

フラックスを塗りすぎると、かえってはんだが入らず漏水の原因になります。
ろう付けとは、母材(銅管など)そのものを溶かさず、それよりも融点の低い「ろう材」だけを溶かして接合する技術です。この方法は「ろう接」とも呼ばれ、溶接と異なり母材へのダメージが極めて小さいのが特徴です。
そのろう付けの中で、融点が450℃未満のろう材(=軟ろう・はんだ)を使うものが「軟ろう付け(はんだ付け)」、450℃以上のろう材(銀ろう・リン銅ろうなど)を使うものが「硬ろう付け」です。この450℃という数値は、JIS(日本工業規格)やISOでも共通して使われている国際的な基準です。
| 種類 | ろう材の融点 | 主な作業温度 | 建築での代表的な用途 |
|------|------------|------------|------------------|
| 軟ろう(はんだ) | 450℃未満 | 180〜400℃前後 | 給水・給湯用銅管の接合 |
| 硬ろう(銀ろう・リン銅ろうなど) | 450℃以上 | 600〜1200℃ | 冷媒用銅管・高強度が必要な接合部 |
建築現場でよく混同されやすいのが、給水・給湯用の銅管(JIS H 3300)には軟ろう(はんだ付け)を使い、冷媒用の銅配管(JIS B 8607)や強度が必要な40A以上の大口径には硬ろうを使うという使い分けです。この区別が曖昧なまま施工すると、接合強度の不足や配管の漏水につながる可能性があります。
軟ろうに使われる主なろう材は「はんだ」と呼ばれ、スズ(Sn)を主成分とした合金です。かつては鉛(Pb)との合金(Sn-Pb)が主流でしたが、RoHS(特定有害物質使用制限)規制への対応から、現在は水道用配管では鉛フリーはんだが標準となっています。代表的なものとしてSn-Cu系(スズ-銅)があり、銅管との相性が良く、水道配管の施工に広く使われています。
つまり軟ろうと硬ろうは用途が別物です。
参考:建築配管における銅管の接合法と軟ろう・硬ろうの使い分けについて詳しく解説されています。
一般用銅管(JIS H 3300)の接合法 【通販モノタロウ】
軟ろう付けは、物理現象を巧みに利用した接合技術です。これが基本です。
銅管と銅継手の間には、意図的に微細な隙間(ギャップ)が設けられています。この隙間は0.01mm〜0.02mm程度が最も理想的とされており、それはちょうど髪の毛の直径(約0.08mm)よりもずっと細い間隔です。溶融したはんだは、この非常に狭い隙間に「毛細管現象」によって自然に引き込まれていきます。ガラス管を水に浸したときに水が管内を上昇するのと同じ原理です。
この毛細管現象が正しく機能するためには、次の2つの条件が揃っていることが必要です。
- 接合面が酸化被膜や汚れのない清浄な状態であること
- 適正なろう付け温度が確保されていること
そこで重要な役割を果たすのが「フラックス」です。フラックスは銅管表面の酸化膜を化学的に溶解・除去し、はんだが金属面に「ぬれる」(なじんで広がる)状態をつくり出します。建築配管で使用されるフラックスは、水溶性のもの(JIS Z 3197 はんだ付用樹脂系フラックスなど)が標準的です。
ここで注意しなければならないのが、フラックスの塗布量です。「多く塗るほどよい」と思っている方がいますが、それは間違いです。フラックスを多量に塗ると、加熱時に気化する際の「気化圧」がはんだの浸透を妨げます。その結果、接合不良(ボイド)が発生し、漏水リスクが高まります。フラックスは継手との嵌合部の管端から3〜5mm離した銅管外面に、専用ブラシで必要最小限だけ塗布するのが正しい方法です。また、継手の内面には絶対に塗布してはいけません。フラックスが管内に残ると、銅管の腐食原因になります。
施工が完了したあとも、外部に付着したフラックスの残渣は濡れたウエスでしっかり拭き取ることが重要です。特に有機酸系フラックスの残渣は腐食性が高く、除去しないと配管に悪影響を与えます。
参考:水道用銅管のはんだ付け手順とフラックスの正しい塗り方が詳しく解説されています。
現場での軟ろう付けで最も多いのが「加熱温度の失敗」です。意外ですね。
軟ろう付け(銅管のはんだ付け)における適正加熱温度は270〜320℃です。これはコーヒーを入れるお湯(約90℃)の約3〜3.5倍の温度帯で、肉眼では判断しにくい高温域になります。
この温度帯では、トーチ(プロパン・エアートーチ)を使っている場合、銅管の肌がきれいなピンク色に変わり、同時に炎の色がうぐいす色(緑みがかった色)に変化します。これが適正温度に達したサインです。電気ろう付け器を使用している場合は、フラックスが沸騰して白い蒸気が出始めたタイミングが目安となります。
問題になるのは、この温度を超えてしまった場合です。320℃を超えるとフラックスが炭化(焼損)してしまい、酸化防止の効果が完全に失われます。そうなると溶融したはんだが接合面に濡れられなくなり、回り不足や酸化した不良接合が発生します。加熱しすぎた場合は最初からやり直しが原則です。施工のやり直しは、材料の再購入だけでなく作業時間のロスも大きいため、経済的な損失につながります。
加熱の手順として覚えておきたいポイントをまとめます。
- 継手と銅管の両方を均一に加熱する(片方だけ集中して当てない)
- はんだは温度の低い側から差し込む(炎が当たっていた反対側)
- はんだの必要量を管径ごとに把握しておく(2mm径のはんだの場合:15Aで約13mm、25Aで約60mm、32Aで約90mmが目安)
- はんだが凝固しないうちに急冷しない(割れの原因になる)
銅は熱伝導性が高い金属なので、均一加熱がしやすいという利点があります。均一に加熱すれば、誰が施工しても安定した接合が得られます。均一加熱が成功のカギです。
参考:フラックスの焼損や加熱ムラによる不良の発生メカニズムについて詳しく説明されています。
ろう材の選択とトーチろう付け作業のポイント 【通販モノタロウ】
軟ろう付け作業では「少しくらい煙を吸っても大丈夫」と思われがちですが、これは誤りです。
フラックスの煙には、有機酸(ロジンなど)、金属酸化物、フッ化物などが含まれている場合があります。これらを長期間にわたって吸入し続けると、具体的に次のような健康被害が報告されています。
| 含まれる成分 | 引き起こされる可能性のある症状 |
|------------|---------------------------|
| 有機酸(ロジン系) | 目・喉・肺の炎症、鼻血、アレルギー性喘息 |
| 金属酸化物(ヒューム) | 金属熱(発熱・悪寒・倦怠感)、肺機能障害 |
| フッ化物系成分 | 骨への蓄積障害、皮膚炎、呼吸器刺激 |
特に閉鎖された現場(天井裏・床下・機械室など)での作業では、煙が滞留しやすく危険です。こうしたリスクに対して、局所排気装置(排煙ダクトなど)の設置と、DS2規格以上の防毒マスクの着用が実質的な義務となっています。
繰り返しの吸入で喘息を発症したり悪化させたりするケースもあります。痛いですね。
また、フラックスが皮膚に触れた場合は流水で即時洗い流すことが必要です。特に、塩化物を主成分とする強活性型フラックスは腐食性が非常に高いため、素手での扱いは厳禁です。耐薬品性のゴム手袋を常用する習慣をつけることが大切です。
作業後に使用したフラックスや拭き取りに使った布などは、一般ゴミとして廃棄するのではなく、産業廃棄物として専門業者に委託することが法令上の原則です。廃棄方法を誤ると環境汚染だけでなく法的なリスクにもなりかねません。廃棄は必ず専門業者へが原則です。
参考:ろう付け作業に伴う有害ガス・フラックス煙の健康リスクと安全対策について詳しく説明されています。
「銅管同士のつなぎ方はどれも同じ」と思っていると、現場で重大なミスを犯す可能性があります。
建築現場では、大きく分けて2種類の銅配管工事があります。給水・給湯配管と、空調の冷媒配管です。どちらも銅管を使いますが、接合方法は明確に異なります。
冷媒用銅管(JIS B 8607)には、強度の関係から硬ろう付け(リン銅ろうや銀ろう)が使用されます。冷媒が流れる配管は高圧・低温にさらされ続けるため、引張強度が相対的に低い軟ろう(はんだ)では耐圧性が不足します。硬ろうを使用した接合部の引張強度は40〜90kgf/mm²であるのに対し、軟ろうでは最大でも約60kgf/mm²(かつ適正ギャップ管理が前提)にとどまります。
冷媒配管に軟ろうを誤用した場合、稼働中に接合部が破損してガス漏れが発生するリスクがあります。冷媒ガスの漏洩は、環境への影響(フロン系ガスのオゾン層破壊や温室効果)に加え、フロン排出抑制法に基づく記録義務・報告義務が発生します。これは建設会社・設備会社にとって法的リスクです。
一方で「冷媒配管にも硬ろうを使えばいいのだから、軟ろうは覚えなくていい」というわけでもありません。給水・給湯用の銅管で呼び径32A以下の小口径には軟ろう付けが標準であり、大部分の住宅・集合住宅の給水工事では軟ろうが使われています。また、修繕工事や設備改修工事でも軟ろうを扱う場面は非常に多いです。
用途を間違えなければ問題ありません。
現場での判断基準をシンプルに整理するとこうなります。
| 配管の種類 | 使用する接合方法 |
|----------|--------------|
| 給水・給湯用銅管(小口径32A以下) | 軟ろう付け(はんだ付け)が標準 |
| 給水・給湯用銅管(40A以上の大口径) | 硬ろう付けが推奨 |
| 冷媒用銅管(空調配管) | 硬ろう付け(リン銅ろう・銀ろう)が必須 |
この使い分けは施工前の確認事項として必ずチェックしておきましょう。
参考:冷媒配管のろう付け技術と軟ろう・硬ろうの選定基準について詳しく解説されています。
冷媒管理技術向上支援事業報告書 - 日本冷凍空調設備工業連合会(PDF)
施工が完了したらすぐ「大丈夫だろう」と確認をしないのは、最も危険な行動パターンの一つです。
軟ろう付けによる銅管接合は、施工直後に水圧テスト(耐圧試験)を実施することが強く推奨されています。これは各水道事業体の施工基準でも定められているケースが多く、現場によっては義務となっています。
水圧テストには以下の効果があります。
- 接合部のボイド(充填不足)や気泡による欠陥の早期発見
- 管内に残留したフラックスや異物を水流で除去する洗浄効果
- 施工後の配管全体の健全性確認
なお水圧テストの圧力は水道事業体によって異なる場合があります。一般的には0.75MPa〜1.75MPa程度で実施される場合が多いですが、必ず管轄の水道事業体の指導に従って実施してください。
水圧テストで漏れが見つかった場合は、施工をやり直す必要があります。再施工の手順としては「再加熱→古いはんだの除去→フラックスの再塗布→はんだ付け→後処理」という流れになります。加熱しすぎの失敗の場合と同様、やり直しには時間とコストがかかります。初回施工で丁寧に仕上げることが、結果的に最も経済的です。
初回で丁寧が一番の節約です。
また施工完了後は、継手周辺のフラックス残渣を濡れウエスで完全に除去してから水圧テストに入ることが重要です。残渣が配管内に混入すると、水質汚染や孔食(ピンホール腐食)の原因になります。特に給水配管ではこの後処理が衛生管理の観点からも欠かせません。
施工記録についても触れておきます。給水装置工事は、給水装置工事主任技術者が工事記録を3年間保存する義務があります(水道法第25条の4)。軟ろう付けを含む接合部の施工確認・水圧テストの結果は適切に記録・保管しておく必要があります。法令上の義務として認識しておきましょう。
参考:給水装置工事の施行基準と施工後の検査・記録保存義務について詳しく記載されています。
融解温度による分類(ろう付け・はんだ付け) - 溶接革命 - KEYENCE