

マリオン方式のカーテンウォールは「地震に強い外壁」として知られているが、ジョイント部のシーリングを誤るとガラス脱落リスクが生じる。
カーテンウォールとは、建物の柱・梁・床などの主体構造ができあがった後に取り付ける、荷重を負担しない外壁のことだ。英語のcurtain wallが示す通り、カーテンのように空間を仕切るだけの帳壁であり、建物の耐震性を担う耐力壁とは役割がまったく異なる。
メタルカーテンウォールは、その名の通りアルミニウム・スチール・ステンレスなど金属材料を主要構成部材として使用するカーテンウォールだ。現在の主流はアルミニウム製で、軽量性・耐候性・加工性のバランスが他の金属素材より優れているため、国内の高層ビルや大型商業施設の外壁に幅広く採用されている。
マリオン方式とは、メタルカーテンウォールの構成方式のひとつで、マリオン(方立=ほうだて)と呼ばれる垂直方向の細長い棒状部材を、上下の床スラブまたは梁の間に掛け渡し、そこにガラスやスパンドレルパネルをはめ込んでいく工法だ。方立とは本来、建具の中柱や縦框の総称であり、マリオンという言葉はその英語表現にあたる。
垂直部材を等間隔に並べて構成するため、建物外観は縦のラインが強調される。これがマリオン方式最大の意匠的特徴であり、1960〜70年代の超高層ビル建設ラッシュを背景に急速に普及した工法でもある。現場での組み立て作業によって完成させる方式を「ノックダウン方式」と呼び、マリオン方式はこのノックダウン方式の代表格として位置づけられている。
つまりマリオン方式が基本です。
日本建設業連合会関西支部が発行した施工管理の手引きでは、カーテンウォール工事において専門工事業者任せになりがちな実態が指摘されており、施工管理者自身が基礎知識を持つことの重要性が強調されている。
建具・カーテンウォールの品質管理のポイント(日本建設業連合会関西支部・PDF)|施工管理の具体的なチェックポイントが体系的にまとめられており、納まり確認や不具合事例も掲載。
マリオン方式のカーテンウォールは、大別すると「表面材」と「機能材」のふたつの群から構成される。表面材とは、外部から目に見えるガラスやスパンドレルパネル、マリオン・無目などの金属枠が該当し、建物の外観デザインを直接形成する。機能材は表面には現れないが、カーテンウォールとして必要な性能を発揮させるための重要な要素で、構造部材・ファスナー・気密材・シーリング材・断熱材・耐火材などが含まれる。
各部材の名称と役割を整理すると以下の通りだ。
| 部材名 | 役割・説明 |
|---|---|
| マリオン(方立) | 上下階間を垂直に架け渡す線状部材。風圧力を床スラブへ伝達する主要構造部材。 |
| 無目(トランザム) | マリオン間を水平方向につなぐ横架材。マリオンと無目で囲まれた枠内にガラス等が収まる。 |
| スパンドレルパネル | 上下の開口部間(腰壁部分)を塞ぐ壁パネル。アルミ板・ハニカムパネル・セラミックパネルなど多様な素材がある。 |
| 1次ファスナー | 躯体(床スラブや梁)側に取り付けられる金物。カーテンウォール全体の荷重を躯体に伝える。 |
| 2次ファスナー(ブラケット) | カーテンウォール本体側に取り付けられ、1次ファスナーとの間で施工誤差を吸収・調整する金物。 |
| シーリング材 | 目地部分の気密・水密を確保する充填材。マリオンの熱伸縮や地震時の変位への追従性が求められる。 |
| 気密材・断熱材 | 室内環境を快適に保つための機能材。省エネ性能にも直結する。 |
マリオンはただの「縦のフレーム」ではなく、風圧力を床スラブまで流す梁としての構造的役割を担っている点を押さえておく必要がある。これが条件です。
カーテンウォールの構成方法について、製造メーカーである不二サッシ株式会社の技術資料は、構成方式や各部の詳細を網羅したリファレンスとして現場でも参照されている。
カーテンウォール総合カタログ 参考資料(不二サッシ株式会社・PDF)|構成方式・ファスナー詳細・層間変位追従方式など、実務設計に必要な技術情報が豊富に掲載されている。
施工現場で見落とされやすいのが、マリオンの「熱伸縮」だ。金属は温度変化によって膨張・収縮し、アルミニウムの線膨張係数は約0.000023(/℃)という値が知られている。これは数字だけ見るとピンとこないが、階高3mのアルミ製マリオンが夏冬で60℃の温度差(直射日光を受ける暗色表面では実効温度差が80℃以上になることもある)にさらされた場合、伸縮量は約4〜5mm程度になる計算だ。はがき1枚の厚さ(約0.2mm)の20倍以上の変位が1本のマリオンに生じることになる。
$$\Delta L = \alpha \times L \times \Delta T = 0.000023 \times 3000 \times 60 \approx 4.1 \text{mm}$$
この伸縮をそのままにしておくと、ジョイント部のシーリング材に過大な引張・圧縮応力が繰り返しかかり、10〜15年程度で凝集破壊や界面剥離が生じるリスクがある。意外ですね。
対策の観点から重要なのは、ジョイント部の目地幅と使用するシーリング材の選定だ。JIS A 5758(建築用シーリング材)に規定される性能を満たすことが前提であり、熱変形による目地幅変動に対する追従可能な伸縮率(シリコーン系2成分形で設計伸縮率20%が目安)を持つ製品を選ぶことが必要条件になる。目地幅が過小だと、シーリング材に許容以上の変形が集中して早期劣化を引き起こす。これは問題ありません、ではなく「目地設計段階から考慮が必要」というのが原則です。
また、シーリング材の施工には、製造業者が指定するプライマーを用いることが不可欠だ。プライマーなしで施工した場合、接着界面の強度が大幅に低下し、見た目では問題なさそうでも、数年後に水密性能が失われるリスクがある。
シーリングニュース No.9(日本シーリング材工業会・PDF)|マリオンジョイントのシーリング材挙動や、ノックダウン方式特有のシール納まり上の注意点が解説されている。
マリオン方式における躯体への取り付けは、1次ファスナーと2次ファスナー(ブラケット)の組み合わせによって行われる。躯体(床スラブや外周梁)に固定されるのが1次ファスナー、カーテンウォール本体側に取り付けられているのが2次ファスナーであり、双方を組み合わせることで、躯体の施工誤差(上下・左右・前後方向)を吸収しながら正確な位置にカーテンウォールを固定できる。
地震時の挙動について、マリオン方式の重要な特性を押さえておく必要がある。地震が発生すると、建物の各階の床スラブは互いに水平方向へのずれ「層間変位」を生じる。建築基準法に基づく一般的な高層ビルでは、層間変形角R=1/200(階高4mなら20mmのずれ)を超える変形が設計上想定される。
マリオン方式は、上部または下部のファスナーをスライドさせることで、このずれに追従できる設計が基本だ。マリオンが斜めに傾くとき、マリオンと無目で囲まれたパネル枠は平行四辺形状に変形するため、ガラスの留め付けには変形追従に関する設計上の配慮が求められる。
| 追従方式 | 概要 |
|---|---|
| スライド(スウェー)方式 | マリオン上部を固定端、下部をスライド端として変位に追従する。マリオン方式に多い。 |
| ロッキング方式 | パネルを回転させることで変位を吸収する。パネル方式で多く採用される。 |
層間変位追従が正しく機能しないと、地震時にガラスやパネルが破損・脱落するリスクがある。これは法的リスクにも直結するため、施工図(製作図)の段階でファスナーの可動方向と追従量を必ず確認する必要がある。これが原則です。
躯体工事と仕上工事の関係(名城大学講義資料・PDF)|カーテンウォール工事における層間変位の考え方と、シーリング施工管理のポイントが整理されている。
初期のマリオン方式では、ガラスはマリオンの奥側(室内寄り)に取り付けられ、外観にマリオンの縦ラインが明確に現れるデザインが主流だった。しかし現代のオフィスビルに多い全面ガラス張りのシームレスな外観を実現するために登場したのが「バックマリオン方式」だ。
バックマリオン方式では、マリオンを室内側(バック=背後)に引き込み、その前面(室外側)にガラスを取り付ける構成とする。外部からはマリオンのフレームが見えず、ガラス面が連続して見えるため、スタイリッシュな印象のファサードに仕上がる。近年増加しているシームレスガラス張りビルの多くがこのバックマリオン方式を採用している。
さらに発展した形として「SSG構法(Structural Sealant Glazing)」がある。SSGとはstructural sealant glazing systemの略で、ガラスをサッシ枠ではなく構造用シリコーンシーリング材で支持部材に接着して固定する構法だ。外部側にサッシ部材が一切現れないため、最もフラットで連続感のある外観が実現できる。このSSG構法にも、バックマリオンが多く活用されている。
これは使えそうです。
バックマリオン方式やSSG構法は視覚的に洗練されている一方、シーリング材の劣化管理がより重要になるという点を忘れてはならない。SSGの場合、構造用シリコーンシーリング材がガラスの保持に直接関わるため、定期的な外観目視点検と専門業者による接着強度確認が維持管理の必須要件となる。
| 構法タイプ | 外観特性 | 主な留意点 |
|---|---|---|
| 従来マリオン方式 | 縦ラインが強調 | マリオンジョイントのシーリング管理 |
| バックマリオン方式 | ガラス面が強調・連続感あり | ガラス支持部のシーリング詳細確認 |
| SSG構法 | フレームレスで最もシームレス | 構造用シリコーンの定期劣化確認が必須 |
ガラスのオブジェのような建物を実現したSSG構法(清水建設テクノアイ)|新世代SSG構法の施工実例と技術的な取り組みが紹介されており、バックマリオンとの関係性も理解できる。
マリオン方式の施工管理において、検査書類の確認だけでは見えてこない「現場固有のリスク」が存在する。これは施工経験者の間でも体系化されにくい領域だが、不具合発生後の修繕コストや工期延長リスクに直結するため、施工管理者は事前に把握しておく価値がある。
まず「躯体の施工誤差の蓄積」の問題だ。設計図上のファスナー位置は正確であっても、鉄骨建方後やコンクリート打設後の実測値は数mmから10mm程度の誤差を持つことが珍しくない。2次ファスナーの調整代がこの誤差範囲内に収まっているかを、カーテンウォール取り付け着手前に全ファスナー取り付け位置を実測して確認する工程が重要だ。製品メーカーの製作図段階でこの実測値を反映させることで、後工程での手戻りが大幅に減る。痛いですね。
次に「ガラスのクリアランス管理」だ。マリオン方式ではガラスをマリオン・無目のレールに嵌め込む構造のため、ガラスとフレームのクリアランス(隙間)寸法が規定通りに確保されているかが鍵になる。クリアランスが不足すると、熱伸縮や地震時の変形でガラスにエッジストレスが集中し、熱割れや破損の原因になる。特に網入ガラス(高さ2.4m以上では厚さ10mm品が必要)は強化ガラスに比べて熱割れリスクが高いため、クリアランス確保の徹底が必要だ。
さらに、ファスナーの耐火被覆についても見落とされやすい。スパンドレル部のファスナーは防火区画に関連する場合があり、耐火材料による被覆が求められることがある。設計図書に「ファスナー部(スパンドレル部)耐火被覆施工」の記載がある場合は、カーテンウォール工事と耐火被覆工事の工程調整が必要になる。
最後に、施工完了後の「完成検査での漏水試験」だ。JIS A 4706や各メーカー規格に基づくウォータースプレー試験を実施することで、シーリング施工不良や気密材の欠落を早期に発見できる。見た目では問題なさそうな外観でも、この試験で初めて漏水箇所が発見されることは珍しくない。
施工管理の不備は後から修正コストが跳ね上がる。カーテンウォール工事での後施工補修は、足場再設置だけで数百万円規模の追加費用になることもある。これだけ覚えておけばOKです、ではなく「着工前の確認体制づくり」こそが最大のコスト管理だということだ。