイオマス)を、酸素が少ない状態で加熱して炭化させたものです。これを農地や土壌に埋めることで、難分解性の炭素として半永久的に土の中に閉じ込めることができます。
参考リンク:【農林水産省】バイオ炭の農地施用による二酸化炭素貯留(バイオ炭の定義やJ-クレジットにおける取り扱いについて解説)
建設業におけるバイオ炭の可能性は、単なる土壌改良材を超えて広がっています。


  • 法面(のりめん)緑化基盤材への混合: 道路工事や造成工事で発生する法面の緑化において、吹き付け土壌にバイオ炭を混合させます。これにより、植物の生育促進(保水性・透水性の向上)と同時に、大量の炭素を法面に固定することができます。

  • 舗装材やコンクリートへの混入: アスファルトやコンクリートの骨材の一部をバイオ炭に置き換える研究が進んでいます。これにより、道路そのものを巨大な炭素貯蔵庫に変えることが可能になります。

  • 建設発生木材のアップサイクル: 建設現場での解体工事や、ダムの流木撤去などで発生する木質廃棄物を、現場近くで炭化処理し、それを再びその場の土木資材として利用します。これにより、廃棄物処理コストの削減、輸送CO2の削減、そして炭素固定という「一石三鳥」の効果が期待できます。

バイオ炭の農地施用はすでにJ-クレジットの対象となっており、土木利用に関しても方法論の拡大が議論されています。建設業は「土」を扱うプロフェッショナルです。その土壌管理技術に「炭素貯留」という視点を加えることで、造成地や道路の下を二酸化炭素吸収源に変えるという、全く新しい環境価値を生み出すことができるのです。これは、従来の「作る」建設業から、「環境を再生する」建設業(リジェネラティブ)への転換を象徴する技術と言えるでしょう。

 

 


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