

1種と2種の違いは「見た目」だけだと思っていませんか?実は耐久年数が最大3倍近く異なり、選定ミスで補修費用が数十万円単位で膨らむことがあります。
路面標示塗料1種は、JIS K 5665(路面標示用塗料)に規定された塗料の種別のひとつです。この規格は国土交通省や都道府県の道路工事において標準仕様として採用されており、公共工事の発注図書に「JIS K 5665 1種」と指定されることが多くあります。
JIS K 5665では塗料を「1種」「2種」「3種」の3つに分類しています。1種は常温で塗装する溶剤形または水系の塗料で、主に白線・黄線・横断歩道・停止線などの道路標示に使用されます。2種は加熱溶融型、3種は厚膜型(MMA系)といった分類です。
つまり、種別の違いは色や見た目ではなく「施工方法と材料構成」の違いです。
1種の主成分はアクリル樹脂やアルキッド樹脂をベースにした常温乾燥型の塗料で、スプレーやローラー・刷毛による塗布が可能です。乾燥後は硬度のある被膜を形成し、ガラスビーズを混入または散布することで夜間の再帰反射性能を確保する設計になっています。
現場で実際に扱う場合、1種は「常温施工ができる」という利便性が大きな特長です。加熱設備が不要なため、小規模工事や補修工事にも対応しやすく、施工コストを抑えやすい面があります。ただし、これは「どんな現場にでも1種で対応できる」ということではありません。
発注仕様書で種別が指定されている場合、無断で他の種別に変更することはJIS規格違反かつ仕様違反となります。これが原因で検査不合格や補修指示が出た事例も報告されており、工期・費用両面でのリスクが発生します。仕様書の確認が原則です。
日本産業標準調査会(JISC):JIS K 5665の規格詳細はこちらで検索・閲覧が可能です
路面標示塗料を選定するうえで最も迷いやすいのが、1種・2種・3種の使い分けです。それぞれの特性を整理しておくと、現場での判断が格段に速くなります。
1種(常温乾燥型)は前述のとおり、スプレーやローラーで塗布できる常温施工タイプです。乾燥時間は気温20℃の条件で通常15〜30分程度。施工の手軽さが強みですが、耐摩耗性は加熱溶融型の2種に比べて低い傾向があります。
2種(加熱溶融型)は塗料を約200℃前後に加熱して溶融させ、専用の施工機械で塗布します。冷却後は即座に硬化し、耐摩耗性・耐久性は1種の2〜3倍ともいわれています。幹線国道や交通量の多い都市部道路では2種が標準指定されるケースが多いです。
3種(MMA系・厚膜型)は主に立体横断歩道や視覚障害者誘導用ブロック上の塗装など、特殊用途に使われます。厚みが出るため視認性・滑り止め性能が高く、コストは3種別の中で最も高くなります。
整理すると、交通量・現場規模・発注仕様の3点が選定の軸です。
| 種別 | 施工方法 | 耐久性の目安 | 主な用途 |
|------|----------|-------------|---------|
| 1種 | 常温(スプレー・ローラー) | 1〜3年 | 駐車場・構内道路・補修 |
| 2種 | 加熱溶融(専用機械) | 3〜6年 | 幹線道路・交差点 |
| 3種 | 常温・厚膜(MMA) | 5〜10年 | 特殊用途・歩道 |
※耐久性は施工環境・交通量によって大きく変動します。
1種が選ばれやすいシーンは、駐車場区画線・工場・物流倉庫の構内道路・マンション敷地内の標示など、比較的交通量が少ない場所や補修工事です。これらは公道ではないため、必ずしも公共仕様書の制約を受けない場合が多く、コストと施工性のバランスから1種が適しています。
一方、公道の発注工事では設計書に種別が明記されているため、現場判断で種別を変更しないことが大切です。意外と見落とされがちなのが「補修工事での種別指定」で、新設時に使用した種別と異なる塗料で補修すると境界部の密着不良が起きやすいという問題があります。
路面標示塗料1種を選定・購入する際に見落としやすいのが、製品の品質確認方法です。市販品であっても「JIS K 5665 1種」の規格をすべて満たしているとは限らないため、確認ステップを知っておくことがリスク管理につながります。
まず、製品ラベルや仕様書に「JIS K 5665」の表示があるかを確認してください。JISマーク表示制度に基づいて認証を受けた製品には、製品本体または容器にJISマークが表示されています。このマークがある製品は第三者機関による定期審査を受けており、規格適合の信頼性が高いです。
JIS K 5665 1種の主な品質基準として、以下の項目が規定されています。
これが基本です。
現場での簡易確認として、塗料の缶を開けた際に沈殿が激しく撹拌しても均一にならない場合は品質劣化のサインです。また、製造後の有効期限(通常1年程度)を超えた製品は粘度変化や顔料沈降が起きやすく、規格値を下回るリスクがあります。有効期限の確認は必須です。
調達コストを下げるために規格外品を使用した場合、後の検査で指摘を受けるだけでなく、短期間での再施工コストが発生するケースがあります。1缶あたり数百円の差額が、補修費用数万円〜数十万円の損失につながるケースは珍しくありません。
国土交通省:道路工事標準仕様書(塗料・標示材料の規格要件が記載されています)
正確な施工手順を踏まないと、いくら高品質な塗料を使っても早期剥離・色抜けの原因になります。手順を守ることが耐久性の確保に直結します。
【施工前の下地処理】
路面標示塗料1種の密着性は、下地の状態に大きく依存します。施工前には必ずブラシ・ブロワーで粉塵・砂・油分を除去してください。油分が残っている場合はプライマー処理が必要です。特にアスファルト舗装直後の面は、表面温度が50℃を超えていることがあるため、十分に冷却してから施工します(目安:表面温度40℃以下)。
舗装直後の面は「熱で塗料が流れる」「溶剤が急激に揮発して膜に気泡ができる」リスクがあります。これは意外と見落とされがちな失敗パターンです。
【気象条件の確認】
路面標示塗料1種の施工NGとなる環境条件は以下のとおりです。
特に気温5℃以下での施工は塗膜の硬化不良を起こし、翌朝には輪跡が残るといったトラブルにつながります。気温に注意が必要です。
【塗布量と膜厚の管理】
JIS K 5665 1種の標準塗布量は、製品によって異なりますが一般的に0.4〜0.6kg/㎡が目安です。塗布量が少なすぎると隠ぺい不足・耐久性低下、多すぎると乾燥時間の延長・塗料の流れが発生します。
横断歩道1か所(幅4m×長さ5m=20㎡)を施工する場合、必要塗料量は約8〜12kgが目安です。これはちょうど一般的な18Lペール缶の約半量から2/3程度に相当します。
【ガラスビーズの散布】
夜間の再帰反射性を確保するため、塗布直後(表面がまだ粘着性のある状態)にガラスビーズを均一散布します。散布量の目安は180〜300g/㎡で、塗料が乾燥してから散布しても密着しないため、タイミング管理が重要です。
乾燥後の開放時間は気温・交通量によって調整しますが、最低でも指触乾燥完了後(約30分・20℃条件)が原則です。
路面標示塗料の選定には、技術的な知識だけでなく、法的・制度的な背景も理解しておく必要があります。特に公共工事に携わる施工業者にとっては、仕様違反が契約不適合責任や工期遅延に直結するリスクがあるため、慎重な確認が求められます。
まず整理しておきたいのは「道路標示」の法的位置づけです。公道に設置される路面標示は、道路法および道路標識、区画線及び道路標示に関する命令(昭和35年総理府・建設省令)によって管理されており、標示材料の規格が行政の仕様書に反映されています。
これが原則です。民間敷地内(駐車場・工場構内など)は道路法の適用外ですが、公道に接続する出入口部分には適用される場合があるため注意が必要です。
公共工事の設計書・特記仕様書では、塗料の種別指定に加えて「再帰反射性能の初期値」や「滑り止め性能の確保」が条件として付加されているケースが増えています。近年の工事では、施工後に輝度計や反射率測定器を使った竣工検査が求められる案件も見受けられます。
発注仕様書に「JIS K 5665 1種」と記載がある場合の対応フローを覚えておくと便利です。
なお、近年では「低VOC(揮発性有機化合物)塗料」を指定する自治体も増えています。従来の溶剤形1種は臭気・VOC排出が問題視されるケースがあり、水系1種への切り替えを推奨する発注機関も出てきました。水系タイプは乾燥に時間がかかる反面、環境負荷が低く、施工者の健康リスクも低減できます。これは使えそうです。
国土技術政策総合研究所(NILIM):道路標示材料の性能評価に関する技術資料が掲載されています
施工業者が意外と見落としがちなのが、「施工後の維持管理視点」を持った塗料選定です。路面標示は施工して終わりではなく、いつ・どの状態で補修するかを見極めることがトータルコストの削減に直結します。
路面標示塗料1種が劣化するサインとして、現場で観察できる主な指標は次のとおりです。
国土交通省の点検指針では、路面標示の視認性確保を維持管理の重要項目としており、輝度係数が規定値(一般的に白色で100mcd/lx/㎡以上)を下回った場合は補修が必要とされています。ただし、この数値測定は専用機器が必要なため、現場では目視での経年管理が現実的です。
補修のタイミングを早めることで、下地との界面がまだ密着している段階での重ね塗りが可能になります。逆に、剥離が進んでから補修すると、剥離した旧塗膜の撤去作業(ショットブラスト・ウォータージェット等)が必要になり、施工コストが大幅に跳ね上がります。
1種の耐久年数は施工環境によって1〜3年程度と幅がありますが、交通量の多い駐車場入口や横断歩道の場合は1年未満で視認性が低下するケースもあります。東京ドームのグラウンド(約13,000㎡)ほどの面積を持つ大規模駐車場では、全面塗り替えに数百万円かかることもあります。補修サイクルを適切に管理することがいかに重要かわかります。
長寿命化のコツとして現場で実践できることが2点あります。ひとつは「下地プライマーの徹底」です。アスファルト面やコンクリート面の吸い込みを抑制するプライマーを使用することで、塗膜の密着性が向上し、剥離開始時期を大幅に遅らせることができます。もうひとつは「厚膜施工」です。標準塗布量の1.2〜1.5倍を目安に塗膜を厚くすることで、摩耗に対する余裕が生まれます。ただし、乾燥時間と開放時間の延長を考慮した工程管理が必要です。
メーカーによっては、1種塗料の上に保護コート材を重ね塗りする「2コートシステム」を提案している場合もあります。初期コストは上がりますが、補修サイクルを2倍以上に延ばせる製品も存在するため、ライフサイクルコストで比較する視点が求められます。
路面標示塗料1種の選定・施工・維持管理は、単なる「線を引く作業」ではなく、道路利用者の安全と施工業者の信頼に関わる重要な専門技術です。JIS規格の理解を土台に、現場条件に合わせた判断力を磨くことが、長期的な品質確保とコスト管理の両立につながります。