酢酸鉛ヨウ化カリウムによる検査法と建築現場での活用

酢酸鉛ヨウ化カリウムによる検査法と建築現場での活用

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酢酸鉛とヨウ化カリウムの反応

この記事で分かること
🔬
化学反応の基礎

酢酸鉛とヨウ化カリウムが反応して黄色のヨウ化鉛沈殿を生成するメカニズム

🏗️
建築現場での応用

鉛含有塗料の検査や地下水・土壌汚染調査における実践的な活用方法

⚠️
安全管理の重要性

鉛中毒予防規則に基づく健康管理と適切な作業環境の確保

酢酸鉛とヨウ化カリウムの化学的性質と反応メカニズム

 

酢酸鉛(Pb(CH₃COO)₂)は水に可溶性の白色結晶で、ヨウ化カリウム(KI)と反応すると黄色のヨウ化鉛(PbI₂)沈殿を生成します。この反応は定量的に進行するため、分析化学における鉛イオンの検出に広く利用されています。
参考)https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10102091375

反応式は以下のようになります。酢酸鉛水溶液にヨウ化カリウム水溶液を加えると、即座に黄色の沈殿が生成されます。この沈殿は熱水に溶けやすく、冷却すると橙黄色の六方晶系結晶として再結晶します。
参考)https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1089562075

ヨウ化鉛は明るい黄色の粉末または六方晶系結晶で、加熱すると赤褐色に変化し、冷却すると元の黄色に戻る特性があります。この温度による色変化は、結晶構造の変化に起因しており、物質同定の指標としても活用されます。
参考)https://apec.aichi-c.ed.jp/kyouka/rika/kagaku/2018/bunri/stick/stick.html

水溶液中での反応では、鉛イオン(Pb²⁺)とヨウ化物イオン(I⁻)が結合してヨウ化鉛の沈殿を形成します。この沈殿は水に微溶ですが、過量のヨウ化カリウム水溶液には錯塩を形成して溶解し、無色の溶液となる性質を持っています。
参考)https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB2771616.htm

酢酸鉛を用いた鉛検査の実験手順と測定方法

実験室での基本的な操作では、ヨウ化カリウムと酢酸鉛の固体をそれぞれ約0.05g採取し、蒸留水に完全に溶解させます。試薬の取り扱いでは、一度取り出した試薬を試薬ビンに戻さないこと、1つの薬さじで2種類の試薬を扱わないことが重要な注意点です。
参考)https://sensan.myswan.ed.jp/cabinets/cabinet_files/download/15717/ecb1e9795a7e4ac9b01a06ef9d09c69c?frame_id=505

両水溶液を混合すると、黄色のヨウ化鉛沈殿が生成します。この沈殿を含む試験管に沸騰石を入れ、穏やかに加熱して沈殿を溶解させます。加熱時には試験管の口を人のいる方向に向けないよう注意し、試験管を少し傾けて軽く振りながら操作します。
参考)https://kids.gakken.co.jp/jiten/dictionary03100201/

定量分析では、四酢酸鉛溶液中の鉛(Ⅱ)をヨウ化カリウムで還元後、中和してキレート滴定する方法も報告されています。この方法は比較的低濃度まで定量的に進行し、室温付近でも十分に電位差滴定法を適用できる速い反応です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku1952/24/9/24_9_602/_pdf/-char/ja

水質検査では、試験溶液に硫化ナトリウム試液を加えて、鉛標準溶液と比色する方法が用いられます。建築物衛生法に基づく飲料水検査では、鉛およびその化合物の測定が6ヶ月以内に1回実施されることが義務付けられています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/10/dl/s1017-9g.pdf

建築現場における鉛含有塗料の検査と対応

建築業界では、高度経済成長期に建設された構造物の改修時期を迎え、橋梁の耐震補修工事の需要が高まっています。従来の塗料には耐久性向上のため鉛・クロム・PCB等の有害物質が含まれており、これらは人体に対する毒性が非常に強く、発がん性や皮膚障害、内臓疾患を引き起こす可能性があります。
参考)https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-55/hor1-55-24-1-0.htm

鋼橋の塗装塗替え工事では、調査設計段階で旧塗膜の鉛含有の判定が必要となります。鉛は防食下地として優れた防錆性を発揮する材料として古くから使用されてきましたが、体内摂取により疲労、睡眠不足、便秘などの初期症状が現れ、さらに多量摂取すると腹痛、貧血、神経炎、最悪の場合脳変質症を起こす危険性があります。
参考)https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/1014045.pdf

1996年に「塗料の鉛リスクリダクションに関わる(社)日本塗料工業会宣言」が公表され、塗料への鉛使用が制限されました。平成17年の塗装便覧改定以降は、塗装基準上でも鉛の使用が制限(禁止)されています。
参考)https://rokuri-style.shop/harmful_tokusetsu/index.html

含有量に関わらず鉛中毒予防規則の適用を受ける必要があり、湿式作業の実施、作業主任者の選任、有効な保護具の着用等が義務付けられています。電動ファン付き呼吸用保護具またはこれと同等以上の性能を有する空気呼吸器の着用が必須です。
参考)https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/pdf/saigai_houkoku_2014_05.pdf

土壌・地下水における鉛汚染の調査方法

土壌汚染対策法に基づく調査では、鉛及びその化合物について土壌溶出量基準0.01mg/L以下、土壌含有量基準150mg/kg以下、地下水環境基準0.01mg/L以下が設定されています。自然由来重金属等による地下水・土壌汚染問題では、鉛がカリウム含有鉱物中に鉱物結晶格子態として存在する場合、カリウム含有鉱物が分解しない限り鉛は溶出しないことが知られています。
参考)https://www.oyo.co.jp/pdf/technology_annual/2013_01.pdf

地下水調査では、土壌ガス調査で穿孔した調査孔を地下水採取孔とし、深度1mで試料採取が困難な場合、最大2mまで掘削します。採水方法には、採水器による方法、地上式ポンプによる方法、水中ポンプによる方法の3つがあります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/42/6/42_383/_pdf/-char/ja

試料採取後の分析では、ヨウ化カリウムを用いた還元反応が重要な役割を果たします。分析法では試料の適量に塩酸とヨウ化カリウム試液を加え、数分間放置した後、塩化スズ試液を加えて室温で放置する方法が用いられます。
参考)http://www.famic.go.jp/ffis/fert/sub6_data/bunsekihou4.html

建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアルでは、鉛の溶出源がカリ長石に含まれる場合、カリウムと鉛の全含有量の間に正の相関が認められることが示されています。これにより、地質学的な汚染源の推定が可能となります。
参考)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/d11pdf/recyclehou/manual/shizenyurai2023.pdf

酢酸鉛ヨウ化カリウム法の分析化学的応用と測定精度

四酢酸鉛標準溶液中の鉛(Ⅱ)の定量では、キレート滴定法による高精度な測定が可能です。酸性溶液中で鉛(Ⅳ)をヨウ化カリウムで還元後、中和してキレート滴定する方法は、二酸化鉛(Ⅳ)中の酸化鉛(Ⅱ)の定量にも応用されています。
参考)https://jpdb.nihs.go.jp/jp14/pdf/0057-1.pdf

シュウ酸ナトリウムを用いる四酢酸鉛の電位差滴定法では、標準偏差0.1%の良好な測定値が得られることが報告されています。四酢酸鉛とシュウ酸塩との反応は比較的低濃度まで定量的に進行し、室温付近でも十分な反応速度を示すため、実用的な分析手法として確立されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku1952/20/11/20_11_1412/_pdf

ヒ素試験法では、試料液にヨウ化カリウム液を加えて数分間放置し、塩化スズ液を加えて約10分間放置する操作が基本となります。無ヒ素亜鉛を加えて発生するガスを、酢酸鉛ガラス綿を詰めたガラス管を通して吸収管に導き、吸光度測定により定量します。
参考)http://www.mac.or.jp/mail/200801/03.shtml

食品衛生法に基づく分析では、試料の適量にヨウ化カリウム試液を加え、塩化スズ試液を加えて室温で10分間放置後、水を加えて希釈する方法が規定されています。過マンガン酸カリウム消費量試験法では、ヨウ化カリウムを用いた滴定操作により、水に移行する酸化されやすい物質の量を測定します。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/09/dl/s0904-4c2.pdf

鉛業務における健康管理と法規制の実務対応

鉛中毒予防規則では、鉛業務を行う場所において年1回以内に空気中の鉛濃度を測定し、講じた予防措置も含めてその記録を3年間保存することが義務付けられています。鉛業務に常時従事する労働者に対しては、法令に基づき鉛健康診断を実施し、鉛中毒の症状を訴える者に速やかに医師の診断を受けさせる必要があります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc0192amp;dataType=1amp;pageNo=1

厚生労働省労働基準局安全衛生部からの通達「鉛等有害物を含有する塗料の剥離やかき落とし作業における労働者の健康障害の防止について」(平成26年5月30日)では、具体的な対策が示されています。剥離等作業は必ず湿潤化して行い、隔離区域内作業場に適切な除じん機能を有する集じん排気装置を設けることが求められます。​
建設業における安全衛生対策では、従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律(建設職人基本法)に基づく措置の的確な実施が重要です。作業者の安全のため、セキュリティールーム、エアシャワー、負圧集じん機を組み合わせた安全な作業空間の構築が推奨されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10562764/

洗身や作業衣等の洗浄の徹底、塗布されている塗料中の鉛やクロム等の有害化学物質の有無についての情報提供、ばく露防止対策に必要な経費等の配慮も施工者の責任として明確化されています。鉛中毒は橋の修復作業員と塗装工の間で発生しやすく、全身防護服の着用による熱ストレスも作業上の課題となります。
参考)https://www.iloencyclopaedia.org/ja/part-xvi-62216/construction/item/518-health-and-safety-hazards-in-the-construction-industry

表:鉛業務における主な法規制と対応

項目 基準・要件 根拠法令
空気中鉛濃度測定 年1回以内、記録3年保存

鉛中毒予防規則
参考)https://www.sankyo-chem.com/regulation/law-5030/

鉛健康診断 常時従事者に実施 鉛中毒予防規則​
作業方法 湿潤化、集じん排気装置設置 厚労省通達(平成26年)​
保護具 電動ファン付き呼吸用保護具 厚労省通達(平成26年)​
土壌溶出量基準 0.01mg/L以下

土壌汚染対策法
参考)https://www.georhizome.co.jp/blog_soil/archives/586

飲料水検査 6ヶ月以内に1回

建築物衛生法
参考)https://www.koeiken.or.jp/02_water/02_07.html

酢酸鉛の毒性と環境影響への配慮

酢酸鉛は水溶液が甘みがあることから鉛糖とも呼ばれますが、有毒であるため取り扱いには注意が必要です。ヨウ化鉛についても、日本の毒物及び劇物取締法では劇物に指定されており、毒性・発癌性があり、血液や神経、腎臓に影響を及ぼします。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%82%A6%E5%8C%96%E9%89%9B(II)

鉛の健康影響としては、食物由来の少量では自然に体外に排出されますが、血液中の鉛濃度が高くなると中毒症状が出て、脳や神経に影響を与えることがあります。長期暴露により腎臓の健康障害や機能不全を引き起こす可能性も指摘されています。
参考)https://www.mdpi.com/2073-4441/14/21/3432/pdf?version=1667885009

環境中での鉛の挙動では、酸化鉛の炭酸水素イオンとの反応による炭酸鉛の生成、炭酸鉛の酸による分解反応などが重要です。鉛は水に溶けないと長らく信じられてきましたが、実際には環境条件により溶出する可能性があることが明らかになっています。
参考)https://www.eic.or.jp/qa/?act=viewamp;serial=35356

美術館・博物館における空気清浄化では、建築材料から発生する酢酸やギ酸、アンモニアといった資料に影響を及ぼす化学物質が問題となっており、内装材料の選定時には注意が必要です。酢酸濃度については、素材に対する劣化影響から設定された望ましい値が推奨されています。
参考)https://www.tobunken.go.jp/ccr/pub/190410aircleaning_guideline.pdf

現場で役立つ簡易検査キットと迅速判定法

建築現場では、塗膜中の鉛含有の迅速判定が求められます。旧塗膜の鉛判定では、現場で使用できる簡易検査方法の開発が進められており、試薬を用いた呈色反応による判定法が実用化されています。
参考)https://www.h-cd.jp/hcd-pics/10000929.pdf?v=094722

ヨウ化カリウム水溶液を塗膜表面に滴下し、黄色沈殿の生成を観察する方法は、最も基本的な現場判定法です。この方法では、鉛が含まれていれば明瞭な黄色沈殿が即座に生成されるため、視覚的な判定が可能です。
参考)https://www.nier.go.jp/ogura/lessonplan/JPSCI56.pdf

より精密な測定が必要な場合は、試料を採取して実験室での定量分析を行います。原子吸光分光法や誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)などの機器分析により、微量の鉛も高精度で定量できます。
参考)https://www.env.go.jp/water/dojo/gl_disp-cs/07_appendix.pdf

水質検査では、携帯型の測定器具を用いた現場での迅速測定も普及しています。建築物飲料水水質検査では、専用水道から供給する水のみを水源とする場合と、地下水等を水源とする場合で検査項目と頻度が異なります。​
リスト:建築現場での鉛検査手順

  • 旧塗膜のサンプリングと試薬による予備判定​
  • 陽性反応が出た場合の詳細分析依頼​
  • 鉛含有量に応じた作業方法の選定​
  • 作業環境測定と記録の保管​
  • 作業員への健康診断の実施​
  • 廃棄物の適正処理の確認​

ヨウ化物イオン分析における干渉物質と除去方法

ヨウ化物イオンの分析では、共存する他のハロゲン化物イオンが干渉する場合があります。塩化物イオン、臭化物イオンなどが共存すると、定量値に影響を及ぼす可能性があるため、適切な前処理が必要です。
参考)https://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/kasen/suishitsu/pdf/s03.pdf

酢酸鉛試液を用いた妨害イオンの除去では、塩化物イオンを酢酸鉛として沈殿分離する方法が一般的です。酢酸鉛9.5gを新たに煮沸し冷却した水に溶解させた試液を用い、妨害成分を選択的に除去します。
参考)https://www.env.go.jp/hourei/05/000177.html

ヨウ化物イオンが共存する場合の硫化物イオン測定では、計算式を用いた補正が必要となります。試料中のヨウ化物イオン濃度が既知の場合、その影響を数値的に除外することで正確な硫化物イオン濃度を求めることができます。
参考)https://www.env.go.jp/nature/onsen/docs/shishin_bunseki/07_13.pdf

温泉分析においても、ヨウ化物イオンの定量は重要な項目の一つです。温泉水中には様々なイオン成分が溶解しているため、選択的な分離・精製操作を経て目的成分を測定する必要があります。
参考)https://www.zeonnorth.co.jp/pages/68/

表:ヨウ化物分析における主な妨害物質と対策

妨害物質 影響 除去・補正方法
塩化物イオン 沈殿形成の干渉

酢酸鉛による除去
参考)https://www.env.go.jp/nature/onsen/docs/shishin_bunseki/07_12.pdf

臭化物イオン 類似反応による誤差 選択的分離操作​
硫化物イオン 呈色反応への影響 計算式による補正​
有機物 吸光度測定の妨害 前処理による分解​

特殊建築物における水質管理と定期検査義務

建築物衛生法(ビル管理法)では、特定建築物に該当する建物は、都道府県から許可を受けた検査機関による水質検査の実施が義務付けられています。特定建築物とは、延べ面積3,000㎡以上(学校は8,000㎡以上)で、興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館、遊技場、店舗、事務所などの特定用途に使用される建築物です。
参考)https://www.wpa.or.jp/inspection/drinking_water02/

水道または専用水道から供給する水のみを水源とする場合、一般細菌、大腸菌、鉛及びその化合物など16項目を6ヶ月以内に1回検査します。一部項目については、条件により省略が可能な場合もあります。
参考)https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/k_kenchiku/bldg/kijyun/

地下水等を水源の全部または一部として飲料水を供給する場合は、給水開始前に水道水質基準に関する省令の全項目(51項目)の検査が必要です。その後も定期的な検査が義務付けられており、16項目を6ヶ月以内に1回、シアン化物イオンや総トリハロメタンなど12項目を毎年6月1日から9月30日までの間に1回実施します。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/

雑用水については、使用する用途に応じて水質検査項目と頻度が定められており、散水、修景または清掃の用に供する場合と、水洗便所の用に供する場合で基準が異なります。​
リスト:特定建築物の水質検査における鉛関連項目

  • 鉛及びその化合物(基準値:0.01mg/L以下)​
  • 検査頻度:6ヶ月以内に1回​
  • 検査方法:原子吸光光度法または誘導結合プラズマ発光分光分析法​
  • 記録保管:検査結果の記録と保存​
  • 基準不適合時の対応:速やかな改善措置の実施​
  • 検査機関:都道府県許可の検査機関による実施​


リトマス試験紙(赤、青、中性)フェノールフタレイン、コンゴレッド、デンプン、ヨウ化物、酢酸鉛、ターメリック試験紙、100 枚の試験紙(Turmeric Paper)