

「AWWA規格に適合した資材でも、日本国内工事では使えないケースがあります。」
AWWA(American Water Works Association=米国水道協会)は、1881年3月にミズーリ州セントルイスで設立された非営利の科学・教育団体です。設立当初はわずか22名の組織でしたが、現在では43の支部と約51,000名の会員を擁する世界最大級の水道関連協会に成長しました。
この協会が定めるのが「AWWA規格」です。水処理、配水、管材、バルブ、水道メーター、さらには水道事業の経営管理に至るまで、2014年時点で165項目に及ぶ規格が制定されています。規格番号はカテゴリ別にアルファベットと番号で整理されており、たとえばダクタイル鋳鉄管に関するC151、鋼管フランジに関するC207、ゴムシートバタフライバルブに関するC504などが代表的な例として挙げられます。これが「Cシリーズ(Cナンバー)」と呼ばれる規格群です。
つまりAWWA規格です。
AWWA規格の特徴のひとつは、製品規格だけでなく運用・管理規格(GシリーズやMシリーズ)も含む点です。G200(配水管理)やG300(水源保護)のように、施設や設備にとどまらず水道事業の管理基準まで幅広くカバーしています。これは日本のJIS規格やJWWA規格(日本水道協会規格)とは異なる特徴で、「ハードとソフトを同時に規定する規格体系」といえます。
建築業従事者がこの規格を理解すべき理由は明確です。海外援助プロジェクトや国際調達案件では、AWWA規格への適合が仕様書で要求されることがあります。また、輸入した配管材料がAWWA規格品として流通している場合、その規格内容を把握しておかないと設計・施工上の齟齬が生じるリスクがあります。
参考:AWWA規格の概要一覧(ASTM日本語版)
AWWA規格カテゴリ一覧|ASTM日本語サイト
AWWA規格は大きく「製品・材料規格」と「運用・管理規格」に分かれており、建築業従事者にとって特に関係が深いのは製品・材料規格の中の「配管関連」と「バルブ・弁関連」です。
配管関連規格では、ダクタイル鋳鉄管(C151/A21.51)、鋼管(C200)、PVC圧力管(C900・C905)、ポリエチレン管(C906)などが代表的な規格として挙げられます。特にダクタイル鋳鉄管に関しては、セメントモルタルライニング(C104)やポリエチレンエンケーシング(C105)といった防食処理の規格も整備されており、管本体と付帯処理がセットで規格化されています。
バルブ・弁関連規格では、水道用仕切弁(C500・C509)、バタフライバルブ(C504)、ボールバルブ(C507)、チェック弁(C508)などが代表的です。バルブ規格は操作機(手動・電動・油圧・空圧)の要求事項まで含む場合があります。
これは重要な点です。
フランジ規格(C207)は、建築設備の分野でも耳にすることが多い規格です。AWWA C207はクラスB(86psi)、クラスD(150〜175psi)、クラスE(275psi)、クラスF(300psi)の4種類に分類されており、使用圧力の範囲に応じて使い分けます。この規格はANSI/ASMEの規格とも互換性を持つ部分があり、フランジ接続では混用されることもあります。現場での互換性確認は慎重に行う必要があります。
水処理薬品関連では、次亜塩素酸塩、液体塩素、硫酸アルミニウムなどの凝集・消毒剤から、粒状活性炭(再活性化を含む)まで幅広く規定されています。水処理施設の設計・施工を担当する場合、薬品注入設備の仕様に関連してAWWA規格が参照されることがあります。
参考:日本水道協会 令和6年度アメリカ研修報告(AWWA規格の概要一覧を掲載)
日本水道協会 国別水道事業研修(アメリカ)報告書|AWWA規格概要一覧収録
日本の水道工事では、JIS規格(日本産業規格)とJWWA規格(日本水道協会規格)が基本となります。水道法に基づく「給水装置の構造及び材質の基準に関する省令」(平成9年厚生省令第14号)では、給水装置の性能基準が定められており、JIS・JWWA規格品はその適合確認の基準として広く使われています。
国内原則はJIS・JWWAです。
ここで重要なのは、AWWA規格品であっても国内の水道法上の認証を別途取得していなければ、日本の水道直結工事では使用できない点です。水道事業者(水道局)ごとに指定された材料リストがあり、AWWA規格品は原則として「外国規格品」として扱われます。国内で流通するフランジやバルブにもAWWA準拠品が存在しますが、その場合はJIS規格と同等の性能証明または水道事業者の個別承認が必要になることがあります。
一方で、日本のJWWA規格の成り立ちを振り返ると、AWWA規格との歴史的な関係が見えてきます。日本水道協会の記録によれば、日本で水道事業が発展した昭和30年代には、各都市がAWWA規格を参照しながら自らの仕様書を作成していた経緯があります。つまり、JWWAの規格体系はAWWAを「お手本」として整備されてきた側面があるのです。
| 比較項目 | AWWA規格 | JIS規格 | JWWA規格 |
|---|---|---|---|
| 制定主体 | 米国水道協会(米国) | 経済産業省(日本) | 日本水道協会(日本) |
| 対象範囲 | 管材・バルブ・水処理・運用管理 | 製品全般(産業横断) | 水道用途に特化 |
| 国内水道工事での使用 | 原則、別途認証が必要 | 水道直結に使用可 | |
| 海外プロジェクトでの活用 | ◎(米州・ODA案件で参照多数) | △(一部ISO準用可) | △(ODA等で条件付き) |
| 規格の更新頻度 | 随時改訂(3〜5年周期) | 定期見直し |
規格の違いを把握しておけば、見積・設計段階での材料選定ミスや、施工後の「規格不適合」による手戻りを防ぐことができます。これは実際にコストと工期に直結する問題です。
参考:厚生労働省受託 日本水道協会「給水装置に関する構造材質及び海外動向調査等業務報告書」(米国の規格体系を詳しく解説)
国土交通省・日本水道協会:給水装置に関する海外動向調査報告書(PDF)
建築業に従事していると、「AWWA規格は米国の話だ」と感じる方も多いかもしれません。しかし実際には、日本の建設会社や設備会社が関わる以下の場面でAWWA規格の知識が求められます。
①海外ODA(政府開発援助)プロジェクトでは、JICA(国際協力機構)が推進する上水道整備事業において、AWWAやISO規格が仕様書の基準として指定されることがあります。パラオ国の上水道改善計画に関するJICA準備調査報告書では、ISO規格を中心に置きながらも、「資機材調達管理の面で困難なものは、JIS・JWWA・ANSI/AWWAを準用する」と明記されています。つまり、ODA水道案件を手掛ける企業にとってAWWAは必須の知識です。
これは使えそうです。
②中南米・東南アジアの水道施設工事では、AWWA規格に準拠したダクタイル鋳鉄管やPVC管が現地の標準材料として使われているケースが多くあります。カリフォルニア州を中心とした米国の水道事業では、AWWA規格に基づいて製造された製品のみを使用することが水道事業者の技術基準で定められており、米国の影響が強い国々ではこの傾向が引き継がれています。
③工業・プラント施設の上水道設備では、国内案件であっても発注元が外資系企業の場合、設計図書にAWWA C207(フランジ規格)やC504(バタフライバルブ規格)の指定が含まれることがあります。特に大口径配管(300mm超)の仕切弁やバタフライ弁では、AWWA規格品が国内市場でも流通しており、選定根拠の説明が求められます。
設計段階で規格を確認することが原則です。
AWWA規格の原文(英語)はAWWAの公式ストア(store.awwa.org)から購入できますが、英語の技術文書であるため、翻訳ツールや専門家への相談も検討すると実用的です。また、ASTM社のパートナーサイト(jp.astm.org)では、一部のAWWA規格が日本語でアクセスできる環境が整いつつあります。
AWWA規格を現場で活用するにあたって、特に建築業従事者が意識すべき実務的なポイントをまとめます。
管材・バルブの規格確認手順として、まず発注仕様書や設計図書にAWWAの規格番号が記載されているかを確認します。記載がある場合は、規格番号のCナンバー(例:C151、C207、C504)と適用クラス・サイズを照合し、メーカーの製品証明書(ミルシート・試験成績書)でAWWA適合を確認します。JIS準拠品とのサイズ互換に注意が必要です。
特にフランジ接続部分では注意が必要です。AWWA C207フランジは「クラスD(150〜175psi)」が最も多く使われますが、ボルト穴のピッチ円直径(PCD)やボルト穴数が、JIS 5K・10Kフランジとは異なります。接続相手がJIS規格のバルブやポンプの場合、フランジの互換性がないため変換フランジやアダプターが必要になります。気づかずに組み付けると、漏水や締結不良のリスクがあります。
互換性の確認は必須です。
NSF認証との組み合わせも、AWWA規格を理解するうえで重要です。AWWA規格は製品の寸法・強度・材質を規定しますが、飲料水に接触する材料の衛生安全性はNSF規格(NSF/ANSI 61)が別途規定しています。米国では50州のうち46州がNSF60・NSF61の認証を義務付けており、AWWA適合品であっても衛生認証がなければ飲料水配管には使えません。日本の現場への輸入材を選定する際も同様の観点で確認が必要です。
ニクラス社やバオガン鋼管などの輸入フランジメーカーは、AWWA C207準拠品を4インチから最大120インチ(約3m)まで製造・販売しています。大口径の水処理施設や送水管では、このような輸入品が経済合理性から検討されることがあります。ただし、調達先の選定では認定証明書の確認と国内輸送・保管時の保護が重要です。
参考:JFEスチール「JIS以外の鋼管規格について」(AWWA含む外国規格の概要を解説)
JFEスチール Q&A|JIS以外の鋼管の規格は?(AWWA・ASTM等の外国規格解説)