アルカリ骨材反応対策の基本と現場で使える知識

アルカリ骨材反応対策の基本と現場で使える知識

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アルカリ骨材反応対策を現場で正しく実施するために

「無害判定済みの骨材を使っていても、条件次第でASRが起きてコンクリートが内部から破壊されます。」


この記事の3つのポイント
🧱
ASRの発生メカニズムを正しく理解する

「反応性骨材」「アルカリ分」「水分」の3条件が揃って初めて発生。1つでも除外できれば抑制できます。

⚠️
現行の抑制対策だけでは不完全なケースがある

アルカリ総量3.0kg/m³規制や無害判定骨材でも、高強度配合・遅延膨張性骨材・融雪剤環境では例外が生じます。

🔧
劣化後の補修工法を正しく選定する

表面保護工だけでは根本解決にならない場合があります。亜硝酸リチウムを使った内部対策が有効な場面を把握しましょう。


アルカリ骨材反応の発生メカニズムと3条件


アルカリ骨材反応(ASR:Alkali Silica Reaction)は、コンクリートが「内側から膨らんで割れる」現象です。外側から見ると軽微なひび割れに見えることも多く、実際には内部が深刻に損傷しているケースが少なくありません。建築・土木の現場では「コンクリートのがん」とも呼ばれています。


発生の仕組みを段階的に整理すると、まずセメント中のアルカリ成分(Na₂O・K₂O)が水と反応し、コンクリート内部に強アルカリ性の水溶液が形成されます。そこに「反応性骨材」が存在すると、骨材中の不安定なシリカ鉱物(SiO₂)がアルカリ水溶液と化学反応を起こし、「アルカリシリカゲル」が生成されます。このゲルがスポンジのように水を吸い込んで体積膨張し、コンクリート内部に膨張圧をかけます。結果として微細ひび割れが発生し、そこからさらに水が侵入して反応が加速するという悪循環が生まれます。


つまりASRが起きる条件は次の3つです。


- 反応性骨材:火山岩(安山岩・流紋岩)や堆積岩(チャート・砂岩・頁岩)など、不安定なシリカ鉱物を含む骨材
- アルカリ分:セメントや混和材から溶出するナトリウム・カリウムイオン
- 水分:雨水・地下水・融雪剤の散布水などによる継続的な湿潤


3条件のうち1つでも排除できれば、ASRの発生は大幅に抑えられます。これが原則です。


表面に現れる変状としては、亀甲状(地図状)のひび割れと、ひび割れからにじみ出る白色または透明のゲルが典型的な特徴として知られています。拘束力が強い部材(橋脚など)では、ひび割れが軸方向に一方向へ走るケースもあり、単純に「網目状ひび割れ=ASR」とは限りません。意外ですね。


また、湿潤・寒冷地域(北陸・東北日本海側)や火山帯・山岳地域(中四国の瀬戸内海沿岸など)では反応性骨材が多く分布しているため、地域特性を把握したうえで対策を検討することが基本です。



参考:アルカリ骨材反応の詳細なメカニズムと劣化プロセスについて、専門的な解説が掲載されています。


コンクリートのアルカリ骨材反応(ASR)|株式会社岡﨑組


アルカリ骨材反応対策の3本柱と実施のポイント

現在、国土交通省通達(平成14年8月)および JIS A 5308 に基づき、アルカリ骨材反応の抑制対策は以下の3つの方向性で規定されています。現場ではこれらを正しく理解し、配合設計に反映することが求められます。


①コンクリート中のアルカリ総量の抑制(Na₂O換算で3.0kg/m³以下)


セメント・混和材・水・骨材など、すべての材料に含まれるアルカリ量を計算し、合計が3.0kg/m³以下であることを確認する方法です。アルカリ量の計算管理が対策の核心となります。


ただし注意が必要な点があります。高強度コンクリートではセメント量が450kg/m³以上になることも珍しくなく、低アルカリセメント(アルカリ量0.6%)を使ったとしても、セメント由来のアルカリだけで2.7kg/m³近くに達します。そこに混和剤・水由来のアルカリを加えると、3.0kg/m³以内に抑えることが現実的に困難になるケースがあります。高強度仕様ではアルカリ総量規制だけに頼ってはいけません。


②抑制効果のある混合セメントの使用(高炉セメントB・C種、フライアッシュセメントB・C種)


混合セメントは水酸化カルシウム(Ca(OH)₂)の生成量が少なく、アルカリ量を低下させる効果があります。高炉スラグ微粉末やフライアッシュをセメントに混入することで、水酸化物イオン濃度を下げ、反応を抑制します。2002年の改正以降、この方法と③の組み合わせが優先的に推奨されています。


流通上の問題(生コン工場やプレキャスト工場が専用サイロを持っていない場合)があることも現実的な課題です。発注前に調達可能かどうかの確認が必要です。


③安全と認められる骨材の使用(JIS試験で「無害」の確認)


JIS A 1145(化学法)またはJIS A 1146(モルタルバー法)による試験で「無害」と判定された骨材を使用する方法です。化学法で「無害でない」と判定されても、モルタルバー法で「無害」と判定された場合は、無害な骨材として取り扱うことができます。


注意点として、「無害」と「無害でない」骨材を混合して使用する場合は、混ぜ合わせた全体を「無害でない」として扱う必要があります。混合すれば大丈夫という発想は危険です。


これらの3つの対策は、単独よりも組み合わせることでより確実に抑制できます。これが原則です。



参考:国土交通省によるアルカリ骨材反応抑制対策の通達と改正内容について。


アルカリ骨材反応抑制対策について|国土交通省(平成14年8月)


アルカリ骨材反応対策の盲点:無害判定・ペシマム現象・遅延膨張性骨材

「無害と判定された骨材を使えば安心」と思っている方は多いかもしれません。しかし実態はそれほど単純ではありません。ここが重要な盲点です。


まず「無害判定の限界」について理解しておく必要があります。JIS A 1145(化学法)で「無害」と判定された骨材でも、遅延膨張性を示すタイプ(例:特定の安山岩系骨材)では、試験条件下では反応が表れず「無害」と出力されるにもかかわらず、実際の構造物では長期間後にASR劣化が生じることがあります。日本コンクリート工学会の報告書(2014年)でも、「アルカリ総量3.0kg/m³以下であってもASRが生じる可能性がある」と明示されています。


過去には「無害」と判定された骨材を使ったコンクリートで、7年後・10年後に地図状ひび割れと白色ゲルの浸出が発覚した事例が現場で複数報告されています。試験結果だけが安全の根拠にはなりません。


次に、あまり知られていない「ペシマム現象」についても理解しておくことが重要です。ASRによる膨張は、反応性骨材の割合が増えれば増えるほど大きくなるとは限りません。反応性骨材を単独で使用した場合よりも、無害な骨材と混合して使用した場合の方が膨張量が大きくなることがあるのです。この現象を「ペシマム現象」と呼び、膨張量が最大になる割合を「ペシマム量」といいます。


たとえば、ある骨材の研究事例では、材齢6ヶ月時点で反応性骨材100%のケースに対して、無害骨材と混合したペシマム配合では膨張率が約1.7倍に達したという報告があります。これは使えそうな知識です。つまり、反応性骨材と無害骨材を「薄める」ような感覚で混合してもかえって危険になるということです。


さらに「融雪剤による外部アルカリ供給」も見逃せないリスクです。海水・潮風による塩分だけでなく、道路の凍結防止剤(塩化ナトリウム等)が散布された環境では、外部からアルカリが継続的に補給されるため、アルカリ総量を3.0kg/m³以下に抑えていたとしても劣化が進行するケースがあります。厳しいところですね。特に北海道・東北・北陸などの積雪寒冷地での施工では、融雪剤の影響を配合検討段階から考慮することが必要です。



参考:ペシマム現象の詳細と骨材の混合比率による膨張挙動の変化について。


アルカリシリカ反応とペシマム現象|公共建設技術センター


アルカリ骨材反応が起きてしまった場合の補修工法の選び方

ASRによる劣化が確認された構造物の補修では、「まず表面を保護すれば大丈夫」と判断するケースが多いのが現状です。しかしその判断が不十分な場合、数年以内に再劣化を招いてしまうことがあります。


表面保護工法(表面被覆・表面含浸)は、外部からの水分供給を遮断することで膨張の進行を抑える工法です。施工コストが比較的安く、多くの現場で採用されてきた方法です。しかし、橋台や擁壁のように背面に土砂があって水分供給を完全に遮断できない構造物では、水分を切ることが困難です。コンクリート内部に残存水分がある場合、表面を塗装しただけでは膨張が継続することもあります。外部からの水は防げても、内部の水分には対処できないということですね。


また、表面被覆材の樹脂皮膜は透気性が低いため、膨張応力によって「ふくれ」が生じやすいという問題もあります。このため、表面保護工を選定する際には、ひび割れ追従性の高い材料を使用し、残存膨張量試験によって今後の膨張進行の有無を評価してから施工することが重要です。


より根本的な対策として近年注目されているのが、亜硝酸リチウムを用いた工法です。リチウムイオン(Li⁺)はアルカリシリカゲルに作用し、水に対して溶解性や吸湿性を持たない「リチウムモノシリケート」や「リチウムジシリケート」に置換します。これによってゲルの膨張性を消失させる(非膨張化)ことができます。


具体的な工法には、主にコンクリート表面に亜硝酸リチウムを塗布して表面含浸させる「表面含浸工法」と、小径の圧入孔(削孔)からコンクリート深部へ亜硝酸リチウムを加圧注入する「ASRリチウム工法(内部圧入工法)」があります。後者はASR膨張を根本的に抑制できる唯一の工法とも評価されており、表面保護工との組み合わせでさらに高い効果が期待できます。


コスト面では、一般的な塩害対策の断面修復工事がコンクリート1m³あたり約20万円程度であるのに対し、ASRリチウム工法はコンクリート1m³あたり20万〜30万円程度が目安とされています。決して安価ではありませんが、再劣化による再工事費用を考えると、長期的には合理的な選択となる場合があります。痛いですね。


補修工法を選定する際の基本的な流れとしては、まず残存膨張量試験(JCI-DD2法・カナダ法・デンマーク法など)でASRの進行性を評価し、今後も有害な膨張が続くと判断された場合には、表面保護工単独ではなく内部対策との組み合わせを検討することが条件です。



参考:亜硝酸リチウムを用いたASR補修の基本的な考え方と各工法の概要。


亜硝酸リチウムを用いたASR対策の基本的な考え方|一般社団法人コンクリートメンテナンス協会


現場担当者が知っておくべき「遅延膨張性骨材」と試験法の限界

建築・土木現場での実務でとくに注意が必要なのが、「遅延膨張性骨材」の問題です。これはあまり表に出てこない話ですが、知っているかどうかで後の判断が大きく変わります。


通常、骨材の反応性確認に用いられる「JIS A 1145(化学法)」は、化学反応によってシリカ量とアルカリ溶液の減少量を測定する方法です。また「JIS A 1146(モルタルバー法)」は、一定期間養生後のモルタルバーの膨張量を測定します。これらの試験は国内で最も広く使われている標準的な方法です。


しかし、遅延膨張性を示す骨材(特定のチャート・安山岩系など)については、これらの試験期間内に十分な膨張を示さず、「無害」と判定されてしまうことがあります。実際、国土土木研究所(現・土木研究所)や大学の研究でも「JIS A 1145の化学法では遅延膨張性骨材の反応性を正しく検出できない場合がある」という報告が複数されています。試験をパスしたから安全とはいえないということです。


さらに、化学法で「無害でない」と判定された骨材でも、骨材中の気孔がアルカリシリカゲルを吸収して膨張を緩和する場合があり、「無害でない=必ず危険」というわけでもありません。試験結果の読み方には、骨材の岩石学的特性の知識が欠かせません。


こうした試験法の限界を補うために有効なのが、岩石・鉱物学的な評価(薄片観察による鉱物同定など)との組み合わせです。JIコンクリート工学会の委員会報告(2008年)でも、「骨材試験のみでASRを完全に防止することは困難であり、合理的な活用方法が求められる」と述べられています。


現場での実践的な対応としては、以下の点を確認することが有効です。


- 使用地域の反応性骨材の地質分布(火山帯・堆積岩地帯かどうか)を事前に確認する
- 骨材の産地・岩種が変わった場合は、再試験を実施する
- 試験結果が「無害」でも、高強度コンクリートや湿潤・寒冷環境では追加対策(混合セメントの使用など)を検討する
- 過去に同産地の骨材でASR事例が報告されていないかを調査する


これらを一つのチェック習慣として持つだけで、施工後のリスクを大幅に下げることができます。これは使えそうです。


なお、ASRと誤診されやすい現象として「エトリンガイトの遅延生成(DEF:Delayed Ettringite Formation)」があります。高温で養生するプレキャスト製品などで発生することがあり、ひび割れの形状がASRと似ているため混同されやすいです。補修対策の方向性が異なるため、劣化診断段階での正確な識別が必要です。



参考:遅延膨張性骨材の試験法の限界とASR抑制対策の課題についての詳細な技術解説。


作用機構を考慮したアルカリ骨材反応の抑制対策と診断(委員会報告)|日本コンクリート工学会


新設工事でのアルカリ骨材反応対策チェックと独自の視点:「維持管理計画への組み込み」

「対策は施工前だけで終わり」という意識が、長期的なASRリスクを見えにくくしていることがあります。新設時の対策をしっかり実施することは大前提ですが、それと同時に維持管理計画の中にASR監視の視点を組み込んでおくことが、今後の現場では重要になってきます。


新設工事における基本的な確認事項は以下のとおりです。


- 骨材の産地・岩種を把握し、JIS A 1145またはJIS A 1146による試験結果を確認する
- 使用材料ごとのアルカリ量を集計し、配合全体のアルカリ総量がNa₂O換算で3.0kg/m³以下であることを計算で確認する
- 高強度コンクリート(設計基準強度30N/mm²以上)では、アルカリ総量規制に加えて混合セメントの使用も検討する
- 湿潤・寒冷地域や融雪剤散布環境では、フライアッシュセメントや高炉セメントの採用を積極的に検討する
- 骨材の産地が変わるたびに再試験を実施する習慣を設ける


これらは施工計画の段階で確認できる事項です。確認できれば問題ありません。


一方、既設・新設を問わず見落とされやすいのが「施工後のモニタリング」です。ASRは施工直後には発症せず、多くは数年〜10数年後に外観変状として表れます。橋梁・擁壁・橋台・トンネル覆工などの構造物では、定期点検時にASR特有の変状(亀甲状ひび割れ・白色ゲル浸出・ポップアウト)を見逃さないことが重要です。


維持管理計画にASRのチェック項目を明示的に組み込んでおくことで、変状の早期発見が可能になります。早期発見ができれば、表面保護工などの比較的低コストな補修手段で対応できる場合があり、劣化を放置した場合に発生する高額な補修費用(1m³あたり20万〜30万円以上)や、最悪の場合の構造安全性への影響を避けられます。これが条件です。


また、1986年のASR抑制対策通達以降に建設されたコンクリート構造物でも、対策方法や条件次第でASR劣化が生じている事例が報告されています。「建設年が新しいから安全」という前提は持たないことが、現場担当者として正しい姿勢といえます。つまり、継続的なモニタリングが安心の唯一の根拠です。


建設現場でASR変状の疑いが生じた場合は、一般社団法人コンクリートメンテナンス協会(J-CMA)など、専門機関への相談・診断依頼を検討することも一つの行動として覚えておくと役立ちます。



参考:1989年以降の抑制対策後の構造物でもASR劣化が生じている事例と診断の重要性について。


アルカリ骨材反応抑制対策(Q&A)|プレストレスト・コンクリート建設業協会




コンクリート構造物のアルカリ骨材反応: 基礎知識 診断方法 防止対策