

サーミスタの抵抗値は温度が上がると必ず下がるわけではなく、種類によっては逆に急激に上がります。
サーミスタとは、「Thermally Sensitive Resistor(熱に敏感な抵抗体)」を語源とする温度センサーです。温度が変わると電気抵抗値が大きく変化するという半導体の性質を利用して、温度を間接的に検出する仕組みになっています。
一般的な金属導体は温度が上がると抵抗値がわずかに増加します。これに対して半導体素子であるサーミスタは、温度上昇によって内部の自由電子や正孔(ホール)が活性化し、電流が流れやすくなる方向に働くため、金属とは真逆の挙動を示すことがほとんどです。つまり原理の核心は、「半導体のエネルギーバンドギャップと温度の関係」にあります。
この変化量が非常に大きいのが特徴です。NTCサーミスタ(後述)では1℃の温度変化に対して抵抗値が3〜5%変化します。白金などの金属抵抗体が同じ1℃あたり0.数%しか変化しないのと比べると、その感度は実に10倍以上にもなります。これは、はがきの横幅(約10cm)と1m以上の差があるようなイメージです。
この高い感度こそが、サーミスタが空調設備・給湯器・換気システムといった建築設備の温度管理に広く採用される理由です。つまり高感度が基本です。
なお、サーミスタの基本原理はあの科学者マイケル・ファラデーが1833年に発見した「硫化銀半導体の抵抗値が温度変化によって急激に減少する現象」にさかのぼります。その後1930年代に市販化が始まり、今日では年間市場規模が約1,500億円(NTCサーミスタだけで)に達する一大産業となっています。
サーミスタの原理・種類・使い方をわかりやすく解説(CoreContents)
サーミスタには大きく3種類があります。それぞれ温度に対する抵抗値の変化の方向性がまったく異なり、用途も明確に分かれています。建築設備の現場でどの機器にどの種類が使われているかを把握しておくと、トラブル対応の際に大いに役立ちます。
NTCサーミスタ(負の温度係数)は最もよく使われているタイプです。温度が上がると抵抗値が下がるのが特徴で、ニッケル・マンガン・コバルト・鉄などの金属酸化物を焼結したセラミック半導体が素材として使われています。使用温度範囲はおおむね−50℃〜150℃(広温度対応品では−50℃〜500℃)で、エアコンの室温センサーや給湯器の水温検知、換気設備の温度モニタリングなど、建築設備で使われる温度センサーのほとんどがこのNTCサーミスタです。これが原則です。
PTCサーミスタ(正の温度係数)は、通称「ポジスタ」とも呼ばれます。チタン酸バリウムを主成分とし、特定の温度(キュリー点)を超えると抵抗値が急激に何十〜何百倍にも跳ね上がるという特異な性質を持っています。この性質を逆手に取り、過熱時の回路保護や電流制限の安全装置として活用されています。空調設備のモーター保護や電気暖房機器の発熱制御など、「一定温度を超えたら電流を遮断したい」場面で使われています。
| 種類 | 温度上昇時の抵抗変化 | 主な用途 | 主成分 |
|---|---|---|---|
| NTCサーミスタ | 🔽 減少(3〜5%/℃) | 温度検知・測定・補償 | Mn・Ni・Co酸化物 |
| PTCサーミスタ | 🔼 急増(キュリー点超過後) | 過熱保護・電流制限・加熱素子 | チタン酸バリウム |
| CTRサーミスタ | 🔽 急減(キュリー点超過後) | 温度スイッチ・検知 | バナジウム酸化物 |
CTRサーミスタ(臨界温度型)は比較的新しいタイプで、NTCと同様に温度が上がると抵抗値が下がりますが、PTCと同様に特定のキュリー点で急激に抵抗が変化するという特性を持ちます。バナジウム酸化物が主成分で、エアコンや冷蔵庫、自動販売機などの温度計測に使われています。意外ですね。
NTC・PTCサーミスタの種類・特性・回路設計まで詳細解説(FAプロダクツ)
「サーミスタは温度で抵抗が変わる」とわかっても、具体的にどう計算して温度を割り出すのかが気になる方も多いはずです。ここが実は建築設備の精度管理に直結する重要なポイントです。
NTCサーミスタの抵抗値と温度の関係を表す基本式として、B定数式があります。
$$R = R_0 \times e^{B \times \left(\frac{1}{T} - \frac{1}{T_0}\right)}$$
ここでRは測定温度T(絶対温度)での抵抗値、R₀は基準温度T₀(通常25℃=298.15K)での抵抗値、BはB定数(単位:K)です。B定数は材料によって固有の値であり、数値が大きいほど温度変化に対する抵抗変化が大きく、センサーとしての感度が高くなります。一般的なNTCサーミスタのB定数は2000〜5000K程度の範囲です。
ただし、B定数式は温度範囲が狭い場合にのみ高い精度が得られます。広い温度範囲を精度よくカバーするには、3つの係数(a・b・c)を用いたより精密な経験式であるSteinhart-Hart式が使われます。
$$\frac{1}{T} = a + b \cdot \ln(R) + c \cdot (\ln(R))^3$$
この式はJohn SteinhartとStanley Hartが1968年に海洋温度測定の研究から導き出したものです。これが条件です。3つの温度点での抵抗値から係数を算出することで、広温度範囲においても±0.01℃以下の高精度な温度換算が可能になります。
建築設備の現場で重要なのは、「使用するサーミスタのB定数が仕様書に明記されているか」と「温度変換式がキャリブレーションされているか」の2点です。B定数が記載されているカタログ・仕様書を必ず確認し、設置後の初期チェックを行うことが精度維持の基本です。
NTCサーミスタの基本特性・B定数の説明(村田製作所 公式)
建築業に携わる方にとって、サーミスタは「エアコンや給湯器の内部部品」という認識にとどまりがちです。しかし実際には、建築設備の温度制御システム全体の精度と安全性を支える根幹部品として機能しています。
空調設備では、1台の業務用エアコンの中に複数のサーミスタが組み込まれています。具体的には、室内の吸込温度センサー、冷媒管の温度センサー、室外機の外気温センサー、熱交換器のサーミスタなど、用途ごとに複数個が使われています。これら各センサーが連携してコンプレッサーの動作を制御しているため、1つのサーミスタが誤作動するだけで、「設定温度にならない」「エアコンが頻繁に止まる」といった現象が発生します。これは使えそうです。
給湯設備においても、サーミスタは中心的な役割を担います。給湯器では水温の上昇をNTCサーミスタがリアルタイムで検知し、バーナーへの燃料供給量をフィードバック制御しています。たとえば設定温度42℃のシャワーが一定の温度で供給されるのは、サーミスタが毎秒単位で温度を検知して制御回路に信号を送り続けているおかげです。
換気設備では全熱交換型の換気ユニットにもサーミスタが組み込まれており、外気温と室内温の差に応じて換気量を自動調整する役割を担っています。特に省エネ建築(ZEB・ZEH)では、この温度センサーの精度が空調負荷の削減量に直接影響するため、高精度なNTCサーミスタの選定が求められています。
サーミスタの仕組みと建築・家電への応用事例(芝浦電子 公式)
ここが多くの現場で見落とされているポイントです。サーミスタの原理を理解した上でこそ気づける、設置・選定に関わる注意事項があります。
まず押さえておきたいのが「非線形性」のリスクです。NTCサーミスタの抵抗値と温度の関係は直線ではなく、曲線を描くため(非線形)、温度範囲が広くなるほど変換式の精度が落ちる性質があります。たとえば、建築設備で使われる空調の温度範囲(おおよそ−10℃〜50℃)においても、単純なB定数式だけを使った変換では最大で数℃の誤差が生じることがあります。設置後のキャリブレーション(校正)が必須です。
次に「自己発熱による誤差」の問題があります。サーミスタに電流を流すと、ジュール熱(自己発熱)が発生し、センサー自体の温度が周囲温度より高くなってしまうことがあります。この誤差を最小限に抑えるためには、サーミスタに流す電流を必要最小限に抑えることと、熱放散定数(センサーの放熱しやすさを示す数値)が大きい製品を選ぶことが重要です。
さらに見落とされがちなのが「設置場所による誤差」です。空調設備の室温センサーは、直射日光が当たる窓際や熱源に近い場所に設置すると、室温より高い数値を検出してしまいます。パナソニックのエアコンに関するFAQでは、室内機と実際に人がいる場所での温度差が「3〜4℃程度生じることがある」と公式に記載されています。これは時間とコストの両面で損失につながる問題です。
独自の視点として強調しておきたいのが、建設現場の施工段階でのセンサー保護です。建築の施工中は、ゴミ・コンクリート粉・切削粉・溶接スパッタなどが飛散します。この段階で空調設備のサーミスタが汚染されると、引渡し後に誤作動・異常停止が頻発する原因になります。竣工前の設備試運転時に必ずサーミスタの検知精度をチェックするフロー(電気設備検査と合わせた確認)を現場監督が意識するだけで、引渡し後のクレームを大幅に減らすことができます。
この習慣を身につけておけば、引渡し後の温度クレームを未然に防げます。
業務用エアコンのサーミスタ不良:原因・症状・修理方法の詳細解説

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