

アルミ溶射添板を使うと、高力ボルトの本数が約30%減るのにジョイントの強度は上がります。
溶射とは、金属やセラミックスなどの材料を高温で溶融またはそれに近い状態にし、ガスの熱膨張力によって高速で基材(ベースとなる金属)の表面に吹き付け、強固な皮膜を形成する技術です。塗料のように乾燥を待つ必要がなく、吹き付けた瞬間から皮膜としての機能を発揮します。
アルミ溶射は、その中でもアルミニウムを溶射材料として用いる手法で、防食性・耐摩耗性・耐薬品性など多様な機能を基材の表面に付与できます。特にアルミニウムは、空気中で自然に酸化被膜を形成する性質があり、この被膜がさらなる腐食の進行を食い止めます。つまり二重の防護効果が働くということですね。
吉川工業(本社:福岡県北九州市、グループ売上高約600億円)は、1920年に官営八幡製鉄所のパートナーとして創業した企業です。製鉄分野で培った金属加工の知見と技術力を土台に、フレーム溶射・アーク溶射・高速フレーム溶射・プラズマ溶射という4種類の溶射技術を保有し、建設・鉄鋼・印刷・電力など幅広い分野に表面処理ソリューションを提供しています。
主力の溶射工場は兵庫県姫路市に置かれており、品質管理にはISO9001:2015およびISO14001:2015の認証を取得しています。ISOに基づくPDCAサイクルで品質と環境の継続的な改善に取り組んでいる点は、建設業者にとって仕入れ先選定の判断材料になります。
溶射技術には大きく分けて「表面の性質を変える」用途と「表面の形状を変える」用途の2方向があります。前者では耐食性・耐摩耗性・耐熱性の向上、後者では滑り止めや離型性の付与などが代表例です。High"μ"Plateはこの「形状を変える(摩擦を高める)」機能を鉄骨接合の場面に応用した製品です。これは使えそうです。
吉川工業 公式サイト|溶射技術・表面処理事業の概要(フレーム溶射・アーク溶射・プラズマ溶射など各種溶射技術と対応分野を確認できます)
「すべり係数」とは、鉄骨同士を高力ボルトで締め付けた接合部において、せん断力(横滑りを起こそうとする力)に対する摩擦抵抗の大きさを示す数値です。値が大きいほど少ないボルト本数で同等の継手強度を確保できます。
日本建築学会の「鋼構造接合部設計指針」では、一般的な処理(赤錆面またはブラスト処理)の設計用すべり係数はμ=0.45とされています。High"μ"Plateはアルミ溶射による皮膜(厚さ300μm以上)を接触面に施すことで、μ=0.7を達成します。μ=0.45と比較すると、数値にして約1.56倍の差です。
この性能は、(一財)日本建築総合試験所が発行するGBRC性能証明「第11-24号 改」(2015年3月取得)によって公的に認められています。設計者が構造計算でμ=0.7を採用できる根拠が、公式な第三者認証として整備されているということです。これが原則です。
現場で「アルミ溶射したから自分たちで計算上も有利にできる」と思い込む方もいますが、実際にはこの性能証明の仕様(皮膜厚さ・添板厚さ・ボルト種・鋼種など)に完全に準拠することが条件になります。添板板厚が16mm以上の場合はμ=0.7、16mm未満の場合はμ=0.6として設計することが指針に定められており、条件ごとに使い分ける判断が必要です。添板板厚に注意が条件です。
実際の継手設計では、ボルト配列(ピッチ・はしあき・へりあき)の寸法も細かく規定されています。例えばM20ボルト使用時はピッチ60mm以上・はしあき40mm以上・へりあき35mm以上というように、寸法管理が重要になります。設計段階から仕様書と照合する習慣を持っておくことで、施工後の手戻りリスクを防げます。
日本建築総合試験所|GBRC性能証明 第11-24号 改(アルミ溶射添板の適用範囲・設計用すべり係数・添板厚さ別の仕様が掲載されています)
High"μ"Plateによるコスト削減効果は複数の項目にわたります。まず、すべり係数が高い分だけ添板の寸法を小型化できるため、添板の鋼材費そのものが減ります。次に、ボルト孔の加工数が減り、孔加工費が下がります。そして高力ボルトの本数が約30%削減されることで、ボルト材料費と本締め作業の人件費も同時に圧縮されます。
試算ベースで考えると、例えば高層ビル1棟のような大型案件で数百か所の継手があれば、この30%削減は相当なインパクトになります。吉川工業の生産能力は添板溶射面積で月900㎡(年11,000㎡)、添板の平均板厚17mmで換算すると月約120トン・年約1,440トンの施工に対応できる規模です。
人手不足対策としての側面も見逃せません。ボルト本数の削減は、そのまま本締め作業の工数削減につながります。建設現場では鉄骨工・とび職の人員確保が課題になっているケースが多く、同じ継手強度をより少ない手作業で達成できることは直接的な生産性向上です。工期短縮に期待できますね。
また、添板が小型化されることで重量も軽くなります。高い位置への部材ハンドリングが楽になり、揚重機の使用回数も減らせます。これは工期・費用のほかに安全面でも効果があります。高所作業での重量物ハンドリング回数を減らすことは、労災リスクの低減にも直結するため、建設会社のコンプライアンス・安全管理上のメリットとしても評価できます。
コスト面で気になる場合は、吉川工業の担当窓口(兵庫県姫路市 表面処理事業部、TEL:079-273-1345)に案件規模を伝えた上で見積もり依頼するのが現実的な最初のステップです。カタログには標準スペックとコスト試算の参考情報も掲載されています。
吉川工業 ニュース|溶射工場でアルミ溶射添板「High"μ"Plate」増産(生産能力増強の背景・CO2削減効果・需要急増の経緯が記載されています)
建築鉄骨の防食処理には、大きく分けて①塗装、②溶融亜鉛めっき、③溶射の3つのアプローチがあります。それぞれの特性を理解した上で用途に合った選択をすることが、長期的な維持管理コストの差を生みます。
塗装は最も一般的な手法で、初期コストが抑えられます。ただし、塗膜が傷ついた場合、その下の鉄が露出してすぐに赤錆が発生する「点腐食」が起きやすいのが弱点です。一般的に5年〜25年ごとの再塗装が必要で、足場仮設を含む補修費用が積み上がります。
溶融亜鉛めっきは亜鉛の犠牲防食効果(亜鉛が先に酸化することで鉄を守る)により高い防食性を持ちます。ただし、高力ボルト摩擦接合部においては溶融亜鉛めっきのままのすべり係数が0.10〜0.30程度と低く、μ=0.40以上を満足させるための別途摩擦面処理が必要です。つまりめっきだけでは接合部には使えないということですね。
アルミ溶射は、アルミニウムの酸化被膜による「バリア防食」と、アルミが鉄より卑な金属であることによる「電気化学的防食(犠牲防食)」の二重効果を持ちます。1984年に実施された塩水噴霧試験では、皮膜厚さ80〜200μmのアルミ溶射が3,000時間経過後も赤錆ゼロという結果を記録しました。これは同試験における無機ジンクリッチペイントが2,000時間で発錆し始めたのと対照的です。
High"μ"Plateの場合、摩擦力のために皮膜厚さを300μm以上(条件によっては400μm以上)と厚めに施工しています。この厚い皮膜がさらに高い防食効果を生み出しており、接合部としての機能と防食機能を同時に満たしています。一石二鳥ということですね。
| 防食手法 | すべり係数 | 防食持続年数の目安 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 赤錆・ブラスト処理 | μ=0.45 | 短期(定期的な補修要) | 一般的。コスト低 |
| 溶融亜鉛めっき(摩擦面未処理) | μ=0.10〜0.30 | 比較的長期 | 摩擦接合部には別途処理が必要 |
| アルミ溶射添板(High"μ"Plate) | μ=0.7(ts≧16) | 長期(電気化学的防食) | ボルト削減・コンパクト化・CO2削減 |
吉川工業の発表によれば、アルミ溶射添板「High"μ"Plate」の2023年出荷量は4年前の18倍を超える見込みになりました。これは単なる製品の普及ではなく、建設業界を取り巻く複数の構造変化が同時に起きた結果です。
まず、カーボンニュートラル対応の加速が背景にあります。国土交通省や建設各社がCO2排出削減に向けた取り組みを強化する中で、鋼材量の削減=CO2削減に直結するHigh"μ"Plateは「使う理由が増えた製品」になりました。吉川工業の試算では、この製品の普及によって年間928トン分のCO2排出削減効果があります。東京ドーム(約124,000㎥)のCO2充填量に換算すると、どれだけの量かイメージしやすいでしょう。
次に、建設現場の深刻な人手不足です。ボルト本数が約30%減るということは、締め付け作業の工数が同じ割合で減ることを意味します。鉄骨建方工・とび職などの専門技能者が不足している現状で、「同じ人数でこなせる工事量が増える」という効果は経営上の大きな価値です。
さらに、設計の合理化・高層建築物への採用という流れも見逃せません。高層ビルや大型商業施設は継手数が多く、添板のコンパクト化が全体の設計合理性に直結します。実際、建物ごとに大臣認定を得てアルミ溶射面のすべり係数μ=0.7を採用した高層建築物の事例も出てきており、設計者・ゼネコンの間での認知度が急速に高まっています。
こうした需要増加を受け、吉川工業は姫路市の溶射工場の生産設備を増強し、増産体制を整備しました。建設業界全体の流れとして「高摩擦添板の採用が標準になる前に情報収集しておく」段階に入っているといえます。知らないと損する、が基本です。
日刊産業新聞|吉川工業 アルミ溶射添板の生産増強(需要急増の背景・増産計画の詳細が専門紙によって報じられています)
High"μ"Plateが「使えそう」とわかっても、実際に採用するまでのステップが曖昧だと判断が後手に回ります。ここでは建設業従事者が設計・調達フェーズで押さえるべき判断のポイントを整理します。
最初に確認すべきは構造設計者との合意です。μ=0.7を採用した継手の計算は、GBRC性能証明の「アルミ溶射添板を用いる高力ボルト2面摩擦接合継手の設計・施工指針」に基づいて行う必要があります。この指針に従って設計・製作・施工されることが性能証明の前提条件なので、設計段階から仕様を固めておくことが原則です。
次に確認すべきは適用範囲の照合です。High"μ"Plateには使用できる鋼種(400N/mm²級〜780N/mm²級)、ボルト種類(F8T級〜F14T級)、添板厚さ(12mm〜ts>28mm)ごとの詳細な仕様があります。780N/mm²級の高強度鋼を使う場合など、皮膜厚さの要件が変わることがあるため、カタログや証明書を参照しながら事前確認が必要です。仕様の照合が必須です。
発注のタイミングも重要なポイントです。生産能力は月900㎡(添板溶射面積)ですが、建設プロジェクトの繁忙期が重なれば納期調整が必要になることもあります。発注前に余裕を持って吉川工業の表面処理事業部(兵庫県姫路市網干区 TEL:079-273-1345)に案件内容を共有し、納期確認と見積もり取得を同時に行うのが現実的です。
盲点になりやすいのが肌すきの扱いです。接合面に肌すき(鋼材間の隙間)が1mmを超える場合、第1列目のボルトのすべり耐力を0.5倍として評価する規定があります。厳しいところですね。施工精度が設計上の性能を担保する直接の条件になるため、鉄骨製作・建方の各段階で精度管理が特に求められます。
最後に、設計・調達担当者が抑えておくと役立つ確認リストを示します。
これら5点を設計段階でクリアにしておくことで、採用後の手戻りや現場トラブルを大幅に減らせます。5点確認が条件です。
溶射ナビ|アルミ溶射とは?防食性能と施工のメリットを徹底解説(アルミ溶射の基礎知識から防食メカニズム・塩水噴霧試験データまで確認できます)

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