
2000年の建築基準法改正により、従来の「乙種防火戸」は「防火設備」という名称に変更されました。しかし、施工現場では今でも乙種防火戸という呼び方が一般的です。この防火設備は、通常の火災時における火炎を20分間有効に遮る性能を持つ設備として定義されています。
乙種防火戸の材質規定は建設省告示第1360号で詳細に定められており、以下の仕様が認められています。
鉄製防火戸の仕様
・鉄板の厚さ:0.8mm以上1.5mm未満
・骨組み:鉄製構造
・表面処理:錆止め塗装必須
鉄骨コンクリート製・鉄筋コンクリート製
・厚さ:35mm未満
・コンクリート強度:設計基準強度以上
・鉄筋配筋:構造計算に基づく配置
網入りガラス使用タイプ
・サッシ:スチール製またはアルミ製
・ガラス:網入りガラス必須
・網目:6.5mm以下の金網
木材製防火戸(特殊仕様)
・骨組み:防火塗料塗布済み木材
・屋内面:木毛セメント板12mm以上または石膏ボード9mm以上
・屋外面:亜鉛鉄板張り
これらの材質規定は、火災時の熱変形や燃焼特性を考慮して設定されており、施工時は材料証明書での確認が不可欠です。
乙種防火戸の設置が義務付けられるのは、防火地域および準防火地域内の建築物で、外壁の開口部のうち「延焼のおそれのある部分」です。この延焼のおそれのある部分は、具体的に以下のように定義されています。
延焼のおそれのある部分の範囲
・1階部分:道路中心線または隣地境界線から3m以内
・2階以上:道路中心線または隣地境界線から5m以内
・上階からの延焼:直下階の屋根面から3m以内
設置する乙種防火戸は、建設省告示第1360号に準拠した構造でなければなりません。告示適合の確認ポイントは以下の通りです。
構造要件のチェック項目
・炎の侵入する隙間がない構造
・相じゃくり、定規縁、戸当りによる密閉性確保
・取付金物の露出防止処理
・開閉機構の確実な動作
施工業者は確認申請時に「建具の構造詳細図」の提出が求められるため、事前に告示仕様との適合性を十分に検証しておく必要があります。
国土交通省の防火設備構造方法告示詳細はこちら
https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/pdf/201703/00006451.pdf
乙種防火戸に求められる遮炎性能は、建築基準法施行令第109条の2で技術的基準が定められています。この性能は「通常の火災による加熱が加えられた場合に、加熱開始後20分間当該加熱面以外の面に火炎を出さないもの」と規定されています。
遮炎試験の実施条件
・試験炉温度:840℃(開始時)から1000℃まで上昇
・加熱時間:20分間継続
・判定基準:裏面に火炎の貫通がないこと
・温度測定:裏面温度の上昇制限
遮炎性能には「遮炎性能」と「準遮炎性能」の2種類があります。乙種防火戸で一般的なのは準遮炎性能で、これは建築物の周囲で発生する火災からの延焼防止を目的としています。
準遮炎性能の特徴
・屋外からの火災に対する防御性能
・20分間の火炎遮断能力
・外壁開口部への設置が主目的
試験に合格した製品には認定証が交付され、製品には認定番号が表示されます。施工時はこの認定番号の確認が重要な検査項目となります。
意外な事実として、網入りガラスも乙種防火戸の一種として扱われます。多くの施工業者が見落としがちですが、防火地域での窓ガラスは単なる網入りガラスではなく、防火設備としての性能を満たした製品でなければなりません。
乙種防火戸の施工において、性能を確実に発揮させるためには以下のチェックポイントが重要です。これらは建築確認検査や完了検査でも重点的に確認される項目です。
取付精度の管理
・開口部との隙間:5mm以下を維持
・戸当りの密着性:全周にわたり確実な当たり
・蝶番の取付強度:荷重に対する十分な固定力
・ドアクローザーの調整:確実な自動閉鎖機能
防火性能の確保
・シーリング材:耐火性のあるものを使用
・取付金物:耐火被覆または埋込み処理
・配線貫通部:防火区画材による適切な処理
・換気口:防火ダンパーとの連動確認
施工業者が特に注意すべきなのは、乙種防火戸は通常のドアより重量があるため、躯体への取付強度を十分に確保することです。コンクリート躯体の場合は、あと施工アンカーの引抜強度試験を実施し、設計荷重の3倍以上の安全率を確認します。
現場での品質管理
・材料搬入時の損傷チェック
・養生期間中の変形防止措置
・施工完了後の動作確認試験
・関連設備との取合い確認
また、防火戸の性能は付属金物も含めて評価されているため、指定以外の金物を使用すると認定が無効になる可能性があります。特にドアクローザーや蝶番は、認定書に記載された指定品を使用することが必須です。
乙種防火戸は一度設置すれば永続的に性能を維持するわけではありません。適切なメンテナンスにより長期間の防火性能を確保する必要があります。
定期点検の実施内容
・年1回の動作確認(開閉の円滑性)
・蝶番部の給油および調整
・ドアクローザーの調整
・シーリング材の劣化確認
・錆発生箇所の補修
防火機能に関しては特別なメンテナンスは不要とされていますが、機械的な動作部分は定期的な保守が必要です。特に重量のある防火戸では、蝶番やドアクローザーへの負荷が大きいため、通常のドアより頻繁な点検が推奨されます。
交換時期の判断基準
・設置後20~30年経過時
・著しい腐食や変形の発生時
・開閉動作に支障が生じた時
・シーリング材の広範囲な劣化時
法令改正への対応
建築基準法や関連告示の改正により、既存の乙種防火戸が現行基準に適合しなくなる場合があります。大規模修繕や用途変更の際は、現行法令への適合性を再確認し、必要に応じて更新を検討する必要があります。
施工業者は建物所有者に対して、これらのメンテナンス要件を適切に説明し、長期的な性能維持のためのアドバイスを提供することが重要です。また、メンテナンス記録の保管により、将来の大規模修繕時の参考資料として活用できます。
近年では、IoT技術を活用した防火戸の状態監視システムも開発されており、遠隔での動作確認や異常検知が可能になっています。大規模建築物では、このような新技術の導入も検討する価値があるでしょう。