

構造シーラントが劣化しても、正しく設計された4辺SSGはガラスが即座に落下しません。
SSG工法(Structural Sealant Glazing)とは、ガラス辺とアルミフレームを専用の「構造シーラント」で構造的に接着することで荷重を伝達する外装構法です。日本語では「構造シーリング接合」または「構造シリコーン構法」とも呼ばれます。従来のカーテンウォールは、ガラスをサッシの溝に嵌め込んで固定する方式が基本でした。これに対してSSG工法では、ガラスを室内側に設置したフレーム(バックマリオン)に構造シーラントで接着するため、外部にアルミフレームがほとんど露出しない平滑な壁面が実現できます。
つまり、外から見えるのはガラス面だけというデザインが可能になるということです。
東京・原宿の「東急プラザ原宿ハラカド」(2024年春オープン)は、三角形・四角形のガラスを組み合わせた多面体ファサードに4辺SSGを採用した国内の最新事例として知られています。清水建設は2016年の東急プラザ銀座から本格的にSSG工法に取り組み、5年間で延床面積1万m²を超える施工実績を積み上げました。面積で例えると、1万m²は東京ドームの約2.5倍のフロア面積に相当する規模です。
| 項目 | 従来型カーテンウォール | SSG工法 |
|---|---|---|
| ガラス固定方法 | サッシ溝への嵌め込み | 構造シーラントによる接着 |
| 外観フレーム | 露出あり | フレームレス(フラット) |
| 荷重伝達方式 | 機械的支持(物理的嵌合) | 化学的結合(構造接着) |
| 断熱性能 | フレームからのヒートブリッジあり | 10〜20%向上(フレームレス効果) |
| 主な施工場所 | 現場施工が基本 | 工場施工(乾式ユニット)が基本 |
「物理的に嵌め込む従来工法と、化学的に接着するSSG工法では根本的な設計思想が異なる」という認識が、施工品質管理の第一歩です。
建築業従事者として見落としやすいポイントは、この「化学的結合」の性質上、被着体(ガラスとアルミフレーム)の表面状態や材質が接着強度に直結するということです。同じSSG工法でも、使用する構造シーラントのメーカー指定プライマーを正しく塗布しなければ、設計値通りの接着力が得られません。これは後述の施工管理セクションでも詳しく解説します。
参考:SSG構法の国内外ガイドラインを比較した専門研究(GBRC掲載)。各国の適用要件・荷重設計・接着幅算定式の違いを詳解しています。
SSG構法における国内外ガイドラインに関する比較検討(GBRC)
SSG工法には大きく「2辺SSG」と「4辺SSG」の2種類があります。この違いを正確に把握することが、適切な工法選定につながります。2辺SSGは、ガラス4辺のうち上下または左右の2辺を構造シーラントで接着し、残り2辺はアルミフレームへの嵌め込みで支持する方式です。フレーム嵌め込み部分がフェイルセーフ(安全装置)として機能する設計です。ただし、残り2辺にフレームが露出するため、完全なフレームレスデザインは実現できません。
フレームレスが条件なら、4辺SSGが原則です。
4辺SSGはガラスの4辺すべてを構造シーラントで接着する方式で、外観上のフレームレス化が完全に実現します。デザイン性の向上に加え、フレーム部分からの熱損失(ヒートブリッジ)をなくすことができるため、熱的性能の面でも優位です。欧米では4辺SSGが早くから普及しており、1970年代から施工実績が積み上げられています。
| 項目 | 2辺SSG | 4辺SSG |
|---|---|---|
| フレームレス化 | 部分的(2辺露出) | 完全(全面フレームレス) |
| フェイルセーフ | 嵌め込み部分が担保 | メカニカルリテンション等が必要 |
| 断熱性能向上 | 限定的 | 10〜20%向上(研究実証値) |
| 国内施工実績 | 1990年代から増加後に減少傾向 | 近年の高意匠建築で増加中 |
| 設計難易度 | 比較的標準的 | 構造検討・耐久性試験が高難度 |
国内では、日本建築学会のJASS17(ガラス工事)において4辺SSGは「標準外」の位置付けとなっており、適用条件が厳しく設定されています。1993年に建築業協会(現建設業連合会)が発行した「SSG構法の採用にあたって」というガイドラインでは、4辺SSGの対象は総面積100㎡以下の小規模なものに限定し、適用高さも1〜2階の低層部が中心とされていました。しかし現在では、超高層建築での大規模ファサードへの適用も実績として積み上げられており、状況は変化しています。
意外ですね。
構造シーラントの接着性能が30年以上実証された事例も存在します。千葉県船橋市に1991年竣工した鉄骨造3階建てのショールーム(建物高さ14.5m)では、竣工から20年後に構造シーラントを採取して引張試験を実施。その結果、最大耐力は初期値を上回り、健全性が確認されています。この事実は、正しく施工・管理されたSSG工法の構造接着が、建物の設計耐用年数を十分に超えられることを示しています。
参考:1991年竣工の4辺SSG建築から20年経過後にサンプルを採取した引張実験の詳細報告。構造接着耐久性の実証データとして参照価値が高い資料です。
ガラスファサードにおける4辺SSG構法の適用可能性について(GBRC)
建築業従事者の中には、「SSGは意匠目的の構法」という認識を持っている方も少なくありません。しかし実際には、熱的性能の向上という実務的なメリットが研究で定量化されています。これは設計段階で正しく評価すべき重要な知見です。
熱性能が条件です。
従来型カーテンウォールでは、熱伝導率の高いアルミフレームが外部に露出することで「ヒートブリッジ」が発生し続けます。ガラスの断熱性能をどれだけ高めても、このフレーム部分からの熱損失を無視することはできません。GBRCの研究(石井久史、2013年)が実施した2次元定常熱伝導解析では、フロート単板ガラス使用時の総合熱貫流率Uvalueを比較すると、従来型CWが6.65 W/m²Kに対し4辺SSGが5.95 W/m²Kと、約10.5%低い値が示されています。また、Low-E複層ガラスを組み合わせると削減率は最大58.1%に達します。
これは使えそうです。
この10〜20%の断熱性能向上という数値を設計段階で活用すれば、省エネ計算における外皮平均熱貫流率(UA値)の改善に寄与できます。2025年4月以降、新築建築物の省エネ基準適合が義務化された現在、ファサード設計の段階からSSG工法の熱的優位性を考慮することは、設計者にとって現実的な選択肢の一つです。
さらに、フレームレスによる「汚れにくさ」も実用的な利点です。アルミフレームの突起がなくなることで粉塵や雨汚れが溜まりにくく、ファサードのメンテナンスコスト・清掃頻度の低減につながります。超高層建築ではロープアクセスや高所作業車の稼働コストが高額になるため、清掃回数の削減は経済的に大きな意味を持ちます。
もう一つ見落とされがちな性能上の利点が、爆風などの衝撃荷重に対する耐性です。構造接着の特性から、ガラスが破損した際にフレームから抜け落ちることをある程度抑制できます。国際的な研究では、テロ対策を含む爆風対応ファサードとしての有効性も実証されています。ただし、この効果を期待する場合は合わせガラスとの併用が条件となります。
参考:LIXILが公表した自然換気と空調制御を組み合わせたオフィス向け新技術の発表資料。SSG構法の熱的・省エネ特性がカーテンウォール設計に与える影響が整理されています。
自然換気と空調制御の調和で"呼吸するオフィス"を実現する新技術(LIXIL)
SSG工法の品質を左右するのは、構造シーラントの施工管理です。「接着しているのだから現場で充填すればいい」という認識は危険です。SSGは基本的に工場施工(乾式カーテンウォールユニット)が原則とされており、それには明確な理由があります。
工場施工が原則です。
工場施工の最大の理由は、温湿度が管理された環境でなければ、構造シーラントの硬化過程の品質を安定させることが難しいためです。特に2成分形構造シーラント(反応硬化型)は、基剤と硬化剤を練り混ぜて使用するため、混合比や撹拌状態が接着性能に直結します。日本シーリング材工業会が制定した評価試験規格「JSIA 005:2025」では、試験体作製後の初期養生を「温度23℃±2℃、湿度50±10%RH の条件で28日間」と規定しています。現場の不安定な環境では、この養生条件を厳密に管理するのが困難です。
施工前に確認が必要な主要チェック項目は以下の通りです。
接着性試験は必須です。
また、設計・施工段階でよく見落とされるのが「傾斜面への適用制限」です。国内のJASS(日本建築学会建築工事標準仕様書)では、SSGの適用領域は原則として鉛直面のみとされています。これに対し米国のASTMや欧州のETAGでは傾斜面への適用を認めており、鉛直面から15°以内であれば鉛直面と同等に扱える規定があります。つまり、国内標準では当然OKとされていない傾斜ファサードへのSSG適用は、追加の構造検討が必要となることを覚えておく必要があります。
参考:日本シーリング材工業会が公開している構造シーラントの評価試験方法(JSIA 005:2025)。施工品質管理の根拠となる試験条件が規定されています。
建築業に携わる方が案件でSSG工法を採用する場合、現行の国内ガイドラインとグローバルスタンダードの間に大きなギャップがある点を把握しておく必要があります。これを理解しておくかどうかで、設計・提案の精度が変わります。
国内外の差は大きいです。
国内基準(JASS17・BCS)では、SSGの適用条件として「1〜2階の低層部に限定」「ガラス面積は1枚あたり1㎡程度」「ファサード前面に植え込みを設ける」などの要件が設けられています。これは1993年に策定された古いガイドラインが現在もほぼそのまま使われているためです。一方で実態として、現在の高意匠建築では1枚あたり3.5〜5㎡程度の大型ガラスが使われることが珍しくなく、1993年の要件は現場の状況と合致しない部分が増えています。
厳しいところですね。
一方、米国のASTM(C1401)や欧州のETAG002、さらに国際規格のISO 28278では、傾斜面への適用、大型ガラスへの対応、各国の地震・風荷重条件に応じた計算式など、より実態に即した設計基準が整備されています。欧州ETAG002では引張・せん断の許容応力度を個別試験値から算出する方式(安全係数:短期6、長期10で除算)が採用されており、材料性能を合理的に設計値に反映できる仕組みになっています。
この差が実務に影響する具体的な場面は3つあります。
この状況に対し、GBRC(建材試験センター)やGBRC発刊の技術論文を中心に、国内ガイドラインの改定に向けた研究・提言が続けられています。建築業従事者として、国内基準を遵守しながらも、海外の技術動向を参照することが、より精度の高い提案につながります。
なお、構造シーラントの品質評価に関しては、2025年に日本シーリング材工業会が「JSIA 005:2025 構造シーラントの評価試験方法」を策定・公開しており、これが国内の材料規格・試験手順の新たな拠り所となっています。従来は材料規格や試験方法が十分整備されていなかった分野だけに、この規格の発行は実務上の判断基準として重要な意味を持ちます。
参考:清水建設が竣工案件の技術事例として公開した記事。東急プラザ銀座(2016年)から麻布台ヒルズ(2023年)まで、1万m²超のSSG施工実績と4辺SSGの技術的挑戦が詳述されています。
ガラスのオブジェのような建物を実現したSSG構法(清水建設テクノアイ)