

ベローズ形膨張継手を取り付けただけで、アンカ(固定点)を省略すると配管ごと吹き飛ぶことがあります。
ベローズ形膨張継手とは、蛇腹(ベローズ)状の波形金属構造体を用いて、配管の熱膨張・収縮・振動・芯ずれ・地盤沈下などの変位を柔軟に吸収する継手のことです。正式名称は「ベローズ形伸縮管継手」とも呼ばれ、JIS B 2352(ベローズ形伸縮管継手)に規格化されています。空調・衛生・蒸気・ガスなど、幅広い配管系統で採用されており、建築業に携わる現場技術者が必ず理解しておくべき部材の一つです。
配管内を流れる流体の温度が変化すると、管はわずかながら伸び縮みします。たとえば鋼管の場合、温度が0℃から70℃へ上昇したとき、1mあたり約0.809mm伸びます。これは一見小さな数字ですが、直線距離が20mの配管であれば単純計算で約16mm以上の伸びが生じることになります。A4用紙の短辺がおよそ21cmですので、その約7〜8%に相当するわずかな伸縮が、固定された配管に繰り返し加わることで溶接部や継手部に疲労破壊を招きます。
つまり「動かない配管」という前提で設計してしまうと、実際には動いている配管が損傷を積み重ねていくことになります。
ベローズ形膨張継手は、この避けられない動きを「計画的に逃がす」ための部材です。内部は薄肉のステンレス鋼(主にSUS304やSUS316L)で成型された波形構造(山)が複数連なっており、山の数・高さ・ピッチを設計することで、許容変位量や繰り返し伸縮耐久回数が決まります。一般的な建築設備用途(冷暖房・空調・衛生配管)では、JIS B 2352の「用途A」に準拠した製品が使用されます。
また、ベローズ形膨張継手はメンテナンスフリー性が高い点も特長の一つです。スリーブ形伸縮継手のように摺動部にパッキンを持たないため、経年劣化によるパッキン交換が不要で、維持管理コストを抑えられます。これが長期的な採用拡大の背景にあります。
ただし、気密性が完全である反面、「正しく設置しなければ本来の性能を発揮できない」という特性があることも覚えておく必要があります。
参考:ベローズ形伸縮管継手の仕様・製品一覧(南国フレキ工業)
https://www.nfk-jp.com/products/bellows/
ベローズ形膨張継手は一種類ではありません。変位を吸収する方向・配管条件・圧力の大きさによって、適切な形式が異なります。形式を間違えると「設置したのに機能しない」「想定外の方向に力が加わって破損する」という事態が起きます。代表的な形式とその特徴を整理しておきましょう。
まず最も基本的なのが自由形(SS形)です。ベローズの両端にパイプとフランジを取り付けたシンプルな構造で、軸方向・軸直角方向・角変位のすべてを吸収できます。ただし内圧が高い場合、ベローズが変形(座屈)するリスクがあるため、低圧配管向けの形式です。
内圧が高まるにつれて使われるのがロッド形(SF形)とリング形(SC形)です。ロッド形はベローズ両端にガイドフランジとタイロッドを追加して変形を抑制します。リング形はさらに山間にコントロールリングを挿入することで、より高圧条件下でのベローズ変形を防止します。この2形式は主に軸方向変位のみを吸収し、固定点(アンカ)に内圧推力とばね荷重の双方が作用します。
変位の方向が複数にわたる場合は、ユニバーサル形やヒンジ形・ジンバル形が有効です。ユニバーサル形は軸方向と軸直角方向の変位を同時に吸収でき、ヒンジ形は単一平面の角変位に対応します。ジンバル形は2軸方向の角変位を吸収でき、内圧推力が固定点に作用しない点が大きな特長です。
以下に、主要形式の特徴を整理します。
| 形式 | 吸収できる変位方向 | 主な用途・特徴 |
|---|---|---|
| 自由形(SS形) | 軸・軸直角・角 | 低圧配管向け。シンプル構造 |
| ロッド形(SF形) | 軸方向 | 中圧。タイロッドで変形抑制 |
| リング形(SC形) | 軸方向 | 高圧。コントロールリング内蔵 |
| ユニバーサル形 | 軸・軸直角 | 複合変位対応。固定点への推力を低減可 |
| ヒンジ形(1H/2H/3H) | 角変位・軸直角 | 内圧推力ゼロ。固定点が簡略化できる |
| ジンバル形(1G/2G) | 2軸角変位 | 内圧推力ゼロ。2軸方向の変位を同時吸収 |
| 直管圧力バランス形 | 軸方向(推力なし) | 強固な固定点が設置できない直線配管向け |
| ジャケット形 | 軸方向 | 二重管構造。高粘度・低温凝固流体向け |
建築設備における空調・給湯配管では自由形・ロッド形が多く採用されます。一方、配管スペースが狭く固定点が設置しにくい場所では、圧力バランス形やユニバーサル形を選ぶことで、構造的な負担を大きく減らせます。形式選定の最初のステップは「どの方向の変位が問題になるか」を明確にすることです。
参考:ベローズ形伸縮管継手の形式分類一覧(株式会社オクダソカベ)
https://www.okuda-sogabe.co.jp/product_fittings/
選定で最もよくある失敗は、「とりあえず入れれば大丈夫」という感覚的な判断です。ベローズ形膨張継手は設置場所や本数を適切に計算で決めなければ、想定以上の変位が加わって早期破損につながります。
まず必要な情報を整理します。
熱膨張による伸縮量は次の式で求められます。
$$\Delta L = \alpha \times L \times \Delta T$$
ここで、α は線膨張係数(鋼管:11.6×10⁻⁶/℃、ステンレス鋼管:17.3×10⁻⁶/℃)、L は配管長さ(mm)、ΔT は温度差(℃)です。
たとえば、鋼管で配管長さ35m、最高使用温度90℃・設置時温度20℃(温度差70℃)の場合、伸縮量は次のようになります。
$$\Delta L = 11.6 \times 10^{-6} \times 35{,}000 \times 70 \approx 28.4 \text{ mm}$$
約28mmの伸びが生じます。これは単式ベローズ形膨張継手(JB型など)の許容変位量(例:口径50A品で±15mm前後)を超える場合があります。そのため、複式にするか、継手を2か所に分割して設置する必要が出てきます。
一般的な目安として、ステンレス協会の施工マニュアル(建築用ステンレス配管マニュアル)では以下のように規定されています。
20mという距離はだいたい6〜7階建てマンションの1フロア廊下長さ程度のイメージです。これを超える直管部には、必ず継手の設置を検討する必要があります。
また、ステンレス管は鋼管と比べて線膨張係数が約1.5倍であることも注意点です。同じ条件でも鋼管用の設計をそのままステンレス管に流用すると、伸縮量の計算が大きくずれます。材質の切り替わりがあった改修工事などで特に見落とされやすいので注意してください。
選定した継手の仕様が適切かどうかは、製品カタログに記載された「許容変位量」「繰り返し伸縮耐久回数」「最高使用圧力」の3点で確認するのが原則です。
参考:各種金属パイプ1m当たりの熱膨張量表(南国フレキ工業)
https://www.nfk-jp.com/spec/cte/
参考:配管伸縮継手の使い分けと失敗例(engineer-wisdom-bag.com)
https://engineer-wisdom-bag.com/piping-expansion-joint-bellows-sleeve-flex/
実際の施工現場で最も多いトラブルの原因が、アンカ(固定点)と配管ガイドの不足・不備です。製品自体に問題があるケースは少なく、設計や施工段階での条件整理不足が引き金になっています。
アンカとは何でしょうか? 配管の動きを計画通りに制御するため、特定の箇所を躯体や構造体に強固に固定する支持点のことです。ベローズ形膨張継手を設置しても、アンカがなければ内圧推力(配管内の圧力が継手の端面を押す力)でベローズが伸びきってしまい、最終的には溶接部が破断します。この現象は、ベローズ形の自由形(SS形)のように内圧推力がそのままアンカに作用する形式では特に顕著です。
メーカーの取扱説明書にも「アンカを設けない、あるいは強度不足の場合、耐圧試験時や運転時にベローズが伸びきり、製品あるいは配管系統が破損する恐れがあります」と明記されています。これは製品の免責ではなく、設計者・施工者が必ず理解しておくべき前提条件です。
つまり、アンカなしでの設置は厳禁です。
配管ガイドも同様に重要な役割を持ちます。ガイドとは、配管が軸方向に動けるよう支持しながら、横方向(軸直角方向)のズレを防ぐ管支持金物です。単式ベローズ形膨張継手の近傍には必ずガイドを設置し、継手の両端でそれぞれ一定間隔ごとに設けます。ガイド間隔が広すぎると、配管が横に振れて継手に偏荷重がかかり、ベローズの一部に応力が集中します。
具体的なトラブル事例を見ると、「許容変位量2.7mmのところを30mm以上で使用して約1年で疲労破壊」や「誤った配管方法でベローズが内筒と接触し1年6か月で破損」といった事例が報告されています。どちらも設置時点での確認不足が根本原因です。
施工上の確認ポイントをまとめると以下のとおりです。
アンカと配管ガイドの設計を適切に行うことが、継手の性能を最大限に引き出す条件です。
参考:伸縮管継手のトラブル事例と対策(フシマン株式会社)
https://fushiman.co.jp/data/202409/hasontoraburu1.pdf
参考:フレキシブルチューブ・伸縮管継手の不具合事例(トーフレ株式会社)
https://www.tofle.com/technical_data/detail/9
現場では「伸縮継手」とひとまとめに呼ばれることが多いですが、ベローズ形・スリーブ形・フレキシブルジョイントはそれぞれ構造と得意分野が異なります。ここを曖昧にしたまま選定すると、適材適所ではない部材を入れることになりかねません。
ベローズ形膨張継手の最大の特長は、気密性が完全であること、そして反力(ばね荷重)が小さいことです。薄肉の波形構造が柔軟に変形するため、機器ノズル近傍のような繊細な箇所でも機器への負担を最小限に抑えられます。パッキン不要でメンテナンスフリーという点も長所ですが、軸方向変位・軸直角方向変位・角変位のうち、どれを主に吸収させるかを形式選定で明確にする必要があります。
スリーブ形伸縮継手は、内管が外筒の中を摺動(スライド)することで軸方向の大きな伸縮を吸収します。単純な構造で伸縮ストローク量を大きく取れるのが強みです。一方で摺動部にパッキンを持つため、経年劣化によるパッキン交換が定期的に必要です。直線配管で変位が大きく、メンテナンス計画に余裕がある配管系統に向いています。
フレキシブルジョイント(防振継手)は、ゴムや金属ブレード付きフレキシブルチューブなど、振動吸収を主目的とした継手です。ポンプや送風機の直近に設置し、機器振動を配管に伝えにくくする役割を持ちます。これは伸縮量の吸収よりも振動・騒音の絶縁が主目的で、長距離の熱伸縮を吸収するためのものではありません。
つまり、選定の判断軸はシンプルです。
「フレキシブルジョイントを入れたから伸縮対策は不要」という判断は誤りです。フレキシブルジョイントは振動吸収が目的であり、長距離配管の熱伸縮には対応していません。この混同が、施工後にフランジ部のガスケット抜けや溶接部の割れを引き起こすケースが実際に見られます。
建築設備の配管では、ベローズ形膨張継手とフレキシブルジョイントを系統ごとに組み合わせて使うのが標準的なアプローチです。それぞれの役割を明確に分けることが、トラブルのない配管設計の基本となります。
ベローズ形膨張継手は「熱伸縮を吸収するもの」というイメージで語られることがほとんどですが、実際の用途はそれだけではありません。建築業の現場で見落とされがちな応用場面と、長く安全に使うための管理ポイントを紹介します。
地震対策・地盤沈下への対応として活用されていることは、まだ認識が薄い方も多いはずです。建物の異なる構造体をまたぐ配管や、地盤沈下が起きやすいエリアの埋設管では、継手がないと不同沈下による軸ズレがそのまま配管に伝わり、フランジ接合部の損傷や漏水を招きます。ユニバーサル形やヒンジ形のベローズ形膨張継手を用いることで、地震時の層間変位や地盤変動を計画的に逃がすことができます。消防設備や給水本管のような、止められないラインに使われる理由がここにあります。
またジャケット形(二重管構造タイプ)は、保温だけでは対応しきれない高粘度流体や常温で凝固してしまう流体(例:ワックス・重油など)を扱う配管に使われます。外管側に加熱流体を流しながら内管の流体を維持温度に保てるため、食品工場や化学プラントの改修工事で使われるケースがあります。建築設備の分野でも、熱回収系統などで採用されることがあります。
長寿命化のための管理ポイントとしては、以下の4点が現場での実践として重要です。
海岸近くの建物や屋外露出配管では、潮風に含まれる塩素イオンによる応力腐食割れのリスクがあります。外装にNBRカバーなどを被覆する対応策を選定時から検討しておくことで、交換コストと工事ダウンタイムを抑えられます。
ベローズ形膨張継手はメンテナンスフリーと言われますが、それは「適切に設置され、適切に使われている場合」に限ります。消耗品という認識を持ちつつ、定期点検の計画に組み込んでおくことが、長期的に安全な配管システムを維持する上でのポイントです。
参考:JIS B 2352 ベローズ形伸縮管継手(kikakurui.com)
https://kikakurui.com/b2/B2352-2013-01.html