

JIS準拠で施工しても、ASME基準の案件では材料証明書が1枚なくて認証が全部ひっくり返ります。
ASME(American Society of Mechanical Engineers:アメリカ機械学会)は、1880年に設立されたアメリカで最も歴史ある工学系の標準化機関のひとつです。配管に関しては「ASME B31シリーズ」という体系でコードが整備されており、現在100以上の国と地域で参照・採用されています。
B31シリーズには用途ごとに複数のコードが存在します。代表的なものをまとめると以下の通りです。
| コード番号 | 名称 | 主な対象設備 |
|---|---|---|
| ASME B31.1 | Power Piping(動力配管) | 発電所・工業用ボイラ回り配管 |
| ASME B31.3 | Process Piping(プロセス配管) | 石油化学・医薬・食品・ガス処理プラント |
| ASME B31.4 | Pipeline Transportation Systems | 液体炭化水素・スラリー輸送 |
| ASME B31.8 | Gas Transmission and Distribution | ガスパイプライン・配給システム |
建築設備や産業プラントに携わる現場では、特に B31.1 と B31.3 が頻繁に登場します。どちらを採用するかは発注仕様や設備の用途によって明確に区別されるため、「とりあえずどちらでもよい」という考え方は通用しません。つまり規格の選択が条件です。
B31.3はとりわけ守備範囲が広い規格です。石油精製・化学工場だけでなく、製薬・食品加工・バイオ施設まで適用されます。日本でも海外プラント向け設備や輸出案件では、ASME B31.3への適合が取引の前提条件として提示されるケースが増えています。
一方、日本国内の法規である高圧ガス保安法や電気事業法が適用される設備では、日本の法規が最優先されます。ASMEに準拠していても、日本の法規との整合が取れていなければ認可が下りないことがあります。法規とASMEの両方を把握することが前提です。
参考情報:国内外の配管規格の体系について、法規との関係も含めて詳しくまとまっています。
B31.1とB31.3は「どちらも配管の設計規格」であるため混同されがちですが、細部では大きな差があります。意外ですね。設計圧力の計算に使う許容応力の値からして異なり、同じ材料・同じ呼び径でも、適用するコードが変わると必要な肉厚が変わることがあります。
代表的な違いを整理すると次のようになります。
| 比較項目 | ASME B31.3(プロセス配管) | ASME B31.1(動力配管) |
|---|---|---|
| 主な適用対象 | 化学・石油・食品・医薬プラント | 発電所・ボイラ回りの蒸気配管 |
| 許容材料応力(A106B/250℃) | 132 MPa(約19,170 psi) | 117 MPa(約17,000 psi) |
| 配管支持スパン規定 | 明確な推奨値なし | 許容たわみ2.5mmで規定(表121.5-1) |
| 過圧許容(短期) | 設計圧力の33%増し(最大100時間) | 設計圧力の15%増し(最大800時間) |
| 最低設計温度 | -29℃まで規定 |
許容応力の違いは、配管肉厚の選定に直結します。B31.3の方が許容応力値が高く設定されているため、同じ条件でもB31.1より薄い肉厚で設計できる場合があります。これは使えそうです。ただし、B31.1の方が安全係数を厚めに見ている設計思想のため、発電設備向けの高温高圧蒸気ラインにはB31.1が適しています。
過圧許容に関しても注意が必要です。B31.3では、通常運転時の設計圧力を超える一時的な過圧について、33%増しまでを年間100時間以内に限って認めています。一方B31.1は15%増しで800時間以内という異なる制限があります。発注仕様書に「ASME B31.3準拠」と書かれているのに、B31.1の感覚で過圧限界を判断すると、規格外になるリスクがあります。この点は現場で実際にやってしまいやすい間違いのひとつです。
参考情報:B31.1とB31.3の数値比較がわかりやすく整理されています。
ASME B31.1 と ASME B31.3:配管設計規格を知る – Energy Steel(日本語)
ASME規格における配管の肉厚は、「スケジュール番号(Schedule No.)」という体系で表されます。スケジュールとはJISにない概念なので、初めて触れる方は戸惑うことも多いです。
スケジュール番号は肉厚の系列を示すもので、番号が大きいほど同じ呼び径でも肉厚が厚くなります。主なスケジュール番号には以下のものがあります。
- SCH 10:薄肉。低圧の流体や非危険物の配管に用いられることが多い。
- SCH 40:最も汎用的な標準肉厚。一般的なプロセス配管で広く使われる。
- SCH 80(XS:エクストラストロング):SCH 40より厚い。中高圧用途。
- SCH 160:高圧用。
- XXS(ダブルエクストラストロング):最厚手の系列。超高圧・腐食環境用。
例えば、呼び径2インチ(NPS 2 / 外径60.3mm)の場合、SCH 40の肉厚は約3.91mm、SCH 80では約5.54mmです。はがきの横幅(約148mm)と比べると直径がかなり小さな配管でも、スケジュールが変わるだけで設計圧力が大幅に変わります。
材料選定については、ASME B31.3では「規格表に明記された材料のみ使用可能」という原則があります。代表的な適合材料としては、ASTM A106(炭素鋼継目無鋼管)、ASTM A312(ステンレス鋼管)などがあります。日本のJIS材料はそのまま流用できないケースがあるため注意が必要です。
さらに重要なのが、材料証明書(MTR:Material Test Report)の扱いです。ASME準拠の案件では、使用した材料すべてにMTRの添付が求められます。現場では「ロット番号が混在していても問題ない」と軽視されがちですが、MTRがない・または内容に不備がある材料は検査で使用不可と判断されます。これが後々の大きなトラブル原因になります。痛いですね。
ASME規格の材料体系とスケジュール計算の基本については、以下の参考情報が整理されています。
ASME B31.3準拠の配管施工で、現場が最も見落としやすいのが溶接に関する書類管理です。感覚的に「溶接工がいれば大丈夫」と考えてしまう方もいますが、それは大きな誤解です。
ASME規格(特にASME Section IXとの連動)では、以下3種類の書類が溶接施工の前提として義務づけられています。
| 略称 | 正式名称 | 内容 |
|---|---|---|
| WPS | Welding Procedure Specification(溶接施工要領書) | 溶接方法・開先形状・電流・電圧・予熱・後熱処理などの詳細手順書 |
| PQR | Procedure Qualification Record(溶接手順適格性記録) | WPSに基づいて実施した確認試験(引張・曲げ試験等)の結果記録 |
| WPQ | Welder Performance Qualification(溶接士資格認定記録) | 溶接士個人の技量を認定した記録 |
WPSは単なる「手順書」ではなく、事前にPQRによって有効性が確認されていなければなりません。つまり「書類を作れば済む」ではなく、「試験に合格して初めて書類が有効になる」という流れです。WPSとPQRの整備が条件です。
現場での施工前にこれらが揃っていない場合、第三者検査機関の承認が下りず、工程が止まる事態になります。日本国内の慣行では「熟練溶接工が施工したから問題ない」という扱いがされることもありますが、ASME準拠の案件では書類がなければ認証されません。
また、溶接トレーサビリティも重要です。どの溶接士が、どのWPSに基づいて、どの継手を施工したかを全数記録することが求められます。記録の抜け漏れが1件でもあると、その配管系統全体の再検査につながるリスクがあります。
溶接管理の実務については、日本溶接協会が公開している講義資料が参考になります。
化学プラント(プロセス・施工編)溶接施工管理の解説 – 日本溶接協会(PDF)
配管施工が完了した後に実施する耐圧試験について、「水圧試験は設計圧力の1.5倍でよい」と覚えている方は多いと思います。これが基本です。しかし、ASME B31.3では条件によってこの計算式が変わります。
ASME B31.3における水圧試験の計算式は以下の通りです。
$$P_t = P_d \times 1.5 \times \frac{S_t}{S}$$
- Pt:試験圧力
- Pd:設計圧力
- St:試験温度(常温)における材料の許容応力
- S:設計温度における材料の許容応力
注目すべきは「St/S」の項です。設計温度が低い(常温に近い)場合はSt≒Sとなるため影響は軽微ですが、設計温度が高くなるほどSが低下し、試験圧力が大きくなります。
例えば、炭素鋼配管(ASTM A53相当)で設計圧力3.5MPa・設計温度260℃の場合。
$$S_t = 138.1 \text{ MPa(常温)}$$
$$S = 131.2 \text{ MPa(260℃)}$$
$$P_t = 3.5 \times 1.5 \times \frac{138.1}{131.2} \approx 5.6 \text{ MPa}$$
許容応力の補正を無視して計算すると約5.3MPaになります。つまり「1.5倍だけ」で計算すると0.3MPa低い試験圧力になり、規格外の試験になってしまいます。高温設備ほど要注意です。
気圧試験の場合は係数が「1.1倍」に変わります(ASME B31.3 345.4)。気圧試験は許容応力補正の計算式が含まれないため一見シンプルに見えますが、気体を使った加圧試験は水圧試験より危険性が高く、実施要件が厳しく設定されています。試験方法の選択は慎重に行うことが必要です。
また、ASMEと日本の規格(JIS B 8265など)では係数・計算式が異なります。適用規格を確認せずに試験圧力を設定すると、過少試験(規格割れ)または過大試験(機器損傷リスク)どちらのトラブルにもつながります。
耐圧試験圧力の計算根拠を規格別に詳しく解説しているページです。
耐圧試験圧力を設計圧力の1.5倍とするのは間違い?各規格の試験圧力を解説 – ゆるゆるプラントエンジニア
実際の現場では「ASMEフランジ」と「JPIフランジ」や「JISフランジ」が混在することがあります。これが思わぬトラブルの温床になります。
JPIとはJapan Petroleum Institute(日本石油学会)が制定した規格で、ASMEを参考に作られたため、ほとんどの寸法がASMEと一致しています。日本の石油・化学プラントの現場では広く使われており、一見するとASMEと同じように扱える印象があります。しかし要注意ポイントが2つあります。
① 外径・内径の微妙な差異
ASMEとJPIでは一部の呼び径において配管外径・内径が微妙に異なります。全サイズで一致しているわけではありません。規格の異なるフランジを溶接接続する際には、外径の差が生じるため継手の食い違いが発生し、施工品質が低下します。
② セレーション(シール溝)の有無
ASMEフランジにはシート面にセレーション(同心円状の細溝)が刻まれています。これはシール面積を絞って接触圧を高め、漏れを防ぐための設計です。一方、JPIフランジは原則としてセレーションなしです。低圧かつ柔軟なガスケットを使う場合は問題なく組み合わせられることもありますが、高圧条件ではシール不良から漏れが生じるリスクがあります。両規格をそのまま混在接続するのは推奨できません。
JISフランジ(10K・20Kなど)は呼び圧力の区分からして設計思想が異なります。ASMEフランジはクラス表記(Class 150・300・600など)で圧力・温度の許容範囲を規定しており、数字の単位が異なるため直接的な比較はできません。
シモダフランジ株式会社が公開している情報では、ASMEフランジとJIS鋼管を接続する際には事前に製作側への指示が必要だとされており、現場でのトラブル事例として注意喚起されています。
フランジ規格の具体的な比較については以下のページが参考になります。
配管フランジ規格ASME・JPI・JISの違いをわかりやすく解説 – エネ管.com