
STPY(Steel Tube Pipe Yousetsu)規格は、JIS G 3457で規定される配管用アーク溶接炭素鋼鋼管の国家規格です。この規格は使用圧力の比較的低い蒸気、水、ガス、空気などの配管に用いるアーク溶接炭素鋼鋼管について詳細に規定しています。
STPYの名称は「Steel Tube Pipe Yousetsu(溶接)」の略称で、鉄板(鋼板)を丸めて継目を溶接することでパイプ形状に成形していることに由来します。従来のSGP(配水管用亜鉛めっき鋼管)やSTPG(配管用炭素鋼鋼管)では対応できない大口径配管のニーズに応えるため、500A以上の炭素鋼鋼管として開発されました。
適用される寸法範囲は、通常外径355.6mm(呼び径350A又は14B)から2032mm(呼び径2000A又は80B)までと非常に幅広く、大規模なプラント設備や工業配管システムにおいて重要な役割を果たしています。
製造方法は名称の通りアーク溶接を採用しており、鋼板を円筒状に成形後、縦継手をアーク溶接で接合する工法が一般的です。この製造方法により、大口径でありながら高い強度と品質を確保することが可能になっています。
STPY400は最も一般的なSTPY規格の材質で、その化学成分には厳格な基準が設けられています。炭素(C)含有量は0.25%以下、リン(P)は0.040%以下、硫黄(S)は0.040%以下と規定されており、これらの制限により適切な溶接性と機械的性質を確保しています。
炭素含有量の制限は特に重要で、0.25%以下という基準は溶接時の熱影響部(HAZ)での硬化を防ぎ、溶接割れのリスクを最小限に抑えます。これは大口径配管における長い溶接線長を考慮した実用的な配慮といえるでしょう。
リンと硫黄の含有量制限は、鋼材の延性と靭性を確保するために設けられています。特にリンは低温脆性の原因となりやすく、硫黄は熱間脆性を引き起こす可能性があるため、厳格な管理が必要です。
必要に応じて表2以外の合金元素を添加することも認められており、用途に応じた性能向上を図ることができます。例えば、耐食性向上のためのクロムやニッケル、強度向上のためのマンガンなどが添加される場合があります。
これらの化学成分管理は溶鋼分析値で確認され、製造時の品質管理において重要な検査項目となっています。実際の製造現場では、各成分の分析結果がミルシートに記載され、納入時の品質証明として提供されます。
STPY400の機械的性質は、母材部分と溶接部で異なる基準が設けられています。母材の引張強さは400N/mm²以上、降伏点又は耐力は225N/mm²以上と規定され、これらは配管として十分な強度を確保するための最低基準となっています。
伸び試験では5号試験片を用い、管軸直角方向で18%以上の伸びが要求されます。これは配管の変形能力を評価する重要な指標で、地震時の変形や熱膨張による応力に対する耐性を確保するためです。
特筆すべき点として、厚さ8mm未満の管については特別な規定があります。厚さが8mmから1mm減じるごとに伸びの値から1.5を減じ、JIS Z 8401の規則Aによって整数値に丸めた値が適用されます。これは薄肉管の特性を考慮した実用的な配慮です。
溶接部の引張強さも母材と同様に400N/mm²以上が要求され、継手としての一体性を確保しています。ただし、拡管成形する管については受渡当事者間の協定により溶接部引張試験を省略することが認められており、製造効率と品質のバランスを図っています。
水圧試験では2.5MPaの水圧を5秒間以上保持し、漏れがないことが確認されます。この試験は配管として最も基本的な性能である密封性を確認する重要な検査です。
STPY規格における寸法許容差は、配管システムの精度と信頼性を確保するため、厳格に規定されています。外径については呼び径450A以下では±0.5%、450Aを超えるものでは周長による測定で±0.5%の許容差が設けられています。
厚さの許容差は呼び径によって異なり、450A以下では+15%、-12.5%、450Aを超えるものでは+15%、-10%と規定されています。この非対称な許容差設定は、配管の強度安全率を考慮したもので、厚さ不足よりも厚さ過多の方が安全側であることを反映しています。
製造寸法範囲は406.4mm~2150mmと非常に幅広く、スパイラル鋼管として製造される場合もあります。大口径になるほど製造時の寸法管理が困難になるため、測定方法や許容差の設定には特別な配慮が必要です。
質量計算式W=0.02466×t×(D-t)も規格で定められており、ここでDは外径、tは厚さを表します。この計算式により理論重量を算出し、実際の重量との比較で材質の均一性を確認することができます。
寸法検査は製造工程の最終段階で実施され、特に大口径管では複数点での測定が必要になります。また、真円度や直線度などの形状精度も重要な品質要素として管理されています。
STPY規格配管の現場適用において、最も注意すべき点は溶接施工管理です。大口径配管特有の課題として、溶接線長が長くなることによる変形や残留応力の問題があります。特に現場溶接では、風雨や温度変化などの環境条件が溶接品質に大きく影響するため、適切な施工環境の確保が不可欠です。
使用温度範囲は-15℃~350℃と規定されていますが、実際の運用では温度サイクルによる熱疲労も考慮する必要があります。特に大口径配管では熱膨張量が大きくなるため、配管サポートの設計や伸縮継手の配置に十分な注意が必要です。
輸送と据付においても特別な配慮が必要です。大口径配管は重量が大きく、クレーン能力や輸送ルートの制約を受けやすいため、事前の詳細な計画が重要です。また、据付時の仮支持方法も変形防止の観点から慎重に検討する必要があります。
検査方法についても、大口径ならではの課題があります。放射線透過試験では撮影時間が長くなり、超音波探傷試験では探触子の選択と走査方法に工夫が必要です。特に厚肉管では内部欠陥の検出能力に限界があるため、製造時の品質管理がより重要になります。
腐食対策も重要な検討事項です。大口径配管では表面積が大きいため、防食塗装の劣化が配管寿命に大きく影響します。定期的な点検とメンテナンス計画を策定し、長期間の安全運用を確保することが求められます。
JIS G 3457:2016の詳細な規格内容と最新改訂情報を確認できる公式規格サイト
JFEスチールによるSTPY配管の技術資料で実際の製造仕様と品質管理について解説