

スタッコ外壁を塗り替えるとき、塗料の消費量は平滑面の2倍以上になる現場が多いです。
厚付け仕上塗材とは、JIS A 6909(建築用仕上塗材)に規定された塗材のひとつで、塗膜厚が4〜10mm程度になる比較的厚い仕上げ材のことです。一般的には「スタッコ」や「樹脂スタッコ」という呼び名で現場でよく使われています。通常の塗料(数十μm=0.数mm)と比べると、その厚みは文字通り桁違いです。
分かりやすい例えで言うと、1mmがカードの厚さ約1枚分とすると、厚付け仕上塗材は4〜10枚重ねた厚みを一層で塗り上げるイメージになります。この厚みが重厚感・立体感のある表情を生み出す最大の特徴です。
セメント、合成樹脂エマルションなどの結合材に骨材(砕石・軽量骨材など)を大量に混ぜ込み、吹付け・ローラー塗り・コテ塗りなどで施工します。表面には岩肌のような凹凸模様がつくられ、和風・洋風を問わず豪華な意匠が実現できます。
仕上塗材全体の分類の中での位置付けも整理しておきましょう。JIS A 6909では次の5種類に大別されています。
- 薄付け仕上塗材(例:アクリルリシン)——塗膜3mm以下
- 厚付け仕上塗材(例:スタッコ)——塗膜4〜10mm
- 複層仕上塗材(例:吹付けタイル)——下塗・主材・上塗の3層構成
- 可とう形改修用仕上塗材——既存仕上材の改修専用
- その他(軽量骨材仕上塗材など)
厚付け仕上塗材はこの中でも最も塗膜が厚く、単層で仕上げることが原則です。つまり複層仕上塗材のように3回塗り重ねるのとは構造が違います。
参考リンク(厚付け仕上塗材の定義・スタッコとの関係を詳しく解説)。
厚付け仕上げ塗材とは – トソウペディア(AP ONLINE)
厚付け仕上塗材はJIS A 6909の規格上、結合材の種類によって大きく3系統に分類されます。現場での使い分けを正確に知っておくことで、不適切な選定による剥離・硬化不良といったトラブルを防げます。
まず外装セメント系厚付け仕上塗材(外装厚塗材C)、通称「セメントスタッコ」です。成分がセメント主体なので防火性に優れており、耐久性も高いです。かつての外壁工事では広く採用されていました。ただし、現場での調合作業が必要で手間がかかる点と、ドライアウト(急速乾燥による硬化不良)が起きやすいという短所があります。
次に外装合成樹脂エマルション系厚付け仕上塗材(外装厚塗材E)、通称「アクリルスタッコ」または「樹脂スタッコ」です。水系塗材なので取り扱いやすく、色彩のバリエーションも豊富です。施工管理が容易で現在の現場でも採用頻度が高い種類です。厚膜のため乾燥に時間がかかることと、汚れが付きやすいことが弱点です。
そして外装けい酸質系厚付け仕上塗材(外装厚塗材Si)があります。シリカゾルや水溶性シリケートなどを結合材とし、補助的に合成樹脂エマルションを配合したものです。無機質成分が多いため耐候性・耐汚染性に優れているのが特徴です。
| 種類(JIS呼称) | 通称 | 主な特長 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 外装厚塗材C | セメントスタッコ | 防火性・耐久性に優れる | 調合が必要・ドライアウトに注意 |
| 外装厚塗材E | 樹脂スタッコ | 水系・取扱いが容易・多色展開 | 乾燥に時間がかかる |
| 外装厚塗材Si | シリカスタッコ | 耐候性・耐汚染性に優れる | 施工できる下地の確認が必要 |
各系統の特徴が条件です。下地の素材(コンクリート・ALCパネル・モルタルなど)との相性も考慮して選定しましょう。
たとえばALCパネル面に反応硬化形の塗材(RE系)を使うと、下地強度が小さいために凝集破壊・剥離が起きるリスクがあります。下地の強度と結合材の密着力のバランスを見た材料選定が不可欠です。
参考リンク(JIS A 6909の詳細規格内容と仕上塗材の種類分類)。
JIS A 6909:2014 建築用仕上塗材(kikakurui.com)
厚付け仕上塗材の施工は「下塗り→主材塗り(→上塗り)」の工程が基本です。ただし、仕上がり品質を大きく左右するのは主材の塗り付けよりも、その前段階の素地ごしらえ(下地処理)であると覚えておいてください。
下地処理が不十分な場合、厚膜の重みで付着性が不足して剥離が起きやすくなります。下地処理の手順は下地の種類によって異なるので、それぞれ確認が必要です。
コンクリート・プレキャストコンクリート下地の場合、型枠の目違い・気泡穴などをセメント系下地調整塗材で補修します。吸い込みが不均一な箇所には合成樹脂エマルションシーラーを全面に塗布します。外壁面に合成樹脂エマルションパテを下地調整として使うのはNGです。膨れ・剥がれの原因になります。
ALCパネル下地の場合、仕上塗材製造業者の指定に従い、セメント系または合成樹脂エマルション系の下地調整塗材を全面に塗り付けます。防水形複層塗材RSを使う場合は合成樹脂エマルションシーラーを先に塗布してから下地調整塗材を重ねる必要があります。
下塗り(シーラー)を終えたら、速やかに主材を施工するのが原則です。下塗り後に長時間放置すると、硬化が必要以上に進行したり、ホコリが付着して付着性を下げたりします。
主材の施工(吹付け・コテ塗り・ローラー塗り)では塗り見本と同様のパターン・厚みが出ているか確認しながら進めます。特に追加工事での色・模様の再現性は塗り見本が唯一の判断基準です。材料の発注・受け入れ時点から見本との照合を行うことが推奨されます。
これは使えそうです。仕上げ後の上塗りは耐候性向上・汚染防止のためであり、工場地帯など汚染リスクの高い現場では特に有効です。近年はフッ素系上塗りの採用実績も増えています。
参考リンク(建築用仕上塗材の施工手順・下地処理の詳細が記載)。
厚付け仕上塗材(スタッコ仕上げ)の耐用年数は一般的に8〜10年程度とされています。リシン仕上げの7〜8年よりやや長い反面、凹凸が深いために特有の劣化症状が起きやすいという面があります。
現場で確認できる主な劣化症状は以下のとおりです。
- 🔴 ひび割れ(クラック)——幅0.3mm以上になると雨漏りの原因になりやすい。モルタルの乾燥収縮や躯体の歪みが主因で、厚膜塗材でも経年で柔軟性が低下すると発生する。
- 🟡 塗膜の膨れ——塗り替え時に弾性系塗料を重ねた場合や高圧洗浄後の乾燥不足が原因。厚膜は水蒸気を含みやすく湿気が抜けにくいため膨れが発生しやすい。
- 🔵 コケ・カビ・藻の発生——凹凸の隙間に水分・汚れが溜まりやすく、特に北面で繁殖しやすい。
- ⚪ チョーキング(白亜化)——塗膜表面の樹脂が劣化し粉化する現象。凹凸の奥に粉化物が溜まったまま上塗りをすると付着不良が起きる。
補修・塗り替えに関わる費用の目安も整理しておきます。
- ひび割れの部分補修:1か所あたり1〜10万円程度
- スタッコ面の塗り替え(吹き放し仕上げ):3,500〜4,250円/m²
- コテ塗りスタッコの場合:7,000円/m²前後 + 足場費用(10〜20万円)
- 30坪住宅でのスタッコ外壁全面塗り替え総額:80〜150万円程度
塗り替え時の最重要注意点は「塗料の使用量」です。スタッコ仕上げ面はポーラス(多孔質)で空気層を多く含むため、カタログ記載の使用量より大幅に塗料消費が増えます。
痛いですね。見積もり段階でこの消費量増加を計算に入れていないと、予算超過や薄塗りによる品質不足が起きます。重ね塗りに弾性系塗料を使うと膨れが発生しやすいため、通気性を重視した塗料選定が正解です。
参考リンク(スタッコ仕上げの劣化症状・塗り替え時の注意点を詳細解説)。
スタッコ仕上げの基礎知識と特徴を徹底解説(ヌリカエ)
建築業従事者が厚付け仕上塗材を扱うとき、現代の施工よりも重大なリスクになりうるのが既存建物の石綿(アスベスト)含有問題です。これを知らないと、法令違反と健康被害の両方のリスクを同時に抱えることになります。
国立研究開発法人建築研究所と日本建築仕上材工業会の調査によると、2006年8月以前に施工された厚塗材C(セメントスタッコ)や厚塗材E(樹脂スタッコ)を含む多くの仕上塗材に石綿が含有されていた時期があります。具体的には1975年〜1999年にかけて販売された厚塗材Eの石綿含有量は0.4%、厚塗材Cは0.1〜3.2%という記録があります(日本建築仕上材工業会のアンケート調査より)。
重要なのは「塗膜が健全な状態では石綿はほとんど飛散しない」という点です。しかし、改修工事でケレンをかけたり、解体工事で除去作業を行ったりした瞬間から、石綿繊維が粉じんとして飛散するリスクが生じます。
2022年以降に改正された大気汚染防止法・石綿障害予防規則により、建築物の解体・改修前の事前調査と結果の報告・記録保存が元請業者に義務付けられています。届出を怠った場合には法的な制裁対象になります。
現場での実務的な対処フローは次のとおりです。
1. 事前調査——仕上塗材の層別分析による石綿含有の有無を確認(2006年8月以前の施工が疑われる場合は特に注意)
2. 結果の記録・発注者への説明——調査結果は書面で残し、発注者に報告する義務がある
3. 工事届出——特定粉じん排出等作業に該当する場合は、着工14日前までに都道府県知事へ届出
4. 除去工法の選定——含有量と飛散レベルに応じ「負圧隔離工法」「隔離によらない工法」などを選択
5. 廃棄物処理——石綿含有仕上塗材の廃材は二重梱包など石綿含有産業廃棄物として適正処理
石綿含有仕上塗材の除去は、レベル1(吹き付け石綿)と比べると飛散レベルが比較的低いとされていますが、除去方法によっては石綿粉じんが飛散するリスクは十分あります。専用の作業計画を立て、適切な保護具の着用が欠かせません。
参考リンク(建築研究所による石綿含有仕上塗材の飛散防止処理技術指針の詳細PDFへ)。
建築物の改修・解体時における石綿含有建築用仕上塗材からの石綿粉じん飛散防止処理技術指針(建築研究所)
参考リンク(石綿含有仕上塗材のアスベスト調査では層別分析が重要な理由の解説)。
仕上塗材と下地調整材のアスベスト調査には層別分析が不可欠(アルフレッドラボ)
スタッコ仕上げは重厚感・意匠性の高さが魅力として語られますが、その「凹凸の深さ」が塗り替え時のコスト増大に直結しているという事実は、意外と現場で整理されていません。
まず「塗料消費量の増加」の問題です。スタッコ面は凹凸が深く、かつポーラス(多孔質)であるため、塗料の吸い込みが非常に大きくなります。平滑なサイディング面などと比較すると、同じ面積に塗るための塗料使用量が2倍以上になるケースが多いです。これは材料費の直接的な増加を意味します。
さらに「手間の増加」も見逃せません。凹凸の奥まで塗料が均一に入り込むよう、ローラーや刷毛で何度も方向を変えながら塗り込む必要があります。施工時間もかさむため、人件費コストも割増になりやすいです。
加えて「高圧洗浄後の乾燥時間の長さ」という問題もあります。厚い塗膜は水分を内部に抱え込みやすく、表面が乾いているように見えても内部が湿っているケースがあります。乾燥確認を表面だけで判断して塗装を始めると、後から膨れが発生します。工期の見積もり段階でこの乾燥時間を考慮する必要があります。
結論は「スタッコ仕上げはメンテナンスを先延ばしするほど次の工事コストが上がる」ということです。チョーキングが進んで粉化物が凹凸に蓄積した状態での塗り替えは、洗浄が難しくなりさらにコストが増します。耐用年数を10年と設定した場合でも、8年程度を目処に定期点検を行い、早め早めのメンテナンスサイクルを組むことが長期的な費用最適化につながります。
参考リンク(仕上塗材の耐久設計・維持保全計画に資する技術情報)。
外装塗り仕上げの耐久設計と維持保全(建築研究所)