
高層区画の防火設備は、建築基準法施行令112条7項から10項に基づいて設置される、11階以上の建築物における重要な安全設備です。基本的な区画面積は100㎡以内ごとですが、内装材の種類と防火設備の性能により以下のように変化します。
区画面積の基準:
この基準は、はしご車が届かない11階以上の階層において、火災時の延焼拡大を効果的に防止するために設けられています。内装材の不燃性能が高いほど区画面積を大きく取れるのは、火災時の延焼速度が抑制されるためです。
防火設備と特定防火設備の違いは、遮煙性能と閉鎖性能にあります。特定防火設備は、より高い遮煙性能を持ち、煙感知器や熱煙複合式感知器と連動した自動閉鎖機能を備えています。
高層区画における防火設備の設置には、厳格な構造基準が適用されます。施工業者が最も注意すべき点は、壁・床・開口部それぞれの構造要件です。
構造要件の詳細:
特定防火設備の設置では、以下の機能が必要です。
スパンドレルの設置も重要な要件の一つです。外壁に接する防火区画部分には、以下のいずれかを設置する必要があります。
高層区画の防火設備には、建築基準法で定められた複数の緩和規定があります。施工業者にとって重要な緩和規定は、スプリンクラー設備の設置による「倍読み」と呼ばれる制度です。
スプリンクラー設備による緩和:
自動スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備などを設置した部分については、その床面積の1/2を区画面積から除外できます。例えば、200㎡の区画にスプリンクラーを設置した場合、実質的に100㎡分が緩和され、300㎡まで区画面積を拡大可能です。
免除される部分:
以下の部分は高層区画の適用が免除されます。
共同住宅の特例:
共同住宅の住戸部分については、一般建築物の100㎡ではなく200㎡ごとの区画で可能ですが、特定防火設備の使用が義務付けられています。これは、住戸という区画の性質上、延焼リスクが相対的に低いと判断されるためです。
高層区画の防火設備施工において、施工業者が特に注意すべき実務的なポイントがあります。これらは建築基準法の条文だけでは分からない、現場での重要な知識です。
配管・ダクト貫通部の処理:
防火区画を貫通する管やダクトには、特別な処理が必要です。貫通部分の周囲を不燃材料で埋め、貫通部分の前後1mは不燃材料の管を使用する必要があります。この処理を怠ると、防火区画の性能が著しく低下します。
施工時の注意点。
他の防火区画との関係:
高層区画は、面積区画や竪穴区画と重複することが多く、より厳しい基準を適用する必要があります。例えば、面積区画で準耐火構造の壁が要求され、高層区画で耐火構造の壁が要求される場合、耐火構造を採用します。
施工順序の重要性:
防火区画の施工は、建築工事の進行に合わせて段階的に行う必要があります。特に、躯体工事と内装工事の境界で防火区画が形成される場合、施工順序の調整が重要です。防火区画の連続性を確保するため、各工程での検査・確認が不可欠です。
高層区画の防火設備は設置後の維持管理が極めて重要で、施工業者も定期点検制度について理解しておく必要があります。建築基準法第12条に基づく定期報告制度では、防火区画の状況確認が義務付けられています。
定期点検の主要項目:
点検頻度と報告:
特定建築物定期調査:1~3年ごと
防火設備定期検査:毎年実施・報告
施工業者が把握すべき維持管理のポイント。
アフターサービス体制:
施工業者は、引き渡し後も建物所有者との良好な関係を維持し、定期点検時の相談対応や緊急時の修繕対応ができる体制を整えることが重要です。特に、防火設備の誤作動や故障は建物の安全性に直結するため、迅速な対応が求められます。
建築基準法の改正により、防火区画の基準は段階的に強化されています。施工業者は最新の法改正情報を常に把握し、適切な防火設備の設置と維持管理に努める必要があります。高層区画の防火設備は、建物利用者の生命安全に直結する重要な設備であり、その責任を十分に理解した施工が求められています。