

レベル3だからと思って無対策で剥がすと、あなたが50万円の罰金を受けるリスクがあります。
「下地調整塗材はアスベストと関係ない」と思っている方が現場に多いのが現状ですが、これは大きな誤解です。日本建築仕上材工業会の調査によれば、アスベストが含まれる可能性がある下地調整塗材には「下地調整塗材C(セメント系フィラー)」と「下地調整塗材E(樹脂系フィラー)」の2種類が存在します。販売期間はどちらも1970年から2005年にかけてで、アスベスト含有量は0.1〜6.2%にのぼります。
ここで注目すべきは、仕上塗材のアスベスト含有品は1992年に販売が終了しているのに対し、下地調整塗材は2005年まで製造・販売が続いていたという点です。つまり、1990年代〜2000年代前半に建てられた建物でも、外壁仕上塗材のアスベストは「無し」と判定されながら、その下の下地調整材だけに石綿が残っているケースがあるのです。これは見落としが生じやすい典型パターンです。
含有量が最大6.2%というのは、どのくらいの量でしょうか?アスベストの法規制上の基準は「質量の0.1%超え」で規制対象です。つまり最大値の6.2%はその62倍にあたります。当然、除去作業時に適切な措置を取らなければ、深刻な健康被害につながるリスクがある濃度です。
アスベストをこれらの下地調整塗材に添加していた主な目的は、塗料の液だれ防止やひび割れ抑制、塗膜の補強です。クリソタイル(白石綿)がほとんどで、ごく一部にアモサイト(茶石綿)も使われていました。平常状態でセメントや合成樹脂に固められているため飛散リスクは低いとされていますが、除去時に切断・破砕を行う場面では一気にリスクが高まります。飛散リスクが低い状態と、除去時の高リスクは別の話です。
以下に、主なアスベスト含有塗材の種類と販売期間をまとめます。
| 建材名 | 販売期間 | アスベスト含有量 |
|---|---|---|
| 下地調整塗材C(セメント系フィラー) | 1970〜2005年 | 0.1〜6.2% |
| 下地調整塗材E(樹脂系フィラー) | 1982〜1987年 | 0.5% |
| 薄塗材C・E(リシン系) | 1970〜1999年 | 0.1〜5.0% |
| 複層塗材C・E(吹付タイル系) | 1970〜1992年 | 0.1〜5.0% |
| 厚塗材C・E(スタッコ系) | 1970〜1992年 | 0.1〜5.0% |
| 軽量塗材(吹付けパーライト) | 1965〜1992年 | 0.4〜24.4%(レベル1相当) |
2005年以前の建物なら要注意、が基本です。
参考:日本建築仕上材工業会「アスベスト含有仕上塗材情報」— 含有製品の種類・販売期間・含有量データが掲載されています。
https://www.nsk-web.org/asbestos/
現場で「事前調査で不検出だった」と安心していたら実は見落としだった、というケースが起きています。その原因の多くが、検体採取(サンプリング)の不適切さです。
一般的な仕上塗材は多層構造になっており、下から「下地調整材」→「主材」→「上塗材(トップコート)」という順で重なっています。このうちアスベストが含まれる可能性が高いのは、表面ではなく一番下の下地調整材です。表面の数ミリを削り取っただけのサンプルを分析に出しても、アスベストを含む下地調整材の層には到達できていないため、「不検出」という誤った結果になります。
これは重大なリスクです。不検出と判定してそのまま除去工事に入ると、実際にはアスベストが含まれた下地調整塗材を無防備に剥がすことになり、粉じん飛散による健康被害だけでなく、法令違反による罰則リスクも生じます。
正しい対応は、カッターナイフなどを用いて下地(コンクリートやモルタル)に達するまですべての層を貫通させてサンプルを採取し、各層を分離して個別に分析する「層別分析」です。層別分析に対応しているのはJIS A 1481-1(実体顕微鏡・偏光顕微鏡法)で、各層のアスベスト含有の有無と種類を特定できます。一方、JIS A 1481-2(X線回折法)は含有する層を特定できないため、仕上塗材・下地調整塗材には単独使用には不向きです。層別分析が正確な調査の条件です。
さらに見落としが起きやすい理由として、仕上塗材に含まれるアスベストの含有率が低い(数%程度、場合によっては0.1%ギリギリ)ことも挙げられます。これは高濃度の吹付けアスベスト(レベル1)と比べて検出難易度が上がるため、経験豊富な分析員と高感度の分析機器を持つ機関への依頼が重要です。分析機関の精度には差があります。
改修工事の見積もり段階で層別分析の有無を確認することが、後の工事コストを大きく左右します。たとえば「仕上塗材はアスベスト無し、下地調整材は含有あり」と正確に特定できれば、撤去範囲が下地調整材のみに絞られるため、無駄な飛散防止対策の費用を回避できます。適切な調査はコスト削減にもつながります。
参考:アルフレッド株式会社「仕上塗材と下地調整材のアスベスト調査には層別分析が不可欠」— 層別分析の必要性と各JIS規格の違いが詳しく解説されています。
https://alfred-lab.co.jp/asbestos-of-ground-adjusting-material-and-finishing-compound/
通常の使用状態では、下地調整塗材に含まれるアスベストはセメントなどの結合材に固められているため、空気中に飛散する可能性は極めて低いとされています。しかし「除去時」は話が変わります。
除去作業で電動工具(ディスクグラインダーなど)を使って削り取ったり、乾式でケレン作業を行ったりすると、アスベスト繊維が粉じんとともに大量に空気中に舞い上がります。高圧洗浄機も同様に危険で、絶対に避けるべき工法です。現場でよくある「高圧洗浄してから塗り替え」は、アスベスト含有の下地調整塗材が残っている場合、飛散防止措置なしでは法令違反になります。
アスベスト含有の仕上塗材・下地調整塗材の除去には、国立研究開発法人建築研究所と日本建築仕上材工業会が作成した技術方針に基づく工法を選ぶ必要があります。主に以下の3種類が採用されます。
- 💧 高圧水洗工法:水による湿潤化と塗材除去を一体的に行う工法。飛散リスクを水で抑えながら剥離する。
- 🧪 剥離材を用いる工法:専用の剥離剤で塗膜を軟化させてから手工具で剥がす。乾式ケレンより粉じん発生が少ない。ただし残った剥離材が新しい仕上塗材に悪影響を与えるリスクがあるため、改修材料との適合確認が必要。
- ⚙️ 除じん機能付き電動工具工法:除じん性能を持つ専用の電動工具を使用する方法。一般的な電動工具との混同は厳禁。
これらすべての工法に共通する必須措置が「湿潤化」です。下地調整材は形状を保ったまま取り出すことが難しいため、除去時は常に湿潤な状態を維持しながら作業を進める必要があります。湿潤化に使った水はアスベストを含む可能性があるため、適切に回収・排水処理することも義務です。湿潤化と排水処理はセットです。
工法の選定では、可能な限り粉じんが発生しない方法を優先することが原則です。現場条件(高所、屋内外など)や建物の劣化状況に応じて最適な工法を選ぶことになりますが、いずれの場合も石綿作業主任者技能講習修了者の指揮のもとで作業を行う必要があります。
参考:環境省「特定建築材料以外の石綿含有建材(レベル3建材)除去等作業時の飛散防止対策ガイドライン」— 具体的な作業基準と工法選定の基準が確認できます。
https://www.env.go.jp/content/900501175.pdf
建築業に従事していれば「アスベストは調べなきゃいけない」という認識は多くの方が持っています。しかし、その調査の方法・タイミング・報告先が法改正によって細かく変わっており、「なんとなく対応している」状態では法令違反になるリスクがあります。整理しておきましょう。
2020年の大気汚染防止法改正により、下地調整塗材を含む「アスベスト含有仕上塗材」は工法を問わず一律に規制対象となりました。これ以前は一部の施工方法が規制対象外でしたが、改正後は除去作業であればすべてに作業基準の遵守が求められます。
2023年10月からは、アスベストの事前調査を行えるのは「建築物石綿含有建材調査者」などの有資格者のみとなりました(石綿障害予防規則改正)。それ以前は資格のない担当者が目視と書面調査だけで対応していたケースもありますが、現在は無資格者による調査は認められません。
事前調査の結果報告義務も変わっています。解体対象の床面積が80㎡以上、または工事請負金額100万円以上の工事では、工事前に石綿事前調査結果報告システムへの報告が必須です。この報告を怠った場合、大気汚染防止法に基づき30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
より重い罰則もあります。石綿障害予防規則に違反して事前調査を行わず解体・改修作業を実施した場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられることがあります。さらに、これらの違反は「両罰規定」により個人だけでなく法人(会社)にも同額の罰金が適用される場合があります。罰則は個人と法人の両方に適用されます。
一方、法改正によって「届出不要」になったこともあります。2020年の法改正以前は、アスベスト含有の仕上塗材・下地調整材の除去工事を都道府県に事前届出する義務がありましたが、現在は届出不要(ただし報告は必要)となっています。ただし、自治体によっては独自条例で届出を継続して求めているケースがあるため、施工地の条例を必ず確認する必要があります。届出の要否は自治体ごとに異なります。
以下に、現時点での主な法的義務を整理します。
| 義務内容 | 根拠法令 | 違反時の罰則 |
|---|---|---|
| 有資格者による事前調査 | 石綿障害予防規則 | 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
| 事前調査結果の報告(80㎡以上・100万円以上) | 大気汚染防止法 | 30万円以下の罰金 |
| 作業計画の作成・保存 | 大気汚染防止法 | 罰則あり |
| 湿潤化等の作業基準の遵守 | 大気汚染防止法・石綿則 | 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
参考:厚生労働省「石綿含有建築用仕上塗材の石綿則等の適用について」— 下地調整塗材の法令上の位置づけと適用作業基準が確認できます。
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/hourei/dl/180412-06.pdf
法令の知識と分析方法を理解した上で、実際の現場でどういう点に気を付けるべきかを整理します。ここでは、一般的な情報では触れられにくい「現場の落とし穴」に着目します。
🔴 落とし穴①「タイル張り仕上げの下」に潜む下地調整塗材
外壁がタイル張りになっている建物では、タイルの下にモルタルや接着剤層があり、さらにその下に下地調整塗材が塗られているケースがあります。タイル自体はアスベスト非含有でも、剥がした後の下地調整材が石綿含有というパターンは珍しくありません。バールでタイルを破砕して下地材を確認する際に、粉じんが発生しやすい場所でもあるため、事前調査の際にタイル層だけでなくその下地も調査対象に含める必要があります。タイル仕上げは下地まで確認が原則です。
🔴 落とし穴②「改修履歴がない建物」での多層塗り重ね
改修を繰り返してきた建物では、古い塗膜の上に新しい仕上塗材が何度も重ね塗りされているケースがあります。この場合、最も古い層(下地に最も近い層)がアスベスト含有の下地調整塗材である可能性が高く、サンプリングで全層を採取できなければ見落としが起きます。建物の改修履歴が書面で確認できない場合は特に注意が必要です。
🟡 見落としやすいポイント③ 軽量塗材はレベル3ではなくレベル1
「仕上塗材はレベル3」と覚えていると危険な例外があります。吹付けパーライト(軽量塗材)はアスベスト含有量が0.4〜24.4%と高く、2020年の大気汚染防止法改正後も「吹付けアスベスト」として分類され続けており、除去時にはレベル1の作業基準(隔離養生・負圧管理など)が適用されます。見た目がリシン吹付けに似ており見分けが難しいため、「仕上塗材全部レベル3」という思い込みが重大な違反につながります。軽量塗材だけは例外です。
🟡 独自視点:剥離材の選択が改修後の塗膜品質を決める
剥離材を用いた除去工法を採用した場合、残った剥離材の成分が新しく施工する仕上塗材と化学的に干渉し、密着不良や塗膜剥離を引き起こすリスクがあります。これはアスベスト対策とは別の問題ですが、改修後の品質を直接左右する重要な点です。剥離材の使用後は適切な素地調整(洗浄・中和)を行い、改修に使う仕上塗材・下地調整塗材のメーカーに剥離材との適合性を事前確認することを推奨します。剥離後の素地調整を忘れないようにしましょう。
🟢 現場で使える確認チェックリスト
- ✅ 建物の竣工年・改修履歴を図面・台帳で確認(2005年以前なら下地調整塗材のアスベスト含有を疑う)
- ✅ 目視調査だけでなく書面調査と有資格者による判定を実施
- ✅ 検体採取は下地まで全層貫通させた上で層別分析を依頼
- ✅ 施工地の都道府県・市区町村の条例で届出要否を確認
- ✅ 除去工法は湿潤化を前提に選定(電動工具・高圧洗浄の乾式使用は不可)
- ✅ 軽量塗材(吹付けパーライト・バーミキュライト)が疑われる場合はレベル1対応で準備
事前調査と正確な層別分析の費用は1検体あたり概ね1万5千〜2万円程度が相場です。この費用を惜しんで後から法令違反が発覚した場合の罰金(最大50万円)や工事停止のコストと比べると、事前の適切な対応が圧倒的に合理的です。調査費用は保険と考えるのが正解です。
参考:建築研究所・日本建築仕上材工業会「建築物の改修・解体時における石綿含有建築用仕上塗材からの石綿粉じん飛散防止処理技術方針」— 工法選定の根拠となる公式技術文書です。
https://www.kenken.go.jp/japanese/contents/publications/data/171/3.pdf

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