
乾式工法とは、建築施工において水やセメント系材料を主体とした湿式材料を使用せず、機械的な固定方法や乾燥した材料を用いて構造体を組み立てる工法です。この工法は、従来の湿式構造と対比される施工方法として建築業界で重要な位置を占めています。
湿式工法では、コンクリートやモルタルなどの水和反応を利用した材料が乾燥・硬化するまでの養生期間が必要となります。一方、乾式工法では以下のような特徴があります。
特に建築物の分類において、乾式構造は施工過程による重要な分類項目として位置づけられており、現代建築の効率化と品質向上に大きく貢献しています。
湿式工法と乾式工法の最も大きな違いは、材料の硬化メカニズムにあります。湿式工法では化学的な硬化反応に依存するのに対し、乾式工法は物理的な組み合わせや機械的な固定に依存します。これにより、施工の確実性と作業効率が大幅に向上します。
また、品質管理の観点でも乾式工法は優位性を持ちます。湿式工法では材料の配合比や養生条件が仕上がりに大きく影響しますが、乾式工法では規格化された部材や金具を使用するため、品質のばらつきを最小限に抑えることができます。
大型タイル乾式工法は、600mm角や1200×600mmなどの大判タイルを壁面に施工する際に用いられる専門技術です。従来の接着剤による湿式施工とは異なり、金具を使用した機械的固定により確実な取付を実現します。
SG工法(セーフティグリップ工法)の施工手順:
アンカーボルト打設位置の正確な墨出しを行います。縦横の基準線を設定し、特に横目地芯の位置決めが重要となります。
専用の1次アングルに設けられた「けがき線」と横目地芯を一致させて固定します。この作業が全体の精度を左右する基準となります。
角根ボルトM8とナット類で2次レールを仮固定し、水糸を使用した不陸調整を入念に行います。この調整作業が仕上がり面の美観に直結する超重要工程です。
タイル裏面のスリットにグリップ金具A(上部)とB(下部)を専用トルクドライバーで80N・cmまで締付けます。カチカチと空回りするまで確実に締めることで、適切な固定力を確保します。
2次レールとの位置合わせを行い、リベットによる確実な固定を実施します。この際、グリップ金具Aの穴位置を上側に引き上げた状態で位置決めすることで、施工後の位置ずれを防止できます。
Zハンガー工法の特徴:
接着剤を併用しながらも剥落防止金具を設置する工法で、万一の場合の安全性を確保します。タイル裏面への弾性接着剤の打設と、Zハンガー金具による機械的固定を組み合わせることで、高い信頼性を実現しています。
これらの工法により施工された大型タイルは、従来の湿式工法では困難だった大判サイズでも確実な固定と美しい仕上がりを実現できます。
乾式吹付工法は、コンクリート構造物の補修・補強分野で革新的な技術として注目されています。2022年7月に塩分吸着型乾式吹付工法がNETIS(新技術情報提供システム)に新規登録され、公共工事での活用が本格化しています。
乾式吹付工法の技術的特徴:
NETIS登録の意義は単なる技術認定にとどまりません。この登録により、以下のような効果が期待されます。
技術的評価の向上: 国土交通省による技術評価を受けることで、技術の信頼性と有効性が公的に認められます。
活用促進効果: 公共工事での試行や活用が促進され、技術の普及拡大が加速します。
品質保証体制: 一定の品質基準をクリアした技術として、発注者・施工者双方に安心感を提供します。
協会員による施工実績は既に800件を超えており、実用性の高い技術として建設業界に浸透しています。この実績数は、技術の信頼性と施工者の習熟度を示す重要な指標となっています。
特に塩害対策が必要なコンクリート構造物において、従来の湿式工法では対応困難だった環境下でも確実な施工が可能となり、インフラの長寿命化に大きく貢献しています。
乾式工法の導入を検討する際には、その特性を正しく理解し、プロジェクトの要求事項と照らし合わせることが重要です。
主要メリット:
養生期間が不要または大幅短縮により、全体工程の効率化が図れます。特に工期が厳しいプロジェクトでは決定的なアドバンテージとなります。
規格化された部材や機械的固定により、施工者の技量に左右されにくい一定品質を確保できます。
雨天や低温時でも施工継続が可能で、天候による工程遅延リスクを大幅に軽減できます。
部分的な取替や修理が容易で、建物のライフサイクルコスト削減に貢献します。
解体時の材料分別が容易で、リサイクル率向上により環境負荷を軽減できます。
注意すべきデメリット:
専用金具や治具の調達により、材料費が湿式工法を上回る場合があります。
専門的な施工技術の習得が必要で、作業員の教育・訓練期間が必要となります。
構造形式や建物形状によっては適用が困難な場合があり、設計段階での慎重な検討が必要です。
機械的固定による振動や音の伝播が問題となる場合があります。
これらの特性を踏まえ、プロジェクトの優先順位(工期・品質・コスト・環境性能)に応じて最適な工法選択を行うことが重要です。
建設業界における労働力不足と技術革新の要求が高まる中、乾式工法は今後の建設技術の中核を担う可能性が高まっています。
技術発展の方向性:
🤖 自動化・ロボット化の進展
乾式工法の規格化された部材と機械的固定の特性は、建設ロボットや自動化機械との親和性が高く、将来的な無人化施工の基盤技術となりえます。
📊 IoT・センサー技術の統合
施工部材にセンサーを組み込むことで、リアルタイムの構造モニタリングや予防保全システムの構築が可能となります。
🌍 国際標準化の動き
日本で開発された乾式工法技術の海外展開が活発化しており、国際競争力の向上が期待されています。
業界への波及効果:
従来の「現場での職人技術」から「工場での精密加工+現場での組立」という構造変化が加速し、建設業界の製造業化が進展します。これにより以下の変化が予想されます。
課題解決への貢献:
建設業界が直面する2024年問題(働き方改革関連法の適用)に対しても、乾式工法による工期短縮と作業効率化は有効な解決策となります。また、熟練技能者の高齢化問題に対しても、技術の標準化により技能継承の課題を軽減できる可能性があります。
今後5年間で乾式工法の適用範囲は現在の2倍以上に拡大すると予測され、建設業界の技術革新を牽引する重要な役割を担うと考えられます。この技術革新の波に乗り遅れないよう、早期の技術習得と実践経験の蓄積が重要となります。
建設業従事者にとって、乾式工法の理解と習得は今後のキャリア形成において必須のスキルとなるでしょう。技術の進歩に合わせて継続的な学習と実践を重ねることで、変化する建設業界で競争力を維持することができます。