次亜塩素酸塩とハイターの成分や濃度の違いと危険な混ぜる行為

次亜塩素酸塩とハイターの成分や濃度の違いと危険な混ぜる行為

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次亜塩素酸塩とハイター

次亜塩素酸塩とハイターの基礎知識
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成分と濃度の決定的違い

産業用は12%の高濃度で純度が高い一方、家庭用は5-6%で界面活性剤が含まれる場合がある

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混ぜるな危険の真実

酸性洗剤との混合で発生する塩素ガスは空気より重く、ピットや低地に溜まり致死的な事故を招く

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現場での適切な使い分け

浸透力が必要なカビ除去には界面活性剤入り、コスト重視の広範囲消毒には産業用の希釈が最適

次亜塩素酸塩とハイターの成分や濃度の違い

 

建築現場のクリーニングやカビ除去、あるいは浸水被害後の消毒作業において、「次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸塩)」は欠かせない薬剤ですが、ホームセンターやドラッグストアで購入できる花王の「ハイター」と、塗料店や化学薬品店で入手する「産業用次亜塩素酸ナトリウム」を混同して使用しているケースが散見されます。これらは主成分こそ同じですが、成分の構成と濃度において明確な違いがあり、プロとしてその特性を理解していないと、期待した効果が得られないばかりか、対象建材を傷める原因になります。
まず、最も大きな違いは有効塩素濃度です。一般的に、産業用として流通している次亜塩素酸ナトリウム(通称:次亜、ソーダなど)は、製造段階で有効塩素濃度が約12%に調整されています。これは非常に高濃度であり、原液のまま使用することはほとんどなく、現場で用途に応じて大量の水で希釈して使用することを前提としています。一方、家庭用の「ハイター(衣料用)」や「キッチンハイター」は、安全性を考慮して濃度が約5%〜6%に調整されており、開封後すぐに使える利便性が重視されています。
参考)病院用ハイターとは?キッチンハイターとの違いや使い方を調査 …

さらに重要なのが添加物の有無です。産業用の次亜塩素酸ナトリウムは、基本的に「次亜塩素酸ナトリウム」と「水」、そして安定剤としての微量の「水酸化ナトリウム」のみで構成されており、非常にシンプルです。これに対し、市販の「キッチンハイター」には「界面活性剤(アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムなど)」が添加されています。この界面活性剤の有無は、建築現場での作業効率を左右する決定的な要素となります。界面活性剤が含まれていると液体の表面張力が低下し、木材やコンクリートなどの多孔質素材の奥深くまで薬剤が浸透しやすくなります。逆に、純粋な次亜塩素酸ナトリウム水溶液は表面張力が高く、素材の表面で水玉になってしまい、内部のカビの根まで届きにくいという特性があります。したがって、表面の漂白や除菌には産業用がコストパフォーマンスに優れますが、浸透力が必要な場面では、界面活性剤を別途添加するか、界面活性剤入りの製品を選ぶ必要があります。
参考)キッチンハイターの成分とは?ハイターの種類と使い方を徹底解説…

タクミナ|次亜塩素酸ナトリウムの基礎知識と特性・腐食性についての詳細データ
花王|キッチンハイターの成分情報(界面活性剤の種類など)

次亜塩素酸塩とハイターの危険な混ぜる行為

建築メンテナンスや清掃の現場で最も警戒すべき事故の一つが、塩素ガス中毒です。「混ぜる危険」という表記は家庭用製品でおなじみですが、業務用洗剤や現場で使用する酸洗い用の塩酸、酸性洗浄剤(トイレ用洗剤など)と、次亜塩素酸塩やハイターが接触することは、絶対に避けなければなりません。
次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)が酸(H⁺)と反応すると、以下の化学反応が即座に起こり、有毒な塩素ガス(Cl₂)が発生します。
NaClO+2HClNaCl+H2O+Cl2\text{NaClO} + 2\text{HCl} \rightarrow \text{NaCl} + \text{H}_2\text{O} + \text{Cl}_2 \uparrowNaClO+2HCl→NaCl+H2O+Cl2↑
この塩素ガスは非常に毒性が強く、呼吸器系の組織を破壊し、最悪の場合は死に至ります。特に建築現場で恐ろしいのは、塩素ガスは空気よりも重いという物理的性質です。発生したガスは床面を這うように広がり、床下の点検口、ピット内、地下室などの低い場所に滞留します。作業員が異変に気づいた時には、すでに高濃度のガス溜まりの中に足を踏み入れており、逃げ場を失うケースがあります。換気が十分でない密閉空間での作業では、わずかな混合でも致命的な事故につながります。
参考)12-3. 次亜塩素酸ナトリウムについて

また、「混ぜる」行為だけでなく、排水管の中で酸性洗剤とアルカリ性の次亜塩素酸塩が合流してしまう「時間差の混合」も危険です。前の工程で酸洗いを行い、十分に水で流しきれていない状態で次亜塩素酸塩を流すと、配管内でガスが発生し、排水口から逆流してくることがあります。プロの現場では、必ずpH試験紙を用いて中性を確認するか、大量の水で完全に置換してから次の工程に移る手順を徹底する必要があります。
Emika Plan|次亜塩素酸ナトリウムの危険性と正しい取り扱いについて

次亜塩素酸塩とハイターの腐食と漂白の注意

次亜塩素酸塩やハイターは強力な酸化作用を持っていますが、これは同時に建材に対する強力な腐食作用と漂白作用を意味します。建築従事者が特に注意すべきは、金属腐食と木材の変色です。
金属に対する腐食性は極めて高く、鉄、銅、アルミニウムなどは短時間で酸化され、サビや変色が発生します。特にアルミニウムサッシやアルミ建材に付着すると、強アルカリによってアルミニウムが溶解し、腐食ガス(水素)を発生させながら白く粉を吹いたような状態(白サビ)になり、修復が不可能になります。ステンレスであっても、長時間の接触や高濃度での使用は「孔食ピンホール状のサビ)」の原因となります。現場でカビ取りを行う際は、周囲の金属養生(マスキング)を徹底し、万が付着した場合は直ちに大量の水で洗い流す必要があります。​
また、木材への使用もデリケートな判断が求められます。次亜塩素酸塩は木材中のリグニンを分解し、セルロースを漂白します。これにより、あく洗いやカビ取りとしての効果を発揮しますが、濃度が高すぎたり放置時間が長すぎたりすると、木材の繊維が毛羽立ち(ケバ)、表面が白く焼けすぎて質感が損なわれます。特に古民家の再生や和室の白木漂白では、ハイター原液のような高濃度での使用は避け、目立たない場所で希釈液のテストを行うことが鉄則です。さらに、畳や壁紙、カーペットなどの繊維製品に付着した場合、脱色(色抜け)は不可逆的であり、弁償問題に発展するリスクがあるため、養生範囲は作業エリアよりも広範囲に設定する必要があります。


  • 腐食しやすい主な建材:


    • アルミサッシ、手すり(白化・溶解)

    • 鉄骨、釘、ビス(赤錆の発生)

    • 銅板、真鍮(変色・緑青の発生)


  • 変色リスクのある素材:


    • 色柄物のクロス、カーテン

    • 塗装された木部(塗膜の剥離)

    • 天然石(酸性洗剤厳禁だが、塩素でも変質の可能性あり)

日本建築士会|浸水被害住宅の技術対策マニュアル(消毒時の腐食リスクについて)

次亜塩素酸塩とハイターの希釈と界面活性剤

現場で次亜塩素酸塩やハイターを使用する際、コスト管理と洗浄効果のバランスを取るために重要なのが希釈の計算と界面活性剤の活用です。
市販のハイター(約5-6%)と産業用次亜塩素酸ナトリウム(約12%)では、同じ水量を作ろうとした場合の原液必要量が倍半分異なります。例えば、ノロウイルス消毒などで推奨される「0.02%(200ppm)」の消毒液を10リットル作る場合を考えてみましょう。​


  • 産業用(12%)を使用する場合:


    • 計算式:10,000ml×0.021216.7ml10,000\text{ml} \times \frac{0.02}{12} \approx 16.7\text{ml}10,000ml×120.02≈16.7ml


    • 必要な原液量は約17mlです。ペットボトルのキャップ2杯強程度で済み、非常に経済的です。




  • 家庭用ハイター(6%)を使用する場合:


    • 計算式:10,000ml×0.02633.3ml10,000\text{ml} \times \frac{0.02}{6} \approx 33.3\text{ml}10,000ml×60.02≈33.3ml


    • 必要な原液量は約33mlとなり、産業用の約2倍のコストと保管スペースが必要になります。




しかし、単に安価な産業用を使えば良いというわけではありません。前述の通り、産業用には界面活性剤が含まれていないため、汚れへの「食いつき」が悪いです。壁面の垂直面に塗布してもすぐに垂れてしまったり、油汚れを含んだカビには弾かれてしまったりします。
ここでプロのテクニックとして、産業用の希釈液に、少量の中性洗剤(界面活性剤)を現場でブレンドするという手法があります。これにより、産業用の安さと、キッチンハイターのような浸透力・滞留性を両立させることができます。ただし、混ぜる洗剤は必ず「中性」で、酸性成分を含まないものを選定しなければなりません(酸性との混合は塩素ガス発生の危険があるため)。また、作り置きはせず、その日のうちに使い切るのが基本です。











項目

産業用次亜塩素酸ナトリウム

家庭用ハイター

キッチンハイター

主成分

次亜塩素酸Na 12%

次亜塩素酸Na 5-6%

次亜塩素酸Na 5-6% + 界面活性剤

液性

強アルカリ性

アルカリ性

アルカリ性

粘度/浸透

低い(水に近い)

低い

高い(汚れに浸透する)

主な用途

上下水道消毒、パルプ漂白

衣類漂白

まな板除菌、ヌメリ取り

現場適性

希釈して広範囲に使用

小規模な漂白

カビ取り、油汚れ除去


広島市公式|消毒液の作り方と計算方法(濃度別の希釈早見表)

次亜塩素酸塩とハイターの分解と廃棄の中和

最後に、多くの記事では語られないものの、在庫管理を行う建築業者にとって極めて重要な独自の視点、それが次亜塩素酸塩の経時分解と、適切な廃棄中和処理です。
次亜塩素酸ナトリウムは非常に不安定な物質であり、保管しているだけで自然に濃度が低下していきます。特に「熱」と「紫外線」は大敵です。夏場の車内や、直射日光の当たる資材置き場に放置すると、分解反応が加速します。​
2NaOCl2NaCl+O22\text{NaOCl} \rightarrow 2\text{NaCl} + \text{O}_22NaOCl→2NaCl+O2
この反応により、酸素を放出しながら単なる塩水(食塩水)に近い状態へと変化していきます。12%の高濃度品であっても、夏場の高温環境下では1ヶ月で濃度が半減することもあります。古い在庫を使用すると、「規定通り希釈したのにカビが落ちない」「消毒効果が出ていない」という施工不良に直結します。建築業者は、仕入れのロット管理を徹底し、「冷暗所」での保管を厳守する必要があります。開封後は半年以内を目安に使い切るのが理想的です。
また、余った次亜塩素酸塩の廃棄方法も法的順守が求められます。pHが極めて高い強アルカリ性であり、残留塩素濃度も高いため、そのまま側溝や下水道に流すことは水質汚濁防止法下水道法に抵触する恐れがあります。
廃棄する際は、大量の水で希釈するだけでなく、**チオ硫酸ナトリウム(ハイポ)**などの中和剤を使用して、残留塩素を無毒化し、必要に応じて希硫酸などでpH調整を行ってから放流するのが正しい処理方法です。少量であれば、バケツの水に中和剤を入れ、試験紙で反応がなくなったことを確認してから廃棄します。環境への配慮は、現代の建築現場において信頼に関わる重要なファクターです。安易な廃棄は、配管の腐食や浄化槽のバクテリア死滅を招くため、絶対に避けてください。​
病院用ハイターの特性と医療・業務用としての厳しい管理基準

 

 


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