

ゼロ調整を毎回省くと、膜厚値が30μm以上ズレて手戻り工事になることがあります。
電磁膜厚計がどのように膜厚を測るのか、その根本的な仕組みから理解しておくことは、現場で正確な数値を得るために欠かせません。
電磁式膜厚計の測定原理は「電磁誘導法」と呼ばれます。プローブ内部には1次コイルと2次コイルが内蔵されており、1次コイルで発生させた磁束が2次コイルへ誘導される際の電流変化を計測することで膜厚を算出します。イメージとしては、磁石がどれだけ強く鉄板を引き付けているか(磁束密度)を数値化しているわけです。
塗膜が薄い場合、プローブ先端と鉄素地の距離が近くなるため、磁束密度は大きくなります。逆に塗膜が厚い場合はプローブと素地の距離が遠くなり、磁束密度は小さくなります。つまり、磁束密度の大小がそのまま膜厚の薄い・厚いを表すわけです。
この「距離に比例する磁束密度の変化」を膜厚値に換算する仕組みが、電磁膜厚計の基本原理です。
測定できる組み合わせは明確に決まっています。電磁膜厚計が対応できるのは「磁性体の素地(鉄・鋼・フェライト系ステンレスなど)」の上に塗られた「非磁性体の塗膜(ペイント・樹脂膜・メッキなど)」に限られます。コンクリートや木材を素地とする場合は、電磁式では測定できません。これが原則です。
建築現場では鉄骨や鋼製の雨戸・手すり・フェンスの塗膜管理に電磁式が最も多く使われます。素地と塗膜の組み合わせを確認するのが第一歩です。
参考:電磁式・渦電流式など各種膜厚計の原理を図解で解説しています。
建築現場では、鉄素地だけでなくアルミや非鉄金属を扱う場面も多くあります。その際に誤って電磁式膜厚計を使うと、数値が正確に出ないため注意が必要です。
電磁式膜厚計と並んで現場でよく使われるのが「渦電流式膜厚計」です。両者の測定原理の違いを正確に理解することが、機器選定のミスを防ぐポイントになります。電磁式が「磁束密度の変化」を利用するのに対し、渦電流式は「コイルから発生させた電流によって素地に誘導される渦電流の強弱」を利用します。
下の表で、2種類の違いを整理してみましょう。
| 項目 | 電磁式膜厚計 | 渦電流式膜厚計 |
|---|---|---|
| 測定原理 | 磁束密度の変化 | 渦電流の強弱変化 |
| 対応素地 | 鉄・鋼・フェライト系ステンレス(磁性体) | アルミ・銅・オーステナイト系ステンレス(非磁性金属) |
| 対応塗膜 | ペイント・樹脂・メッキなど非磁性体 | プラスチック・樹脂・ゴムなど絶縁性被膜 |
| 建築現場での主な用途 | 鉄骨・鋼製建具・橋梁 | アルミサッシ・非鉄パネル |
現在の建築現場で主流になっているのは「デュアルタイプ(ハイブリッド型)」と呼ばれる機種です。電磁式と渦電流式の両方を搭載しており、素地の種類に応じて自動的に測定方式を切り替えてくれます。1台で鉄・非鉄両方に対応できるので、多様な素地を扱う建築業者には特に便利です。
素地の材質が不明な場合はデュアルタイプを選ぶのが安心です。
さらに、コンクリートや木材の上の塗膜を測りたい場合は「超音波式膜厚計」を使う必要があります。超音波式は、超音波が下地に反射して戻ってくるまでの時間から膜厚を計算する仕組みで、素地が金属でなくても測定できます。建築塗装では外壁コンクリートの塗膜検査に活用されます。
参考:電磁式・渦電流式・超音波式・デュアルタイプの選び方を詳しく解説しています。
膜厚測定の基本と膜厚計の種類や使い方・選び方 | レックスレンタル
電磁膜厚計を正しく使っているつもりでも、実は誤差を引き起こす落とし穴が複数あります。原理を理解したうえで、誤差の要因を知っておくことが大切です。
① 校正(ゼロ調整・標準調整)の省略
最も多いミスがこれです。測定前の「ゼロ調整」と「標準調整」の2点調整を怠ると、表示値と実際の膜厚が大きくズレることがあります。電磁膜厚計の2点調整では、まず未塗装の素地にプローブを押し当てて表示値をゼロに合わせ、次に目標膜厚に近い既知の厚みの標準厚板を置いてその数値に合わせます。この2段階が欠かせません。
校正は測定のたびに行うのが原則です。
鋼道路橋塗装・防食便覧では、調整用鋼板は測定対象物と同質の鋼材(表面粗さ6μmRz以下・厚さ6mm以上)を使用し、標準厚板は目標膜厚と近似の非磁性体を選ぶよう規定されています。現場での管理基準として把握しておくと安心です。
② 素地の磁化による影響
塗膜が磁性を帯びている場合、電磁式膜厚計は正確な値を測定できません。また、電気溶接などによって素地の鋼材が一部磁化している場合も、測定値に誤差が生じます。建築現場の鉄骨溶接部付近や、溶接後に熱処理を行った部位の近くでは、磁化の影響を受けやすいため注意が必要です。
③ 素地の表面粗さと塗膜の乾燥状態
素地の表面が粗い場合(例:ブラスト処理直後など)、電磁式膜厚計の測定値に誤差が生じやすくなります。粗い表面では山と谷があり、プローブが当たる位置によって数値がばらつくからです。また、塗膜が完全に乾燥していない状態でプローブを押し当てると塗膜がへこみ、実際の膜厚より小さい値が表示されることがあります。乾燥を確認してから測定することが重要です。
これらの誤差要因を避けるには、「毎回の2点校正」「乾燥確認後の測定」「同一点を5回測定して平均を取ること」の3点を徹底することが実務の基本です。
参考:鋼橋の塗膜管理における電磁式膜厚計の適切な使い方を詳しく解説しています。
鋼橋の維持管理における塗装関連検査機器の利用について | 日本橋梁・鋼構造物塗装技術協会(PDF)
建築現場で電磁膜厚計を使う場合、どの程度の膜厚を確保すればよいのか、合否の判断基準を理解しておくことが品質管理の要です。
建築塗装の一般的な膜厚の目安
塗膜厚の単位はμm(マイクロメートル)です。1μmは0.001mm、つまり1mmの1000分の1という非常に小さな単位です。感覚的には、ヒトの髪の毛が約50〜100μmですから、塗膜1回分の厚みは髪の毛よりも薄いイメージです。
一般的な建築塗装の目安は次の通りです。
電磁膜厚計で測定するのは主に鉄部・鋼材への塗膜です。膜厚管理基準は「ロット平均で目標膜厚の90%以上、最小値は目標膜厚の70%以上、標準偏差は目標膜厚の20%以内」とされるケースが多く(鋼道路橋塗装・防食便覧より)、建築用途でも同様の考え方が参考になります。
測定手順の標準フロー
実際の現場での測定手順は次の通りです。
このフローを守ることが、品質管理の信頼性につながります。
参考:建築・塗装現場での膜厚の基礎知識と管理のポイントをまとめています。
塗膜厚の基礎知識と測定方法|失敗しない塗装・現場管理のポイント | MIRIX
電磁膜厚計の原理を理解すると、「何が測れないか」も自然に見えてきます。これを知らないと、測れない素地に電磁式を当て続けてまったく意味のない数字を記録し続けるという失敗を招きます。
電磁式膜厚計が測定できない主なケースを整理します。
素地の種類を誤認したまま測定を続けると、品質管理台帳の数値がすべて無効になるリスクがあります。これは痛いですね。
対策として、素地の種類が混在する現場では「デュアルタイプ(ハイブリッド型)」の導入が有効です。1台で鉄・非鉄を自動判別して測定できるため、モード切り替えのし忘れや誤測定を防ぎやすくなります。購入費用が初期に高くなる分、ミスによる手戻り工事や再検査コストのリスクを減らす投資として考えられます。
また、使用頻度が限られる現場では、レンタルを活用するのも現実的な選択肢です。国内のレンタル会社では電磁式・渦電流式・超音波式・デュアルタイプを幅広くそろえており、必要な時だけ借りることでコストを抑えられます。
参考:電磁式・渦電流式・超音波式の違いと測定できない素地の組み合わせを詳しく確認できます。