非点火防爆構造の要件と危険場所での正しい選び方

非点火防爆構造の要件と危険場所での正しい選び方

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非点火防爆構造の要件と危険場所への正しい適用方法

「簡易防爆」と呼ばれるこの構造を2種以外の場所に使うと、労働安全衛生法違反で事業者が送検されるリスクがあります。


この記事の3ポイント要約
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非点火防爆構造(記号n)は「2種場所」専用

0種・1種の危険箇所には使用不可。適用場所を間違えると法令違反になります。

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構造要件はJIS C60079-15(全6条)で規定

nA・nC・nRなどサブタイプごとに要件が異なり、型式検定合格証の確認が必須です。

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国内の防爆エリアの約80%が「2種場所」

正しく理解して導入すれば、耐圧防爆構造と比べてコストを大幅に抑えることができます。


非点火防爆構造とは何か:定義と記号の基本

非点火防爆構造は、労働省告示第16号「電気機械器具防爆構造規格」の第一条第九号に定義された防爆構造の一種です。正式な定義では「電気機械器具を構成する部分が、火花若しくはアークを発せず、若しくは高温となって点火源となるおそれがないようにした構造、または火花若しくはアークを発し、若しくは高温となって点火源となるおそれがある部分を保護することにより、ガス若しくは蒸気に点火しないようにした構造」とされています。


簡単に言うと「電気エネルギー自体が低く、そもそも爆発を引き起こせない機器だけに使える構造」です。


この構造が一般的に「簡易防爆」と呼ばれる理由は、他の防爆構造(耐圧防爆・本質安全防爆など)が物理的な封じ込め機構や複雑な回路保護を持つのに対し、非点火防爆構造は「点火エネルギーを本質的に持たない」という条件のみで認められるからです。防爆性能は他の構造より低いとされており、その分、設計・製造コストが抑えられる特徴があります。


記号について整理しておきましょう。構造規格では「n」という記号が使われます。国際規格IEC60079-15に整合したJIS C60079-15(タイプ"n"防爆構造)が適用される場合は、以下のようにサブタイプが分かれます。


記号 サブタイプ名 概要
nA 非点火防爆構造(火花を発しない機器) 正常運転中・異常時ともに火花を発しない機器
nC 非点火防爆構造(火花保護) 火花を発する部分を密閉または封止して保護
nR 非点火防爆構造(制限呼吸型) 容器への可燃性ガス侵入速度を制限した構造
nL 非点火防爆構造(エネルギー制限) 電気回路のエネルギーを点火源とならない水準に制限


TIIS(産業安全技術協会)の報告によると、非点火防爆構造の構造要件は全体で6条から構成されており、検定にはJIS C60079-15の構造要件および試験方法が適用されます。建築業に関わる現場監督や設備担当者は、機器に貼付された「型式検定合格標章(労検マーク)」と合格証でこの記号を必ず確認することが重要です。


つまり記号だけ見ても「n」とあれば旧構造規格、「nA・nC・nR」などのサブ記号があればIEC整合指針適用品と判断できる、ということです。


厚生労働省|電気機械器具防爆構造規格(昭和44年労働省告示第16号):非点火防爆構造の法的定義と各構造の要件が確認できる原文


非点火防爆構造の要件:危険場所の分類と適用制限

非点火防爆構造を正しく使うために最も重要なのは、「どの危険場所で使えるか」を正確に把握することです。これは単なる知識ではなく、法令上の義務に直結します。


危険場所は労働安全衛生規則第280条に基づき、以下の3種類に分類されます。


種別 IEC/JIS表記 状態の定義 使用可能な防爆構造
特別危険箇所(0種場所) Zone 0 爆発性ガス雰囲気が連続・長時間または頻繁に存在 本質安全防爆(ia)・樹脂充填防爆(ma)のみ
第一類危険箇所(1種場所) Zone 1 通常の状態でしばしば爆発性雰囲気が生成するおそれ 耐圧・内圧・安全増・油入・本質安全・樹脂充填
第二類危険箇所(2種場所) Zone 2 爆発性雰囲気の生成頻度が低く、発生しても短時間 上記すべて+非点火防爆構造


非点火防爆構造が使えるのは「2種場所(Zone 2)」のみです。0種・1種には絶対に使えません。


ここで知っておきたい重要な数字があります。防爆工事の専門家によると、日本国内の防爆エリアの約80%が「2種場所」に該当するとされています。石油化学プラントや軽工業の工場設備の多くが2種場所に分類されており、非点火防爆構造は実際の現場でかなり広く活用できる構造です。


これは現場にとって大きなメリットです。耐圧防爆構造の機器と比べて構造が簡素なため、LED照明器具や簡易設計の制御機器に広く採用されており、設備全体のコストを抑えながら法令要件を満たすことができます。


ただし注意点があります。「2種場所」とはいえ、誤操作や設備の異常、換気装置の故障などによって一時的に爆発性雰囲気が形成される可能性のある場所です。「普段は安全だから」という意識で非防爆機器を持ち込むことは、労働安全衛生規則違反になります。現場でよく起きるミスとして、防爆エリアに一般仕様のスマートフォンやタブレットを持ち込むケースがあります。これも同様に問題です。


防爆構造の選定は「原則です。対象の危険場所の種別を確認し、適合する構造を選ぶこと」が絶対条件です。


防爆工事.com|非点火防爆構造の概要と危険箇所分類:2種場所での適用制限と国内80%が2種場所という数値の解説


非点火防爆構造の構造要件:JIS C60079-15の6つの要件を解説

建築業の設備担当者や施工管理者が現場で非点火防爆構造の機器を扱う際、その内部で何が要求されているかを理解しておくと、選定ミスや施工ミスを防げます。JIS C60079-15(IEC 60079-15に整合)では、非点火防爆構造の構造要件として主に以下の内容が定められています。


まず、温度制限(最高表面温度)の要件があります。機器の外面温度が対象ガスの発火温度を超えないことが必要です。発火度G1(発火点450℃超)の雰囲気では温度上昇限度320℃以下、G2(300〜450℃)では200℃以下、G3(200〜300℃)では120℃以下といったように、対象ガスに応じた温度等級(T1〜T6)に対応した機器を選ぶ必要があります。これは単に「防爆機器であればOK」ではなく、対象ガスとの温度マッチングが必須という意味です。


次に、ケーブル引込み・接続部の保護が要求されます。容器への引込み部分には適切なケーブルグランドや封止処理が必要で、機械的な損傷や可燃性ガスの侵入経路をふさぐ構造でなければなりません。


また、耐久性・絶縁性能の確保も重要な要件です。沿面距離(絶縁物の表面に沿った最短距離)と絶縁空間距離(空間の最短距離)は、規定値以上を確保しなければなりません。絶縁が不十分だとアーク・火花発生リスクが高まり、非点火防爆構造として認定できなくなります。


さらに、錠締め構造(専用工具なしでは開けられない構造)の採用が求められます。現場での無断改造・不適切な分解を防ぐため、一般的な工具ではボルトを緩めることができない錠締め構造が防爆機器全体の共通要件として定められています。


nRサブタイプ(制限呼吸型)の場合は、容器の接合面の隙間が可燃性ガスの侵入速度を一定値以下に抑える設計(スキ・スキの奥行きの管理)も要求されます。これはA4用紙の厚さ(約0.1mm)以下のごく微細な寸法管理です。


構造要件が満たされているかどうかは、型式検定合格証によって確認できます。型式検定合格証の有効期間は3年間であることも覚えておきましょう。合格証の有効期限が切れた機器を危険場所に設置することは、たとえ外見上は問題なく見えても法令違反になります。


産業安全技術協会(TIIS)ニュースNo.233:非点火防爆構造(タイプn)の構造要件6条の概要とJIS C60079-15の適用について解説


非点火防爆構造と他の防爆構造の違い:コストと性能の比較

建築・設備工事の現場で「どの防爆構造を採用すべきか」という判断は、コストと安全性のバランスに直結します。非点火防爆構造の位置づけを他の構造と比べながら整理しましょう。


防爆性能の高さ(使用できる危険場所の危険度)でランク付けすると、おおよそ次のようになります。


防爆構造 記号 使用可能な危険場所 特徴
本質安全防爆構造 ia/ib 0種〜2種 最も防爆性能が高い。試験によって火花も熱も点火源にならないことを証明済み
耐圧防爆構造 d 1種〜2種 容器が爆発圧力に耐える設計。重くなりやすいがコモン
安全増防爆構造 e 1種〜2種 通常状態でスパークが生じない機器の安全性を高める
非点火防爆構造 n/nA/nC/nR 2種のみ 構造が最も簡素。LED照明・小型機器に適用しやすい


コスト面では、非点火防爆構造の採用により機器費用を耐圧防爆構造の機器と比べて大幅に圧縮できるケースがあります。特に工場照明をLED化する際、非点火防爆型LED照明器具を選択することで、従来の耐圧防爆型蛍光灯照明と比較して機器本体のコストを抑えながら省エネ効果も得られます。


これは使えそうですね。ただし、コスト優先で安易に選ぶと危険もあります。


「2種場所に隣接する1種場所」や、現場の運用実態として実際には1種相当の危険がある場所に誤って非点火防爆構造の機器を持ち込む事例が報告されています。特に、2種場所の範囲が「取り扱いエリア全体」として曖昧に広く設定されている工場では、このリスクが高まります。


2019年以降、経済産業省が「プラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン」を公表し、2種場所の範囲を適正化するよう民間企業に働きかけています。これを受けて危険区域の見直しが進む現場では、今後さらに非点火防爆構造の活用範囲が明確化される可能性があります。自社工場の危険区域設定が最新のガイドラインに対応しているかどうかを確認することが一つのリスク管理策になります。


経済産業省|プラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン(2020年):2種場所の定義見直しとJIS・IEC規格との整合に関する詳細


建築業従事者が知っておくべき非点火防爆構造の施工・運用上の注意点

非点火防爆構造の機器を現場で扱う際、施工・運用の段階での誤りが後から重大なリスクを生むことがあります。建築業や設備工事に携わる方が特に注意すべきポイントを整理します。


施工前のチェックが原則です。 まず、設置対象の場所が「2種場所(Zone 2)」として正式に指定されていることを施工前に施主や現場責任者から書面で確認しましょう。危険区域の判断は設備設計者や工場の保安担当者が行うものであり、施工業者が独自に判断するものではありません。


次に、型式検定合格証の確認です。防爆機器には労検マーク(型式検定合格標章)が貼付されており、その合格証には有効期限があります。有効期限が切れていないかを確認し、コピーを施工記録として保管することが推奨されます。有効期間は3年間です。


施工上のよくあるミスとして、防爆型と一般型の混在設置があります。配管工事電気工事で現場に持ち込む工具・測定機器が一般仕様のままであっても、2種場所での作業中は安全管理上の問題が生じます。特に、非防爆仕様のスマートフォンやタブレットを2種場所に持ち込むことは、現行の防爆規程上、推奨されない行為です。


また、定期的なメンテナンスの重要性も見落とされがちです。非点火防爆構造は「防爆構造として認定された状態を維持する」ことで初めてその効果を発揮します。容器のネジの緩み、ケーブルグランドのパッキン劣化、内部の腐食などが生じると、設計上の防爆性能が失われます。厳しいところですね。


労働安全衛生規則第276条は「防爆構造電気機械器具の定期自主検査」を事業者に義務づけており、少なくとも年1回の定期点検が必要です。建築業として防爆設備を施工した後も、施主への点検実施の案内を引渡し時に盛り込むことが、施工者としてのリスク管理につながります。


IEC規格に整合したJIS C60079の体系では、機器の設置・保守・点検もライフサイクル全体で管理することが推奨されています。これは国際標準のトレンドであり、今後は日本国内でも保守・点検の制度化が議論されています。施工後も含めた対応ができる業者は、顧客からの信頼獲得という面でも差別化要因になりえます。


労働安全衛生総合研究所(JNIOSH)技術指針TR-No.44|ユーザーのための工場防爆設備ガイド:防爆機器の設置・保守・点検に関する実務的な指針


非点火防爆構造における独自視点:「2種場所の広すぎ問題」と非点火防爆構造の今後

ここまで解説してきた非点火防爆構造の要件や適用制限に加えて、現場では見落とされがちな「業界構造上の問題点」があります。それが「2種場所の広すぎ問題」と呼ばれる課題です。


多くの化学工場や石油化学プラントでは、危険区域の設定を保守的に「工場敷地全体を2種場所」として設定してきました。明確な境界線を引くよりも、広く設定しておいた方が管理が楽だという実情からです。


しかしこれが逆にコスト・利便性の問題を引き起こしています。防爆スマートフォンは通常品と比べて数倍の価格差があります。たとえばIP68・防爆認定のスマートフォンは一般機種の3〜5倍のコストになることもあり、IoT機器の現場導入コストを跳ね上げる要因になっています。スマートプラント化やデジタル改革を推進したい企業にとっては、防爆エリアの広すぎる設定が足かせになっています。


この問題を受け、経産省は2019年にガイドラインを公表し、2種場所の合理的な再設定を各事業者に促しています。このガイドラインに沿って危険区域を精緻化すれば、かつて「2種場所」として防爆機器必須だったエリアの一部が非危険場所に変わり、一般機器が使えるようになる可能性があります。


結論は「危険区域の見直しが非点火防爆構造の使い方にも影響する」ということです。


建築・設備工事に携わる場合、発注元の工場や施設が最新のガイドラインをどう適用しているかを把握した上で設計・施工を進めることが、今後ますます重要になります。防爆エリアの図面が最新の区域設定に基づいているかを確認することは、施工前の必須チェック項目の一つです。


また、IECEx(IEC防爆機器国際認証スキーム)への対応も今後の注目ポイントです。現在、日本に輸入する防爆機器は国内の型式検定(TIIS)を通す必要がありますが、国際整合を進める動きの中で、IECEx認証機器の国内受け入れ要件が今後変わる可能性があります。海外製の非点火防爆構造機器の採用を検討する場合は、最新の行政動向を定期的に確認することをお勧めします。


非点火防爆構造の要件を正しく理解した上で、危険区域の設定根拠・型式検定の有効性・設置後のメンテナンス体制の3点を押さえることが、建築業従事者として安全で適法な防爆設備工事を実現する確実な道です。


カナデン|10種類の防爆構造について詳しく解説:各防爆構造の比較表・危険場所との対応・記号一覧が体系的に整理されている