

耐震強度の基準は、1981年6月1日を境に「旧耐震基準」と「新耐震基準」に大別されます。旧耐震基準では、震度5程度の中規模地震に対して建物が倒壊しないことを目標としており、建物の自重の20%に相当する地震力に対する許容応力度計算のみが求められていました。一方、新耐震基準では、震度5強程度の中規模地震で軽微な損傷にとどめ、震度6強〜7程度の大規模地震でも倒壊しないことを目標として設定されています。
参考)https://t816.jp/column/shockresistant-criterion-revision/
新耐震基準の最大の特徴は、構造計算の方法が大幅に見直された点です。従来の許容応力度計算に加えて、保有水平耐力計算という二次設計が導入されました。許容応力度計算では中規模地震に対して建物部材が損傷しない最大の応力を計算し、保有水平耐力計算では大規模地震に対して建物が崩壊せずに保持できる水平耐力を検証します。この二段階の検証により、建物の安全性が飛躍的に向上しました。
参考)https://www.sakuramachi-estate.com/blog/2025/05/06/%E8%80%90%E9%9C%87%E5%9F%BA%E6%BA%96%E6%94%B9%E6%AD%A3%E3%81%AF%E3%81%84%E3%81%A4%EF%BC%9F%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%81%A8%E7%8F%BE%E7%8A%B6%E3%82%92%E7%9F%A5%E3%82%8B%EF%BC%81%E4%BD%8F%E5%AE%85%E8%B3%BC/
鉄筋コンクリート造の建物では、1971年の改正でせん断補強基準が強化され、柱の耐震性が向上していました。しかし、木造住宅については1981年の改正でも基本的な規定にとどまり、2000年の改正まで待つ必要がありました。旧耐震基準で建てられた建物は、築年数でいえば2025年時点で築44年以上の建物が該当し、耐震診断や耐震補強の検討が必要なケースが多いといえます。
参考)https://www.tokiwa-system.com/column/column-186/
2000年6月1日に施行された建築基準法の改正は、特に木造住宅の耐震性能を大きく向上させる内容となりました。この改正は1995年の阪神・淡路大震災で多くの木造住宅が倒壊した教訓を踏まえたものです。改正の主な内容は、「地盤の耐力に応じた基礎の設計」「柱を土台や梁に固定する接合部の金物の設定」「耐力壁のバランスのよい配置」の3点です。
参考)https://www.ieuri.com/bible/sell-knowledge/15668/
地盤調査に関しては、建築基準法および住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)の改正により、地耐力を調べる地盤調査が事実上必須となりました。地盤の状況を把握せずに基礎工事を行うと不同沈下が発生するリスクがあるため、建物を新築する際には事前に地耐力を調べることが義務付けられ、施工者は引渡しから10年間に不同沈下が生じた場合、無償で修復する義務を負うことになりました。
参考)https://landnet.co.jp/redia/17841/
接合部の金物については、柱の抜けを防ぐために木造住宅の柱を梁、土台、筋交いにしっかり固定できるよう専用の金物が指定されました。2000年基準以前の建物では、接合部が現行法規に適合していない古い仕様であることが倒壊の主要因となっていたため、この改正は非常に重要な意味を持ちます。また、耐力壁の配置については、壁量計算だけでなく、建物全体のバランスを考慮した配置が求められるようになり、偏心率の確認が義務化されました。
参考)https://inaho-re.com/news/9441/
耐震等級は、2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」で創設された耐震性の指標です。耐震等級は等級1から等級3まで3段階に分けられ、等級1は建築基準法レベルの耐震性能を満たす水準、等級2は等級1の1.25倍、等級3は等級1の1.5倍の地震力に耐えられる性能を示します。耐震等級1は現行の建築基準法が要求する最低限の耐震性能であり、大地震後に住み続けることは困難で、建替えや住替えが必要となることが多い水準です。
参考)https://www.saysinter.com/column/vol10/
耐震等級2は、災害時の避難所として指定される学校などの公共施設に必須とされる耐震性能であり、長期優良住宅の認定条件にもなっています。耐震等級3は、消防署や警察署など災害時の救護活動・災害復興の拠点となる建物に採用される最高レベルの耐震性能です。一度大きな地震を受けてもダメージが少ないため、地震後も住み続けられ、大きな余震が来てもより安全とされています。
参考)https://www.tson.co.jp/media/rei/rei-basic/3079/
耐震等級を取得するには、仕様規定とは別に「性能表示計算」か「許容応力度計算(構造計算)」が必要です。性能表示計算は品確法に基づく計算方法ですが、許容応力度計算のほうが計算が細かく、同じ耐震等級2・3だとしても、安全性は許容応力度計算をしている建物のほうが上とされています。許容応力度計算では、壁バランス、水平構面、柱の座屈、接合部の検討、横架材の検討、基礎の検討など、より詳細な項目について許容応力度以下であることを確認します。
参考)https://makehouse.co.jp/labo/knowhow-design/structural-calculation-earthquake-resistance-class3/
建物の耐震性を確保するための構造計算は、建物に加わる地震力・風圧・津波などの力によって、建物にどのような荷重や応力が発生するかを計算するプロセスです。新耐震基準では、1次設計の許容応力度計算と2次設計の保有水平耐力計算の二段階の計算が求められるようになりました。許容応力度計算は、建物の各部材(柱・梁・床・基礎など)が、損傷しない最大の応力計算をすることで、中規模地震に対して建物部材の許容応力度が同等以上必要とされます。
参考)https://www.renosy.com/magazine/entries/4809
保有水平耐力計算は、許容応力度計算とは異なるアプローチを取ります。許容応力度計算が各部材に注目しているのに対し、保有水平耐力計算は建築物が持つ耐力の総和に注目しており、設計者が考える建物が変形してよいと考える範囲まで建築を強制的に変形させた時に各部材が負担する水平せん断力の総和が、合格ライン(必要保有水平耐力)を超えていることを確認します。必要保有水平耐力を求める際のCo値は1.0以上とされていますが、Ds(地震エネルギー吸収能力)、Fes(構造的なバランス)の係数によって低減することができ、粘り強い破壊をする建築物でバランスの良い建物の場合はDs×Fes=0.25となり、合理的で経済的な構造設計が可能です。
参考)https://f-kenkihou.com/archives/461
耐震診断は、建物を調査した上で、地震の揺れにより倒壊するかしないかを見極める判断方法です。木造住宅の耐震診断では、「誰でもできるわが家の耐震診断」「一般診断法」「精密診断法」の3つの方法があり、一般診断法及び精密診断法では上部構造評点の結果より判断します。上部構造評点が1.0以上であれば耐震性を確保しているという判定になり、1.0未満の場合は耐震補強等が必要という判定になります。耐震診断のプロセスとしては、まず予備調査により建築物の概要や使用履歴、増改築、経年劣化、設計図書の有無などを確認し、その後現地調査にてマンションの現況を把握し、設計図書との整合性を確認するほか、劣化状況などの診断計算に必要な調査項目を確認します。
参考)https://smart-shuzen.jp/media/4xjis7rzkte
不動産投資において、物件の耐震性能は収益性と資産価値の両面で重要な要素となります。建物の耐震性は、建物種別や構造だけでは決められませんが、築年数や建築確認申請の時期からある程度判断ができます。木造物件であれば2000年6月1日以降に建築確認申請が下りた物件は「2000年基準」で建築されているため、比較的地震に強い建物だといえます。非木造の場合は、1981年6月1日以降に建築確認申請が行われた新耐震基準の物件であることが最低条件となります。
参考)https://www.starts-cam.co.jp/guide/article126.html
投資物件の耐震性を判断する際には、建築年(確認申請)、耐震等級、検査済証の有無を確認することが重要です。検査済証は、建築計画が適法であることの「建築確認」を経て、図面通りに施工されているかの「完了検査」を受けた証明であり、建築当時の法令に適して建築された証になります。検査済証がない場合、すべてが違法建築とは限りませんが、増築時などには検査のコストがかかるため、中古物件を購入する場合は検査済証があることを確認すべきです。
構造種別による耐震性の違いについては、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造のいずれも適切に設計・施工されていれば耐震性に大きな優劣はありません。木造は非木造と比べて軽いため地震による建物の揺れが少ないという特徴があり、鉄骨造は鉄や鋼の持つ「粘り」が地震の揺れを吸収する特性があります。鉄筋コンクリート造は引張に強い鉄筋と圧縮に強いコンクリートを組み合わせた構造で、1階部分をピロティや屋内駐車場にした構造上不安定な建物を除き、地震に強い構造といえます。投資物件を選ぶ際には、耐震性が高い不動産を選ぶことで地震後の建物修理費用を抑えられ、建物の寿命にも良い影響を与えるため、収益性のみならず長く運用でき資産価値が維持できる物件かを見極めることが大切です。
耐震補強工事にかかる費用は、日本木造住宅耐震補強事業者協同組合の調査によると平均163万円とされています。補強箇所別の費用相場としては、基礎の補強が50〜150万円、壁の補強が20〜80万円、屋根の補強と屋根材の取り替えが50〜200万円程度となっています。工事内容別では、耐震金物の取り付けが約40万円、壁に筋交いを設置する補強が約25万円、耐震パネル取り付けが30〜60万円程度です。
参考)https://www.asante.co.jp/quake/column/q03.html
新築時に耐震等級3を取得するためにかかる費用は、主に「構造計算にかかる費用」と「第三者機関への申請費用」で、合算して約40万円〜が相場です。耐震等級3の建設費用は、等級1と比べて20〜30%程度の追加コストがかかり、坪単価は70〜100万円程度、総費用は2,500万円〜4,000万円が一般的とされています。一方、耐震等級1の場合は坪単価50〜70万円で総費用1,500万円〜2,500万円、耐震等級2の場合は坪単価60〜90万円で総費用2,000万円〜3,000万円程度です。
参考)https://titel.jp/articles/earthquake-resistance
長期的な視点で見ると、初期投資として耐震性能を高めることは費用対効果が高いといえます。耐震等級3の住宅を建築する場合、通常の住宅と比較して10〜20%程度の追加費用が発生しますが、地震による損害を大幅に軽減できるため、長期的には修繕費用やダウンタイムを削減できます。また、耐震診断の費用については、鉄筋コンクリート造・鉄骨造や木造の標準的な耐震診断の費用は、一般図・構造図が存在し検査済みである建物の場合、概ね約2,000円/㎡〜約3,500円/㎡とされています。予算と安全性のバランスを考慮し、物件の用途や所在地の地震リスクを踏まえて適切な耐震等級を選択することが重要です。
参考)https://www.taishin-jsda.jp/price.html
参考リンク:耐震診断の詳細について
国土交通省 住宅・建築物の耐震化について
参考リンク:建築基準法の耐震基準の歴史について
建築研究所 建築耐震基準の日米相互比較
参考リンク:木造住宅の耐震基準変遷の詳細
学ぼう!ホームズ君 木造住宅耐震基準の変遷