

実は、止水板の性能は同じWs等級でもメーカーによって200倍以上の差があります。
建築業に携わるなら、「止水板」という言葉は日常的に耳にするはずです。しかし、一口に止水板といっても、実は用途がまったく異なる2種類の製品が同じ名前を共有しています。この区別を曖昧にしたまま発注すると、現場で全く使えない製品が届くという事態になりかねません。
1つ目は「コンクリート打継部用の止水板」です。コンクリート構造物は一度に全量を打設できないため、複数回に分けて施工します。その際、打設時期が異なるコンクリートの接合部(打継部)には、一体化されていない継ぎ目が生じます。地下建造物やダム、トンネル、高架橋など水が接する環境では、この継ぎ目から漏水が発生しやすく、それを防ぐために埋設されるのがコンクリート用止水板です。塩化ビニル製やゴム製が主流で、コンクリートに挟み込んで一体化させる構造になっています。
2つ目は「浸水対策用の止水板(防水板)」です。こちらはゲリラ豪雨や台風による建物への浸水を防ぐため、玄関・出入口・地下駐車場などに設置する金属製または樹脂製のパネルを指します。近年の水害リスク増加を受け、一般住宅から商業施設・工場まで導入が広がっています。
つまり、止水板は「どこの水を止めるか」という用途によって全く別のジャンルに分かれます。これが原則です。メーカーへの問い合わせ前に、まずどちらの用途が必要かを明確にすることが大切です。
コンクリート用止水板の主な素材と形状は以下の通りです。
| 素材 | 特徴 | 主な用途 |
|------|------|----------|
| 塩化ビニル(PVC)製 | 耐薬品性・耐久性が高く、加工しやすい。JIS規格品も多い | 地下建造物・ダム・トンネルなど |
| ゴム(加硫ゴム)製 | 柔軟性・追従性に優れ、不等沈下にも対応 | 振動・沈下が予想される構造物 |
| 複合型(ゴム+鋼板) | 止水性と強度を両立。スパンシール系に多い | 高水圧を受ける構造物 |
| ベントナイト系 | 水と接触すると膨張して止水。後付け施工も可能 | 既存構造物の補修・打継部 |
形状に関しては、打継目用の基本タイプであるフラット型(FF)、伸縮や不等沈下に対応したセンターバルブ型(CF)、コンクリートとの噛み合いを強化したコルゲート型(CC)などが代表的です。設計条件と想定水圧に合わせた選定が求められます。
参考:コンクリート用と浸水対策用の止水板の用途の違いについて詳しく解説されています。
コンクリート打継部用と水災対策用の止水板の違い|日本リステン株式会社
止水板メーカーの製品を比較するとき、最も客観的な基準となるのが「JIS A 4716(浸水防止用設備建具型)」規格です。この規格は2019年11月に制定され、それ以前は団体ごとに性能基準が異なっていたため比較が困難でした。JIS制定によってWs-1〜Ws-6の6等級で統一評価が可能になりました。
漏水量の等級基準は以下のとおりです。
| 等級 | 漏水量の基準 | 主な使用場所の目安 |
|------|-------------|------------------|
| Ws-1 | 50〜200 ℓ/(h・㎡) | 軽微な浸水リスクのある場所 |
| Ws-2 | 20〜50 ℓ/(h・㎡) | 一般住宅・小規模店舗 |
| Ws-3 | 10〜20 ℓ/(h・㎡) | オフィスビルの出入口 |
| Ws-4 | 4〜10 ℓ/(h・㎡) | 地下施設・商業施設 |
| Ws-5 | 1〜4 ℓ/(h・㎡) | 電気室・重要設備がある場所 |
| Ws-6 | 1 ℓ/(h・㎡)以下 | 最重要施設・サーバー室など |
Ws-1とWs-6の漏水量を比べると、200倍以上の差があります。これは重要な数字です。
具体例を挙げます。鈴木シャッター社の「オクダケ(Ws-2相当)」の場合、水位50cm・幅2mの条件で1分間の漏水量は約0.56リットル、つまり500mlペットボトル1本程度に収まります。一方、同条件で土のうを使用した場合はその約100倍の漏水量となります。こうした数値比較は、製品選定の説得材料としても非常に有効です。
重要な注意点が1つあります。JISはあくまで規格であり、法規ではありません。Ws等級は各社が独自に試験して公表するものです。「自社調べ」と「第三者機関調べ」の2種類があり、公平性の観点では第三者機関による数値の方が信頼度は高くなります。カタログを確認する際には、性能表示の根拠となる試験方法も合わせて確認することが原則です。
また、脱着式止水板はJIS A 4716の適用外です。この規格は「シャッター型」と「ドア型」のみを対象としているため、脱着タイプは「Ws-〇相当」という表記になります。メーカーによっては(一財)建材試験センターによる技術評価等級を取得して公表しているケースもあり、こちらも有力な判断材料になります。
参考:JIS規格の等級と漏水量の詳細な基準について実験動画を交えて解説されています。
防水板の止水性能基準とは。漏水量はどのくらい?|株式会社鈴木シャッター
止水板メーカーを選ぶ際、建築業者が実際に陥りやすい失敗パターンがあります。導入後に後悔するケースは珍しくなく、最悪の場合は2度目の購入が必要になることもあります。ここでは実際の失敗事例をもとに、防止策を整理します。
失敗①:止水性能の確認不足で、実際の水害時に大量漏水
「安価なら何でも同じ」という判断で製品を選んだ結果、冠水時に想定以上の漏水が発生したケースです。先述のとおり、Ws等級による200倍以上の性能差を見落とすと、施設への浸水被害がそのまま発生します。JIS等級と第三者試験の有無を必ず確認する習慣を持つことが重要です。
失敗②:設置工事費が予算の2〜3倍に膨らんだ
「本体価格だけで見積もった」ために、実際の工事では床面を削る・壁にアンカーを打つ・コーキング処理をするといった大規模施工が必要となり、工期延長・営業停止・追加費用が発生した事例です。製品選定時には「本体費用」だけでなく「設置工事費用」「工期中の影響時間」もセットで確認することが条件です。
失敗③:設置手順が複雑で担当者しか使えなかった
設置手順が多い製品を導入した結果、緊急時に対応できる従業員が特定の担当者1名だけに限られ、その担当者が不在の日に浸水被害を受けたケースです。止水板は「買ったら終わり」ではありません。実際に誰でも設置できるか、動画で確認するなど直感的な操作性を選定基準に入れることが大事ですね。
失敗④:海外製品でサポートに時間がかかった
施工業者経由でメーカーに問い合わせたところ、窓口が海外のみで時差と言語の壁により数日間回答が得られなかった事例です。市場には中国・ヨーロッパのメーカーが代理店経由で日本展開している製品も多く流通しています。トラブル発生時の対応スピードを優先するなら、日本国内に製造拠点・サポート窓口を持つメーカーを選ぶことが安心です。
失敗⑤:部品の紛失・変形で実際の浸水時に使用不能になった
定期訓練をしていたにも関わらず、小さなパーツの紛失や支柱の変形により、本番時に止水板が正しく設置できなかったケースです。部品点数が少なく一体型に近い構造で、かつ耐久性が高い製品を選ぶことで長期運用リスクを低減できます。
これら5つのポイントをまとめると、次の3点が選定の核心になります。
- 🔎 JIS等級(第三者試験)の確認
- 🔎 本体+工事費の総額確認
- 🔎 誰でも設置できる操作性の検証
参考:具体的な失敗事例と選定ポイントが詳細に解説されています。
水害対策は「防水板」選びから!失敗事例から学ぶ選定のポイント|KTX株式会社
現在、国内で実績のある主要止水板メーカーには、それぞれ特色があります。用途・設置条件・予算に合わせて比較することが重要です。以下に代表的なメーカーと製品特徴を整理します。
| メーカー | 代表製品の特徴 | 強み |
|----------|--------------|------|
| KTX株式会社 | 特許登録のマグネットタイプ。JIS最高等級Ws-6相当。高さ3mまで対応 | 自動車金型技術を応用した高精度設計。国内製造 |
| 株式会社LIXIL | 新日軽ブランドの防水板。住宅・商業施設向けに幅広いラインナップ | ブランド信頼性と全国の施工ネットワーク |
| 株式会社ニッケンフェンスアンドメタル | 「ウォーターブロック®」シリーズ。土のうより軽く設置簡単 | 日本製鉄グループの金属加工技術 |
| 蔵田工業株式会社 | 「アクアストップ」シリーズ。海外水災ソリューションの輸入・販売 | カスタム製造・取付オプションの豊富さ |
| サンリョウ株式会社 | 現場の声から生まれたオリジナル製品。BCP対策向け | 現地現場主義の設計・作業効率化 |
| 株式会社鈴木シャッター | 「オクダケ」シリーズ(Ws-2相当)。1分間の漏水量がペットボトル1本以下 | 自社開発・製造・施工・アフターフォローの一貫体制 |
| 早川ゴム株式会社 | 「サンタックゴム止水板」。加硫ゴムとスパンシールの複合型 | コンクリート用の老舗メーカー。追従性と止水性の両立 |
選定のポイントとして見落とされがちな視点があります。それは「製造元がどこか」という確認です。市場には海外メーカーが製造した製品を国内代理店が販売しているケースが少なくありません。製品性能が同等でも、アフターサポートや追加部品の調達のしやすさで大きな差が生まれます。特に長期運用が前提となる固定式・自動昇降式を選ぶ場合には、メーカーの製造体制とサポート窓口の国内対応可否を事前確認することをおすすめします。
また、2026年1月時点のメトリー(Metoree)調べによるクリックシェアランキングでは、KTX株式会社が13.3%で1位、株式会社ニッケンフェンスアンドメタルが9.4%で2位、株式会社LIXILが8.6%で3位となっています。こうしたデータも、同業者の選定動向を把握するための参考になります。
止水板の導入費用は、製品単体で5,800円〜205,000円程度(Metoree調べ)と幅があり、設置工事費を含めると数十万円規模になることも珍しくありません。ここで知っておきたいのが、全国の自治体が設けている補助金・助成金制度です。
これは意外な事実です。東京都品川区の場合、住宅・店舗・事務所等の出入口に止水板を設置する際に、費用の2分の1(上限50万円)が補助されます。東京都八王子市でも令和7年度(2025年度)の居住環境整備補助金として、止水板設置工事が補助対象になっています。条件によっては費用の3/4をカバーできるケースもあり、実際にある東京都内のマンション管理組合では自治体助成金を活用して費用の3/4を補助された事例が報告されています。
さらに、2025年度の助成金情報では最大150万円を上限とする制度も存在します。これは知らないと確実に損をするレベルの情報です。
補助金を活用するためには、以下の手順が基本になります。
- 📝 ステップ1:建物所在地の市区町村の防災・土木担当課に補助金制度の有無を確認する
- 📝 ステップ2:ハザードマップで浸水想定区域に指定されているか確認する(助成率が上乗せされる制度もある)
- 📝 ステップ3:工事着工前に申請を行う(後から申請しても対象外になる場合が多い)
- 📝 ステップ4:補助金対象となる製品の素材・条件(金属板であることが条件の自治体も)を確認する
東京都の場合、6月を「浸水対策強化月間」と定めており、毎年この時期に各区市町村の補助制度に関する情報が更新される傾向があります。メーカーや施工業者に「補助金対応製品かどうか」を確認するのも有効な手段です。補助金の有無と条件は自治体によって大きく異なり、募集が終了しているケースもあるため、早めの問い合わせが条件です。
参考:全国の自治体ごとの補助金・助成金制度の最新情報と事例が掲載されています。
【2026最新】止水板設置の補助金ガイド|FLOOD GUARD
メーカーの比較において、スペックや価格の検討は当然行われます。しかし建築業の現場で長く見落とされてきた視点が「メンテナンス性」です。止水板は一度設置すれば終わりではなく、数年〜十数年にわたって正常に機能する必要があります。
特に注意が必要なのはゴムパッキンの劣化です。止水板の漏水性能を左右する最大の要素がシール材(パッキン)の状態であり、年数経過とともに硬化・ひび割れが生じると、設置時に床面・壁面との密着性が失われます。ゴムパッキンの一般的な交換目安は5〜7年とされており、交換部品の入手のしやすさはメーカー選定の重要な判断材料です。部品供給が中断されるリスクが低い、国内に製造拠点を持つメーカーを優先することが実務的な判断です。
また、自動昇降式(フロート式)は構造が複雑なため、年1回以上の定期点検と動作確認が欠かせません。JISA4716規格でも「締付機構など非常時に使用する可動部については年1回作動確認・破損劣化の点検を行う」ことが求められています。これは必須です。
運用コストの観点から3つの要素を比較すると次のようになります。
- 💰 脱着式:ゴムパッキン交換(5〜7年ごと)+定期訓練コストが中心
- 💰 固定式・常設型:設置工事費は高いが、日常メンテナンスは比較的少ない
- 💰 起伏式・自動昇降式:動作確認・電気系統の点検費用が継続的に発生
長期のランニングコストで考えると、初期費用が高くてもシンプル構造で部品交換が容易な製品の方が、トータルでの出費を抑えられることが多いです。これは使えそうな視点です。
建築業者として施主や管理組合に提案する際にも、「初期費用だけでなく10年間の維持費込みで比較する」というアプローチは説得力があります。同時に、定期点検の実施状況は保険適用の判断材料にもなりえるため、記録の保管を習慣化しておくことも付加価値になります。
参考:国土交通省が定める電気設備の浸水対策ガイドラインでJIS規格と点検基準が詳述されています。
建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン|国土交通省(PDF)