

コールタールは、世界初の化学物質による人工発がん実験(1916年)で使われた物質で、今もあなたの現場の古い排水管に残っています。
タールエポキシ塗装鋼管(記号:SGP-TA)は、配管用炭素鋼鋼管(SGP・黒管)の内面に、コールタールとエポキシ樹脂を組み合わせた「タールエポキシ樹脂塗料」を塗布した排水専用の鋼管です。外面は一次防錆塗装(赤さび色のプライマー)が施された状態で出荷されるため、施工後に上塗り塗装が必要になります。
この管は主としてビル・マンション・工場などの屋内排水配管(汚水・雑排水)に使用されてきた歴史があります。亜鉛メッキ鋼管(白管・SGPW)と比較すると、コールタールの撥水性とエポキシ樹脂の密着性を組み合わせた塗膜によって、内面の耐食性・耐水性が大幅に向上しています。
| 項目 | SGP-TA(タールエポキシ) | SGP-NTA(ノンタールエポキシ) |
|---|---|---|
| 内面塗装 | タールエポキシ樹脂 | ノンタールエポキシ樹脂 |
| 適用規格 | (旧規格・現在廃番傾向) | WSP 032 |
| 外面処理 | 一次防錆塗装 | 一次防錆塗装 |
| 主な用途 | 汚水・雑排水管 | 汚水・雑排水管 |
| 環境・健康面 | コールタール含有(発がん性) | コールタール非含有 |
| 接合方法 | 主にMD継手(メカニカル継手) | ねじ込み・MD継手 |
現在、新規施工でSGP-TAを採用するケースはほぼありません。WSP 032に適合するノンタールエポキシ塗装鋼管(SGP-NTA)への切り替えが業界全体で進んでいます。これはコールタールに含まれる多環芳香族炭化水素(PAHs)、とりわけベンゾaピレンの発がん性が明確に認定されたことが最大の理由です。つまりSGP-TAが「現役」なのは、主に既存建物の改修・更新工事の現場に限られます。
「旧称と新称が混同されやすい」ということは知っておく価値があります。ある程度の年数が経った設計図や施工記録には「タールエポキシ塗装鋼管」と記されていても、現在の標準仕様では「排水用ノンタールエポキシ塗装鋼管(SGP-NTA)」が正式な呼称です。図面を確認する際は管種記号と規格番号を必ずセットで確認するのが原則です。
https://www.wsp.gr.jp/syoukei/products/type.html
コールタールは、世界で最初に化学物質による人工発がんが実証された物質として歴史に刻まれています。1916年、東京帝国大学の山極勝三郎らがウサギの耳にコールタールを塗り続けて皮膚がんを発生させた実験は、発がん物質研究の原点です。現在も国際がん研究機関(IARC)によって「グループ1:ヒトに対して発がん性がある」に分類されています。
現場で重要なのは、タールエポキシ塗料のコールタール含有率です。特定化学物質障害予防規則(特化則)では、コールタールを重量の5%超含む製品を取り扱う作業が規制対象とされています。特化則の対象になると、次の対応が法的に義務化されます。
これは使えそうですね。特に気をつけるべき場面は「既存のSGP-TA配管を溶断・切断・溶接するとき」です。塗膜が熱で揮発し、コールタール由来の有害蒸気が発生します。防じんマスクのみで作業を行うと法令違反になる可能性があります。しかも、気づかずに慢性的に吸い込み続けた場合、肺がんや皮膚がんのリスクが上がることが示されています。
作業主任者の選任を怠ったまま施工してしまうと、労働安全衛生法違反として罰則の対象になり得ます。法人に対して最大50万円以下の罰金が科されるケースもあります。「古い管だから大丈夫」という感覚が最も危険です。
また、コールタール塗膜を含む廃材は「特別管理産業廃棄物」に指定される場合があります。解体・撤去時には廃棄物処理ルートの確認も不可欠で、マニフェストの正確な記載が求められます。法令対応のコストを工事見積に最初から組み込んでおかないと、後から予算オーバーになるリスクがあります。
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/8007-45-2.html
https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-2/hor1-2-29-5-0.htm
SGP-TAで特徴的なのは、接合方法としてMD継手(メカニカル継手・可とう継手)が多用されている点です。MD継手はゴムリングとボルト締め付けで管を接合する方式で、溶接・ねじ切りを行わないため、内面塗膜を傷つけにくく、施工性にも優れています。集合住宅の排水立て管では、このMD継手を用いたSGP-TAが1970〜1990年代に広く普及しました。
ただし、MD継手を使っていても「継手部の腐食」が最大の弱点です。鋼管本体の内面はタールエポキシで保護されていますが、管端部(切断面・面取り部)は塗装が施されていません。このむき出しの金属面が、継手内部で水にさらされることで局部的な腐食を引き起こします。研究でも、タールエポキシ塗装鋼管の現地溶接継手部で海水・淡水による選択腐食が生じた事例が報告されています。継手部の腐食対策が条件です。
実務での対策は以下の通りです。
また、切断方法も重要です。高温になる切断方法(ガス切断など)は内面塗膜を焼損させます。タールエポキシ塗装鋼管の切断には、パイプカッターや金切りのこぎり(バンドソー)を使い、管温度を上げないことが基本です。直角に切断しないと、継手との密着不良や漏水原因になります。
ねじ込み接続を行う場合は、SGP-TAには対応継手(内面も塗装処理されたもの)を選ぶ必要があります。通常の黒管用継手を使うと、継手内面から腐食が進行する恐れがあるため注意が必要です。
https://www.wsp.gr.jp/syoukei/q_and_a/w032/index.html
SGP-TAの期待耐用年数は、MD継手を使用した場合で30〜40年とされています。マンション管理の業界資料や修繕周期マニュアルでも「取替え:30年〜」として広く記載されており、汚水用立て管として使われたケースでは30年以上の耐用を期待できることが確認されています。
ただし、この数字はあくまで目安です。腐食しやすい環境(高湿度の管シャフト・酸性の廃水・塩化物を含む排水など)では、これよりはるかに短期間で劣化が進む可能性があります。実際、築35年のマンションで排水立て管(タールエポキシ塗装鋼管+MD継手)からの漏水が発覚し、1階の床に下水が溜まっていたという事例も報告されています。排水管からの漏水は発見が遅れやすいため、特に要注意です。
更新工事を判断する際の確認ポイントは次の通りです。
更新方法としては、①管全体を撤去・新設する「取替え工法」と、②既存管の内面に樹脂をライニングする「更生工法」の2種類があります。更生工法は床や壁の解体を最小限に抑えられるため、居住者への影響を減らしたい集合住宅の大規模改修で採用が増えています。一方で、腐食が進みすぎた管には更生工法を適用できないことも多く、内視鏡調査による状態確認が先決です。
更生か取替えかの判断は、一概には言えません。管の残存肉厚・腐食の進行速度・工事コスト・居住状況を総合的に判断する必要があります。そのため、建物の維持保全計画(長期修繕計画)に配管の更新時期を明確に盛り込んでおくことが求められます。
http://jafia.jp/wordpress/wp-content/uploads/2014/05/mansion-water.pdf
SGP-TAからSGP-NTA(ノンタールエポキシ)への切り替えが業界標準となった背景には、コールタールの発がん性問題だけでなく、環境規制の強化もあります。タールエポキシ樹脂塗料は現在では新規施工への使用を避けることとされており、国土交通省をはじめとした公共工事仕様書でも実質的にノンタールへの置き換えが進んでいます。意外ですね。
現場でSGP-TAとSGP-NTAを見分けるためのポイントは次の通りです。
ノンタールエポキシ(SGP-NTA)はエポキシ樹脂の優れた鋼面への密着性能と耐薬品性、そして耐水・耐久性を兼ね備えています。WSP 032という民間規格(日本水道鋼管協会規格)に適合した製品が流通しており、住宅・ビル・工場の汚水・雑排水配管に広く使われています。コールタールを含まないため、特化則の適用対象外となることが多く、作業主任者選任や特殊な保護具対応が不要なケースがほとんどです。
ただし、ノンタールエポキシも万能ではありません。強酸性・強アルカリ性の廃液が流れる工場配管では、塗膜が溶解するリスクがあります。耐薬品性の確認は事前に製品仕様書で行うのが原則です。使用環境の耐薬品性確認を必ず行うことが条件です。
改修・更新工事でSGP-TAをSGP-NTAへ交換する際は、既存のMD継手が新管に適合するかどうかの確認が必要です。継手の適合管種・口径・寸法精度は製品によって差があり、無確認での流用は漏水の原因になります。継手メーカーへの適合確認を1つのステップとして必ず行いましょう。
https://jis.jts-tokyo.com/about-sgp-pipe-jis-g-3452/